利益を把握するためには原価を知る必要があります。
売上原価を計算する上で、重要な項目が棚卸資産です。
棚卸資産とは何でしょうか。わかりやすく解説します。
Contents
1.棚卸資産とは
商品の仕入に使った金額が全額、費用ではないことをご存じでしょうか?
商品を仕入れただけでは、仕入の金額は費用にはなりません。
仕入れた商品は、売れたときに初めて、その売れた分の金額が費用になります。
これを売上原価と言います。売り上げた分の原価という意味ですね。
では、まだ売れていない分や、売れなかった分についてはどうなるのでしょうか。
売れずに、倉庫にただ保管されている商品の仕入金額については費用になりません。
何になるかというと、これが「棚卸資産」です。
つまり「棚卸資産」とは平たくいうと、在庫のことです。
2.なぜ、棚卸資産の管理が重要なのか
では、なぜ、棚卸資産の管理が重要なのでしょうか。
たとえば、大量に仕入れた商品が少ししか売れていないとします。
費用にできるのは、売れた分の商品の仕入金額のみです。
一方で、「お金」という観点で考えると、大量の商品の仕入の支払いをしてしまっています。
そのため、会計上は「黒字」であっても、支払いに多額のお金を使ってしまっていて、「お金がない」という事態が起こり得ます。
さらには、仕入れた商品がいつまでも売れずに倉庫に残ってしまっている場合、どうなるでしょうか。
そのうちに破損したり、劣化したり、流行が変わって売り物にならなくなったり、紛失してしまったりすることもあるでしょう。
せっかく仕入れた商品を売ることができなくなってしまうと、仕入にかかった金額が損失になってしまいます。そのため、棚卸資産を適切に管理することが必要になります。
また、売上原価の算定では、売れていない、期末の在庫分を除外して計算します。
期末在庫の金額をどのように把握するかによって、売上原価の数字が変わります。
その結果、利益の金額が変わります。法人税の金額も影響を受けるでしょう。
つまり、会計的な意味においても、棚卸資産の金額を適切に把握することは重要なのです。
3.棚卸資産の種類
さて、棚卸資産とは、まだ売れていない商品のことと説明しました。
実は、棚卸資産は商品だけではありません。
商品以外に、棚卸資産には、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品があります。
それぞれどのような意味なのでしょうか。
・商品とは
商品とは、仕入れたもので、販売できるものを言います。
・製品とは
製品とは、製造が完了して、販売できるものを言います。
・半製品とは
半製品とは、製造途中のもので、販売できるものを言います。
最終製品になっていないけれど、部品などとしての販売が可能なものです。
・仕掛品とは
仕掛品とは製造途中のもので、販売できないものを言います。
作りかけの製品という意味です。
・原材料とは
原材料とは、製造のために仕入れた材料や原料のことです。
・貯蔵品とは
貯蔵品とは、商品や原材料以外の未使用で少額かつ多品種のものを言います。
具体的には、ペンや切手などの他、カタログなどの販促物も貯蔵品です。
・未成工事支出金とは
特殊な棚卸資産としては、未成工事支出金があります。
これは、建設業の会社が使用する建設業会計で使われる項目です。建設業の会社特有の棚卸資産です。
建設業の会計では、工事が完成するまでは、かかった原価は「未成工事支出金」という項目で計上します。
工事が完成すると、工事原価に振り替えます。
建設業における仕掛品と考えると理解しやすいでしょう。
4.棚卸資産の分析方法
棚卸資産=在庫を多く保管していると、仕入にお金がかかっているのに、販売して、お金を回収するまでに時間がかかってしまうので、資金繰りが厳しくなります。
また、在庫の保管コストもかかります。たとえば倉庫代などです。さらには売れ残った在庫を長く保管していると、損失になるリスクもあります。
そのため、棚卸資産が多すぎないかどうか。
在庫水準が適切かどうか管理する必要があります。
棚卸資産の管理状態を示す指標として、「棚卸資産回転率」や「棚卸回転期間」があります。
「棚卸資産回転率」にも「棚卸回転期間」にも「回転」という言葉が使われています。「一回転」とは、在庫している、すべての棚卸資産が売れて、在庫が入れ替わることです。
・棚卸資産回転率とは
棚卸資産回転率とは、棚卸資産が年に何回入れ替わっているかを見る指標です。
年に一度だけ、まとめて一年分の仕入をしている会社を考えてみましょう。
棚卸資産の数字と、年間の売上原価の数字は等しくなるでしょう。
つまりこの会社の棚卸資産回転率は一回です。
一度にドサッと仕入れて、一年をかけて、徐々に販売しているということです。
これでは、仕入の費用を有効活用できているとは言えないでしょう。
次に毎月仕入して、仕入した分をその月に売り切っている会社を考えてみましょう。
棚卸資産の数字は、年間の売上原価の数字の1/12で済むことになります。
つまり棚卸資産回転率は12回です。
棚卸資産が年に12回入れ替わっている会社は、年に1回しか入れ替わっていない会社よりも、一回にかかる仕入金額が少なくて済みます。
別の言い方をすれば、お金をうまく回すことができている会社です。
つまり、より効率的な経営ができていると言えます。
棚卸資産回転率の計算式は以下のとおりです。
棚卸資産の金額は、実際には変動があることが普通ですので、期初と期末の平均値を使用します。
・棚卸回転期間とは
棚卸回転期間とは、在庫が一回転するまでの期間を見る指標です。
つまり、在庫しているすべての棚卸資産が売れるまでに、何日かかるのかをみる指標です。
年に一回しか仕入しない会社では、棚卸資産回転期間は365日間です。
毎月仕入して、仕入れた分を売り切っている会社では、棚卸資産回転期間は30日間です。
棚卸資産回転期間の計算式は以下のとおりです。
=棚卸資産÷売上原価×365
棚卸資産回転率と同様に、棚卸資産の数字は、期初と期末の平均値とします。
棚卸資産回転率の計算式と見比べてみると、分母と分子がちょうど逆になっています。
棚卸資産を効率よく回せていると、棚卸資産回転期間は短くなります。
棚卸資産を効率よく回せていないと、棚卸資産回転期間は長くなります。
棚卸資産回転率と棚卸資産回転期間は、同じことを別の側面から表現した指標と言えるでしょう。
※ より詳細な棚卸資産の実務については、「棚卸資産とは – よくわかる!棚卸資産の実務」をご参照ください。