法人税とは – よくわかる!法人税の基本

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法人税とは – よくわかる!法人税の基本

法人税

会社が支払う税金には、法人税、消費税、固定資産税などがあります。
このうち法人税について、わかりやすく解説します。

1.法人税とは

法人税とは、その名の通り、「法人が支払う税金」のことです。個人が確定申告で支払う税金を「所得税」と言います。その法人版が法人税であると考えると理解しやすいでしょう。

では、「法人」とは何でしょうか?

法人とは、法律上で法人格を認められている組織のことです。具体的には、株式会社や有限会社、公益法人、学校法人などがあります。

(反対に、地域の自治会などは、法人格がありません。法人格のない組織のことを任意団体と言います)

会社

各種法人のうち、公益法人などの非営利組織は、一般の普通法人とは違って、法人税が免除されている場合があります。そのため、法人税と言えば、株式会社や有限会社の所得について課税される税金を指します。

一般に「法人税」と呼ばれている税金は、正確には「法人税等」です。なぜなら、国に支払う法人税以外に、地方に支払う地方税と事業税も含んでいるからです。

この地方税や事業税は、法人税の申告で算出した課税所得をもとに計算されます。そのため、法人税と地方税、事業税は密接な関係があります。

では、法人税の計算のもととなる課税所得はどのように計算するのでしょうか。

法人税計算の基礎となる課税所得は、法人税法上の利益です。この法人税法上の利益は、財務諸表上の当期純利益とは異なります。

財務諸表上の当期純利益は、売上から費用を差し引いて計算しますが、法人税法の考え方と、財務諸表の考え方では異なる点があるのです。

そこで、課税所得の算出に際しては、財務諸表の利益を基準として、法人税法上、認められない経費や利益を調節します。主な調整項目は、接待交際費や減価償却費の超過額などです。

2.法人実効税率とは

法人実効税率とは、課税所得から何%分の税金を支払うのかを表した税率のことです。法人税法によって算出します。

法人実効税率には国に支払う法人税の他に、地方税や事業税も含みます。つまり、法人実効税率とは、法人税、地方税、事業税の合計税率です。

法人税等 = 課税所得 × 法人実効税率

ただし、合計税率と言っても、単純な足し算ではありません。

その理由は、法人税・地方税と事業税の扱いに差があるためです。会社が支払った法人税等は、税務上経費とはなりません。

一方で、法人事業税については税務上も経費として認められます。その相違から、計算が複雑になっています。

以下が法人実効税率を求める計算式です

法人実効税率 = 法人税率×(1+地方税率+住民税率)+事業税率
1+事業税率

実際には、税制改正による税率の変更があります。各市町村によって税率が異なる場合もあります。また、資本金が1億円を超えるかどうかによって、外形標準課税の計算も変わります。中小企業等の軽減税率も関係しています。

そのため、一律に何%とは言えないのですが、財務省の資料によると、平成30年で、29.74%となっています。

会社の課税所得金額と法人実効税率をかけ算することで、目安となる法人税等の額を計算できます。

(法人実効税率の代わりに、法定実効税率という言葉を使う場合もあります)

3.法人税等調整額とは

法人税等調整額は、実務をされている方でも、あまり聞き覚えのない言葉かもしれません。法人税等調整額はどこに表示されているのでしょうか。

(1) 日本航空株式会社の連結損益計算書

下表は、日本航空の損益計算書です。日本航空の売上(営業収益)は 1.3兆円なんですね。

連結損益計算書(単位:億円) 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度
営業収益 13,093 13,447 13,367 12,890 13,833
営業費用 11,426 11,650 11,275 11,186 12,087
営業利益 1,668 1,797 2,092 1,703 1,746
 営業外収益 70 103 127 89 88
 営業外費用 162 147 126 143 202
経常利益 1,576 1,753 2,092 1,650 1,632
 特別利益 95 12 112 76 71
 特別損失 71 65 130 98 78
税金等調整前当期純利益 1,600 1,699 2,074 1,628 1,625
 法人税、住民税及び事業税 112 147 268 236 250
 法人税等調整額 △ 215 13 △ 4 △ 317 △ 35
当期純利益 1,704 1,539 1,810 1,709 1,410

