経理担当者として、どのように仕事に向き合えばいいのか。
この問いを考えるときにヒントが見つかる本があります。
「つぶれない会社のリアルな経営経理戦略」(前田康二郎)です。
Contents
はじめに
本書では「はじめに」という序文の中で以下のように記されています。
新型コロナウイルスの影響で多くの経営者が厳しい経営判断に日々立たれていることと思います。(中略)
私が今回のことで驚いたのは、多くの会社がこんなにも資金繰りをぎりぎりでまわしていたことです。もちろん必要以上に借入をする必要はないのですが、「もし自分がその会社の経理社員だったら、いくら好景気であっても、万が一のことがあるので、金融機関にいざというときの融資枠を確保しておくなりするだろうs、自分の会社員時代の経理の先輩たちもそうしていたはずだし…」と思ったところで気づきました。今の時代「経理などいらない」「事務社員はコスト増になるだけ」という喧伝に経営者が惑わされ、特に中小企業、ベンチャー企業などには経理社員そのものがいない組織が増えたため、経理的な発想がないディフェンスの弱い組織になってしまっていたのだろうと思います。
本書は、第1章から第11章まで11の章で構成されています。章ごとにポイントと見出し項目を中心にご紹介します。
第1章「強い会社」とは、潰れない会社、しぶとい会社
人は、ポジティブな事象に関しては多くの人が日常的に想像する癖や習慣がついています。
しかし、ネガティブな事象については、多くの人が頭をよぎりつつも「まあいいか」「そんなことあるわけないし」と、先延ばしにし、蓋をしてしまいます。だから、突如ネガティブな状況が発生したときに瞬発的な対応ができないのです。
会社が成功することは、誰でも無意識に想像します。会社を潰さないための第一歩は、会社が潰れることを想像することから始まります。
・会社が潰れる姿を想像できる人は、会社を潰さない
・頑張り方を軌道修正すれば、会社は潰れない
・計数感覚が整っていれば会社は潰れない
・経営者の最大の責任の一つは会社を「潰さない」こと
・タイムマネジメントが厳しい会社は潰れない
第2章 経営危機に陥ったら、すぐやらなければいけないこと
経営危機の会社と勢いのある会社、両方の会社を見てきて思ったことは「ほんの少しの差」だということです。
現に、数年前まで勢いがあったのに失速している会社もあれば、反対に、あの会社はもうピークを過ぎたと言われていた会社がV字回復をしていることもあります。
・1秒でも早く動き出して生き残る確率を上げる
・資金繰りがわかる人にすぐ相談して危機を脱する
・できる社員は相談してくれるのを待っている
第3章 借入審査で会社を正しく評価してもらうポイント
経営危機の際に、借入・出資してもらえる確率をどうやったら1%でも上げられるか。
認識しておくべきことは、普段お付き合いしている受注先・発注先と金融機関等とは付き合い方がまるで違う、ということです。
金融機関の人が安心する振る舞い、所作は何かを想像することは大切です。
・受注先・発注先へのアポイントと、金融機関等へのアポイントは違う
・ネガティブな予算計画を見てお金を貸せるわけがない
・過去の栄光より、未来の展望を話す
・小学生でもわかるように自分の事業を一回で説明しきれる練習をしておく
・自分が借りる立場なのに、自分本位では0点
・マニアックな話をされると相手は逆に不安になる
・「評判がいい」「頑張っている」は決算書には載せられない
・経営者がヒートアップしないように経理社員はいる
・企業ブランディングは、取引先・顧客向けと金融機関向けの2種類ある
・最後は社長の意欲で逆転もある
第4章 会社を潰す税理士、潰さない税理士
いくつか仕事で担当させていただいた、「潰れそうになった」会社の顧問税理士は皆「名ばかり税理士」でした。
逆に言えば、いい税理士の先生を見つけて経営指南をしていただければ、経営危機に陥る確率はぐんと減るはずです。
この章では会社を潰さない税理士の条件とは何か、ということを考えていきたいと思います。
・どのような税理士を選べばいいのかわからない
・経営者が困ったときに、その税理士の本質が現れる
・税理士の本業はコンサルタントではない
・いい税理士は人脈を駆使して「会社を潰さない」
・自分と同世代、共通点のある税理士だと相談しやすい
・IPOなどを目指すなら税務調査の強い税理士事務所を選ぶ
・将来どういう会社にしたいのかを明確に税理士に伝える
