安全性とは – よくわかる!安全性分析の基本

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安全性とは – よくわかる!安全性分析の基本

安全性

決算書を見ても、どのように見ていいかわからない人も多いのはないでしょうか?

決算書からその会社の財務状況を把握する一つの方法は、財務分析をしてみることです。財務分析の方法には、目的ごとにいくつかの方法があります。

その中で、安全性分析の方法をわかりやすく解説します。

1.安全性とは

まず、安全性とは何かを考えるために、「安全」の反対を考えてみましょう。

はい。安全の反対は「危険」ですね。企業が財務的に危険な状態とはどういうことでしょうか。

一言で言うと、存続の危機にあるということです。

つまり、企業にどの程度の倒産リスクがあるかを表すのが「安全性」の指標です。

2.なぜ安全性が重要なのか?

では、なぜ安全性の指標を見ることが重要なのでしょうか。

それは、たとえ、黒字で売上が伸びていても、財務的に安全とは限らないからです。

黒字倒産」とか「勘定合って銭足らず」という言葉があります。これは、黒字であっても倒産する場合があることを示しています。

儲かっているから安全とは限らないのです。

むしろ、急激に売上が伸びたときに資金ショートして黒字倒産するのはよくあることです。

財務分析をするときには、儲かっているかどうか、収益性分析をすると同時に安全性についても確認しておく必要があります。

3.安全性分析の概要

では、安全性分析は、どのように行うのでしょうか。

安全性分析を行うときは、短期的な安全性と長期的な安全性の2つの観点で分析します。

短期的な安全性とは、企業の支払能力を表すものです。資金ショートして支払いができなくなると、企業は倒産します。なので、最初に見るべきは短期的な安全性です。

短期的な安全性の指標としては、流動比率や当座比率、現預金月商比率(手元流動性比率)があります。

次に長期的な安全性を見ます。

長期的な安全性とは、財務構造の安定度を表すものです。財務構造とは、事業活動に必要な資金の調達方法のことです。

事業活動に必要な資金の調達方法は、大きく二種類に分けられます。

株主が出資したり、会社が稼いだ自己資本と、金融機関などから借りた他人資本である借入金です。自己資本は返済の必要がありません。借入金は返済の必要があります。

お金

もし、自己資本が過少で、借入金に大きく依存しているとしたら、どうでしょうか。

仮に売上が低下したなどの理由で、返済ができなくなると、会社として存続の危機を迎えることになってしまいます。

ですので、短期的な安全性と同時に、長期的な安全性についても見ておく必要があります。長期的な安全性の指標としては、自己資本比率、借入金依存度、有利子負債月商比率(借入金月商倍率)、固定比率、固定長期適合率などがあります。

4.短期的な安全性の指標と計算式

では、短期的な安全性の指標と計算式を確認しましょう。

(1)流動比率

流動比率とは、流動負債と流動資産の大きさを比較する指標です。計算式は以下の通りです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動資産は、原則として、1年以内に現金化の見込みがある資産です。流動負債は、1年以内に支払期限が到来する負債です。

1年以内に現金化の見込みがある資産 < 1年以内に支払期限が到来する負債

だったら、どうでしょうか。1年以内に支払いができなくなりそうですよね。

流動比率の目安としては、少なくとも100%を超えている必要があります。100%を下回ると支払能力に懸念があります。できれば、120%以上が望ましいです。

なお、流動比率での判断は実はとても簡単です。

貸借対照表の資産の部の一番上に流動資産の額が記載されています。負債の部の一番上に流動負債の額が記載されています。

左右を見比べて、どちらの金額が多いかを比べればいいのです。

流動資産の額の方が多ければ、流動比率は100%を超えています。流動負債の額の方が多ければ、流動比率は100%を下回っています。

(2)当座比率

流動比率が100%を超えていたとしても、それだけで、安心できるわけではありません。その一つの要因が在庫です。

企業が事業活動を行うということは、商品を仕入れたり製造し、販売し、その代金を回収するということです。このうち、仕入れたり製造したものの、販売していない商品や製品が在庫です。

現金化という視点で考えると、現金が在庫に変わり(仕入れや製造に現金が必要ですから)、在庫が売れると売掛金に変わり、代金を回収すると、これでようやく現金に戻ることになります。

ところが、この在庫に売れ残りでいつまで経っても売れそうにない商品が含まれていたとしたら、どうでしょうか。また、中途半端に残った材料在庫が含まれていたとしたら、どうでしょうか。

