金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」とは

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金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」とは

指針

金融庁は、1998年に設置された国の機関です。金融機能の安定確保、預金者、保険契約者、有価証券の投資者などの保護、金融の円滑をその目的としています。金融機関の監督省庁でもあります。

金融庁が金融機関をどのような指針で検査、監督するかは監督指針に示されています。金融機関向けの監督指針としては以下等があります。

・主要行等向けの総合的な監督指針
・中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針

「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」にはどんな視点が示されているのか、主要行向けとどこが違うのかについて解説します。

1. 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」とは

金融庁の「総合的な監督指針」とは、金融検査・監督を担う職員向けの手引書として、基本的な考え方や、監督上の評価項目等が記載された文書です。

「主要行等向けの総合的な監督指針」、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などがあります。

このうち「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合を対象としています。

2. 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」策定の趣旨

「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」策定の趣旨としては、本指針で以下のように説明されています。

(1) 中小・地域金融機関のビジネスモデル

中小・地域金融機関のビジネスモデルの特徴として以下があります。

・営業地域が限定されており、特定の地域、業種に密着した営業展開を行っている
・中小企業又は個人を主要な融資対象としている

このような特性から、 中小・地域金融機関は、リレーションシップバンキングを行うビジネスモデルを展開しています。

リレーションシップバンキングとは、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行う金融サービスのスタイルを指します。

つまり、リレーションシップバンキングでは、中小企業や地域経済の実態に根差した情報が活用されることで、地域の中小企業への金融の円滑、貸し手・借り手双方の健全性の確保が図られます。

「① 中小・地域金融機関の業務については、
• 営業地域が限定されており、特定の地域、業種に密着した営業展開を行っている
• 中小企業又は個人を主要な融資対象としている
等の基本的特性を有しており、リレーションシップバンキング、すなわち、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うビジネスモデルを展開している。

② 本来、このようなビジネスモデルは、中小企業や地域経済の実態に根差した情報が活用されることで、地域の中小企業への金融の円滑、貸し手・借り手双方の健全性の確保が図られるものであり、これにより、中小企業の再生と地域経済の活性化に果たす役割は大きいと考えられる。」
(「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」から引用)

(2) 中小・地域金融機関の現状の問題点や留意点

上記の通り、本指針は、リレーションシップバンキングが中小企業の再生と地域経済の活性化に果たす役割は大きいとしています。

一方、現時点での実態としては、経済環境が厳しいことから、金融機関が中小企業や地域経済から期待される役割を果たすため、取引先や地域への過大なコミットメントコストを負担する場合があります。

そうした場合、リレーションシップバンキングがかえって収益力や健全性の低下といった状況を招くことになります。

また、中小・地域金融機関、中でも非上場行や協同組織金融機関は、市場による経営チェックが行われにくいため、相対的にガバナンスが弱いというリスク要因があります。

このような状況を踏まえると、中小・地域金融機関自らの取組みに加え、経営に対する外部からの規律付けを十分に図っていく必要があると言えます。

金融検査、監督はこうした外部からの規律付けの役割を果たすものです。

なお、国内市場の縮小や世界的な低金利環境の継続、技術革新を通じた新たな競争等により、金融機関の経営環境は厳しさを増しています。

そのため、各金融機関が自らの創意工夫により、持続可能なビジネスモデルを構築し将来にわたる健全性を確保することの必要性が高まっていることも本指針で指摘されています。

3.「主要行等向けの総合的な監督指針」との比較

「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を「主要行等向けの総合的な監督指針」との比較で概観すると構成や評価項目等で違いがあることがわかります。

