貢献利益とは?限界利益との違いは?わかりやすく解説

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貢献利益とは?限界利益との違いは?わかりやすく解説

貢献利益とは

貢献利益とは何でしょうか。どのような時に使うのでしょうか。
わかりやすく解説します。

1.業績向上のために必要な視点とは

会社の業績をもっと伸ばしたい。あるいは、赤字企業を黒字化したい。
このようなとき、どのような観点で経営数字を分析すればいいでしょうか?
いろいろあると思いますが、必ず見ていただきたいのが、部門別損益です。

(1) 部門別損益とは

部門別損益とは、部門別の売上、費用、利益の数字です。

ここでいう、部門とは会社の組織上の部門に限りません。事業別、商品カテゴリー別、販売ルート別など、取引の特徴による売上分類のことです。

部門の例としては以下のような項目があります。

・事業別
・商品カテゴリー別
・販売ルート別(直接販売・代理店販売、卸部門・小売部門など)
・顧客の属性別(法人顧客・個人顧客など)
・顧客の業種別
・店舗別

(2) 部門別損益を確認する目的は

部門別損益を確認する目的は何でしょうか。

部門別損益を確認する目的は、どの部門が利益を稼いでいて、どの部門が利益を稼いでいないかを把握することです。

どの部門が利益を稼いでいて、どの部門が利益を稼いでいないかがわかれば、どこに経営資源を投入すればいいかが判断できます。

仮に赤字の部門が見つかった場合、その部門を中止できれば、それだけで全体の業績は改善します。

また、赤字部門に従事していた人員を黒字部門に振り分けることで、黒字部門のいっそうの業績向上も期待できるかもしれません。

さらに、利益を稼いでいる部門を把握することは、
・自社の強みが何であるか
・どのマーケットが伸びているのか
の把握にもつながります。

強みと事業機会の把握によって、的確な経営戦略の立案も可能になります。

部門別損益

2.部門別損益の計算方法

では、部門別損益はどのように計算すればいいのでしょうか。

(1) 新規事業を中止すべきか否か

ある製造業の会社を例に考えます。

この会社は、自社製品を開発して、インターネットで販売する新規事業を始めることにしました。新規売事業を立ち上げて数年後にこの会社が部門別損益を確認したところ、以下の数字でした。

勘定科目 全社 既存事業 新規事業
売上高 12,000 9,800 2,200
売上原価 7,786 6,632 1,154
売上総利益 4,214 3,168 1,046
販売費及び一般管理費 4,070 3,014 1,056
営業利益 144 154 -10

既存事業の営業利益が154百万円。新規事業はなんと赤字です。10百万円の営業損失を計上しています。

この数字を見た経営者は、新規事業を中止したら、10百万円の営業損失がなくなるので、全社の営業利益は、154百万円になると考えました。

この判断は正しいでしょうか。正しくないでしょうか。

(2) 部門別損益の内訳を確認する

この会社の経営者が、部門別損益の内訳を詳しく確認したところ、以下のようになっていました。

勘定科目 全社 既存事業 新規事業 費用の発生状況
売上高 12,000 9,800 2,200
売上原価 7,786 6,632 1,154
 原材料費 3,576 3,136 440
 外注費 980 880 100
 労務費 2,280 1840 440 工場の製造員は両方の製造に関与
 製造間接費 950 776 174 共通費用
売上総利益 4,214 3,168 1,046
販売費及び一般管理費 4,070 3,014 1,056
 人件費 1,320 1,078 242 管理者、販売員とも両方に関与
 家賃 1,440 1,176 264 共通費用
 荷造運賃 170 90 80 事業ごとに区分して管理
 広告宣伝費 180 180 新規事業用
 賃借料 30 30 新規事業用(サーバ使用料)
 販売手数料 110 110 新規事業用
 その他経費 820 670 150 共通費用
営業利益 144 154 -10

費用の発生状況としては、荷造運賃のように、事業ごとに区分して管理できている費用もあれば、労務費、人件費、家賃のようにどちらかに分けることができない費用もあることがわかりました。

さらに分けることができない場合、売上比で既存事業と新規事業に費用を按分していることがわかりました。

(3) 新規事業を中止した場合のシミュレーションをしてみる

では、この会社が新規事業を中止したら、どうなるのでしょうか。

まず、新規事業の売上がなくなります。次に、新規事業の売上を作るための費用もなくなります。具体的には、原材料費、外注費、荷造運賃、広告宣伝費、賃借料、販売手数料です。