法人税等調整額は、法人税、住民税及び事業税の次の行に表示されています。

数字を確認すると、税引前当期純利益から法人税等(法人税、住民税及び事業税)と法人税等調整額を差し引いて、当期純利益を計算していることがわかります。

当期純利益=税金等調整前当期純利益-(法人税等+法人税等調整額)

企業は、法人税等と法人税等調整額の合計額を税金として納めているのでしょうか。

結論からいうと、法人税等調整額は税金として納める金額ではありません。実際に納めるのは、法人税等(法人税、住民税及び事業税)の金額です。

日本航空の2017年度の法人税等の金額は、250-35の215億円ではなく、250億円です。(膨大な金額ですね…)

では、法人税等調整額とは何でしょうか。法人税等調整額とは、「税効果会計」が適用されている会社で用いられる調整額です。

(2) 税効果会計とは

「税効果会計」とは何でしょうか。

財務諸表の利益と、法人税法上の利益は異なります。そのため、財務諸表の利益に実効税率をかけ算しても、法人税等の金額にはなるわけではありません。

その結果として、財務諸表の利益と法人税等の金額がアンバランスになることがあります。

税効果会計とは、財務諸表の利益と、法人税法上の利益の差異を適正に配分するための会計処理方法です。

わかりやすい例として、固定資産を減損会計した場合で説明します。

ある固定資産の価値が何らかの理由により、会計上、無価値となったとします。その場合、会計上は減損損失として損益計算書に記載されます。その一方で、税務上では、特別な理由がない限り、減損損失は認められません。

設備

ですので、損益計算書上の利益に、その減損損失額を加算した数字が税務上の利益=課税所得になります。そして、その課税所得をもとに法人税等を計算します。

つまり、税務上の利益は会計上の利益より多くなります。そして、支払う税金は損益計算書の利益から計算すると多く納付することになります。

さらには、実際にその固定資産を除却した場合にはどうなるでしょうか。

実際に固定資産を廃棄した場合は、法人税法上も経費として認められるのです。ところが、会計上はすでに減損損失で計上しているため、費用として計上することはできません。

この場合は、法人税等の計算をするときに、利益の額を減算します。つまり、会計と税務で期間的なズレが発生することになります。この期間的な差異を配分する項目が「法人税等調整額」です。

法人税等調整額は、以下の計算式で計算されます。

法人税等調整額 = 一時加算額(法人税の計算で加算された額)× 法人実効税率

具体例を確認してみましょう。

(具体例) 帳簿価格100万円の機械装置があります。収益性の低下により、投資額の回収が見込めないため、正味売却価額の20万円まで減損処理をしました。法人実効税率を30%とします。

(3) 減損処理の仕訳

減損損失 800,000 / 機械装置 800,000

会計上は減損損失として費用計上しましたが、法人税法上では、実際の廃棄等や有姿除却の規定に該当しない場合は損金として認められません。この場合、税効果会計の適用となり「法人税等調整額」を計上します。

(4) 法人税等調整額の仕訳

繰延税金資産 240,000 / 法人税等調整額 240,000

繰延税金資産は決算書上の資産の部に計上され、法人税等調整額は損益計算書の法人税等の下に表示されます。

では、減損会計をしなかった場合や税効果会計をしなかった場合と比べると、どう違うのでしょうか。

上記の例で、減損処理を適用しなかった場合、減損処理を適用した場合で数字がどう異なるのか、税効果会計を適用した場合としなかった場合ではどう変化するのか確認してみましょう。

<損益計算書>

① 減損会計適用なし ② 減損会計適用あり、
  税効果会計適用なし
③ 減損会計適用あり、
  税効果会計適用あり
税引き前利益 1,000,000 200,000 200,000
法人税等 300,000 300,000 300,000
法人税等調整額 -240,000
当期純利益 700,000 -100,000 140,000

