棚卸資産とは – よくわかる!棚卸資産の実務

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棚卸資産とは – よくわかる!棚卸資産の実務

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「よくわかる!棚卸資産の基本」で、棚卸資産の評価が重要であることがわかりました。
では、棚卸資産の評価は具体的にどのように行うのでしょうか。
わかりやすく解説します。

1.棚卸資産の評価基準

棚卸資産は保管するうちに劣化したり、紛失したりする可能性のある資産です。
そのため、決算時にはその時点で、棚卸資産にはどのくらいの価値があるかを評価する必要があります。

棚卸資産の評価額は「期末の在庫数」×「仕入単価」で計算します。

期末の在庫数については、倉庫などで実地棚卸をすることで把握が可能です。
一方で、仕入単価は、仕入れた時期によって、金額が異なります。
なので、一つ一つの仕入単価を把握することは実務上、困難であることが多いです。

そこで、在庫として残った商品の仕入単価をいくらと見なすかについては、いくつかの基準や計算方法が定められています。

まず、原価法と低価法があります。

原価法とは、取得したときの原価を基準とする方法です。
低価法とは「取得原価」と「期末時価」を比較して、低い方の価額を棚卸資産の評価額とする方法です。

具体的な評価方法としては、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法があります。

2.棚卸資産の評価方法

では、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法とは、それぞれ具体的にどのような評価方法なのでしょうか。

・個別法とは

個別法とは、個々の取得原価で評価する方法です。
個別法のメリットは正確に在庫金額を把握できる点です。
デメリットは手間がかかる点です。
個別法は、宝石や不動産など一つ一つの取得原価を把握しやすい業種に向いています。

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・先入先出法とは

先入先出法とは、先に仕入れたものから先に販売されていると見なす方法です。

<例>
前期売れ残ったレタスが10個あった。これらは1個105円で仕入れた。
4月1日に1個100円のレタスを70個仕入れた。
5月1日に1個120円のレタスを20個仕入れた。
6月1日にレタスを1個130円で80個販売した。
前期 仕入 @105 10個 80個 6月1日 販売
4月1日 仕入 @100 70個
5月1日 仕入 @120 20個 20個 @120→ 期末棚卸資産 2,400円

・総平均法とは

総平均法とは、仕入原価の年間合計額を、年間の仕入数量合計で割った平均単価を仕入単価とする方法です。総平均法のメリットは、計算が簡単な点です。
デメリットは、期間が終わってからでないと、金額を確定できない点です。

<例>
前期売れ残ったレタスが10個あった。これらは1個105円で仕入れた。
4月1日に1個100円のレタスを70個仕入れた。
5月1日に1個120円のレタスを20個仕入れた。
6月1日にレタスを1個130円で80個販売した。
前期 仕入 @105 10個 80個 6月1日 販売
4月1日 仕入 @100 70個
5月1日 仕入 @120 20個 20個 @104.5→ 期末棚卸資産 2,090円
{(@105×10個)+(@100×70個)+(@120×20個)}÷100=@104.5

・移動平均法とは

移動平均法とは、仕入や販売の都度、平均単価を算定する方法です。
移動平均法のメリットは、期間中でも算定ができる点です。
デメリットは、算定の手間がかかる点です。

・最終仕入原価法とは

最終仕入原価法とは、期末に一番近いタイミングでの最後に仕入れたときの単価を棚卸資産全体の仕入単価と見なす方法です。
最終仕入原価法のメリットは、算定が簡単な点です。
デメリットは、仕入のタイミングによる価格変動が大きい場合に誤差が生じる点です。

<例>
前期売れ残ったレタスが10個あった。これらは1個105円で仕入れた。
4月1日に1個100円のレタスを70個仕入れた。
5月1日に1個120円のレタスを20個仕入れた。
6月1日にレタスを1個130円で80個販売した。
前期 仕入 @105 10個 80個 6月1日 販売
4月1日 仕入 @100 70個
5月1日 仕入 @120 20個 20個 @120→ 期末棚卸資産 2,400円

・売価還元法とは

売価還元法とは、期末棚卸資産の売価合計値に、原価率をかけて、棚卸資産の金額を算出する方法です。

売価還元法は、小売業のように、棚卸資産の売価が決まっていて、会社全体の原価率もある程度、一定である場合に向いている方法です。

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3.棚卸資産の評価方法の届出

棚卸資産の評価方法によって、棚卸資産の金額が変わることがわかりました。

棚卸資産の金額は売上原価の計算に影響します。
売上原価の金額は、利益の計算に影響します。

売上原価=期初在庫+当期仕入高-期末在庫
売上総利益=売上高-売上原価

会計年度によって、棚卸資産の評価方法を変えてしまうと、利益操作ができてしまうことになります。そのため、一度、棚卸資産の評価方法を選択すると、原則として変更できないことになっています。

