
「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(改訂版)(税理士法人アイユーコンサルティング著)は税理士を対象に書かれた事業承継支援の書籍です。
本書には「顧問税理士こそ事業承継の専門家になるべき」、「税理士も事業承継税制だけではなく、会社法を中心とした企業の成り立ちからしっかりと学び、事業承継へのアドバイスについても顧問先に提供すべき」と書かれています。
そうした観点から、本書は、相続税対策だけではなく、会社法を含む事業承継支援の全体像について書かれています。「事業承継は相続で片付けてはいけない。企業の存続をかけた経営戦略だ」という著者のメッセージが本書の根底に流れています。
本書を読むことで、事業承継の全体像を俯瞰できる他、事業承継の各対策についてメリット、デメリットが体系的に理解できる内容となっています。
事業承継で考慮すべき事項について広く網羅されていますので、税理士の方はもちろん、事業承継に悩む経営者の方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。
Contents
■事業承継支援の現場での問題点-ホールディング設立は最適解なのか
実際の事業承継支援においては、金融機関が主導し、事業承継専門の税理士法人等が業務を行う例が多いようです。その際に、ホールディングス設立を勧められるケースが多いのではないかと思います。
ホールディングス(持株会社)スキームが広く用いられている理由は、事業会社の利益蓄積は親会社であるホールディングス会社にとって、子会社株式の含み益となりますが、その含み益に対して37%を純資産価額の計算上控除できるためです。
そのため、純資産の増加が見込まれる会社において、ホールディングス設立は事業承継対策として広く行われている手法の一つですが、会社の状況はそれぞれ異なり、会社の状況によっては最適ではない可能性があります。
本書には「後継者が会社を新設して当該新設法人が資金調達を行い、経営者から自社株を買い取るといういわゆる『持株会社スキーム』を提案されていた」事例が紹介されています。
この事例において、経営者は前向きに実行を検討していたが、著者が相続税を試算してみると「相続時精算課税制度を用いて価格固定をし、共同相続人の遺留分対策を図るべく資金準備する方がベター」と判明したと説明されています。(p.39-40)
持株会社(ホールディングス)を新設して株式を買い取るスキームでは、新設会社が株式買取資金を金融機関から借入することが一般的です。金融機関がホールディングス設立を勧めるのは、必ずしも会社にとって最適な解決策だからではなく、金融機関の都合が優先されていることもあるのではないかと思われます。
■「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」活用方法
中小企業経営者が事業承継の全体知識を習得するのは難しく、また必要性もないと思いますが、提案された手法がどのような内容か、メリットやデメリットについて、本書は網羅的な知識を得ることにも役立つ書籍であると考えます。
以下に本書の内容を示しますので、自社で検討している手法があれば、該当箇所を確認してみてはいかがでしょうか。
【目次】
はじめに
序章 中小企業の事業承継支援は顧問税理士の仕事です
第1部 ヒアリング編
※ヒアリング編では、中小企業を取り巻く状況や、経営者・後継者の心理状況について解説し、事業承継支援者がどのように経営者のニーズを汲み取るべきかについて書かれています。
第1章 中小企業はなぜ事業承継が進まないのか?
1.事業承継が進まないのは未来が描けないから!?
2.事業の将来性のカギ
1) 事業の成長拡大とは
2) 事業の安定とは
3.中小企業の事業承継を活性化させるために解決すべき課題
4.7つの課題
1) 採用と定着化の問題
2) 社員教育、人事評価の問題
3) 長時間労働、生産性の低さ
4) 経営者の計数管理能力の問題
5) 個人保証の問題
6) 経営者・後継者の心構え
7) 自社株式・相続の問題
1.経営権対策
2.株価・相続税の対策
3.納税資金対策、後継者以外の相続人への資金確保
4.遺留分対策
5.事業承継の本質
1) 事業承継の本質は「企業の存続」に他ならない
2) 事業承継は経営戦略(相続で片づけてはいけない)
6.事業承継対策の4本柱
1) 財務
1.継ぎたい会社に
2.事業承継にはコストがかかる
2) 後継者
1.存在
2.能力
3) 自社株
1.集約(少数株主リスク)
①旧商法による名義株問題
②相続税対策の一環としての暦年贈与
③少数株主が相続を迎えることによるさらなる株式分散
2.株価
4) 相続
1.争続にしない
2.納税資金の確保
第2章 事業承継支援の進め方
1.現状把握とは?
1) 株主について
2) 後継者について
3) 承継時期について
4) 議決権について
5) 株価について
2.提案とは?
