新規事業を始めるときに別会社を設立すべきかどうか?財務面・会計面での留意点は?

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新規事業を始めるときに別会社を設立すべきかどうか?財務面・会計面での留意点は?

会社

新規事業を立ち上げるときなどに、子会社など別会社設立を検討することがあるでしょう。
本体の会社以外に新たに会社を設立するとき、どのような点に留意すべきなのでしょうか。

別会社設立にはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
わかりやすく解説します。

1.企業が別会社を設立する5つの意義とは

企業が新規事業を立ち上げ、その事業が軌道に乗ってきた場合に、新たに別会社を設立することがあります。(以下「子会社」といいます)

別会社を設立する理由としては、意思決定の迅速性を高めるためや、企業としての独立性を重んじるなどの理由があります。

また、新規事業ではなく、既存事業を会社として切り出すことも多く見受けられます。

その理由としては、事業の将来性が高いと評価した場合や、今後の自社の事業ポートフォリオとの整合性を考慮しての判断の場合などがあります。(以下自社を「親会社」といいます)

また、このような経営戦略的視点以外にも、子会社設立には以下5点の意義があります。

(1) 後継者育成

意義の一つとして後継者育成があります。親会社の経営者が事業承継を検討すべき年代に差しかかってくると、後継者について真剣に考えていく必要があります。

その場合、親会社の経営自体は、引き続き自身が担っていきつつ、後継者候補を子会社の社長に据えて経験と実績を積ませることは、後継者育成の有効な方策です。

(2) 新たな企業風土の醸成

また、新たな企業風土の醸成のために別会社を設立することもあります。

例えば、親会社が歴史の長い会社であるとします。歴史の長い会社の場合、長く勤めている従業員が多く、独特な企業文化が醸成されていることがあります。

そのような状況下で、全く新しい事業を始めるために、新たにその分野に明るい人材を採用したとしたら、どうでしょうか。新たな人材がもともとの企業風土に馴染めない可能性があります。

そのような場合に、子会社として切り出すことで、子会社は新会社として企業風土を確立していくことができ、混乱を回避することができます。

(3) 人事制度の柔軟性の確保

「人」に関連する話としては、企業風土以外に人事制度に関する点も重要です。

新事業のため新たに雇用する人材の給与などの待遇が、既存事業の従業員よりも著しく高い場合や、逆に低い場合を考えてみます。

この場合、既存事業と新規事業のいずれかの側の従業員の中で、会社に不満を持つ人が出てきてしまいます。

このような場合、別会社とすることによって、人事制度に差を設けることが容易になり、人事制度の違いからくる不満という問題を回避することができます。

(4) 各種リスクの遮断

他には各種リスクの遮断という観点もあります。

親会社とは別人格の子会社とすることで、子会社で不正が起きた場合や、財務上の損失計上が続いた場合などの親会社の経営や財務への影響を相対的に緩和することができます。

ただし、親会社としての経営管理責任を問われることや、連結ベースで見れば財務上も基本的に差異はない点に留意する必要があります。

(5) ガバナンスの強化

最後はガバナンスの強化です。

企業規模が相応に大きくなってくると、どうしても経営者の目が行き届かない部分が出てきてしまいます。このような場合に、事業の一部を切り出し、親会社の規模を縮小するという選択肢を取ることがあります。

会社の規模を縮小することで、経営陣の目が行き届くようになり、会社のガバナンス強化に繋がります。

ただし、子会社側で適切な管理監督体制を構築しない場合、将来的に子会社で不正な取引が行われるなどのリスクがあります。

なお、上記5パターン以外の別会社設立理由としては、新規事業が既存事業の顧客と競合するような場合に、本体会社で実施すると差し障りがあることから、別会社とすることがあります。

たとえば、卸売をしている会社が新たにエンドユーザ向けにECで直販を行う場合に、別会社を設立して、その会社で行うなどです。

2.子会社設立スキームの検討

では、子会社を設立する際の手法(スキーム)にはどのようなものがあるのでしょうか。

子会社を設立する際に使われるスキームには「現金出資」、「現物出資」、「会社分割」の3種類があります。それぞれの概要について以下にご説明します。

(なお、会社とは株式会社を意味することとします)