・節税第一主義になると会社の業績が逆に悪くなることがある
・税理士から見る「顧問先を潰さない税理士」
第5章 カッコいい経営戦略よりも、まずは負けない経理戦略
経営そのものを登山に例えたら、経理は自分達が現状どこにいるのかという位置を正しく示すコンパスであり、そしてこれから前進するルートを決めやすいように判断材料を提供する役割ではないかと思います。
隊長である経営者が、少しでも安全、確実に前進するためにサポートをする、それが経理の経営に関する役割の一つではないかと思います。
・経営と経理
・平時と有事の経理の仕事
・誰もが持つべき経理的マインドセット
・財務戦略だけでは経営は維持できない
・経理の仕事・役割
「経理の仕事・役割」の項目では、以下の5項目を挙げています。
1) 経理処理
2) 社員対応、計数感覚の啓蒙
3) 経営者との連携
4) 外部対応
5) 不正の防止
この5項目のうち「経理処理」については、日次業務、月次業務、年次決算、その他の4区分に分け、以下のように実施項目を列挙しています。
(1) 日次業務
・売上請求書、支払請求書の管理
・振込処理
・入金処理
・社員の経費精算(仮払、仮払精算・出張精算含む)
・会計データへの仕訳入力
・現預金残高の確認
・資金繰り表の更新
・納付、記帳等
(2) 月次業務
・月次決算処理(減価償却費、前受金、前払費用振替等)
・原価計算処理(原価計算を行っている会社)
・在庫確認、処理(在庫のある会社)
・試算表作成
・会議資料作成
・滞留債権(入金期限を超えても未入金のもの)確認
・補助元帳確認
(3) 年次決算
・年間を通した会計データや在庫など現物の全ての再チェック
・年次決算処理、税金計算、各種申告書の作成(税理士等が行うことが多いが内製化している会社もある)
(4) その他
・監査対応(上場企業・上場準備企業)
・開示資料の作成(上場企業)
・借入手続き
・経理規程、社内ルールの策定
・税務調査対応など
第6章 経理が強い会社で潰れた会社を見たことがない
「経理が要らない」という言葉を信じて経理スタッフを補強しなかったとします。そして新型コロナウイルスのような有事が起きたとします。
経理関係のリモート作業の指示、事業計画書の見直し、銀行や税理士などとの調整・・・ 経理社員がいなかったら、これを全て経営者がやらなければいけません。
有事でない場合は、バックヤードの部門は軽視されがちですが、有事というのは、一定周期で起こるものです。
そもそもなぜ、会社の数字を早く正しく出す必要があるのでしょうか。
それは「経営者が他のどの会社よりも早く正しい数字を見て、1秒でも早く経営決断ができた方が有利だから」です。
・「経理が要らない」という言葉を信じる人はいるのか
・資金計画はリスクを最初に洗い出して作成する
・なぜ「やはり予算は必要」なのか、その答えは「節約」にあり
・数字が取れる人と取れない人が一瞬でわかる質問
・「経営処理」は売上先や支払先に感謝する時間
・強い経理は「100%失敗するもの」を精査できる
第7章 経理的視点による会社を潰さない新規事業や多角化の立て付け方
会社が売上を伸ばしたい時に考えるのは、既存の主力事業を伸ばすか、それとも新規事業を立ち上げるかということでしょう。
そこで会社が新規事業、多角化などを目指そうとなったとき、どのようにすれば最も安全で、主力事業の補完となる事業になるのでしょうか。
私は経理的観点から見ると、「共通のリスクを持たせない」事業を意識するといいのではないかと思います。
・事業内容が多種類あっても事業形態が同じだとリスクは増大する
・一強事業、一強商品は外的環境の突然の変化にはリスクが伴う
・いかに事業形態やリスクが「被らない」新規ビジネスを考えるか
・一つの事業内容しかなくても「新規事業的、多角化的」なことはできる
・「優秀な人材」は、有限である
・利益額、利益率から逆算して新規ビジネスを考える
・経理が企画100本で現場に新規事業案をばらまく
・既存事業は社員が行い、経営者は常に新規事業を開拓する
・儲かっている会社の開示資料を熟読する
「いかに事業形態やリスクが「被らない」新規ビジネスを考えるか」という項目では、以下の9つの切り口が提示されています。
1) 売上を優先するか利益を優先するか
2) ハイリスク・ハイリターンか、ローリスク・ローリターンか
3) リスクと予算の見通しが甘いとハイリスク・ローリターンのビジネスになる