1) 具体的な提案アプローチ
(①評価引下げ対策 ②移転対策 ③納税財源確保対策 ④遺産分割対策)
2) 提案を考えるにあたって
3.実行とモニタリングの重要性
1) 事業承継を先延ばしにしないために
2) 提案から実行までに間が空く場合のモニタリング
3) 実行後からモニタリングする場合
第2部 スキーム提案編
※自社株式承継の出口(相続・贈与・譲渡)や非上場株式評価の基本、一般的な事業承継スキームについてスキームごとにメリット・デメリットを解説しています。また事業承継の手法の類型についてメリット・デメリットを解説しています。
第3章 自社株承継の出口
1.譲渡
2.贈与
1) 暦年贈与
2) 相続時精算課税制度
3) 事業承継税制(非上場株式についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の7))
3.相続
1) 相続税
2) 事業承継税制(非上場株式についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の7の2))
第4章 非上場株式の評価方法
1.財産評価基本通達による評価方法
1) 原則的評価方式
2) 特例的評価方式
2.株価引下げの主なアプローチ
1) 会社規模・特定会社へのアプローチ
2) 類似業種批准価額方式へのアプローチ
3) 純資産価額方式へのアプローチ
3.株式譲渡時の時価評価
1) 概要
2) 法人税法上の時価と所得税法上の時価
第5章 一般的な事業承継スキームの紹介
1.退職金を活用したスキーム
2.賃貸不動産を活用したスキーム
3.暦年贈与スキーム
4.ホールディングス(持株会社)スキーム
5.従業員持株会を活用したスキーム
6.DES(Debt Equity Swap)スキーム
7.事業承継税制スキーム
1) 制度概要(一般措置及び特例措置(措法70の7))
2) 事業承継税制の適用要件
3) 認定の取消し・免除について
第6章 多様化する事業承継
1.事業承継=親族内承継の時代は終わった
2.事業承継の類型とメリット・デメリット
1) 親族内承継
2) 企業内承継(MEBO)
3) 第三者承継(M&A)
4) 第三者承継(IPO)
3.全ての選択肢を提示できる必要性
第7章 組織再編が中小企業の活路を開く!
1.概要
2.株価対策編
1) 株式移転
2) 株式交換
3) 合併
4) 分社型分割
5) 現物分配・現物出資
3.争続対策編
1) 分社型分割
2) 納税資金確保や遺留分対策
4.財務改善編
第3部 総合事例編
※成長支援活用編と失敗事例から学ぶ組織再編活用術としてケーススタディを解説しています。
第8章 事例で伝える成長支援
1.生え抜き社員の抜擢とホールディングス化
2.人事評価の透明性確保によるES向上
3.M&Aのしやすさ
第9章 失敗事例から学ぶ組織再編活用術
1.兄弟の対立(分割型分割)
2.合併による経営効率の向上と株価引下げ(合併)
3.株式交換における株式評価の盲点(株式交換)
4.事業承継税制とホールディングス経営(株式移転)
5.後継者育成の失敗(成長支援)
6.株式分散の弊害(株式集約)
第10章 実務上の留意点
1. 税務上の留意点
1) 組織再編の経済合理性
2) 組織再編における比率の考え方
3) 組織再編後における税務の影響
2. 相続以外の留意点
1) 間接部門の配置
2) 許認可問題
3) 債権者保護手続き
4) 従業員の異動手続き
5) 銀行口座の引き継ぎ・開設
6) 既存契約の見直し
7) ガバナンス整備
8) 責任者問題・仮想隠蔽問題
9) グループ経営理念の重要性
3.税務以外の留意点
終章 顧問税理士が行動すべきこと
1. 積極提案のすすめ
1) 顧問先の解約防止
2) 従業員の事業承継提案力の向上及び離職防止
3) 事業承継対策チェックシート
2.シェアリングエコノミーの時代、パートナーシップを考える
3.経営者は顧問税理士からの問いかけを待っている
あとがき
なお、本書の前書きで以下のように書かれています。
「企業の発展に『事業承継』は必須です。大雑把な企業成長サイクルとしては『幼年期(起業・創業)→成長期(新規事業展開)→成熟期・安定期(事業承継・M&A)→衰退期(事業撤退・改革)』が挙げられ、企業継続を前提とするのであれば、衰退期になる前に事業承継を上手く済ませ、再度成長期のポジションに切り替えなければなりません。
つまり『幼年期→成長期→成熟期・安定期→成長期→∞』というサイクルをつくる必要があります。まさにこれを実践しているのは、日本最大の企業であるトヨタです。
豊田家の家訓である『一代一業』は、事業承継の都度、成長期の新規事業展開を行うことであり、その結果として現在のトヨタがあるのです。」
事業承継の本質を示した記述と思います。最後に本書からホールディングススキームのメリット・デメリットを引用します。
■ホールディングススキームのメリット・デメリット
メリット |
・先代経営者が創業者利得を得られる。 |
デメリット |
・先代経営者に譲渡所得税等が生じる。また株式譲渡対価の資金が入るため、相続財産は増加する可能性がある。 |
本書にはこのように事業承継における各手法を概観した上で、各スキームのメリット・デメリットが解説されています。本書は税理士向けの書籍ではありますが、事業承継を控えた経営者の方にも参考になる内容ではないでしょうか。

「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(改訂版)
(税理士法人アイユーコンサルティング著)