「よくわかる!減価償却費とは」で、減価償却の対象となる資産について説明しました。
では、減価償却費の金額は、具体的にどのように計算するのでしょうか。
減価償却費の計算方法について、わかりやすく説明します。
Contents
1.減価償却の3つのポイントとは
減価償却費の計算を考えるときに、重要なポイントが3つあります。重要な3つのポイントとは、償却方法、取得価額、法定耐用年数です。
まずは、この3つのポイントについて説明します。
(1) 償却方法とは
償却方法とは、減価償却の計算方法のことです。具体的には、定額法、定率法、生産高比例法の3つの計算方法があります。
資産の種類によって、どの償却方法を採用するかが決められています。主に使われている方法は、定額法と定率法です。
生産高比例法は、鉱業用資産に使われている方法です。3つの中では、例外的な計算方法と言えるでしょう。
(2) 取得価額とは
取得価額とは、その資産を取得した価格のことです。本体価格に付随費用を合計した金額です。
付随費用とは、購入した資産本体が実際に使えるようになるまでにかかった費用のことです。具体的には、本体の引取運賃や運送保険料、関税、試運転費用、改良費、取付費などがあります。
なお、法人税法が、本体の取得価額に含めなくてよい付随費用としている費用もあります。具体的には、自動車購入時の法定費用、自賠責保険料、建物等の登記費用や不動産取得税などの税金などです。
(3) 法定耐用年数とは
法定耐用年数とは、減価償却資産を償却する年数のことです。税務上の減価償却資産は、種類、構造または用途、細目により分類され、それぞれ耐用年数が決められています。
法定耐用年数は国税庁が発表しており、減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定められています。
※ 耐用年数表(国税庁)
https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34353.php
2.減価償却費の計算方法
では、具体的な計算方法はどのようにするのでしょうか。
減価償却費の計算方法については、平成19年度と平成23年度の税制改正により、計算方法が変更されています。
主に使われている定額法と定率法について、具体的な計算方法を説明します。
(1) 定額法とは
定額法とは、法定耐用年数の期間中に、毎期同額の減価償却を行う方法です。毎期、同じ額なので、「定額法」と言います。
定額法の対象となる資産は、建物、ソフトウェア、営業権などの無形固定資産と建物付属説部及び構築物です。
建物附属設備及び構築物については、平成28年の税制改正により定率法から定額法に変更されました。それ以前に取得した建物附属設備及び構築物については、定率法が採用されています。
平成19年以降に取得した減価償却資産の計算式(定額法)
定額法の償却率は、1/耐用年数です。具体例で確認してみましょう。
取得価額100万円、法定耐用年数10年の減価償却資産の償却費
1年目から9年目までは減価償却費の額は一定となります。
10年目については、計算方法が異なります。10年目について、9年目までと同様に10万円の減価償却を計上すると、資産の帳簿価額(残存価額)が0円となってしまいます。
帳簿価額-減価償却費=残存価額
実際には、法定償却期間が過ぎても、その資産の売却や除却を行わない限り、その資産は会社に存在し、使用することもできます。
そのような資産の帳簿価額が財務諸表上に載っていないのは実態に合わないことから、最後に、備忘価額として1円を残すことになっています。
つまり、10年目の減価償却費の額は、10年目の期首帳簿価額10万円から備忘価額1円を差し引いた99,999円が減価償却費の額となります。
帳簿価額-減価償却費=残存価額
法定耐用年数を過ぎた11年目以降は減価償却を行いません。そのため、帳簿上にはその減価償却資産は、償却済み資産として備忘価額1円で残り続けることになります。
なお、平成19年にも税制改正が行われており、平成19年以前に取得した資産については計算方法が異なります。
(2) 定率法とは
定率法は定額法と違い、毎期一定の減価償却費にはなりません。
定率法では、最初の数年間の減価償却費の額は、定額法を上回ります。最後の数年間の減価償却費の額は、定額法の償却額を下回ります。
平成24年度に定率法の計算方法に大きな改正がありました。現在の定率法は「200%定率法」と呼ばれています。何が「200%」かというと、償却率が定額法の2倍です。
