経理はなぜ重要なのか?経理を重視しない会社で起きる8つの問題とは?対策は?

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経理はなぜ重要なのか?経理を重視しない会社で起きる8つの問題とは?対策は?

経理を重視しない会社で起きる8つの問題とは?

業種・業態によって仕事には違いがありますが、経理が必要でない会社はないでしょう。
それくらい経理はすべての会社にとって基本的な業務です。
一方で、経理の重要性がすべての会社で理解されているかどうかというと、どうでしょうか。

営業や製造などと比較して、必ずしも重視されているとはいえないかもしれません。

経理はなぜ重要なのか。経理が適切に行われないとどんな問題が起きるのか。
わかりやすく解説します。

1.経理の仕事とは

まず経理とはどのような業務でしょうか。

(1) 経理の基本とは

まず、経理の基本は、事業の取引やお金の流れをすべて記録し管理することです。記録や管理は「帳簿」という書式に「簿記」の手法を用いて行います。

簿記には「簡易簿記」と「複式簿記」という2つの方法があります。管理という側面から考えると、複式簿記の方法で帳簿を作成することが望ましいです。

その理由は、簡易簿記は、必要な帳簿の数が少なく、文字通り簡易的な記録と管理で済む反面、簡易であるがゆえに事業の状態を正確に把握することができないからです。

(簡易簿記の場合、税務上の特別控除も10万円しか受けられず、複式簿記の65万円よりも少ないというデメリットもあります)

では、複式簿記とはどのような方法でしょうか。

複式簿記では、主要簿と補助簿という帳簿の作成が必要です。具体的には、以下のような種類があります。

主要簿 補助簿
補助記入帳 補助元帳
総勘定元帳 現金出納帳 売掛金元帳
銀行預金出納帳 買掛金元帳
仕訳帳 受取手形記入帳 商品有高帳
支払手形記入帳 固定資産台帳
(出典:中小企業庁:「夢を実現する創業」問13 )

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/manyual_sogyo/19fy/sougyou22.htm

補助簿は、業種業態によって管理項目が異なるため、必要な補助簿もそれに応じて異なります。この帳簿を作成し、管理することによって、取引量や残高を把握することが可能になります。

(2) 経理に求められることは

日々の帳簿作成が経理の基本とすると、決算処理は、経理にとって、年に一度の重要な業務と言えるでしょう。決算書(財務諸表)は、日々作成する帳簿をもとに作成します。その意味でも日々の経理の仕事は重要と言えます。

※参考記事:
財務三表とは – よくわかる!財務三表の基本
https://vision-cash.com/cf/zaimu/three-table-financial/

決算書を作成すると、その期間の売上、経費、利益がどのくらいあるのか、その時点での、お金、資産、負債がいくらあるのかなどがわかります。

つまり、決算書作成によって、取引量や残高などの現状が数値化され、可視化された状態になります。したがって、経理処理は現状把握を正確に行うことが非常に重要です。

また、決算書作成は年に一度であるので、期の途中の経営把握は試算表を活用することになります。

この試算表作成のタイミングが遅いとどうでしょうか。一か月前の新聞を読んでも、すでに状況が変わってしまっているのと同じように、タイミングが遅いと経営状況の役に立つとは言えなくなります。

したがって、経理に求められることは、経営数字を正確かつタイムリーに把握できるようにすることと言えます。

経理

2.経理を重視しない会社で起きる8つの問題とは

では、会社が経理の重要性を理解せず、経理処理が正確かつタイムリーに行われないと、どのような問題が発生するのでしょうか。

(1) 経営状況の的確な把握ができない

経理処理が正確かつタイムリーに行われなければ、
・利益は出ているのか
・お金はいくらあるのか
・経費や債務は支払うことができるのか

など、経営状況の的確な把握ができません。

経営状況を的確に把握できなければ、対策ができない、もしくは誤った対策をしてしまうということが起こりかねません。

たとえば、今月末の支払いが現状の現預金残高では足りない場合、早期に状況把握ができれば、資金調達を行うなどの対策が可能です。把握できなければ、直前まで気づくことがでず、対策できない可能性もあります。