ところが、既存事業と新規事業で按分していた費用はなくなりません。具体的には、労務費、製造間接費、人件費、家賃、その他経費です。

新規事業の売上と費用がなくなる一方で、共通固定費はなくならないので、この会社は赤字に転落してしまうのです。

勘定科目 全社 既存事業 新規事業 費用の発生状況
売上高 9,800 9,800
売上原価 7,246 6,632
 原材料費 3,136 3,136
 外注費 880 880
 労務費 2,280 1840 440 工場の製造員は両方の製造に関与
 製造間接費 950 776 174 共通費用
売上総利益 2,554 3,168
販売費及び一般管理費 3,670 3,014
 人件費 1,320 1,078 242 管理者、販売員とも両方に関与
 家賃 1,440 1,176 264 共通費用
 荷造運賃 90 90 事業ごとに区分して管理
 広告宣伝費 新規事業用
 賃借料 新規事業用(サーバ使用料)
 販売手数料 新規事業用
 その他経費 820 670 150 共通費用
営業利益 -1,116 154

新規事業を中止した場合は、なんと、1,116百万円もの赤字です。

最初に見た部門別損益の数字とは、違った結果になることがわかりました。

3.貢献利益とは

では、この会社はどのように部門別損益を計算すればよかったのでしょうか。ここで使っていただきたいのが貢献利益です。

貢献利益は、以下の計算式で計算されます。

貢献利益=(売上-変動費)-部門固定費
    = 限界利益 -  部門固定費

先ほどの製造業の会社の例で確認してみましょう。

まず、売上原価、販売費及び一般管理費ともに、費用明細をもとに変動費、固定費に区分します。さらに固定費を部門固定費、共通固定費に分けます。

部門固定費とは、部門に直接紐づけられる固定費であって、その部門の事業を中止すれば発生しなくなる費用です。区分できない固定費や共通的な固定費を共通固定費としておきます。

このように損益計算書の数字を変動損益計算の形に組み替えたものが下表です。

科目 全社 既存事業 新規事業
売上高 12,000 9,800 2,200
変動費 4,726 4,106 620
 原材料費 3,576 3,136 440
 外注費 980 880 100
 荷造運賃 170 90 80
限界利益 7,274 5,694 1,580
部門固定費 320 320
 広告宣伝費 180 180
 賃借料 30 30
 販売手数料 110 110
貢献利益 6,954 5,694 1,260
貢献利益構成比 100% 82% 18%

貢献利益を計算すると、既存事業の貢献利益は、5,694、新規事業の貢献利益は、1,260となります。新規事業の貢献利益が、全社の貢献利益の18%を占めることが確認できます。

新規事業を中止すると、全社の貢献利益の18%が失われてしまうのです。赤字になるはずですね。

つまり、新規事業を中止するべきか否かの答えは「貢献利益を確認しなければわからない」です。

新規事業を中止するべきか否か

貢献利益の計算では、共通固定費は按分しません。理由は、その部門を中止しても、その費用がなくなるわけではないことと、費用の按分が人間の判断によって左右されるためです。

ここでは、固定費を部門固定費、共通固定費に分けました。部門固定費のことを個別固定費という場合もあります。意味するところは同じです。

直接固定費、間接固定費という用語を使うこともあるようです。用語については、管理会計の話であるので、自社がわかりやすい用語を使用するということで問題ありません。

また、部門別損益や店舗別損益の数字を業績評価に使う場合には、固定費を管理可能費、管理不能費に分類する場合もあります。

管理可能費とは、その部門でコントロール可能は費用、たとえば、アルバイトの人件費などです。管理不能費とは、本社から按分される本社費などです。

4.貢献利益と限界利益の違い

では、貢献利益と限界利益の違いは何でしょうか。貢献利益を求める式、限界利益を求める式を改めて確認します。

・限界利益を求める式:限界利益=売上-変動費
・貢献利益を求める式:貢献利益=限界利益-部門固定費

売上から変動費を引いて計算する利益が限界利益です。変動費とは、売上の増減と比例して増減する費用です。売上がゼロの時は、変動費もゼロになります。

固定費とは、売上の増減に直接的に影響を受けない費用です。「固定」という言葉から、毎月、一定の費用を連想するかもしれませんが、家賃のように毎月、一定である必要はありません。

たとえば、広告宣伝費も固定費です。

広告宣伝費をかければ、売上が伸びる可能性があるので、変動費のような気もするかもしれませんが、広告宣伝費をかけたのに、売上はゼロである場合もあります。直接的に連動していないので、広告宣伝費は、固定費です。