(1) 構成の比較

項目 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 主要行等向けの総合的な監督指針
主な対象 地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行、ゆうちょ銀行
基本的考え方 I-1 金融検査・監督に関する基本的考え方
I-2 中小・地域金融機関向け監督指針策定の趣旨
I-3 中小・地域金融機関向け監督指針の位置付け
I-4 他の監督指針等との関係
I-1 金融検査・監督に関する基本的考え方
I-2 監督指針を巡るこれまでの経緯
I-3 主要行等向け監督指針の位置付け
監督上の評価項目 II 銀行監督上の評価項目 III 主要行等監督上の評価項目
事務処理上の留意点 III 銀行の検査・監督に係る事務処理上の留意点 II 主要行等の検査・監督に係る事務処理上の留意点
その他 IV 銀行代理業
V 協同組織金融機関
IV  銀行持株会社
V   銀行グループに対する連結ベースの監督等
VI  外国銀行支店の監督
VII  銀行業への新規参入の取扱い
VIII 銀行代理業
IX  電子決済等代行業

(2) 評価項目の比較

具体的な評価項目としては、それぞれ以下が挙げられています。

項目 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 主要行等向けの総合的な監督指針
監督上の評価項目 II-1 経営管理(ガバナンス)
II-2 財務の健全性等
II-3 業務の適切性
II-4 金融仲介機能の発揮
II-5 地域密着型金融の推進
II-6 将来の成長可能性を重視した融資等に向けた取組み
II-7 消費者向け貸付けを行う際の留意点
II-8 障がい者等に配慮した金融サービスの提供
II-9 企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等
II-10 「経営者保証に関するガイドライン」の融資慣行としての浸透・定着等
II-11 経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等
II-12 秩序ある処理等の円滑な実施の確保

III-1 経営管理(ガバナンス)
III-2 財務の健全性等
III-3 業務の適切性等
III-4 金融仲介機能の発揮
III-5 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮
III-6 利用者ニーズに応じた多様で良質な金融商品・サービスの提供
III-7 企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等
III-8 業務継続体制(BCM)
III-9 「経営者保証に関するガイドライン」の融資慣行としての浸透・定着等
III-10 経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等
III-11 秩序ある処理等の円滑な実施の確保

上記のうち「4 金融仲介機能の発揮」などは、主要行指針も中小・地域金融機関指針もほぼ同じ内容です。相違の見られる「5 地域密着型金融の推進」、「6 将来の成長可能性を重視した融資等に向けた取組み」の小項目を比較した表が下表です。

項目 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 主要行等向けの総合的な監督指針
監督上の評価項目 II-5 地域密着型金融の推進

II-5-1 経緯
II-5-2 基本的考え方
(地域密着型金融の目指すべき方向)

監督上の評価項目 II-5-2-1 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮
(1) 日常的・継続的な関係強化と経営の目標や課題の把握・分析

① 日常的・継続的な関係強化を通じた経営の目標や課題の把握・分析とライフステージ等の見極め
② 顧客企業による経営の目標や課題の認識・主体的な取組みの促進

(2) 最適なソリューションの提案

(3) 経営改善・事業再生等の支援が必要な顧客企業に対する留意点

① 経営再建計画の策定支援
② 新規の信用供与
③ 事業再生支援に関する主体的・継続的な関与

(4) 顧客企業等との協働によるソリューションの実行及び進捗状況の管理

II-5-2-2 地域の面的再生への積極的な参画
II-5-3 主な着眼点
II-5-4 監督手法・対応

III-5 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮
III-5-1 基本的考え方
(1) 経営課題の把握・分析等

① 経営の目標や課題の把握・分析とライフステージ等の見極め
② 顧客企業による経営の目標や課題の認識・主体的な取組みの促進

(2) 最適なソリューションの提案

(3) 経営改善・事業再生等の支援が必要な顧客企業に対する留意点

① 経営再建計画の策定支援
② 新規の信用供与
③ 事業再生支援に関する主体的・継続的な関与

(4) 顧客企業等との協働によるソリューションの実行及び進捗状況の管理

III -5-2 主な着眼点
III -5-3 監督手法・対応

監督上の評価項目 II-6 将来の成長可能性を重視した融資等に向けた取組み

II-6-1 意義
II-6-2 成長可能性を重視した融資等の取組みに係る基本的考え方
II-6-3 監督手法・対応

(3) 地域密着型金融の目指すべき方向

なお、上記項目の「地域密着型金融の目指すべき方向」の本文を以下に抜粋して引用します。

「IIー5-2 基本的考え方(地域密着型金融の目指すべき方向)