(1) 現金出資

現金による出資設立は、最もシンプルで手続き負担のないスキームです。親会社が子会社設立の意思決定を行った後、現預金を払い込み、子会社の設立登記をすれば完了です。

親会社は資金だけを拠出し、新規事業を全くの一から子会社に実施させる場合など、親会社が所有する事業用資産を移転させる必要がない場合に適している手法です。

一方で、親会社所有の事業用資産の一部を新設子会社で使用するのであれば、別途、その資産の賃貸や事業譲渡などを行う必要があります。

このため、相応の事業用資産を必要とする既存事業を新設子会社で実施するような場合には、現物出資や会社分割という手法の方が適しているといえます。

なお、新設子会社の従業員は、新たに子会社側で採用するか、親会社からの出向・転籍により充当します。

(2) 現物出資

現物出資スキームでは、親会社が現預金以外の財産を出資することにより子会社を設立します。このスキームでは、親会社が現物出資する財産(資産)を既存事業の事業用資産とすることができます。

ただし、現物出資の場合、現物出資される事業用資産等が不当に高く評価されると、会社の財務基盤を危うくしてしまう可能性があります。

このため、会社法上、現物出資は例外的な出資方法と位置づけられており、実施にあたり原則として裁判所が選任する検査役の調査が要求されています。

ただし、現物出資財産の価額について税理士や公認会計士などの証明を受けた場合等においては、検査役の調査を省略することができるとされています。

検査役の調査は時間もかかり負担が大きいため、一般的には、省略できる方法を採用することが多いようです。

新設子会社の従業員については、現金出資の場合と同様、子会社側で採用するか、親会社からの出向・転籍により充当します。

(3) 会社分割

会社分割スキームでは、親会社の既存事業を切り出すことにより、事業用資産を新設子会社に承継させることができます。(正確には新設「分社型」分割です)

現物出資と異なり、「事業」が移転することになるため、事業に紐づく権利義務を新設子会社に包括的に移転させることができます。親会社の既存事業に従事していた従業員との雇用契約についても、新会社へと承継することができます。

ただし会社分割を行う場合、会社法上の所定の手続きに沿って実行していく必要があります。

そこでは、原則として「株主総会の特別決議」や「債権者保護手続き」といった重要な手続きを行う必要があり、親会社には相応の手続き負担が生じます。

これらの手続きを怠ると、何かの折に会社分割が無効と判断されかねないため、遺漏なく実施する必要があります。

さらに、従業員の労働契約の承継に関する法的手続きの実施や、既存事業が許認可事業である場合には、許認可の承継が可能かどうかの確認なども必要になります。

3.子会社を設立する際の「企業会計」上のポイント

では、子会社を設立する際の「企業会計」上のポイントにはどんな点があるでしょうか。現金出資と会社分割についてご説明します。(現物出資は会社分割と概ね同様の取扱いとなるため省略します)

(1) 設立時の会計上のポイント

① 現金出資の場合

新設子会社の設立にあたり、親会社が出資として払い込んだ現預金の額は、原則として子会社においてその全額を資本金の額として計上します。

ただし例外として、払い込んだ現預金の額の1/2を超えない額は資本金に計上せず、資本準備金に計上することが認められています。

なお、特に税務面の観点から、資本金の額をいくらに設定するかは大変重要なポイントです。

現在では、資本金の額が信用力に直結するわけではない、つまり、資本金を多額に計上しているからといって信用力が高いとはいえないため、税務面のメリットを優先して資本金の額を決めるとよいでしょう。

② 会社分割の場合

会社分割のような組織再編は、企業会計上「企業結合会計基準」と「事業分離等会計基準」の2つの会計基準に沿って会計処理を検討していく必要があります。

両会計基準の理解には、本来、高度な会計的知見が必要になります。

しかしながら、本件のような親会社が自らの100%子会社を新設するための会社分割の場合、比較的シンプルな会計処理となります。なお、新設分割のため分割の対価は、新設子会社の株式のみとなります。

