「管理会計・入門-戦略経営のためのマネジリアル・アカウンティング」(浅田孝)

よくわかる!キャッシュフロー計算

「管理会計・入門-戦略経営のためのマネジリアル・アカウンティング」(浅田孝)

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コンサルティング会社で損益分岐点分析のスキルが必要な理由

コンサルティング会社に勤めて、3年目の20代男性です。20代前半で中小企業診断士に登録後、転職し、現在は中小企業向けのコンサルティングに従事しています。

中小企業向けコンサルティング業務の中で特に重要かつ必要なスキルとして、「損益計画(利益計画)策定に関する実務スキル」が挙げられます。

私の場合、コンサルティングについては、事業計画策定支援から入ることが多いです。事業計画策定支援においては、クライアントの利益やキャッシュフローの見通し(損益計画)を立てることが必須になります。

損益計画を立てる上で特に必要になるのが、「CVP(Cost Volume Profit)」、いわゆる「損益分岐点分析」の考え方です。

この考え方は、日商簿記検定2級以上や、中小企業診断士試験の学習においても身に着けられるますが、私は、損益分岐点分析に関する理解をより深めたいと考え、以下の書籍を参考に学習しました。

・書籍名:「管理会計・入門-戦略経営のためのマネジリアル・アカウンティング」
・著 者: 浅田孝、頼誠、鈴木研一、中川優、佐々木郁子
・発行元: 有斐閣

経営分析の基本

管理会計とは

副題の「マネジリアル・アカウンティング」を日本語にすると「管理会計」です。

コンサルティングや会計になじみが薄い方にとっては、そもそも「管理会計」という言葉そのものも聞き慣れないものかもしれませんね。

「管理会計とは何か?」について、本書では以下のように説明しています。

「管理会計とは、企業経営において必要な財務関連数値の生成方法と、それをもとにした財務データを主とし、関連すると思われる非財務数値とを、その経営者・経営管理者の目的に応じて、彼らの意思決定目的に適合的な情報として提供システムである。」

よりかみ砕いて説明すると、管理会計とは、企業の意思決定のためにいろいろな数値の資料を作ったり、数値を分析したりすることといえるでしょう。

本書は、そんな管理会計の入門書としての位置づけです。

著者のうちの浅田孝氏(立命館大学教授、大阪大学名誉教授)は、過去に公認会計士試験の試験委員を務めた方です。

位置づけは「入門書」ですが、理解するにはある程度(日商簿記検定2級工業簿記合格レベル)の基礎知識が必要です。

本格的かつ体系的に書かれた本であり、全400ページ弱となかなか読み応えがある内容です。

網羅的かつある程度詳細に書かれているので、本来は辞書的な使われ方をする書籍であるように感じられます。

私も、現在は管理会計について不明な点をふり返り再確認するためのツールとして使っています。読み物としては少し冗長で、全体を読破するには、丸3日は要するのではないでしょうか。

しかしながら、全体として平易な文章で、簡潔にまとめられている上に、例題・事例も多く収録されていて具体性があるので、読んでいて理解しやすい内容になっています。

企業の財務・会計系のコンサルタントを目指す方や、経理マンとしてより高い職位(経理部長・CFO等)を目指す方にとっては必携書だと思います。

管理会計・入門-戦略経営のためのマネジリアル・アカウンティング

以下に、本書の具体的な内容をご紹介します。

<目次>
第1部:管理会計システムの基礎
第2部:計画のための管理会計
第3部:業績管理のための会計

第1部では、管理会計や原価計算の意義・目的が整理されています。

第2部には、設備投資評価や製品開発、利益計画のための管理会計手法がまとめられています。

第3部では、予算管理や事業部別会計、生産やマーケティング管理のための会計手法が述べられています。

私は本書を、損益計画、特に損益分岐点分析の考え方を深く理解するために活用しました。

この観点では、「第10章:短期利益計画」の内容が特に有用でした。

損益計画を考える上では、「変動費」や「固定費」という概念が欠かせません。

試験勉強中、私がこの概念を理解する上で特に役に立ったのは、以下の記述でした。

変動費とは、操業度(生産量)に対して比例的に増加する費用で、材料費、買入部品費、直接工の賃金などがこれに相当する。

固定費とは、操業度(生産量)にかかわらず発生額が一定の費用のことであり、保険料、減価償却費、管理部門の従業員の給与、賃借料などがこれに相当する。

診断士試験や簿記検定では、試験対策上、費目毎の変動費・固定費の分類(固変分解といいます)はあまり馴染みがなく、ほかの方法(例えば統計的な手法)を利用することになります。

しかしながら実務に入ってからは、むしろ費目毎の性質に着目して固変分解し、損益計画を策定するという場面が圧倒的に多いです。

本書は、学術的な内容にも配慮しながら、実務を踏まえた記述をしている、そんな印象を受けました。

私は本書を損益計画策定の理解を深めるために活用しましたが、本書は体系的な入門書の位置づけですので、管理会計に関することはほとんど網羅されています。

コンサルタントや経理マンにとっての「困ったときの辞書」として必携の書籍と思います。

2018年2月25日(中小企業診断士・コンサルティング会社勤務)