(1) 地域経済の活性化や健全な発展のためには、地域の中小企業等が事業拡大や経営改善等を通じて経済活動を活性化していくとともに、地域金融機関を含めた地域の関係者が連携・協力しながら中小企業等の経営努力を積極的に支援していくことが重要である。

なかでも、地域の情報ネットワークの要であり、人材やノウハウを有する地域金融機関においては、資金供給者としての役割にとどまらず、地域の中小企業等に対する経営支援や地域経済の活性化に積極的に貢献していくことが強く期待されている。

(2) このため、地域金融機関は、経営戦略や経営計画等の中で、地域密着型金融の推進をビジネスモデルの一つとして明確に位置づけ、自らの規模や特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえて自主性・創造性を発揮しつつ、以下に示す

「顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮」、
「地域の面的再生への積極的な参画」、
「地域や利用者に対する積極的な情報発信」

の取組みを中長期的な視点に立って組織全体として継続的に推進することにより、顧客基盤の維持・拡大、収益力や財務の健全性の向上につなげていくことが重要である。

(3) また、地域金融機関が、地域密着型金融を組織全体として継続的に推進していくためには、経営陣が主導性を十分に発揮して、本部による営業店支援、外部専門家や外部機関等との連携、職員のモチベーション(動機付け)の向上に資する評価、専門的な人材の育成やノウハウの蓄積といった推進態勢の整備・充実を図っていくことが重要である。」

(「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」から引用)

中小・地域金融機関は、主要行よりも単に規模が小さいだけではなく、地域金融において重要な役割を担っていると認識されていることが読み取れます。

(4) 顧客企業のライフステージ別の最適なソリューションの提案

顧客企業のライフステージ別の最適なソリューションの提案としては以下などが挙げられています。

ライフステージ 金融機関が提案するソリューション 外部専門家・外部機関等
本業支援 金融支援
創業・新事業開拓 ・技術力・販売力や経営者の資質等を踏まえて新事業の価値を見極める。 ・公的助成制度の紹介やファンドの活用を含め、事業立上げ時の資金需要に対応。 公的機関/地方公共団体の補助金や制度融資の紹介
成長段階・更なる飛躍 ・ビジネスマッチングや技術開発支援により、新たな販路の獲得等を支援。
・海外進出など新たな事業展開に向けて情報の提供や助言を実施。
・事業拡大のための資金需要に対応。その際、事業価値を見極める融資手法も活用。 他機関・団体との連携によるビジネスマッチング/産学官連携による技術開発支援
経営改善が必要・自助努力により経営改善が見込まれる ・ビジネスマッチングや技術開発支援により新たな販路の獲得等を支援。
・貸付けの条件の変更等を含む経営再建計画の策定支援。
・定量的な経営再建計画の策定が困難な場合には、実効性のある課題解決の方向性を提案。
・貸付けの条件の変更等。
・新規の信用供与により、業況や財務等の改善、債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、新規の信用を供与。
その際、事業価値を見極める融資手法も活用。
中小企業診断士、税理士、経営指導員等/他の金融機関、信用保証協会等との連携など
事業承継 ・M&Aのマッチング支援、相続対策支援等を実施。 ・MBOやEBO等を実施する際の株式買取資金などの事業承継時の資金需要に対応。 M&A支援会社/税理士等/信託業者、行政書士、弁護士

なお、指針全文については以下の金融庁サイトをご参照ください。

■ 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 令和4年8月」
■ 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針 令和4年8月」

2004年5月 「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」策定
2005年10月 「主要行等向けの総合的な監督指針」策定
2018年6月 「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」策定
2019年12月18日 「金融検査マニュアル」廃止。監督指針改正
【参考】金融検査・監督に関する基本的考え方

・金融検査・監督の目的は、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することにある。

・金融機関の検査・監督に携わる職員は、基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

 ・国民からの負託と職務倫理の保持
 ・綱紀・品位、秘密の保持
 ・大局的かつ中長期的な視点
 ・公正性・公平性
 ・金融機関の自主的努力の尊重
 ・自己研鑽
 ・適切かつ密接な組織内外の関係者との連携