< 新設子会社の行う会計処理 >

まず、新設子会社の行う会計処理について説明します。新設子会社が親会社から受け入れる事業の資産と負債の金額は、親会社における当該資産・負債の帳簿価額となります。

すなわち、親会社の資産と負債の帳簿価額をそのまま引き継ぐということです。そして、その際の資産と負債の差額が、新設子会社における払込資本となります。

払込資本とは、資本金、資本準備金、その他資本剰余金の3つの科目を指します。そしてその内訳は自由に設定することが可能です。

< 分割元の親会社の行う会計処理 >

次に、分割元の親会社の行う会計処理について説明します。今回のような場合では、親会社において事業の移転にかかる譲渡損益を認識する必要はありません。

なお、会社分割ではなく現物出資を用いる場合には、新設子会社側の払込資本の取り扱いが現金出資と同様になります。具体的には、払い込み額の1/2を超えない額は資本金として計上せず、資本準備金に計上することが可能です。

(2) 設立後の会計上のポイント

① 連結決算の考え方を取り入れる

企業会計の観点からは、設立時だけでなく設立後にも注意すべきポイントがあります。最も大切なものとして「連結決算」の考え方を理解しておく必要があるでしょう。

連結決算を端的に言うと、親会社を頂点にして企業グループ全体を「一つの企業とみなして」決算書を作成することです。

企業グループを一つの企業とみなすわけですから、グループ間での売上や仕入れ取引などは、連結上その損益やそれに係る売掛金や買掛金などの債権債務を認識する必要があります。

この連結上の処理を一般に「内部取引の相殺消去」と呼びます。

< 内部取引の相殺消去 >

これは、ある会社の部門間でモノやサービスのやり取りがあったとして、この取引がその会社の損益などに影響を与えることがないのと同様に考えるということです。

この考え方を取り入れることで、グループ内部での取引によりいずれかの会社が売上を伸ばしたとしても、連結決算では、その取引は意味をなさないことになります。

金融機関などは連結ベースで企業グループの業績を見ることも多く、また、会社の経営者としてもグループの経営状況を正しく把握するために、連結決算の考え方は可能な限り取り入れたいところです。

この点、上場企業など連結決算が法律上求められる会社の連結決算では、ときに非常に複雑な会計処理が求められることがあります。

しかし、中小企業がグループ実態把握のため作成する連結決算では、そこまで難しく考える必要はないでしょう。

中小企業では詰まるところ「どこまでやるか」という話になります。今回想定している子会社設立のようなケースでは、内部取引の相殺消去と、連結決算の一番初めに行う「投資と資本の相殺消去」をしっかり行えばよいのではないでしょうか。

< 投資と資本の相殺消去 >

なお、投資と資本の相殺消去とは、親会社と子会社の貸借対照表を合算させた後、親会社の投資(子会社株式)と子会社の純資産(正確には株主資本)とを相殺消去させる会計手続きのことです。

親会社の投資と子会社の純資産の差額は、会計上「のれん」となりますが、今回想定している新設子会社を設けるケースでは、親会社の投資と子会社の純資産は同額となるため、のれんは生じません。

② 子会社株式の減損処理が求められることもある

新設した子会社が順調に売上を上げ、利益を出し続けていければ問題はないのですが、すべての新設子会社の経営がうまくいくとは限りません。新規事業など、リスクの高い事業を担っているのであればなおさらでしょう。

子会社の経営状況が芳しくなく、継続して損失を出し続けていた場合、親会社の単体決算上で、子会社株式の「減損処理」が求められることがあります。

子会社株式(非上場を前提とします)の減損処理とは、子会社株式の実質価額が「著しく低下」した場合に、子会社株式の帳簿価額を引き下げ、相手勘定として株式の評価損を計上するものです。この評価損は通常、特別損失となります。