① では、減損会計を適用していないので、利益額は多いのですが、企業実態とは乖離した数字です。

② では、減損会計を適用し、税効果会計を適用しない場合は税引き前利益が200,000に対して、法人税等の額が300,000になります。決算書だけみると、税率は150%になります。法人税等が税引き前利益を上回り、赤字になっています。

これは法人税法では減損損失を認められないため、法人税の計算では税引き前利益に減損損失額 800,000を加算した1,000,000で、法人税等を計算しているからです。(実効税率30%)

③では減損損失を税効果会計の対象として、800,000の30%を法人税等調整額として計上しています。法人税等調整後の法人税等は60,000となります。

法人税等=300,000-240,000=60,000

③では、法人税等が税引き前利益200,000の30%となり、会計上の利益と法人税のバランスが取れた状態になります。

このように、法人税等調整額とは、企業会計と法人税の計算の差異を埋めるためのものなのです。

4.一時差異と永久差異

企業会計では認められて、法人税法では認められないものがあるということがわかりました。では、企業会計と法人税法の計算に差異を及ぼす項目にはどのようなものがあるのでしょうか。

企業会計と法人税の計算の差異には、「一時差異」と「永久差異」があります。

一時差異とは、企業会計と法人税の計算が期間的に異なる場合であり、この差異は将来的に解消するものをいいます。

先程の例の機械装置の減損会計もこれにあたります。機械装置が実際に売却や廃棄された場合に差異が解消します。

そして、実はこの一時差異のみが税効果会計の対象となり、法人税等調整額を発生させることになります。

(1) 主な一時差異

減価償却費超過額 企業会計上と税務上の資産の減価償却耐用年数が違った場合などで、会計上の減価償却費が税務上の減価償却限度額を超過した場合に発生します。対象資産の使用年数が経過するにつれ、差異は解消していきます。対象資産の売却、除却によっても差異は解消します。
貸倒引当金繰入超過額 税務上で認められている金額以上に貸倒引当金繰入を計上した場合に発生します。個別引当金の場合は、対象になった債権が消滅することで差異は解消します。
繰越欠損金 税務上は過去に課税所得がマイナスだった場合に、次期以降にその欠損金を繰り延べることができます。企業会計上とは異なるため一時差異が発生します。繰越欠損金を充当するたびに一時差異は解消します。
資本金1億円以上の会社の場合は、繰越欠損金の充当に制限があるため、将来の課税所得額をスケジューリングして、繰延税金資産の回収可能性を算出しなければなりません。

一方、「永久差異」は企業会計と税務上の差異のうち、永久に差異が解消されないもののことです。永久差異は税効果会計の対象とはなりません。

(2) 主な永久差異

交際接待費等の損金算入限度超過額 中小企業等には一定額の交際接待費は税務上の損金として認められますが、大会社の交際接待費は原則的に税務上の損金として認められません。(接待飲食費の50%は損金として認められます)
会計上では交際接待費として処理しますが、永久に差異は解消しません。
寄付金の損金不算入額 一部の寄付金以外は税務上の損金として認められていません。この場合も永久に差異が解消しないため、永久差異に該当します。
延滞金等 法人税などの税金の延滞金等は税務上の損金として認められません。これも永久差異に該当します。

5.税効果会計の適用対象とは

この「税効果会計」はすべての会社に適用されているわけではありません。税効果会計が強制的に適用される会社は、上場会社や金融取引法の適用を受ける会社、会計監査人を設置している会社です。

中小企業等には強制的に適用されるわけではありません。

ただし、税効果会計を適用することで決算書上の利益と法人税等のバランスを保つことができます。また、繰延税金資産を計上することで、純資産の部を増額することもできます。

また、金融機関等、会社の決算書を見る外部の方からは適正な会計基準によって決算書を作成していると評価されます。そのため、中小企業でも税効果会計を適用する会社が増えてきています。