利益を把握するためには原価を知る必要があります。
では、どのように原価を計算すればいいのでしょうか。
わかりやすく解説します。
Contents
1.原価計算とは
原価計算とはなんでしょうか。原価計算とは、製品を作るためにかかった費用を計算することです。
かかった費用を集計するだけなら簡単じゃないか…と思われるかもしれません。しかし、実務上では非常にややこしい話になりやすいのです。
その理由として、企業では、さまざまな経済活動を行っていることが挙げられます。
さまざまな経済活動の中で、1つの製品を作るためにかかった費用を抜き出すためには、複雑な作業が必要になる場合が多いのです。
では、原価計算を行う目的は何なのでしょうか。
日本の原価計算の基準である「原価計算基準」は、1962年に大蔵省企業会計審議会から公表されました。この「原価計算基準」では、原価計算の目的として、以下の5つを掲げています。
1.戦略的・投資意思決定
2.業務的意志決定
3.利益管理
4.原価管理目的
5.財務諸表作成目的
つまり原価計算は、経営上の意思決定や業績評価、また外部への財務数値の説明のために使われているということです。
ただし「原価計算基準」はあるものの、この基準は遵守すべき法律というわけではありません。
また、企業ごとに製造工程などは大きく異なります。そのため、原価計算方法について、画一的な方法を定めることは現実的ではありません。
何より、全体的な共通費用も多く発生します。たとえば、動力費(機械用の電力や燃料、ガス、水道などのコスト)などです。そのため、何らかの按分ルールによって、かかった費用を各製品に振り分けていく必要があります。
つまり、実務上は「原価計算基準」を意識しつつ、企業としてある程度の決めごとを設けて、可能な限り適切に費用を集計することになります。
2.原価計算の種類
上記の通り、企業によって、生産形態は大きく異なります。どんな生産形態かによって、適切な原価計算の種類も異なります。
また、原価計算の目的によっても、原価計算の種類が異なります。では、原価計算にはどのような方法があるのでしょうか。
(1) 総合原価計算・総合原価計算
まずは、総合原価計算と個別原価計算の2つの方法について説明します。生産形態によって、どちらを採用するかが異なります。
総合原価計算とは
総合原価計算とは、個別の製品単位ではなく、1か月にどれだけ費用が発生したかを把握する原価計算の方法です。
総合原価計算は、連続生産の場合に採用される原価計算です。部品や製品などを大量に連続生産している工場をイメージしてみてください。
連続生産の場合、1つ1つの製品の原価を計算することは現実的ではありません。その場合、一定期間に投入した費用を数量等によって按分することで、原価を把握します。
全体で100万円かかっていて、生産数量が100個だから、一個1円、みたいなイメージです。
総合原価計算の対象となる費用には、直接材料費、間接材料費、直接労務費、間接労務費、直接経費、間接経費があります。
直接材料費以外は、加工費として扱います。直接材料費は、概ねかかった費用のまま集計しますが、加工費は製品の加工進捗度に応じて按分します。
個別原価計算とは
これに対して、個別原価計算とは、製品1つ1つの原価を計算する方法です。一品一様の受注生産の場合などに採用される原価計算です。
個別原価計算では、製造指図書にもとづいて、各製品の製造費用を把握し、製品ごとに原価を計算します。
製造指図書とは、受注時に作成する、生産の指示書です。この製造指図書には、材料や工数が記載されています。ここに記載された、必要な材料や必要工数などが原価計算の基礎資料となります。
個別原価計算では、直接材料費、直接労務費、直接経費など、個別に発生する費用は個別に計算します。それ以外の間接材料費、間接労務費、間接経費については、製造間接費として、操業度に応じて各製品に費用を按分します。
(2) 全部原価計算・直接原価計算
総合原価計算と個別原価計算は生産形態による原価計算の種類でした。他にも原価計算の種類があります。
たとえば、原価計算の目的による種類の使い分けがあります。それが、全部原価計算と直接原価計算です。
全部原価計算と直接原価計算の違いを理解するには、費変動費と固定費の違いを知る必要があります。
変動費とは、製品の生産数量の増減によって増減する費用です。たとえば、材料費などです。固定費とは、製品の生産数量の増減に影響されない費用です。たとえば、毎月、固定的に発生する工場の家賃などです。
全部原価計算とは、変動費と固定費の両方を原価と見なす原価計算です。直接原価計算とは、変動費のみを原価と見なす原価計算です。
原価に、固定費を含めるかどうかが、全部原価計算と直接原価計算の相違点です。
全部原価計算
現行の「原価計算基準」では、直接原価計算で財務諸表を作成することは認められていません。全部原価計算で作成する必要があります。
直接原価計算で、財務諸表を作成することを認めていない理由は以下の3点です。
1.原価分解に恣意性がある
2.変更時に利害調整の問題がある
3.期間損益の変動がある
このうち「原価分解に恣意性がある」とは、どのような意味でしょうか。