ここで、実質価額が著しく低下した場合とは一般には、実質価額が取得原価に比べ50%程度以上低下した場合のことをいいます。

株式の実質価額とは通常、発行会社の株式1株あたりの純資産価額に所有株式数を乗じた額とされています。

株式の実質価額 = 1株あたりの純資産価額 × 所有株式数

ただし、実質価額が著しく低下した場合であっても合理的な事業計画等により、将来的な回復が十分に見込まれる場合には、子会社株式の減損処理は不要とされています。

子会社株式の減損処理に関するリスクは、子会社株式の帳簿価額が大きい場合に高まります。

例えば、多額の現預金を拠出し子会社を設立した場合や、簿価純資産の大きな事業を会社分割等で切り出した場合には、親会社における子会社株式の金額(=子会社の払込資本の額)が大きくなります。

このような場合には、子会社株式の減損処理が求められた際の親会社単体決算へ大きな影響があり得る点に留意すべきでしょう。(連結上は、この評価損はなかったこととされます)

なお現実には、非上場の中小企業では、この減損処理による損失が税務上の損失(損金)として認められない可能性があるため、減損処理自体行わないことも多くあります。

とはいえ、金融機関などは、このような目線も持ちながら企業グループの実態を判断しようとすることもあるため、子会社株式の減損処理という考え方自体を知っておくことは有用といえるでしょう。

4.子会社を設立する際の「税務上」のポイント

最後に、子会社を新設する際の税務上のポイントについて、ごく簡単に触れておきます。

(1) 法人税の中小企業

税務上の観点からは、新設子会社の資本金の金額をいくらに設定するかが重要な論点です。まずは法人税の観点から、資本金の金額に関する規定を確認します。

法人税法では、事業年度末の資本金が1億円以下、かつ、資本金5億円以上の会社の100%子会社でないなどの要件を満たす会社は「税務上の」中小企業に該当するとされています。

この税務上の中小企業には各種の税制優遇措置が設けられています。具体的には、法人税の軽減税率の適用や欠損金の繰越控除限度額の制限がないなどです。

これらの税制優遇措置の適用を受けられるか、受けられないかによって、法人税等の税負担の額に大きな差が生じます。ですので、特段の事情がなければ、新設会社の資本金は1億円以下とするのがよいでしょう。

さらに、資本金の金額が1億円を超える場合には、法人税における中小企業に該当しないだけでなく、法人事業税の外形標準課税の適用を受けることになります。

外形標準課税の適用を受けることになると、赤字でも税負担が生じます。特に設立間もない会社を前提とすると、適用を受けないようにする方がよいと考えられます。

(2) 消費税の免税事業者

次に消費税の観点から、資本金の額に関する規定を確認してみましょう。

消費税法では、新設会社は原則として設立から2事業年度(課税期間)の間、消費税の納税義務を免除するとされています。このような会社を、一般的に消費税の「免税事業者」と呼びます。

ただし、事業年度開始日の資本金の額が1,000万円以上の場合には免税事業者には該当しないとされています。

したがって、子会社を設立する場合、子会社が消費税の免税事業者となることを重視するのであれば、資本金を1,000万円未満に設定する必要があります。

ただし、資本金1,000万円未満の会社であっても、課税売上高が5億円を超える会社に支配されているなどの会社については、免税事業者に該当しないとされています。

このような会社を特定新規設立法人と言います。

また、現物出資や会社分割により設立された会社についても、消費税の納税義務の判定にあたり特例が設けられており、設立時の資本金が1,000万円未満であっても、消費税の納税義務を負う可能性があります。

こうした規定は、新設会社を使った消費税の租税回避行為を防止する観点から設けられているものです。

(3) 組織再編税制

子会社設立スキームとして、現物出資または会社分割を選択する場合、法人税法の中に規定される、いわゆる組織再編税制への対応を検討する必要があります。

組織再編税制は非常に複雑で難しい内容の税制ですが、今回検討しているような子会社設立のための現物出資または会社分割であれば概ね適格組織再編成に該当します。

適格組織再編成に該当すれば、親会社から子会社へ移転する資産や負債を帳簿価額で移転することができ、その結果法人税の負担は生じないことになります。

なお、別会社を設立するときに子会社にすべきか?個人出資にすべきか?については以下の記事をご参照ください。

「別会社を設立するときに子会社にすべきか?個人出資にすべきか?それぞれのメリット・デメリットは?」
https://vision-cash.com/cf/ac/shareholders-of-a-subsidiary/