「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」(前川修満)

よくわかる!キャッシュフロー計算

「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」(前川修満)

キャッシュフロー

キャッシュ・フロー計算書について学びたい人にまっさきにおススメしたい書籍があります。「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」(前川修満)です。

・書籍名:「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」
・著 者:前川 修満
・出版社:講談社現代新書

決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編

「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」をおススメする理由

本書をおススメする理由は大きくは2点あります。

まず、一つ目の理由は、平易な語り口で読みやすい点です。真面目な内容ながら、ユーモアを交えた平易な語り口で書かれており、読み物としても面白く読めます。

二つ目の理由は、キャッシュ・フロー計算書を会社経営を読み解く道具と捉えている点です。

本書の「はしがき」によると、著者の前川修満氏は「読み手のための会計学」を追求しているそうです。著者の会計に対するスタンスが「はしがき」で説明されていますので、以下に抜粋して引用します。

まず、著者は、初めてキャッシュ・フロー計算書を読もうとする人の読み方をこんなふうに説明しています。

“「いちばん上が税金等調整前当期純利益で、これが2,129億2,500万円か。次が減価償却費で、これが、2,583億1,900万円…」
と上の項目から順番にひとつずつ読んでみたりします。しかし、これでは、読んだ人が疲れるのが関の山で、この会社の経済状態は、けっしてつかめないのです。”(p.6)

初めて読む場合には、どこをどのように読めばいいかわかりませんから、自ずとそのような読み方になるでしょうね。著者は、それでは「疲れるのが関の山」だと言います。(このあたりもなんとなくユーモラスな表現です)

上の項目から順番にひとつずつ読む読み方で会社の経済状態をつかめないのだとしたら、どのような読み方をするべきなのでしょうか。

“全部、これを丹念に読む必要がありません。たったの二か所をまっさきに読むべきなのです。そのほかは使用末節といっても過言ではありません。”(p.7)

著者によると、まっさきに読むべき箇所は、なんと二か所だけなのだそうです。そして、その二か所を次のように説明しています。

“営業活動によるキャッシュ・フローの合計値と投資キャッシュ・フローの合計値です。じっさいのところ、この二か所がもっとも重要なポイントであり、そのほかのポイントは、必要に応じて、部分的に読むだけで十分なのです。”(p.7)

「二か所だけ」であれば、読み手は気がラクになりますね。

“逆に、キャッシュ・フロー計算書のなかにある、ほかのどの項目をいくら丹念に読んだとしても、この二か所を読めなければ、その会社の姿をとらえることは絶対にできません。
しかも、これらのポイントをとらえるためには、複雑な会計の知識は不要なのです。”(p.10)

“真面目な人ほど、キャッシュ・フロー計算書のしくみを完全に理解しようと努力し、前述した二か所の重要ポイントを軽視する必要があります。それどころか、読んでも読まなくても大差のないような箇所に注目し、そこをしつこく質問してくるのです。”(p.10)

“それはちょうど、はじめて自動販売機でジュースを買う人が、どのようにジュースが出てくるのかというしくみを、お金を入れる前に知っておこうとすることと同じようなものです。目的はジュースを買うことなのだから、さっさと小銭を機械に入れて、ほしいジュースのボタンを押せばいいのにと思うのですが、なかなかボタンを押さずに、メカのしくみをしつこく質問するようなものです。”(p.10)

“このような質問をしつこくしてくる人が陥っているワナは、自分が自動販売機の利用者なのか制作者なのかを認識しておらず、やみくもに専門知識を追いかけることにあります。”(p.10)

“キャッシュ・フロー計算書にかぎらず、決算書というのは、全部わかったうえで読む必要はありません。本書をお読みくださる読者のみなさんも、この点をふまえて、気楽に、キャッシュ・フロー計算書をお読みくださることを希望します。”(p.13)

これらの文章から、本書が、キャッシュ・フロー計算書を会計的に勉強しようという人向けに書かれた本ではなく、会社の経営状態の把握などの道具として、キャッシュ・フロー計算書を使いたい人向けに書かれた本であることが理解できます。

「決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編」の構成

次に全体構成を知るために目次を確認してみましょう。

目次
はしがき
・お金の流れは絶えずして
・真面目で有能な人が陥るワナ
・なぜ、現代社会ではキャッシュ・フロー計算書が必要なのか

序章 デフレの時代にこそ
・高級住宅街に住む元サラリーマンの述懐
・昭和時代には有効だった不動産投資
・「勝利の方程式」の終焉
・夕張市の教訓
・キャッシュ・フロー計算書は損益計算書とどうちがうか

第一章 キャッシュ・フロー計算書を手っ取り早く読む
・キャッシュの範囲
・営業CFのプラスは投資CFのマイナスを上回ることが肝要
・フリー・キャッシュ・フローとは
・いくら名門企業であっても
・個人も会社も基本は同じ
・ここまでのおさらい

第二章 投資活動を中心に企業の意思をさぐる
・まず、どこを見ればよいか
・順番に読んでも疲れるだけ
・まずは有利子負債の返済
・リニアモーターカーはいつできる?
・<東芝>の経営陣にしてみれば
・くわしく知りたくなったので……
・アジアのチャンピオンに対抗した会社とそうでない会社
・アジアのトップ企業の非情なまでの投資戦略
・財務CFをさらっと読む