また、実際は赤字であるにも関わらず、経理処理が杜撰なため黒字だという誤った認識をしてしまうことがあるかもしれません。

そうなると、本来は撤退すべきであるのにも関わらず、現状のままの事業活動を継続してしまい、損失が膨らんでしまうという可能性もあります。

このように、経営状況を的確に把握できなければ、経営状況の悪化につながる懸念があります。

(2) 資金管理不足から余分な資金調達が必要となる

経理処理が正確かつタイムリーに行われない場合の二つ目の問題として、将来のお金の過不足の判断がしづらくなることが上げられます。

このように手持ちの現金・預金で今後の支払いが可能かどうかがわからない場合、支払い不安から、お金に余裕を持とうとしがちです。

その結果として、資金管理できていれば必要のなかった借入をしてしまい、余分な借入コストを負担することになる可能性があります。

また、その際の金融機関との交渉の時間や労力も経営上のコストと言えます。

(3) 資金調達コストが上昇する

さらには、経理が正確かつタイムリーではなく、資金の動きや経営状況を的確に把握できていない会社は、金融機関からの信用度や評価が低くなります。

経営状況を的確に把握して、説明することができなければ、経理がいい加減な会社、また数字をもとに自社の経営状況の把握ができていない会社と見なされます。

その結果、融資を断られたり、リスクヘッジをするために希望調達額に満たない条件を提示されたり、高い金利条件を提示される可能性もあります。

経理が適切に行われていないと、資金調達コストが上昇してしまうということです。

(4) コストアップにつながる

事業を行う上で、原価や経費などのコストは本来、売上や利益を上げるためにかけるものです。

かけたコストが売上や利益に貢献しているかどうかについては、数字をもとに検証することが必要です。

ところが、経理が適切に機能していない場合、経営数字のタイムリーな把握ができません。その結果として、売上や利益に貢献していないコストを払い続けてしまうリスクが高まります。

なぜなら、経営数字が変化する中で、何が必要なコストで、何が不要なコストかの判断が適切にしづらいからです。

たとえば、業績がよかったときに契約して、効果の検証をしていない広告宣伝費、業界団体とのおつきあい的な会費、役員にしているものの、事業への貢献度の低い親族などへ役員報酬などなど。

その費用の支払いは妥当なのか。売上や利益に貢献しているのか。経営数字のタイムリーな把握がなされていなければ、経営判断を行う機会がなく、結果的に、惰性的に支払いを続けてしまうことになりがちです。

(5) 請求、回収漏れのリスクが生じる

帳簿の中に「売掛金元帳」という補助簿があります。どの得意先に、いつ、いくら請求したか、その請求をいつ回収したかについて管理する帳簿です。

この管理が的確に行われていない場合、そもそも請求ができているのか、回収が期日内に行われているのかが把握できません。

このように債権の管理不十分な場合、債権回収が遅れ、資金繰りに大きなマイナスの影響を及ぼします。

さらには、時間が経過した後に、回収漏れに気づいたとしても、得意先との交渉が難航することもあるでしょう。最悪の場合は回収不能となってしまうこともあり、大きな損失を被ることになりかねません。

(6) 支払い漏れのリスクがある

売上債権の回収漏れと同じく、支払い漏れのリスクもあります。

仕入先などからの請求書の管理や「買掛金元帳」の管理が不十分な場合、約束の期日までに支払いができない可能性があります。

また、預金残高の管理も不十分であれば、引き落としや返済があるにも関わらず残高不足となる可能性もあります。

このような場合、対外的信用を失い、仕入価格の上昇などを招くこともあります。度重なる残高不足の指摘を受け、資金調達ができなくなる可能性もあります。

支払手形の場合は、振り出した手形が支払期日に資金不足であると決済できません。資金不足で手形の決済ができないことを不渡りと言います。6か月以内に、不渡りが2回発生すると、銀行取引停止処分となってしまいます。事実上の倒産です。

(なお、約束手形については、経済産業省が2026年に廃止の方針を打ち出しています)

また、社会保険料や税金の納付遅れなどが発生すると、延滞税が発生したり、借入際に信頼度の低い

(7) 不正の原因となりうる

経理が適切に行われないということは、正しい状態を把握できないということです。

正しい状態が把握できなければ、数字に異常があっても、それに気づくことができません。

たとえば、着服などの不正があった場合でも、経理処理を正確に把握しておけば、誤差や違和感に気づくことができます。経理が杜撰など適切に機能していない場合は気づくことができず、大きな損失を被る可能性が高まります。