たとえば、法定耐用年数が10年の場合の定額法の償却率は、1/10=0.1でした。法定耐用年数が10年の場合の定率法の償却率は、0.2です。
定率法の対象となる減価償却対象資産は、車両運搬具、船舶、航空機、工具器具備品、機械装置などです。
平成24年度以降に取得した減価償却資産の計算式(定率法)
定率法の計算式では、未償却残高に定率法の償却率をかけ算して、減価償却費の額を算出します。
未償却残高に償却率をかけ算するので、償却費の額は年々少なくなっていきます。しかし、残存価額に償却率をかけ算するだけでは、いつまで経っても備忘価額の1円になりません。
定率法では、備忘価額を1円にするための方法として、帳簿価額が一定以下の金額になれば、掛け率を上げて計算することになっています。
掛け率を上げるタイミングを決める、基準となる金額のことを償却保証額と言います。取得価額に保証率をかけ算して算出します。
通常の計算方法(期首帳簿価額×償却率)で算出した減価償却費の額が、償却保証額を下回るタイミングで、償却率を改定償却率に切り替えます。
下表は、平成24年度以降の定率法の償却率表です。
定率法の償却率表
耐用年数 | 償却率 | 改定償却率 | 保証率 |
2 | 1.000 | – | – |
3 | 0.667 | 1.000 | 0.11089 |
4 | 0.500 | 1.000 | 0.12499 |
5 | 0.400 | 0.500 | 0.10800 |
6 | 0.333 | 0.334 | 0.09911 |
7 | 0.286 | 0.334 | 0.08680 |
8 | 0.250 | 0.334 | 0.07909 |
9 | 0.222 | 0.250 | 0.07126 |
10 | 0.200 | 0.250 | 0.06552 |
→ 減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第十.xlsx
具体例をもとに計算方法を説明します。
取得価額100万円、法定耐用年数10年の減価償却資産の償却費
償却率表の耐用年数10年の場合の数字を確認すると、
・償却率0.2
・改定償却率0.25
・保証率0.06552
となっています。
まずは、償却保証額を計算します。
100万円×0.06552=65,520円
通常の計算式で計算した数字が、この65,520円を下回ったタイミングで、償却率を改定償却率に切り替えます。下表で実際の数字を確認してみましょう。
経過年数 | A. 期首未償却残高(期首帳簿価額) |
計算式 | B. 期首帳簿価額×償却率 |
C. 減価償却費 |
D. 期末帳簿価額 |
1 | 1,000,000 | 1,000,000円×0.2 | 200,000 | 200,000 | 800,000 |
2 | 800,000 | 800,000円×0.2 | 160,000 | 160,000 | 640,000 |
3 | 640,000 | 640,000円×0.2 | 128,000 | 128,000 | 512,000 |
4 | 512,000 | 512,000円×0.2 | 102,400 | 102,400 | 409,600 |
5 | 409,600 | 409,600円×0.2 | 81,920 | 81,920 | 327,680 |
6 | 327,680 | 327,680円×0.2 | 65,536 | 65,536 | 262,144 |
7 | 262,144 | 262,144円×0.2=52,428円 → 償却保証額を下回っているため、改定償却率で計算 → 262,144円×0.25=65,536円 |
52,428 | 65,536 | 196,608 |
8 | 196,608 | 前年と同じ額 | – | 65,536 | 131,072 |
9 | 131,072 | 前年と同じ額 | – | 65,536 | 65,536 |
10 | 65,536 | 備忘価額1円を残して償却 | – | 65,535 | 1 |
11 | 1 | – | – | – | – |
上表のA列の期首未償却残高(期首帳簿価額)に償却率の0.2をかけ算した結果がB列の数字です。
B列の数字を縦に見ていくと、7年目に52,428円という数字です。償却保証額65,520円を下回っています。
そこで、7年目に期首未償却残高(期首帳簿価額)にかけ算する数字を、償却率の0.2から改定償却率の0.25に切り替えます。
8年目、9年目は7年目と同額の減価償却費を計上し、10年目に備忘価額1円を残した減価償却費額とします。
償却保証額を下回った時点で、償却率を改定償却率に切り替える点がポイントです。