費用を、変動費と固定費に分ける理由は、売上の増減時のシミュレーションを行いやすい。つまり経営判断に使いやすいという理由です。

たとえば、先ほどの製造業の会社が新規設備を導入したとします。この設備を使うと、既存事業でも、新規事業でも、2,000の売上増が可能だとします。

既存事業の製造に使うのか、新規事業の製造に使うのか。どちらが有利でしょうか。

話をシンプルにするために、減価償却費は考慮しないものとします。(実際には、部門固定費の増減も考慮します)

このときのポイントは、変動費です。理由は、変動費率が大きい場合、売上を伸ばしても、変動費もそれに比例して増えるからです。

実際に計算した数字が下表です。

科目 既存事業の売上を2,000UPする場合 新規事業の売上を2,000UPする場合
全社 既存事業 新規事業 全社 既存事業 新規事業
売上高 14,000 11,800 2,200 14,000 9,800 4,200
変動費 5,564 4,944 620 5,290 4,106 1,184
 原材料費 4,216 3,776 440 3,976 3,136 840
 外注費 1,160 1,060 100 1,071 880 191
 荷造運賃 188 108 80 243 90 153
限界利益 8,436 6,856 1,580 8,710 5,694 3,016
部門固定費 320 320 320 320
 広告宣伝費 180 180 180 180
 賃借料 30 30 30 30
 販売手数料 110 110 110 110
貢献利益 8,116 6,856 1,260 8,390 5,694 2,696

計算すると、新規設備を既存事業の製造に使う場合、全社の貢献利益は、8,116になります。新規事業に使う場合、全社の貢献利益は、8,390になります。

したがって、新規設備を新規事業に使う方が有利という結論になります。限界利益、貢献利益という考え方を知っておくことで、このような経営判断が行えるということです。

実際にはもちろん需要はあるのかなど、マーケットの動向なども見極める必要があります。

3.貢献利益、限界利益、粗利益まとめ

貢献利益、限界利益とも管理会計の用語です。管理会計の目的は、経営数字を経営判断に活用することです。

そのために費用をその会社の実態に応じて、変動費、固定費、さらには部門固定費、共通固定費などに分けて考えます。

変動費は、売上に連動する費用でした。連動して変動するので、経営数字のシミュレーションなどの場合、変動費については、額よりも率に注目する必要があります。

反対に、固定費は、売上と連動しない費用なので、額の把握が重要です。

限界利益は、売上から変動費を引いた金額でした。変動費は率に注目する必要があると説明しました。変動費率と限界利益率は、裏表の関係なので、限界利益率は高いことが重要です。

限界利益率=1-変動費率

限界利益のことを粗利益、または粗利ということもあります。

貢献利益は、限界利益から部門固定費を引いた金額です。

A部門 B部門


変動費
限界
利益
部門固定費
貢献利益


変動費
限界
利益
部門固定費
貢献利益
営業利益=(A部門の貢献利益+B部門の貢献利益)- 共通固定費

貢献利益率は、貢献利益を売上で割ることで計算は可能ですが、率を知ることの意味があまりないことから、あまり使用しないかもしれませんね。

貢献利益率=貢献利益÷売上高×100

なお、貢献利益は、その部門が全社利益にどれくらい貢献しているかという観点での利益です。部門別損益を前提とした利益です。全社全体で考える場合には、貢献利益という考え方は必要ありません。

その理由は、部門固定費、共通固定費という区分がないためです。全社で考える場合には、売上から変動費、固定費を引くと営業利益になります。

売上高 変動費
限界利益 固定費
営業利益

総括として、限界利益、貢献利益、粗利益または粗利、売上総利益、営業利益について、下表にまとめましたので、ご確認ください。

区分 用途 用語 意味
管理会計 経営判断のための会計 限界利益 売上-変動費
貢献利益 売上-(変動費+部門固定費)
粗利益・粗利 限界利益のこと(売上総利益を指す場合もあり)
財務会計 財務諸表のための会計 売上総利益 売上-売上原価
営業利益 売上-(売上原価+販売費及び一般管理費)

粗利益または粗利について補足です。粗利は限界利益を指す場合と、売上総利益を指す場合があります。

製造業、建設業などでは、売上原価に労務費などの固定費が含まれるので、限界利益と売上総利益が異なる数字になります。小売業、卸売業などでは、売上原価がほぼ変動費である場合が多いことから、限界利益と売上総利益は近しい数字になります。

・製造業・建設業などの場合:限界利益 > 売上総利益
・卸売業・小売業などの場合:限界利益 ≒ 売上総利益

また、管理会計は、内部の経営判断のための会計、財務会計は、対外的に発表する財務諸表作成のための会計と覚えておきましょう。