4) ローリスク・ハイリターンは、ひたすら「種まき」
5) 対法人か対個人か
6) 直営方式か、委託・受託方式か
7) 100%自前か共同出資か
8) 売上に比例して費用がかかるか否か
9) 実店舗の有無
第8章 会社を潰さない「プロ社員」の採用、育て方
組織において、肥大化させた組織でない限りでは、基本的にはどの職種も大切ですし、大切だという形に持っていかないといけません。では誰が持っていくか、経営者のほかに各職種、各部署にいるべき「プロ社員」が必要になります。
プロ社員とは、仕事もできて、頼りにもなり、経営者にも進言でき、部下の手本にもなれる「エース社員」です。
そこで、基本となるいくつかの職種の「プロ」の方たちに「会社を潰さない職種別プロ社員」の要素を伺い、それらを計数的観点から分析してみました。
・強い会社は全部署が強い
・強い部署には「プロ社員」がいる
・会社を潰さない営業は、「攻めの営業」ができる
・会社を潰さない広報・PRは、一人でも多くの人を「味方につける」
・会社を潰さない秘書は、「経営学」を学んでいる
・会社を潰さないエンジニアは、「キャッシュフロー」を気にしている
・会社を潰さないデザイナーは、「自分が潰れない」術を知っている
・会社を潰さない商品開発担当者は、「素人の目」を忘れない
・会社を潰さない店長は、お客様と「同化」する
・各職種の超一流の会社員は、自分の職種を経営者の視座で見ている
・経営危機の時には経営参謀にトランスフォーム(変化)する社員
第9章 潰れない会社はリスク管理が強い
今、自分の会社、自分の仕事で、外的要因、内的要因でどういったリスクがあるかをすぐ書き出せるでしょうか。そしてそれがもし発生した場合、どれくらいのコストがかかるでしょうか。
そのようなことを、経営者から若手社員まで年に1度くらいは、洗い出しておくといいと思います。
・「潰れない会社」はネガティブな情報を無視しない
・リスクはコストを連れてくる
・リスクを想定できる3要素は、「経験」「想像」「計算力」
・売上を基準に、内的要因と外的要因それぞれにリスクを洗い出す
・もし御社のリスク管理部長がネットで誹謗中傷の書き込みをしていたら
・年俸が高すぎる職種のリスク
・リモートワークで拾えないリスクは「判断ミスのフォロー」
第10章 潰れない会社は、組織を経理的視座から見ている
私が見てきた潰れそうな会社は全て、社員同士の仲はすごく良かったのです。
ただ、社員達と経営者は意志の疎通がとれていませんでした。
したがって経営者と社員間のコミュニケーションが改善されると、数字も改善すると思いますが、社員同士の仲が良くて数字が伸びている会社というのは、あまり思い浮かびません。
・潰れる会社は社員同士の仲がすごくよかった
・潰れない会社は身内事に時間をかけない
・多くの経営者がついに「リモートでもある程度会社はまわせる」ことに気づいてしまった
・数字や生産性を下げる行動をする社員を指導できるか
・「給料が安い」は評価してほしい、「評価が低い」は給料がほしい
・数字を持っている人ほど、突然離脱する
・「経営者の独裁」は2パターンある
・利益が出ているからその会社の組織が手本にされる
・「雰囲気的職種」、「雰囲気的役職」を日本語に直してリストラを事前に防ぐ
第11章 経理的視座をスタートアップに活かす
ここ数年、経営者の方たちから一番多かった質問は「今までのように、自分で銀行から借入をして、コツコツ利益を溜めて経営をしたほうがいいのか、それとも、ベンチャーキャピタルや個人投資家などから出資をしてもらって一気に勝負をしたほうがいいのか、どちらがいいのでしょうかね」ということでした。
10 年、20 年コツコツ経営をされてきた方たちからすると、そういう手法があるなら自分は時間をもっと節約できたのかもしれない、と映るのかもしれません。
ただ、私はむしろ逆なのかなと思っています。
・「コツコツ」か「一気」か
・役員報酬を少なくしすぎると、万が一の時に対外的責任をとれない
・起業したら、外注や副業でもいいから経理担当をまず雇おう
・CFOが簿記を知っているかどうかで管理体制を調整する
・資金調達ゴールなのか、上場ゴールなのか、それより先も目指すのか
経理担当者としてどのように仕事するのか。また、経営者として経理担当者にどのように仕事してもらうのかだけでなく、あらゆる職種の人にとって仕事の質を高めるヒントが見つかる本と言えるでしょう。