原価差異分析とは何でしょうか。
どのような目的で行い、どのように行うのでしょうか。
わかりやすく解説します。
Contents
1.原価差異分析とは
原価差異分析とは、標準原価と実際原価の差異を分析することです。
標準原価とは、計画上の原価です。
実際原価とは、実際にかかった原価です。
計画よりも、実際にかかった原価が高いと、利益がその分、少なくなります。
原価は企業の利益に大きく影響する項目です。
そこで、計画した原価と実際の原価を比較して、どの程度の差異が発生しているのか。
そしてその差異の発生要因は何なのかについて分析し、改善することが必要となります。
事業別・部門別・製品別などの原価の実績値と標準原価との差異を確認し、どのような要因で差異が発生したのかを分析することを「原価差異分析」と言います。
2.原価差異分析の目的
原価差異分析の目的は、生産上などの課題を見つけて改善に役立てることです。
がんばって、いくら売上を増加させても、原価が余分にかかっていたのでは、目標利益を確保することはできません。
原価をいかに抑えるかは、どんな事業・部門・製品であっても共通する、大きな課題です。
そして、原価を抑えるためには、生産工程のどこで、どんな無駄や非効率が発生しているのか把握をする必要があります。
原価差異分析の目的とは、計画上の原価と、実際にかかった原価を比較することで、生産における無駄や非効率を把握して改善したり、価格設定の見直しなど企業経営に活かすことと言えるでしょう。
3.原価差異分析の活用
では、原価差異分析は具体的にどのように活用するものなのでしょうか。
具体的な活用手法としては、以下の3つのステップで行います。
(1) 標準原価の策定
(2) 計画値と実績値の差異分析
(3) 分析結果に基づく改善
(1) 標準原価の策定
過去の実績データなどに基づいて、正常に生産された場合の原価を計算します。
(2) 計画値(予算)と実績値の差異分析
策定した原価予算(標準原価)と実際にかかった原価を比較分析します。
どのような要因によって原価予算と実際原価に差異が生じたのかを分析することで、無駄や効率上の問題点を把握し、どこに問題があるのかを把握します。
(3) 分析結果に基づく改善
分析結果に基づく改善案を策定し、原価差異分析の結果を業務改善や企業経営に活用します。
4.原価差異分析の具体例
原価差異の発生要因としては、具体的にどのような要因があるのでしょうか。
原価を構成する要素には、材料費や労務費などがあります。
したがって、差異の発生要因としては、材料費の差異や、労務費の差異などがあることになります。
(1) 材料費差異とは
材料費の差異はどのようなときに発生するのでしょうか。
1つは、仕入価格の変動があったときです。
計画時点から、仕入価格が変動すると、計画した材料費と実際にかかった材料費に差異が生じます。
もう1つは、使用量の変動です。
ムダな材料の使い方や、不良・ミスの発生によって、計画時点よりも多く材料を使用してしまうと、計画した材料費よりも、実際にかかった材料費が増え、材料費に差異が生じてしまいます。
(2) 労務費差異とは
労務費も考え方は同様です。
想定外の残業や休日出勤での対応となってしまうと、計画時とは異なる時給となるため、計画との差異が生じます。また、計画工数よりも実際工数の方が長くなってしまった場合でも、計画との差異が生じます。
(3) 原価差異分析の具体例
具体例で考えてみましょう。
1キロ1,000円の材料を200kg使用し、500円の時給で20時間作業して生産する計画だったとします。
ところが、実際に作業してみると、1,200円の材料を180kg使用。
時給は480円で作業時間は25時間でした。
原価差異はどの科目で、どのような要因によって、どの程度、発生しているでしょうか。
上記の情報を整理すると以下のようになります。
<標準原価> |
標準直接材料費 標準価格1,000円/㎏ 標準消費量200㎏ 標準直接労務費 標準賃率(時間給) 500円 |
<実際原価> |
実際直接材料費 実際価格1,200円/㎏ 実際消費量180㎏ 実際直接労務費 実際賃率(時間給) 480円 |
(4) 直接材料費の予算差異と差異分析
まずは、直接材料費の予算差異を計算します。計算式は以下のとおりです。
価格差異 =(標準価格 - 実際価格)× 実際消費量
計算式に上記例を当てはめて計算すると、以下にようになります。
価格差異 =(1,000 - 1,200)× 180 = △36,000円
差異の計算では、「標準」から「実際」を引いて差異を求めます。
差異の金額がプラスだと「優位差異」(お金が計画よりも少なくて済み、会社が有利になる差異)です。
差異の金額がマイナスだと「不利差異」(お金が計画より多くかかり、会社が不利になる差異)です。
今回のケースでは、数量差異としては、「20,000円」の有利差異、価格差異としては「△36,000円」の不利差異が発生しています。
数量差異と価格差異を合算すると、△16,000円の不利差異です。
(5) 直接労務費の予算差異と差異分析
次に、直接労務費の予算差異を計算します。計算式は以下のとおりです。
賃率差異 =(標準賃率 - 実際賃率)× 実際作業時間
計算式に上記例を当てはめて計算すると、以下にようになります。
賃率差異 =(500 - 480)× 25 = 500円
今回のケースでは、時間差異としては、「△2,500円」の不利差異、賃率差異としては「500円」の有利差異が発生しています。
時間差異と賃率差異を合算すると、△2,000円の不利差異です。
5.原価差異分析の活用例
上記例では、予算計上していた標準原価と比較して、実際原価が多くかかってしまっていました。
こうした場合は、「なぜ、実際原価が標準原価よりも高くなってしまったのか?」について、分析結果を確認して、改善策を策定することになります。
まず、材料費については、△16,000円の不利差異が発生していました。
事実関係を確認すると、材料が今年に入って値上がりしたため、予定よりも材料単価が高くなったためとわかりました。
改善策としては、材料単価の引き下げや、販売先への転嫁が考えられます。
① 同材料を安く仕入れることができないかを検討する。
具体的には、仕入先や調達国の変更による仕入単価の引き下げの可能性について検討する。
また、仕入先への値下げ交渉ができないかどうかを検討する。
② あるいは、材料費が上がった分だけ、販売価格を上げて客先に転嫁できないか等を検討する。
また、労務費については、△2,000円の不利差異が発生していました。
事実関係を確認すると、一部の作業者の作業が遅く、残業が多くなったためとわかりました。
改善策としては、作業が遅い理由の把握や原因の解消、作業手順などの標準化が考えられます。
① 作業が遅い作業者にヒアリングするなどして、遅くなる原因を特定し、原因の解消を図る。
② 作業手順や工具の設置場所等を定め、誰でも一定以上の速度で作業できるように標準化を図る。
6.原価差異分析が有効活用されるためには
原価差異分析は、差異の分析結果を業務改善などに役立てて初めて、分析結果が有効活用されたと言えます。
では、分析結果が実際に業務改善や企業経営に活かされるためには何が必要でしょうか。
まずは原価管理計画の策定が必要です。
そして、策定した原価管理計画通りに業務改善が行われ、検証され、さらなる改善計画が策定されるというPDCAサイクルを回していくことが必要です。
そうした活動の継続が、生産上の「無駄や非効率」の低減と企業に利益が残るしくみ作りにつながります。
なぜ改善する必要があるのか。改善することで、どのような成果が得られるかについて社内共有することも必要です。それによって、改善に向けての社内のモチベーションアップの効果も期待できるでしょう。
現時点で、原価差異分析を行えていない場合は、まずは「標準原価の策定」と「実績値の把握」から着手してみてはいかがでしょうか。