黒字倒産という言葉を新聞などで見かけることがあります。
黒字倒産はなぜ起きるのでしょうか。
黒字倒産を避けるためにどのような点に注意する必要があるのでしょうか。
わかりやすく解説します。
Contents
1.黒字倒産とは
黒字倒産とは、黒字(P/L上で利益が出ている)にも関わらず、倒産することを言います。
倒産とは、企業が経済活動を続けることが困難な状態を言います。もっとわかりやすく言うと、支払義務があるお金(債務)を支払うことができない状態のことです。
経済活動とは平たく言うとお金を循環させる行為です。ですので、その循環を途切れさせてしまう状態(支払えない状態)になると、倒産したということになります。
つまり黒字倒産とは、「黒字」という損益計算書(P/L)に表された状態と、「キャッシュの不足」という貸借対照表(B/S)上の問題が同時に起きている状態です。
黒字というと、一般には、業績がよい状態とみなされます。一方で、黒字であるだけでは、企業経営を続けていけない可能性があるということです。
2.黒字倒産が起きる理由は
では、なぜ黒字倒産は起きるのでしょうか。
(1) 利益と収支は同じではない
黒字倒産が起きる理由を一言で説明するとしたら、利益と収支は異なるということです。
利益 ≠ 収支
利益とは、収益と費用の差です。収支とは収入と支出の差です。
収益と収入、費用と支出は、似た概念であり、同じものだと勘違いされがちです。実際には、違う概念です。
そして、まさにその違いが原因で黒字倒産が起こります。では、具体的にどのようなときに黒字倒産が起きるのでしょうか。
(2) 掛け取引
掛け取引とは、いわゆる「ツケ」での取引のことです。与信取引とも言います。
法人間の取引では商習慣として、掛け取引(与信取引)が一般的です。
その場合、商品やサービスを提供した時点で売上(収益)は計上されるものの、「売掛金」としてツケの状態となり、その時点でお金の入金はありません。
つまり、その時点では収益は上がっていますが、収入は0の状態です。
後日、提供した商品やサービスの1か月分などをまとめて請求し、そのさらに1か月後などにやっと入金になります。この時点で、収入が計上されることになります。
商品やサービスの提供を受ける場合も同じで、後日まとめて支払いを行うことが一般的です。
このように、収益と費用が先に計上され、収入と支出は後から起こります。
そして、たとえば入金は2か月後、支払いは1か月後というような取引条件になっている場合、入金される前に支払いをしなければなりません。
この場合、収益から費用を差し引いて、計算上、利益が出ていたとしても、収支が1か月後の時点でマイナスになってしまうため、黒字倒産が起きる可能性があります。
(3) 在庫
掛け取引以外の黒字倒産の要因として、在庫の問題があります。卸売業の例で考えてみます。
商品を仕入れて、その日のうちに得意先に納品し売上が上がったとします。この場合は、在庫の増加はありません。
実際には、仕入れをした1か月後に売上が上がるなど仕入のタイミングと納品・売上のタイミングはずれることが一般的です。仕入後、納品・売上までは、仕入れた商品は在庫となっています。
仕入先からすれば、在庫になっているかどうかは関係なく、納品済であることに変わりはありません。そのため、仕入れたその月に請求されることになります。
ただ、売上が1か月後の場合、次月にならないと自社は請求ができません。このように自社は仕入先から請求されるけれど、自社から得意先への請求はタイミングとして遅くなるという場合がほとんどです。
つまり、在庫の量が増えれば増えるほど支払いは増加し、在庫の期間が長くなるほど売上と入金が遅れるということです。
では、在庫が増えたとき、利益にはどのような影響があるのでしょうか。
結論から言うと、在庫の増加は利益には影響しません。在庫品という資産が増加するだけです。
このときに、在庫増加にかかわらずに黒字を維持できたとしても、実際には、お金が在庫品という資産に入れ替わり、お金が減っています。
お金の減少は、支払能力の低下につながるので、在庫の増加によって、倒産のリスクが高まる原因となります。
(4) 借入金返済
掛け取引、在庫増加以外にも、黒字倒産の原因があります。借入金の返済負担です。
会社のキャッシュフローを単純化して考えると、当期純利益と減価償却費を足した金額が本業の儲けです。ここから借入金の返済を行う必要があります。
このときに、この本業の儲けと年間の借入金の返済額を比較して、返済額の方が金額が大きい場合、資金繰りとしては厳しい状態になります。
本業の儲け(当期純利益+減価償却費)< 年間の借入金返済額 → 資金繰りが厳しい状態
つまり、黒字であっても、本業の儲けよりも、借入金返済の方が金額的に大きければ、会社に残るお金は少なくなります。そして、底をついてしまえば黒字で倒産ということになってしまいます。
(5) 税金
会社の資金繰りを厳しくする要因の一つに税金の支払いがあります。
事業によって発生する税金は主に法人税や消費税です。これらは、1年に1回や半年に1回、4半期に1回など、その期間の税金をまとめて支払うという仕組みになっています。
つまり、単月の資金繰りで賄えない金額であることが多く、その支払期日までに資金をプールしておく必要があります。いついくら税金の支払いが必要かを把握しておかなければ、資金繰りの計算が大きく狂ってしまう要因になります。
また、法人税や消費税は前期に決定した税額を今期に支払います。かつ、予定納税という半年もしくは4半期などに支払う中間納税は、今期に先払いをする形です。
