手形貸付の書換継続とは?「短コロ」「疑似資本」という用語の適切な使い方は?

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手形貸付の書換継続とは?「短コロ」「疑似資本」という用語の適切な使い方は?

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手形貸付の期日に、新たな手形貸付に借換えて、実質的な元本返済を伴わない借入の手法があります。これには2種類があります。

一つは、経常運転資金を対象とするものです。もう一つは、本来は長期借入金であった資金の約定返済額がキャッシュフローで賄えない場合に行うものです。

後者について、「短コロ」、「疑似資本」といった用語が用いられることがあります。金融機関の貸出形態について、また「短コロ」、「疑似資本」といった用語の適切な使い方について解説します。

1.金融機関の貸出には4つの形態がある

金融機関の貸出には4つの形態があります。

金融機関借入金は、中小事業者の決算書における貸借対照表において、短期借入金と長期借入金のいずれかに計上されます。

短期借入金は、決算賞与資金や商品仕入資金など、一年以内に返済期日が到来するものです。

長期借入金は、設備投資資金のほか、事業拡大や合理化などに伴う長期の運転資金も含み、返済期日が一年を超えるものです。

長短 返済期日 資金使途
短期借入金 一年以内 決算賞与資金や商品仕入資金など
長期借入金 一年超 設備投資資金のほか、事業拡大や合理化などに伴う長期の運転資金も含む

短期借入金(金融機関にとっての短期貸付金)には、①手形割引、②当座貸越、③手形貸付 の3つの形態があります。

これに、長期借入金(金融機関にとっての長期貸付金)の④証書貸付 とを合わせると、4つの貸出形態があることになります。

(1)金融機関の貸出形態とその概要

貸出形態別の概要は次表のとおりです。

長短 貸出形態 概要
短期貸付金 手形割引 事業者間の取引決済のために振り出された商業手形を期日までの利息を差し引いて買い取る形式で資金を供与する。
当座貸越 事業性資金決済のため当座預金口座を持つ事業者と当座貸越契約を結び、予め定めた上限額(極度額)まで口座残高のマイナスを認める形式で資金を供与する。
手形貸付 事業者が自らを振出人、金融機関を受取人として振り出した約束手形を期日までの利息を差し引いて買い取る形式で資金を供与する。
長期貸付金 証書貸付 事業者から借用証書(契約書)を徴求する形式で資金を供給する。元本は一定期間(主として1か月)ごとの分割弁済とし、弁済日にその時点の残高に応じた利息を受け取るものが一般的。

(出典:「金融読本」東洋経済新報社)

(2)当座貸越の特徴は

上記4種類の貸出形態のうち、当座貸越は、予め定めた契約期限(主に1~3年)までは、借入・返済の自由度が高く、事業者の利便性に優れています。

ただし、もともとは審査のハードルが高く、財務内容が優良な事業者のみを対象としていました。その理由は、他の融資形態に比べて資金使途の確認が困難で、貸倒れリスクを伴うためです。

近年では、審査基準を緩めて、当座貸越を積極的に活用する金融機関が増えていますが、従来どおり審査基準の厳しい金融機関も残っています。(後者の金融機関では、短期継続融資は専ら手形貸付で対応します)

2.経常運転資金への貸出形態は

(1)手形貸付の書換継続とは

手形貸付には、支払期日到来時に事業者が新たな手形を振出すことで融資を継続するケースがあります。これを「手形の書換継続」と言います。

手形の書換継続には、以下の2種類があります。

①経常運転資金に対する短期継続融資
②長期運転資金を証書貸付形態にすると約定弁済額に対してキャッシュフローが不足するために手形貸付の形態を採用する融資

貸借対照表のイメージ図から、上記2種類の借入金の位置付けを確認すると、以下のようになります。

流動資産 買掛金等
経常運転資金
A
⇒ 短期継続融資(手形貸付の書換継続①)
固定資産 長期借入金 B ⇒ キャッシュフローによる返済可能部分
C ⇒ キャッシュフローによる返済不可部分(手形貸付の書換継続②)
自己資本

短期継続融資は、資金が事業活動に伴う運転資金であり、流動性負債に相応しい性格のものです。(上図A)

事業活動に合わせて継続されるものですので、事業活動が続いている間は売上債権回収により実質的な元本回収が可能な状況にあります。

一方、キャッシュフローでは約定弁済できない長期運転資金を手形貸付の書換継続で資金供与するものは、キャッシュフローを増やさない限り元本回収に不安があり、資金が固定化した状況にあります。(上図C)