第三章 営業CFは語る
・営業CFの表記の特徴
・損益計算書の利益と営業CFに大きなギャップがあるときは要注意
・損益計算書が粉飾されてもキャッシュ・フロー計算書は正直

第四章 あなたが債権者だったなら
・減価償却費の扱い
・金融機関が「貸し剥がし」に出るとき
・直接法と間接法

第五章 増収増益の果てに倒産した会社とそれに融資をした銀行のはなし
・Q社の場合
・会社の内情を読み取る
・甘い融資
・キャッシュ・フロー計算書は歴史の浅い計算書類
・金融機関の横並び意識
・黒字倒産とは損益計算書の用語
・Q社の投資CFの内容
・投資直前まで利益配当をしていた会社
・まさにザル法
・キャッシュ・フロー計算書の黎明期の悲劇

第六章 外食産業のフォール・アンド・ライズ
・<王将>社長の発言
・大東社長就任まえの<王将>の決算書
・投資CFがプラスになった理由
・なぜ<王将>は借金過多になってしまったのか
・キャッシュ・フロー計算書を作ってわかったこと
・不動産投資をする経営者に共通の心理
・その後の<王将>の苦悩
・再度、テレビで観た研修風景
・「慢心」への戒め
・このデフレの時代には

あとがき

目次を概観してわかることは以下の2点です。

1.経済構造の転換を踏まえて、キャッシュ・フロー計算書の必要性について書かれていること。
2.実際の企業の事例をもとにキャッシュ・フロー計算書の読み方を解説していること。

上記のうち、実際の企業の事例をもとにキャッシュ・フロー計算書の読み方を解説していることについては、特に趣旨の解説は不要でしょう。

「経済構造の転換を踏まえて、キャッシュ・フロー計算書の必要性について書かれている」とはどのような意味でしょうか。

デフレの時代にキャッシュ・フロー計算書が重要な理由

「序章 デフレの時代にこそ」の中で、高級住宅街に住む元サラリーマン」の話が紹介されています。

その方は、1944年に1,500円で売られていた世田谷区の土地を購入したところ、50年後の1992年には、1億円を超える値段(10万倍)に値上がりしていたとのことです。

住宅

※写真はイメージです。

なんともスケールの大きな話ですね・・・。(羨ましい・・・)
このエピソードについて著者はこのように解説しています。

“インフレだと、時の経過とともにモノの価値が上がり、お金の価値が下がります。
昭和時代を生きた多くの人たちの資産形成はこれと似たようなものでした。要するに、借金をして不動産を買ったのです。時の経過とともに、不動産の価値は上がり、借金の負担が軽くなるのです。”(p.26)

“戦後、日本は大きなインフレの時代を経験しました。
このような時代においては、なるべきお金をもたずに、モノに換えた方がトクだったのです。”(p.28)

インフレの時代に、借金をして不動産を購入すると、インフレによって、借金負担はどんどん小さくなっていく。土地の価格はどんどん大きくなっていく。借金をして不動産投資をすることで富を築くことができたのです。

ところが、この「勝利の方程式」はデフレ時代で終焉を迎えてしまいます。

“デフレの時代は、時の経過とともに、実物資産(モノ)の価値が下がり、お金の価値が上がってゆきます。ですから、デフレの時代のビジネスでは、インフレ時代とは逆の経営行動をとる必要があります。
具体的には、借金を過多にしないことと、「モノ」をもちすぎないことを肝に銘じておくことが大切です。さらに、事業活動によって手持ちの「お金」を増やしてゆくことが肝要です。”(p.30)

“インフレの時代には「お金」を増やしても、その「お金」は、時の経過とともに、その価値を目減りさせてゆきました。ですから、「お金」を増やしても無意味でした。むしろ、値上がりしそうなモノを保有することが大切でした。
しかし、デフレの時代においては、経営資源の主役が「モノ」ではなく、「お金」になります。事業活動で利益を出せば、会社の資産は増えますが、そのときに「モノ」を増やすのではなく「お金」を増やすことができるかどうかが、興亡のカギになります。”(p.30~32)

“デフレの時代には、いたずらに「モノ」を増やしても、「モノ」は時の経過とともに価値を目減りさせてゆきますので、経営者は「モノ」よりも、「お金」を増やす経営を志向すべきです。
そこで、純粋に「お金」だけの増減を表示した書類の作成が求められるようになり、このニーズに応えるために作成されるようになった書類がキャッシュ・フロー計算書です。”(p.36)

“いまどきのデフレの時代には、キャッシュ・フロー計算書は、きわめて利用価値の高い計算書類です。”(p.37)

デフレであることが、キャッシュ・フロー計算書の必要性を高めているという指摘が興味深かったです。

著者は序章の冒頭で、

“人間が豊かに暮らしてゆくには、ちゃんとした経済感覚をもつことが大切なのはいうまでもありません。しかし、どのような経済感覚をもつのがよいのかは、時代によってまったく異なります。”(p.22)

と説明しています。

デフレが長く続く現在の状況では、現在がデフレであることをつい忘れそうになりますが、そうした一歩引いた高所からの視点を忘れてはいけない、また、どんな命題であっても判断の前提条件を明確にすることが重要と改めて再認識できた本でした。