杜撰な経理は、不正の温床となりうるのです。

(8) 過大な税金を招く

経理が杜撰であれば、経費の計上漏れをしてしまう可能性もあります。その計上漏れによって利益が過大となり、その結果、税額が大きくなってしまいます。

また、事前の利益予測ができれば、正当な節税対策も可能です。事前の予測ができないために必要な節税対策を行えず、税額が過大になる可能性もあります。

飲食店などの現金商売でありがちなケースは、事業のお金と経営者個人のお金が混同してしまい、役員貸付金という勘定科目が過大になってしまうケースです。

この場合、貸付金に対する利息を法人側が徴収しなければならないため、その利息分、法人の利益が増加し、税額の増加を招いてしまいます。

事業のお金と経営者個人のお金が混同してしまうと役員貸付金とされ、利息の支払い義務が発生…。しかもその利息分、税額は増加!

3.正しい経理処理を行うには

では、正しい経理処理を行うには、どのようにすればいいのでしょうか。

(1) できるだけリアルタイムで処理する

一つ目の対策としては、できるだけリアルタイムで処理をすることです。月に一度や、年に一度のまとめての帳簿作成では、タイムリーな経営把握はできません。

蓋を開けてみないとわからないブラックボックスのような状態です。また、時間が経過してから帳簿を作成しようとしても、記憶も不確かであり、正確な処理は難しいと言えます。

毎日、あるいは、取引が起こる都度、できるだけタイムラグを起こさずに帳簿に記入することが必要です。

リアルタイムの処理を行いやすくするためには、会計ソフトを導入して、処理効率を上げることも効果的です。会計ソフトの中には、預金口座と連動して自動取込を行う会計ソフト(クラウド会計)もあります。

※参考記事:
クラウド会計とは。仕訳自動取込機能とは-よくわかる!クラウド会計の基本
https://vision-cash.com/cf/ac/cloud-accounting/

(2) 補助簿を活用する

正しい経理処理のための二つ目の対策は、補助簿の活用です。「売掛金元帳」「買掛金元帳」「商品有高帳」「受取手形記入帳」など、勘定科目のうちで詳細な情報が必要な項目について作成します。

どの補助簿が必要かについては、業種業態に応じて判断する必要があります。

たとえば、小売店などは現金商売です。売掛金のようないわゆる「つけ」のようなものは発生しないことが多いため、売掛金元帳は不要です。一方で、仕入については「つけ」払いがあることが多いので、買掛金元帳は必要でしょう。

ライターやWebデザイナーのよう仕事の場合あれば、両方とも不要かもしれません。ただし、外注を活用している場合は買掛金元帳が必要かもしれません。

このように、自身の事業に応じて、補助簿を活用することで、資産や債務の残高、回収や支払いなどの管理が行いやすくなり、トラブルによる損失を防ぎやすくなります。

(3) 試算表を作成する

正しい経理処理のための三つ目の対策は、試算表を作成することです。試算表とは、毎月などの頻度で作成する仮の決算書(財務諸表)です。

決算書(財務諸表)は、決算期ごとに作成すれば、税法などの法律上の問題はありません。一方で、経営管理上の観点で考えると、年に一度の経営状況把握では十分とは言えないでしょう。

そこで、毎月帳簿を締め切り、試算表という形で経営状況を把握します。そのためにも、リアルタイムでの経理処理や補助簿の活用が欠かせません。

(4) 前月や前年同月と数字を比較をする

正しい経理処理のための四つ目の対策は、前月や前年同月と数字を比較をすることです。

なぜなら、決算書や試算表の数字は、単独で見ても状況の把握はできますが、良いのか悪いのかが判断がつかない場合があるからです。

その判断のためには、前月や前年同月と比較することが有効です。たとえば黒字であっても、前年同月と比較して、黒字額が上がっているのか。下がっているのか。それによって、判断はわかれることでしょう。

また、前月と比べ売掛金の残高が著しく増えている場合、回収漏れの可能性もあります。

このように、数字を見る場合、比較することで、経営状況が正常か、順調かについてより明確になります。