金融機関は決算書をどのように見ているか?- よくわかる!金融機関の視点

よくわかる!キャッシュフロー計算

金融機関は決算書をどのように見ているか?- よくわかる!金融機関の視点

チェック項目

決算書とは、その会社の経営状態を表す通信簿のようなものです。大手企業と取引している場合、毎年提出を義務づけられるケースもあるようです。

また、金融機関に融資の申込をするときにも、決算書の提出を求められます。一体、金融機関等は決算書のどこをチェックしているのでしょうか。わかりやすく解説します。

1.決算書とは

決算書は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の財務三表で成り立っています。他には、資産の部・負債の部のそれぞれの明細である「付属明細表」があります。

まずは、それぞれがどんな書類であるかを確認します。

(1)貸借対照表とは

貸借対照表の日付を確認すると、その会社の決算日が記されています。貸借対照表とは、決算日という一時点での会社の財産状況を表す書類なのです。

貸借対照表のことをバランスシートとも言います。バランスシートとは、残高表のことです。

(2)損益計算書とは

損益計算書の日付を確認すると、前年度の決算日の翌日から今年度の決算日までの一年間となっています。損益計算書とは、会計年度(通常は一年)内に出入りしたお金である、収入と支出をすべて合計して記載した書類なのです。

貸借対照表は一時点での状態を表す書類でした。損益計算書は、一年間という期間内の収入・支出の合計を表す書類です。表す数値の性質が異なっているのです。

(貸借対照表が表す数値の性質をストック、損益計算書が表す数値の性質をフローと言います)

損益計算書では、収入の合計値と支出の合計値の差分を計算することで、利益額を算出しています。

(3)キャッシュフロー計算書とは

キャッシュフロー計算書は、会社の「営業活動」、「財務活動」、「投資活動」という種類の異なる3種類の活動によって、会社の現金がどれくらい増減したかを示す書類です。

損益計算書もキャッシュフロー計算書もフローの情報を表す書類です。ただし、キャッシュフロー計算書は、帳面上の収入・支出ではなく、実際のキャッシュ(現金)の増減を表す点が損益計算書とは異なっています。

2.金融機関の視点

では、こうした決算書を金融機関はどのように見ているのでしょうか?

(1)貸借対照表を見る視点

会社の安全性を見る場合、「負債の部」でいくら借金しているのかは気になるところです。

ただし、負債額が小さいことが望ましいのはもちろんですが、負債額は、実際に銀行などから借りている額なので、実態とかけ離れた金額が記載されていることはほとんどありません。

むしろ怖いのは「資産の部」です。

なぜなら、「資産の部」の中の「棚卸資産」や「貸付金・未収入金」や「投資有価証券」などは、決算書の数字と実態がかけ離れているケースがあるためです。

貸借対照表の項目は大きくは、「保有財産などの資産の部」、「借金などの負債の部」、「資本金や今まで積み上げてきた利益などの純資産の部」の3項目に分かれます。

企業活動を貸借対照表(バランスシート)とリンクさせて考えると、企業活動はバランスシート上で、反時計回りにクルクルと循環しています。

出発点は、株主による出資金と今まで積み上げてきた利益の合計値である「純資産の部」です。

ただし、通常は「純資産の部」の金額だけでは、企業活動に必要な資金が足りませんから、銀行などからお金を借ります。この借入金は「負債の部」に記載されます。

そして、「純資産の部」と「負債の部」の両方で調達した資金をもって、必要なモノを購入します。具体的には材料や商品を仕入れしたり、生産に必要な機械を買ったりなどです。

あるいは、商売上のつながりの関係で、取引先にお金を貸すことや、株式を買う場合もあるでしょう。会社が購入した資産は、「資産の部」に記載されます。(貸付金も資産なのです)

こうした資産を活用して実施した企業活動(生産や販売などです)によって得た利益が、また純資産の部に積み上がります。そして、その資金はまた次の活動の資金として使われます。これが延々と繰り返されるのが企業活動です。