金融機関の貸出金査定においては、安全性に課題がある債権として扱われるものです。

(2)「短コロ」「疑似資本」という用語の適切な使い方は

手形の書換継続を「手形のコロガシ」と呼称することがあります。その中でも特に、後者の長期運転資金に対するものが「短コロ」と表現されます。

手形の書換継続について「疑似資本的性質を持つ」と言われることがありますが、これも本来は長期運転資金に対してのみ使うべき用語です。

短期継続融資に対する手形貸付を含めて「短コロ」、「疑似資本」といった用語を用いるのは、2つの資金の概念を混同させるために適切な使い方ではありません。

流動資産 買掛金等 資金の性質 貸出手法
経常運転資金
A
短期継続融資 手形貸付の書換継続
固定資産 長期借入金 B キャッシュフローによる返済可能部分 証書貸付
(約定弁済あり)
C キャッシュフローによる返済不可部分 手形貸付の書換継続
(短コロ・疑似資本的)
自己資本

上図をみれば、経常運転資金Aは、短期継続融資で対応するのが適切だということが解ります。

また、Cに該当する資金が資本不足を補う「疑似資本的性質を持つ」という表現に当てはまることも理解できますね。

同じように手形貸付の書換継続を行う融資であっても、AとCでは資金の意味が異なり、安全性に差があることがお解りいただけるでしょう。

Cの部分に該当する資金は、最近では資本性劣後ローンで調達する手法も用いられるようになっています。そして、Bに該当する資金は、証書貸付により供与されるべきことが明らかです。

金融機関の過去の実務において、AからCまでの融資すべてを証書貸付に纏めてしまい、約定弁済が進んで資金が不足した場合には、改めて不足分を含めた証書貸付として借換える融資手法が広がりました。

流動資産 買掛金等 資金の性質 貸出手法
経常運転資金
A
(本来は短期継続融資が適切)

すべて証書貸付
(約定弁済あり)

固定資産 長期借入金 B キャッシュフローによる返済可能部分
C キャッシュフローによる返済不可部分
自己資本

しかし、この手法によれば、仮にCがゼロで債務償還に十分なキャッシュフローがある事業者であっても、約定弁済によりAの経常運転資金が不足するケースも発生していました。

これでは事業者の資金繰りを不当に苦しめることになります。

まずは①経常運転資金を短期継続融資で対応する、次に②長期資金について事業者のキャッシュフローの水準に合わせた約定弁済額を算定し、それにより証書貸付・手形貸付・資本性劣後ローンの組み合わせを考える、という順番で考えることが必要でしょう。

(3)経常運転資金に対する適切な貸出形態は

経常運転資金に対応する短期継続融資は、手形貸付または当座貸越の形態で実行されます。金融関係者の主流な意見は、証書貸付で経常運転資金に対応することには否定的です。

「貸出業務の王道」(金融財政事情研究会)では、著者の吉田重雄氏が証書貸付で経常運転資金を調達する場合の問題として、次の3点を挙げています。

① 経常運転資金の借入れは資金繰り上必須のものであるにもかかわらず、(証書貸付では)約定弁済が進むと借入金が必要金額を下回ることになること。

② 所要運転資金の金額は決算期毎に変動するので、数年先を見通した経常運転資金の金額を予め決めるのは困難であること。

③ 期限の利益を長期に与えることで、金融機関による債権保全の対策が後手に回る可能性が高くなること。

筆者は、上記に加え、借入金が長期資金ばかりになると金融機関との対話の機会が減ることも問題だと考えています。

超長期の証書貸付で元本返済猶予期間を含む当初の弁済が滞らずにいたケースでは、金融機関への訪問が減り、決算書や試算表を通じた対話も形骸化した事例がみられます。

金融機関側も業況のフォローを怠り、気が付けば延滞が発生していた、という例も珍しくありません。

なお、「貸出業務の王道」は、貸出業務に携わる者として守るべき原則や倫理を広く次代に伝えようとする内容が盛り込まれており、組織の中で正論をもって生きる「矜持」の大切さを訴えています。

姉妹編の「貸出業務の信質」とともに、融資業務に携わる金融機関の担当者、役席者に止まらず、経営者にも一読をお勧めします。

事業者や支援者にとっても、金融機関のあるべき姿を理解するのに役立つものとなっているので、お勧めです。

(文責:中小企業診断士・鷲山雄一)

※ 短期継続融資については、以下記事も合わせてご参照ください。

「手形貸付とは?短期継続融資とは?短期継続保証がお勧め!」
https://vision-cash.com/cf/shikin/short-term-continuous-loan/

短期継続融資で資金繰り不安は解消できるのか?-具体的な事例紹介」
https://vision-cash.com/cf/shikin/shikin/short-term-continuous-loan-case/

※ 都道府県別の短期継続保証制度を以下にまとめていますので、ご参考ください。

「信用保証協会「短期継続保証」とは?保証限度額は?都道府県による違いは?」
https://vision-cash.com/cf/shikin/short-term-continuous-guarantee/