材料費が変動費であること、工場の家賃が固定費であるというのは、誰が見ても納得しやすいでしょう。では、水道料金や電力費は変動費でしょうか。固定費でしょうか。
水道料金や電力費などは、定額部分と従量課金部分との組み合わせで金額が決まっています。定額部分は固定費、従量課金部分は変動費と言えるでしょう。
つまり、費用の中には、変動費なのか固定費なのか、はっきりとは分けにくい費用もあるということです。
直接原価計算では、費用を固定費と見なすことで、結果的に原価を少なくできてしまいます。「恣意性がある」とは、「勝手に決めることができる」という意味です。
「原価分解に恣意性がある」ということは、経営者の作りたい数字を作れてしまうということです。経営者が作りたいように作った数字をもとに、財務諸表が作成されたのでは、外部の関係者から見て、信用できない内容ということになってしまいます。
そのため、財務諸表の作成においては、全部原価計算を採用することになっています。
直接原価計算
では、直接原価計算にはメリットがないのでしょうか。
全部原価計算では、期末在庫の中に固定費が含まれるため、在庫を増やすとその分、期中の固定費が減ります。結果として、利益額が大きくなる計算になります。
在庫を増やすことで、利益が増えるなんて、なんだかおかしいですよね。このような原価計算の結果をもとに、経営の意志決定が行われた場合、正しい判断にならないリスクがあります。
直接原価計算では、その製品に直接的に発生した原価だけを費用と見なします。つまり、在庫増減による利益の増減がないため、経営判断の元資料としては、適切な数字となります。
そのため、財務会計では、全部原価計算が使われているのとは反対に、管理会計では、直接原価計算が使われる場合が多いです。
(3) 標準原価・実際原価
他には、標準原価と実際原価があります。
標準原価とは
標準原価とは、製品を生産するにあたって、事前に決めた、目安となる原価のことです。製品を作るのに必要な材料量や工数を見積もり、合計でいくらになるのかを計算した原価です。
実際原価とは
実際原価とは、製品を生産したときに、実際に発生した原価です。
標準原価を目安に製品を生産しようとしても、実際には、不良が発生して材料のムダが出たり、作業者が不慣れなために時間がかかり過ぎたりと、思うように進まないものです。
そのため、目安となる原価を設けて、実際に発生した原価と比較し、目標と実績にどれだけ差異があるのか、どこで差異が発生したのかを分析します。
標準原価と実際原価は、原価低減などの目的で使われる原価の考え方です。
3.原価計算の進め方
では、原価計算はどのように進めるのでしょうか。
原価計算を進める場合は、まず目標となる利益を算定します。
この目標利益を決めることが出発点です。
目標利益を決めた後に、目標の原価を算定します。
この目標原価を基準に、材料や各工程の実態を加味して、製品を生産する基準となる標準原価を算定します。
この標準原価に基づいて生産した結果、発生した実際原価と標準原価を比較して、分析を行い、
・生産過程に問題はなかったか
・標準原価が適正だったかどうか
・そもそも目標利益は正しかったか
について検討します。
実際原価計算では、
(1) 費目別原価計算
(2) 部門別原価計算
(3) 製品別原価計算
の流れで計算を行います。
(1) 費目別原価計算
費目別原価計算では、材料費・労務費・経費の3つの軸で発生した費用を分類します。
また、製品に直接使用される材料は直接材料費、どの製品に使用されたかわからない消耗品費は間接材料費とするなど、直接費と間接費の観点でも分類します。
その結果、直接材料費・間接材料費・直接労務費・間接労務費・直接経費・間接経費の6つが発生します。
(2) 部門別原価計算
費目別原価計算で費用を分類した後は、製造工程の中で、各部門で管理すべき費用を明確にします。
直接の材料は製造部、設計の外注費は設計部などになります。
(3) 製品別原価計算
管理すべき部門が決まったら、各部門で把握している指標で、製品ごとに費用を按分します。
製品別原価計算をすることで、各製品の種類ごとに原価が算定されます。
4.原価計算を経営に活かすためのポイント
企業業績では、売上高の推移に注目しがちですが、本当に大事なのは儲かっているのかどうかです。たとえば、売上よりも原価が多い場合、いくら売上を増やしても逆効果で、倒産するのは時間の問題です。
急成長している会社が急に倒産することは珍しくありません。原価計算ができていない会社や、キャッシュフローの管理ができていない会社は特に注意が必要です。
また、利益率が低いままでは、企業経営の余裕もありません。社員の給与を上げることも難しいでしょう。働く人にとっても、魅力的な会社にはなりにくいということです。
原価を把握することで、原価低減できないかという検討も可能になります。原価は、計算すれば終わりという問題ではなく、どう改善するかがより重要です。利益が出る原価の設計が重要なのです
原価計算を精緻に行うことで、会社を儲かる体質に変え、利益とキャッシュを増やしていくことが可能になります。
原価計算を経営で活用するには、原価計算を形式化させることなく、問題意識をもって、原価を見る視点が重要です。原価計算は、経営に非常に役立つものなのです。