1年以内に現金化の見込みがあるとは言えないですよね。

在庫

流動資産は、原則として1年以内に現金化される資産ですが、売れ残りの商品や残りの材料などについては、必ず現金化できるという保証はありません。

実際に倉庫に1年以上眠っている商品や製品があるということはよくあることです。売れる見込みのない在庫のことを不良在庫と言います。

では、そのような商品は、流動資産に含めてはいけないかというと、そんなことはありません。

今後、1年以内に売れそうかどうかなどわからないことですし、1年超の在庫を固定資産に付け替えしなければいけないとしたら、管理も煩雑になることでしょう。

そこで、現金が在庫に変わり、販売されて売掛金に変わり、代金が回収されて、また現金に戻る、このサイクルの中にあるものは、流動資産と見なすというルールになっています。

これを営業循環基準と言います。

営業循環基準 : 現金 → 在庫 → 売掛金 → 現金 のサイクルにあるものは流動資産と見なす。

補足すると、1年以内に現金化する見込みの資産を流動資産と見なすというルールは、ワンイヤールールと言います。

さて、前置きが長くなりました。

流動比率を計算してみて値が高い場合、ひょっとしたら在庫金額が多いために、値が高くなっているのかもしれません。

在庫に1年以内に現金化されないリスクがあるということは、短期の支払能力を厳密に見ようとすると、在庫を含めないで考える方がよいということになります。

その場合に計算する指標が当座比率です。

当座資産とは、流動資産の中でも特に現金化される見込みの高い項目を指します。具体的には、現金、預金のほか、受取手形、売掛金、短期保有の有価証券などです。在庫(棚卸資産)は含めません。

計算式は以下の通りです。当座比率は、流動負債と当座資産の大きさを比較する指標です。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

当座比率の目安は、流動性比率と同様に100%以上です。高いほど安全ということになります。

(3)現預金月商比率(手元流動性比率)

当座比率を確認することで、在庫の影響を受けない支払能力を確認することができました。ただし、当座比率にも問題があります。それは、受取手形や売掛金を含めて、企業の支払能力を判断している点です。

受取手形や売掛金は回収までに一定の期間が必要ですし、得意先の倒産などで回収できなくなることもあります。

当座比率よりもさらに厳密に、企業の支払能力を見る指標として、現預金月商比率があります。現預金月商比率の計算式は以下の通りです。

現預金月商比率=(現金+預金+短期有価証券)÷月商

現預金月商比率は、手元流動性比率とも言います。

手元流動性(手元資金)とは、すぐに支払いに使える手持ちの資金です。具体的には、現金、預金のほか、換金性の高い短期保有の有価証券も含みます。現預金月商比率では、受取手形や売掛金は支払能力に含めません。

月商とは月間の売上高です。売上高を12で割った値です。

現預金月商比率は、企業が月商の何か月分の手元資金を保有しているかを示す指標です。

仮に売上代金の回収ができない場合でも、手元の資金で、事業活動に伴って発生する支払い(例えば、家賃、リース料、給与の支払いなど)がどれくらいの期間、可能かを示す指標とも言えます。

現預金月商比率は一般に大企業では1か月以上、中小企業では、1.5か月以上が目安とされています。大企業の方が目安の数値が低いのは、大企業の方がいざというときの資金調達力が優れているからです。

いざというときの資金調達力があれば、より少ない現預金月商比率でも急場をしのげるということです。

中小企業でも、飲食店のような現金商売の企業であれば、現預金月商比率が低くても問題ない場合があります。逆に、一般に売上の回収に時間がかかる建設業などの場合は、現預金月商比率が低いと資金ショートを起こしやすいです。

建設業

5.長期的な安全性の指標と計算式

短期的な安全性とは、資金ショートのリスクを見るものでした。
長期的な安全性とは、財務構造の安定性を見るものです。

その代表的な指標が自己資本比率です。

(1)自己資本比率

自己資本比率の計算式は以下の通りです。

自己資本比率(%)=株主資本÷総資本×100

貸借対照表の右側にある、「負債の部」と「純資産の部」は、会社を経営するのに必要な事業資金の調達元を表しています。

負債の部には、第三者から調達した資本が記載されています。

純資産の部のうち、株主資本は、資本金と資本剰余金、利益剰余金に分かれます。資本金と資本剰余金は株主が出資した資本です。利益剰余金とは会社が稼いだ利益のうちの内部留保分のことです。