棚卸資産の評価方法を選択できるのは、会社を設立して、第1期目の確定申告書の提出期限までです。
届け出をしなかった場合は「最終仕入原価法」が自動的に適用されます。

他の棚卸資産の評価方法を選択したい場合には、会社設立後の第1期目の確定申告書の提出期限までに「棚卸資産の評価方法の届出書」を税務署に提出します。

なお、棚卸資産の評価方法を変更すべき合理的な理由がある場合については、変更する事業年度の開始の日までに「変更承認申請書」を税務署に提出します。

4.棚卸資産の付随費用とは

棚卸資産には、本体費用以外に「付随費用」があります。
「付随費用」とは、棚卸資産に関わる取引運賃や荷役費などのような費用です。

付随費用の例としては

・取引運賃
・荷役費
・運送保険料
・購入手数料
・関税
・据え付け費
・業務用資産の取得のために要した借入金の利子

などがあります。

棚卸資産の取得原価には、上記の付随費用を含めて計上します。

・購入した棚卸資産の取得原価=購入代価+付随費用
・製造した棚卸資産の取得原価=製造原価+付随費用
<例>
商品を15,000円で仕入れ、購入手数料200円と取引運賃1,000円とともに現金で支払った。
(借)仕入 16,200 / (貸) 現金 16,200
<例>
完成した製品の製造原価は、材料費2,000円、労務費3,000円、経費800円であった。
(借)仕掛品 5,800 /(貸) 材料 2,000
賃金 3,000
経費 800
(借)製 品 5,800 /(貸) 仕掛品 5,800

ただし、法人税法では「おおむね3%以内の少額な付随費用は取得原価に算入しなくてもよい」という容認規定が設けられています。

3%基準が適用される付随費用は、以下などの内部付随費用です。(法人税法基本通達5-1-1より)

・買入事務、検収、整理、選別、手入れ等に要した費用の額
・販売所等から販売所等へ移管するために要した運賃
・荷造費等の費用の額
・特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額

一方で、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等などの外部不随費用については、3%基準は適用されません。

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5.棚卸資産の評価損とは

決算時にはその時点で、棚卸資産にはどのくらいの価値があるかを評価する必要があると説明しましたね。

在庫評価のポイントの一つは、在庫の数量が減っていないかどうかです。
もう一つは価値が著しく低下していないかどうかです。

・在庫数量の減少

在庫数量の確認のためには、商品の実地棚卸を行い、在庫が減少していないか確認します。
在庫の数量が減っていた場合は、仕入単価×在庫減少量=棚卸減耗費を「損失」として、損益計算書に計上します。

<例>
100円のレタスを100個仕入れた。80個販売した。期末の棚卸をしたところ、15個しか在庫が残っていなかった。
棚卸減耗費=100円×5個=500円

では、この棚卸減耗費は、損益計算書のどの区分に記載するのでしょうか。
棚卸減耗費が、損益計算書のどこに記載されるのかについては、原価性の有無によって判断します。

棚卸減耗費のうち、原価性のある棚卸資産の棚卸減耗費の場合、

・原材料に係るものは製造原価
・商品や製品に係るものは売上原価または販売費及び一般管理費

に計上します。

原価性のないものは、特別損失または営業外損失に計上します。

・在庫品の価値の低下

在庫評価のポイントのもう一つは、価値が著しく低下していないかどうかでした。

在庫品を長期保管する間には、破損したり、変色するなど物理的に価値が低下することがあります。また、物理的な価値低下はなくとも、流行り廃りなどによって商品が陳腐化することもあります。

このような場合は、「商品評価損」を計上します。
具体的な手順は以下のとおりです。

(1) 決算時に、時価(=正味売却価額)と取得原価を比較します。
(2) 正味売却価額が取得原価を下回っていた場合は、
  正味売却価額を棚卸資産の金額とします。
(3) 取得価額と正味売却価額の差額については、商品評価損として損益計算書に計上します。

では、この商品評価損は、損益計算書のどの区分に記載するのでしょうか。

商品評価損は、原則として、売上原価の内訳項目として計上します。
ただし、その金額が臨時的、かつ多額であるときは特別損失にとして計上します。
また、製品の製造に不可避的に発生する場合は製造原価として処理します。

棚卸減耗損と商品評価損の両方がある場合は、以下のようになります。

<例>
100円のレタスを100個仕入れた。80個販売した。
期末の棚卸をしたところ、15個しか在庫が残っていなかった。
期末の正味売却価額は80円であった。
・棚卸減耗費=100円×5個=500円
・商品評価損=20円×15個=300円
※ 評価前の棚卸資産 2,000円

100円 商品評価損
300円
棚卸減耗費
500円
80円 評価後の棚卸資産
1,200円
15個 20個

このように、売れ残った在庫は損失に変わることがあります。
だから、適切な在庫管理が重要で、かつ在庫を持ち過ぎないことがそもそも重要なんですね。

※ なお、棚卸資産の基本知識については、「棚卸資産とは – よくわかる!棚卸資産の基本」をご参照ください。