ところが、資産によっては、バランスシートに記載された金額分の価値がないケースがあるのです。

たとえば、「貸付金」です。貸付した相手の経営状態は問題なく、きちんと返済されているのでしょうか。返済が見込めないとしたら、その貸付金はまったく無価値な資産です。

「投資有価証券」も同じです。その株式や債権の発行会社が万一債務超過等であれば、記載された金額の価値はなく、紙くず同然の場合もあるのです。

金融機関は、「棚卸資産」や「貸付金・未収入金」や「投資有価証券」の金額が実態通りであるかを気にして、注意深くチェックしているのです。

(2)損益計算書を見る視点

損益計算書は、利益額を算出する書類でした。

一般に、会社は毎年順調に利益があがり、貸借対照表の右下の純資産の部が増えていれば安全です。会社が一年間でいくら儲けたかは、損益計算書の一番下にある「当期純利益」の額でわかります。

しかし、当期純利益が仮に100万円の場合、通帳にお金が100万円あるという意味ではありません。100万円の利益というのは、あくまでも帳面上だけのことなのです。

同じように純資産の部と同額の現金が金庫に保管されているわけでもありません。

なぜこのような事が起こるかと言うと、決算書が「会計のルール」や「税法のルール」を元に作成される書類であるためです。

税務署に届けて、きちんと税金を納めた税法上問題ない決算書であっても、結果的に、会社の資産や利益が実態よりも多くなっており、必ずしも、経営の実態を表してはいないケースがあるのです。

例として、「在庫の水増し」という粉飾決算の手法を見てみましょう。

会社は原材料や商品を仕入して、商品や製造した製品を販売し、そこで得た利益から人件費などの経費を支払います。

この経費を支払う前の利益を「売上総利益」(または粗利)といいます。

ただし、税務署は1年間に仕入した金額のすべてを原価とは見なしてくれません。仕入れ後に売り上げた分しか原価として認めてくれないのです。売り上げた分の原価のことを「売上原価」といい、次の計算式で算出します。

売上原価=期首棚卸高+仕入高-期末棚卸高
売上高-売上原価=売上総益(粗利)

この計算式の意味するところは、「売れ残った分は原価から除かれる」ということです。つまり、期末在庫が多いほど「売上総利益」(粗利)は大きくなります。

仮に全く出荷の見込みが立たない不良在庫が積み上がっていたとしても「売上総利益」(粗利)は大きく計算されてしまうのです。

在庫の積み増し

これを意図的にしたものが「在庫の水増し」という粉飾決算の手法です。

不良在庫に心当たりがあれば、貸借対照表の「資産の部」の棚卸商品から不良在庫分をマイナスして、もう一度売上原価を算出してみましょう。

不良在庫が多額なら、期末棚卸高でのマイナスが少なくなった分、売上原価が跳ね上がります。売上原価が跳ね上がると、場合によっては、「売上総利益」が吹っ飛び、赤字になってしまうかもしれません。

「棚卸資産」の中にまったく売れる見込みのない商品が残っていると、利益額が実態とズレてしまうということです。

こうした点も金融機関はチェックしています。棚卸資産の明細でちゃんと在庫が動いているかどうかを調べ、場合によっては実際に工場に出向いて、現物を確認することもします。

3.金融機関の決算書のチェック方法とは

「棚卸資産」、「貸付金・未収入金」、「投資有価証券」には記載の金額通りの価値がない場合があることがわかりました。

では、金融機関は実際の価値の有無をどのようにチェックしているのでしょうか?

チェック方法の一つ目は、付属明細書の確認です。貸付金・未収入金はどこの会社にいくら貸出しているのか、また、返済されているのかなど明細をチェックすると、貸付金や未収入金の記載額通りの価値があるかどうかは判断できます。

チェック方法の二つ目は、時系列比較です。時系列で比較したときに、同じ得意先に同じ金額の売掛金が何年も記載されていたら、どうでしょうか?

回収不能な不良債権であると判断できるでしょう。

借入の申し込みをすると、決算書は一期分ではなく、必ず二期分や三期分の提出を求められます。その理由は、数期分を並べてチェックするためです。

資産内容を時系列で比較することで、実態との乖離がないか、粉飾決算となっていないか、金融機関は確認しているのです。