貸借対照表
資産の部 負債の部 ← 第三者から調達した資本
純資産の部
株主資本
資本金
資本剰余金
利益剰余金
← 会社のオーナーである株主の持ち分

つまり、株主資本は、会社のオーナーである株主の持ち分であり、第三者に返済する必要がない資本です。

一方、総資本とは「負債の部」と「純資産の部」の合計です。総資産と同じ数字になります。

自己資本比率とは、調達したすべての資本のうち、どの程度、返済が不要な資本で経営が成り立っているかを表す指標です。数字が大きいほど、安全性が高いと言えます。

(なお、貸借対照表の「純資産の部」は、2006年5月の会社法施行までは「資本の部」という名称でした)

自己資本比率は、長期の安全性分析で広く使われている指標です。

自己資本の定義

ここでは、少しだけややこしい話をします。興味がない人は読み飛ばしていただいても大丈夫です。

自己資本比率の計算式をこのように説明しましたね。

自己資本比率(%)= 株主資本 ÷ 総資本 × 100

「負債の部」と「純資産の部」の合計が総資本なのに、なぜ、自己資本比率は「純資産 ÷ 総資本 × 100」ではないんだろう?と思いませんでしたか。

その理由は、純資産の部の中に株主資本以外のものがあるためです。
純資産の部の構成は以下のようになっています。

純資産の部

- 株主資本
 - 資本金
 - 資本剰余金
 - 利益剰余金
評価・換算差額等
= 自己資本

- 新株予約権
- 非支配株主持分

「新株予約権」とは、新しく株を購入できる権利です。「非支配株主持分」とは、子会社の株式のうち、親会社以外の保有株式です。

(「非支配株主持分」は連結決算の用語です。個別決算書にはありません)

そして、上場企業などが作成する有価証券報告書や決算短信では、自己資本を以下のように計算することになっています。

自己資本 = 純資産合計 - 新株予約権 - 非支配株主持分

「純資産合計-新株予約権-非支配株主持分」とはどういうことでしょうか。

新株予約権と非支配株主持分は、現在の会社のオーナーである株主の持ち分ではないという意味で、自己資本ではないということです。

そして、純資産から、新株予約権と非支配株主持分を除外した値を自己資本と見なすということは、「評価・換算差額等」がある会社では、「評価・換算差額等」までが自己資本ということになります。

自己資本= 純資産合計 - 新株予約権 - 非支配株主持分
= 株主資本 + 評価・換算差額等

有価証券報告書や決算短信で、「評価・換算差額等」がある場合は、

自己資本 ≠ 株主資本

であることに注意しましょう。

自己資本の定義の出所

自己資本の定義は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」と日本取引所グループの「決算短信(サマリー情報)の記載上の注意事項」に記載されています。

※企業内容等の開示に関する内閣府令 改正様式
http://www.fsa.go.jp/news/20/syouken/20080722-1/02.pdf

P.24 に以下のように書かれています。

(i) 自己資本比率(純資産額から連結財務諸表規則第43 条の3第1項の規定による新株予約権の金額及び連結財務諸表規則第2条第12号に規定する少数株主持分の金額を控除した額を総資産額で除した割合をいう。)

「少数株主持分」とは「非支配株主持分」の以前の名称です。
同じP.24で、自己資本利益率についても定義もされています。

(j) 自己資本利益率(当期純利益金額を純資産額から連結財務諸表規則第43 条の3第1項の規定による新株予約権の金額及び連結財務諸表規則第2条第12号に規定する少数株主持分の金額を控除した額で除した割合をいう。)

自己資本利益率とは、ROEのことです。

※日本取引所グループ「決算短信(サマリー情報)の記載上の注意事項」
http://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/tvdivq0000004wuh-att/nlsgeu0000029afq.pdf

P.3 に以下のように書かれています。

・自己資本 = 純資産合計-新株予約権-非支配株主持分
・自己資本比率 = (自己資本/総資産)×100

※参考:「日本取引所グループ用語集」
自己資本比率 = 株主資本比率
株主資本比率 = 株主資本 ÷ 総資産 × 100(%)
自己資本当期純利益率(ROE)

自己資本当期純利益率
= 親会社株主に帰属する当期純利益
÷{(純資産の部合計-新株予約権-非支配株主持分本)}×100(%)