定率法は、毎期一定の償却額となる定額法に比べて、減価償却のスピードが速いという特徴があります。
3.減価償却費を損金算入するための要件とは
では、企業が計上した減価償却費は必ず損金算入できるのでしょうか。減価償却費を損金算入するための要件があるのでしょうか。
上記の計算方法で算出した減価償却費を法人税法上、損金(経費)とするためには、以下の3つの条件があります。
(1) 減価償却限度額以内であること
上記の減価償却費の計算によって、算出した減価償却費の額を「減価償却限度額」といいます。この金額を超えて減価償却を行った場合は、超えた金額については、法人税法上の経費として認められません。
(2) 損金経理をすること
損金経理とは、会社が減価償却費を経費として計上することを言います。会計上で減価償却費を計上せずに、法人税の別表(税金の計算書)のみで調整することはできません。
(3) 明細書を添付すること
法人税の申告の際には減価償却の明細書の添付が必要です。具体的には、別表16という申告書の提出が求められます。
4.圧縮記帳とは
減価償却の3つのポイントの1つに、取得価額がありました。この特例として「圧縮記帳」という制度があります。
圧縮記帳とは何でしょうか。
圧縮記帳とは、固定資産購入のために国からの補助金(国庫補助金)などを受け取った際に、補助金の金額を取得価額から差し引いて減価償却を行う方法のことです。
たとえば、環境に良い機械を導入することで、国から補助金が支給されるようなケースがあります。ただし、補助金を受け取った時には、特別利益を計上して、補助金収入分の税金を支払う必要があります。
つまり、せっかく受け取った補助金の一部を法人税として支払うことになり、結果的に補助金の額が目減りしてしまうのです。
この問題を回避する制度が圧縮記帳です。
圧縮記帳では、受け取った補助金と同額を固定資産圧縮損として計上します。受け取った補助金収入を固定資産圧縮損で相殺することで、法人税を発生させないしくみです。
では、圧縮記帳とは、税金の免除なのでしょうか。
圧縮記帳では、補助金を受け取った年度の法人税を少なくできますが、資産の取得価額を小さくしてしまうので、減価償却費も小さくなります。
減価償却費の額が小さくなることで、節税効果は小さくなります。つまり、圧縮記帳は税金を繰延するだけの制度です。税金が免除されるわけではありません。
圧縮記帳とは、減価償却費の減額によって、補助金収入の効果が適正に期間按分される制度とも言えるでしょう。
5.資本的支出とは
減価償却費に関連が深い概念に「資本的支出」があります。「資本的支出」とは何でしょうか。
「資本的支出」とは、既存の固定資産の修理や改造に支出した費用のうち、その固定資産の価値を上げるためや、使用期間を延長するために支出する費用のことを言います。
この費用は、資産として取得価額に含めて、減価償却費の計算をすることになります。
一方、通常の修繕で支出される費用を「収益的支出」と言います。通常の修繕とは、原状回復や維持管理目的の修繕です。この場合は、全額を修繕費として、支出した会計期間の経費とすることができます。
「資本的支出」か「収益的支出」かは、専門家でも判断が難しい場合が多いです。具体的には、以下のチャートを元に判断します。
収益的支出 | 修繕や改良に支出した費用 | 資本的支出 | ||
← YES | 20万円未満か? | |||
NO ↓ | ||||
← YES | 3年未満の周期で発生する費用か? | |||
NO ↓ | ||||
明らかに資本的支出か? | YES → | |||
NO ↓ | ||||
← YES | 明らかに収益的支出か? | |||
NO ↓ | ||||
← YES | 60万円未満か? | |||
NO ↓ | ||||
← YES | 取得価額の10%未満か? |
上記のチャートで、収益的支出に該当すれば、修繕費として経費になります。資本的支出に該当すれば、減価償却資産として資産計上することになります。
簡単に言うと、20万円未満の修繕や改良のための支出はすべて収益的支出です。つまり、経費処理が可能です。
20万円以上で、かつ収益的支出か資本的支出か判断しにくい場合は、まずは、60万円未満かどうかで判断します。60万円未満であれば、収益的支出です。
60万円以上の場合は、その修繕や改良に支出する資産の取得価額の10%未満の支出かどうかで判断します。10%未満であれな、収益的支出です。以上のいずれにも該当しなければ、資本的支出です。
※減価償却費の基礎的な知識については、以下の記事をご参照ください。