「経営分析の基本」(林 總)- 財務分析の前に読んでおきたいお勧めの解説書

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「経営分析の基本」(林 總)- 財務分析の前に読んでおきたいお勧めの解説書

経営分析

商品調達担当者に財務分析のスキルが必要な理由

私は、専門商社で約15年の間、商品調達に従事しています。

新規で仕入先と契約する場合は、安定した調達先かどうかを判断する必要があります。
そうしたことから、ここ数年、財務分析を手がける機会が数多くありました。

この業務を担当する当初は、専門知識が大きく不足していました。

そのため、分かりやすく財務分析の知識を得られて、かつ、深堀りもできる参考書籍を探していました。私がいろいろな書籍を読んだ中で、参考になった書籍が「経営分析の基本」(林 總)です。

・書 名:経営分析の基本
・出版社:日本実業出版社
・定 価:本体1,500円(税別)
・著 者:林 總

経営分析の基本

財務分析における問題点

まず、財務分析を手がける上でしばしば問題視される一般論を整理したいと思います。一般的な問題としては以下のようなことが挙げられます。

・財務諸表の基礎的な見方や指標計算の方法は理解しているが、本質的な企業の財務状態を読み取ることが難しい。
・分析結果を形式的に判断するだけで、数字の裏にある経営実態を見極めるのが難しい。

あるいは、企業の経理担当者ならどうでしょうか。

損益計算書、貸借対照表、キャシュフロー計算書を作成することはできるものの、実際の財務状態はわからない…。こんなこともあるのかも知れません。

財務諸表から読み取りたい本質的な情報は、当該企業の財務諸表から、事業特性や経営方針の実態であるべきなのです。

ところが、数字の羅列からはそれが難しいのです。なぜ、財務諸表にはこのような難しさがあるのでしょうか。

それは、財務諸表には企業の実態を鵜呑みにできない、いくつかの限界が存在するからです。

財務分析の限界

財務分析の限界としては2点挙げられます。

1. 貨幣価値に置き換えられない非財務情報が掲載されない

財務諸表には、企業の強み、事業機会やリスクなど、経営環境や知的財産など定性面に関する情報がありません。

昨今は、特許や独自技術等の知的資産を経営に活かし、資産として考慮する考え方が浸透してきましたが、財務諸表はその価値を表現することができません。

2. 会計基準に基づく情報であって、事実を表している訳ではない

例えば、自動車販売業の例で考えてみます。同じ自動車販売業でも、薄利の新車販売が多い企業もあれば、利幅のある中古車販売が多い企業もあります。

財務諸表は、企業の実態を大まかに掴むものですが、企業実態の事実を把握するには十分ではありません。

当該企業がどこで儲けているのかというなどの事実は、損益計算書だけではわからないのです。

本書から一部引用します。

“このように、財務諸表は企業の定性情報を完全に表現することができません。
上場企業であれば、投資家保護に伴う経営情報の開示義務によって、財務諸表ともに企業の実態報告を確認することができます。

一般に我々が財務分析を行う対象は、そのような企業ではありません。

従って、我々が財務分析を手掛ける上で、課題となるのは以下の点があります。

・財務三表(P/L、B/S、C/F)から企業の経営特性を読み取るノウハウの向上
・様々な経営指標を駆使した財務状況および経営成績の評価精度向上
・数字の奥に潜む企業の経営実態掌握”

正しい財務分析をするためのに基礎知識を得るには、いささか骨が折れる準備が必要に思えます。その課題を解決するために、是非おすすめしたい本なのです。

「経営分析の基本」(林 總)紹介

・著者紹介 林 總

公認会計士林總事務所代表、日本原価計算学会会員。国内外の企業に対して、管理会計のコンサルティングや講演活動等を行っています。

主な著書は『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』、『わかる!管理会計』。

・作品の背景

経営者だからと言って、財務諸表が読める訳ではありません。社員も同様です。経営と会計を別物と捉えてしまい、本来、企業活動の実態を表す財務諸表から情報を引き出せるビジネス・パーソンは圧倒的に少ないのが実情です。

そのため、本書は、財務諸表の基本的な理解を促すともに、財務分析の表面上の知識が必ずしも企業経営の実態を示さない点を喚起しています。

形式的な財務分析に留まらず、数字の奥にある当該企業の実態を掌握する力を読者にもたらすことを目的に書き上げられた良書です。

・本の内容

・財務分析の必要性
・財務諸表の構造
・P/L、B/S、C/Fの分析手法、事例
・管理会計の手法、事例
・生産性分析の手法、事例
・株式投資分析の手法、事例

・特徴

用語、勘定科目、指標は細かく解説されています。したがって、財務諸表に多少でも触れたことがある方なら、財務分析の初心者でも読み進めることができます。

わかりやすい表現も魅力です。例えば、未払金、未払費用等の営業債務を「ツケ」と表して紹介するなど、財務分析の抵抗感を取り除く分かりやすさが特徴です。

特に印象深いのは、指標の基本的な改善手法など、分析後の打ち手についても内容を充実させているところです。

くり返し読むことで、基本的な経営改善の考え方も身に着けることができます。

・評価

JAL、トヨタ自動車、帝国ホテル、餃子の王将など、さまざまな企業の事例を用いて解説されています。

実際の企業のビジネス・シーンをイメージしながら知識を補充できるため、財務諸表から経営実態を読み取ることが容易になります。

数字と事業展開の整合性が掴みやすく、財務分析に求められる視点を数多く吸収することができます。


いかかでしょうか。

この本は、若手経営者、役員、経理担当者、または中小企業診断士やその受験生など、自信を持って財務分析に取り組めるようになりたい方にとって、強くおすすめできる本です。

私は、この本をくり替えし読むことで理解が深まりした。通読自体は二日間もあれば完了します。みなさんも、是非手に取ってみてください。

2018年2月25日(中小企業診断士・専門商社勤務)