その税額も前期に決定した税額が計算根拠なので、たとえば前期に1億円の黒字で、今期は1千万円の黒字まで利益の金額が落ち込むような場合、今期の黒字の額が減少しているにも関わらず、納税は前期の1億円を基準にしなければなりません。
実際には、減額申請などが可能ですが、税金の支払いも納税のタイミングと計算方法の仕組みが資金繰りを圧迫する要因になります。
3.黒字倒産の事例
黒字倒産で真っ先に事例としてあがるのは、株式会社アーバンコーポレイション(広島県広島市・2008年8月民事再生法申請)です。
アーバンコーポレイションは不動産会社で、土地を購入して、マンションを建築し販売、また、ビルを購入して改修後に販売するなどの事業を行っていました。
黒字倒産の大きな要因は、過剰在庫です。
不動産を購入するスピードと金額に比例して、売上も利益も増加していましたが、不動産市況が冷え込むと同時に、すでに購入してしまっている不動産を売りさばけなくなってしまいました。
他にもさまざまな要因がありましたが、そのような状況で金融機関の貸し渋りが絡み、結局、債務の支払いが困難な状況になるという結末を迎えます。
倒産する直前の決算では経常利益を616億も計上しているにも関わらず、棚卸資産の4,377億円(前期比1,447億円増)が資金繰りを圧迫した形となりました。
4.黒字倒産にならないためには
では、黒字倒産にならないためにはどのような対策が考えられるでしょうか。
(1)支払う前にもらう(入金・支払サイトの見直し)
一つ目の対策は、支払う前にもらうように入金・支払サイトを見直すということです。
支払うようにもらうようにすれば、常に黒字が維持されている場合は、支払うお金よりも、入ってくるお金のほうが多いということになります。
そのような状態であれば、お金が入ってきた後に支払うという資金サイクルが構築できます。
逆に、お金が入る前に支払いをするような資金サイクルになっている場合は、早く資金化できるようにするか、支払いを先に延ばしてもらうようにすることで、資金サイクルを改善することができます。
入金・支払サイトの見直しは、黒字倒産を回避するための1つの対策と言えます。
(2) 在庫量を少なく、期間を短くする
アーバンコーポレイションの事例からわかるように、いくら黒字でもそれを大きく上回る在庫を抱えるのは大きなリスクが伴います。
在庫というのはお金がモノに変わっている状態です。逆に言うと、モノである在庫が減れば、それは在庫がお金に変わったということなので、お金が増えます。
在庫では支払いができませんが、在庫がお金に変われば、のお金を支払いに回すことができます。つまり、在庫量を少なくし、在庫になる期間を短くできれば、黒字倒産の回避につながります。
(3) 余裕のある借入返済にする
余裕のある借入返済にすることも黒字倒産の回避につながります。
借金にマイナスのイメージを持つ人もいますが、個人の借金と事業資金の借入は意味が違います。個人の借金は消費のための借金です。お金を生み出すことはありません。
事業資金の借入は、事業をしてお金を生み出すための借金です。事業上、借入をすること自体はビジネスの世界では悪いことではありません。
問題なのは、返済額が多く、借金を返済できなくなることです。
具体的には、設備投資のための借入で、返済期間が設備の耐用年数よりも短い場合などの場合、年間の返済負担額が大きくなり、資金繰りが厳しくなります。
余裕資金があるときに、一括繰り上げ返済をして、借金を減らしたいと考える経営者もいますが、借金の一括返済は資金減少にもつながります。
資金繰りに影響のない範囲での借入返済が望ましいです。
(4) 資金繰りを管理する
黒字倒産回避のための方策は他にもあります。それは、資金不足の可能性を早期に把握するということです。
カーブを曲がったら、いきなり衝突する、というような運転ではなく、遠くまで見通すことで、早めの対策が可能になります。
具体的には、資金繰りを管理するということです。資金繰りとは、
・お金が今いくらあるか
・いついくらの入金があるか
・いついくらの支払があるか
これらを時系列で整理し、残高がマイナスになることがないかを計算して把握します。マイナスになることが早い段階でわかれば
・その時点で融資交渉をする
・入金を早めてもらう交渉をする
・資金化できる資産がないか検討する
などの対策を打つことができます。
できるだけ先々で見通しが立つことが望ましいです。少なくとも、確定しているまとまった支払いがあるところまでは、資金繰りの見通しを抑えておく必要があるでしょう。
(5) キャッシュフロー経営をする
究極の黒字倒産の回避策は、キャッシュフロー経営です。キャッシュフロー経営とは、売上や利益だけを見るのではなく、お金の流れを重視する経営のことです。
どのような要因でお金の出入りがあり、入るほうが多かったのか、出ていくお金のほうが多かったのかなどを見る経営です。
黒字倒産をしたアーバンコーポレイションの例を見ると、本業のお金の流れである営業キャッシュフローは5期連続でマイナスでした。そのマイナスを主に借入などのお金の流れである財務キャッシュフローで穴埋めをしていました。
そのようなお金の流れでは、債務は増え続け、いつか支払い困難に陥ることは明らかです。
損益計算書(P/L)だけを見ていては、気づくことができない話です。だからこそ、どのような要因でお金が増減しているのかを知ることが黒字倒産をしないために重要なのです。