※ROEの説明については、
 「よくわかる!収益性分析の基本」5.総合的な収益性分析
 をご参照ください。

(2)固定比率

自己資本比率は、総資本中の自己資本の割合を見る指標でした。固定比率は、資本の調達元と、資本の使途のバランスを見る指標です。

固定比率の計算式は以下の通りです。

固定比率(%)=固定資産÷株主資本×100

固定資産とは、土地や建物、機械装置、車両、器具・備品、ソフトウェアなどのことです。これらの固定資産は通常はいったん購入すると、長期にわたって使用するものです。

機械装置

商品在庫も固定資産もどちらも資産という名称ですが、商品在庫が販売されて、現金化されるのとは違って、固定資産は通常の事業活動で現金化されません。

(不要になり売却する場合や、捨てる場合などにのみ現金化されます)

ですので、返済が必要な借入ではなく、可能な限り、自己資本で賄う方が安全と考えられます。

つまり固定比率は、どの程度、固定資産を自己資本の範囲内に留めているか、そのバランスを判断する指標です。

固定比率が100%以下であれば、固定資産額が返済不要な自己資本の範囲内にあることから、財務構造の安定性が高いといえます。

ただし、資本の過少な中小企業が設備投資をする場合に、自己資本の範囲内のみで留めるということはあまり現実的ではありません。

そのような場合に使われている指標が固定長期適合比率です。

(3)固定長期適合比率

「負債の部」は流動負債と固定負債に分かれます。

流動負債:1年以内に支払期限が到来する負債
固定負債:支払期限が1年以上先の負債

支払期限が1年以上先の負債であれば、固定資産の調達元としても、さほど危なくはないでしょ?
というのが固定長期適合比率の発想です。

固定長期的行比率の計算式は以下の通りです。

固定長期適合比率(%)=固定資産÷(株主資本+固定負債)×100

固定比率が100%を超えている場合は、固定長期適合比率を確認します。固定長期適合比率が100%以下であれば、大きな問題はないと考えていいでしょう。

(4)有利子負債月商比率(借入金月商倍率)

長期の安全性を見る指標としては、他には、有利子負債月商比率(借入金月商倍率)がよく使用されています。

有利子負債月商比率=有利子負債÷月商

売上規模に対して、借入金が過大になると、返済負担が重くなり、資金繰りが悪化することが多いです。売上規模に対して、借入金額が適正かどうかを見る指標です。一般に4か月以内が適正、6か月を超えると危険と見なされています。

有利子負債とは、金融機関からの借入金や社債など、金利を支払う必要がある負債のことを言います。

有利子負債=借入金+社債

有利子負債月商比率が問題になるのは、特に、売上が低下したケースです。売上が長期にわたって低下傾向にあったり、短期間でも急激に低下すると、有利子負債月商比率は悪化します。

6.安全性を向上させるためのポイント

では、経営の安全性を高めるためにはどのようにすればいいのでしょうか。

短期の視点と長期の視点の2つのポイントがあります。

短期の視点でのポイントは、資金ショートを起こさないことです。そのためには、

・資金繰り表などを運用して、資金管理を行うこと。
・資金ショートが予測される場合は、早期の資金手当てを講じること(計画的な借入など)。
・売掛金や受取手形の回収を早めること。未回収にしないこと。
・在庫を早く現金化する意識を持つこと。
・売上につながらない不要な資産を圧縮すること。

などが必要です。

長期の視点でのポイントは、財務構造を意識した経営を行うことです。
具体的には貸借対照表に関心を持つことです。

経営者の中には、損益計算書は見ても、貸借対照表はあまり見ない方がいます。損益計算書に記載された「利益」は計算上のものです。「お金」(キャッシュフロー)ではなりません。

利益が出ていても、現金が減るような経営をしていては、安全性が高いとは言えません。

売上目標を立てるのと同時に、貸借対照表についても目標を定めましょう。

また、過度な節税対策を行わないことも必要です。中小企業の中には、税金を払いたくないために、あえて利益を出さないようにしているケースも見られます。

自己資本比率を高めるためには、計算式の分子である、株主資本を増やすことが必要です。

株主資本は資本金と利益剰余金の合計額でしたね。(株主資本には資本剰余金や自己株式もありますが、ここでは説明を省略します)

毎期、利益を計上して、利益剰余金を積み上げていかなければ、自己資本比率は高まりません。

自社の自己資本比率が今、どれくらいの水準で、今後、どの程度を目指すのかを意識することが必要です。

計画的な経営を行い、財務構造の安定性を高めることが、資金ショートを起こしにくい企業の実現につながるのです。