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1.創業期の企業の抱える問題とは
企業が抱える問題は、どの企業もほとんど共通で、売上、資金繰り、人の問題の3点にほぼ集約されます。その中で、創業期の企業の場合は、売上と資金調達の2点が課題であることが多いです。
そして、この2点は、相互に関連し合っている場合も多く見られます。たとえば、売上を上げるための取り組みである、新商品開発や展示会出展などのために資金調達が必要なケースなどです。
創業期の企業の資金調達といえば、日本政策金融公庫の創業融資が一般的です。創業融資以外では、保証協会付融資を受けるなどがあります。
ところが、創業期の企業は実績もなく、また事業運営自体も事業計画通りに進まないケースが多いです。どうしても、試行錯誤をくり返しつつの事業運営になります。
そうなると、必要な融資を受けられない場合も出てきます。なぜなら、融資を実行する金融機関の収益源は金利です。融資の金利の利率は低く、低収益下でのリスクテイクが難しいためにです。
その結果として、必要な資金調達ができないために、成長できずに消えていく企業もあることでしょう。本書は、そのような創業期の企業への資金支援について書かれた本です。
2.ベンチャーキャピタルとは
本書の著者は、フュ―チャーベンチャーキャピタル株式会社の代表取締役社長である、松本直人氏です。ベンチャーキャピタルとは、ファンド運営会社の一つで、未上場のベンチャー企業に資金供給するベンチャー企業支援機関です。
・ファンド:基金(投資するために集めた資金)
未上場企業に資金供給するという点では、地方銀行や信用金庫、信用組合も同じ役割を果たしています。では、ベンチャーキャピタルと、地方銀行や信用金庫、信用組合の相違点は何でしょうか。
両者の相違点とは、地方銀行や信用金庫、信用組合が「融資」によって資金供給しているのに対し、ベンチャーキャピタルが投資対象企業に「投資」することで資金供給している点です。
企業側から見ると、融資を受けた資金は返済する必要がありますが、投資してもらった資金は返済の必要がありません。
では、ベンチャーキャピタルは、どうやって収益を確保しているのでしょうか。
ベンチャーキャピタルは、未上場株式に投資し、投資先企業が株式を上場したときに値上がり益を確保します。
未上場企業の株式が上場すると、大きな値上がり益を生みます。ベンチャーキャピタルとしては、大きなリターンを得られるため、リスクを取って投資をすることが可能なのです。
金融機関 | 資金支援手法 | 資金の返済義務 | 収益 |
地方銀行・信用金庫・信用組合 | 融資 | 返済義務がある | 利息 |
ベンチャーキャピタル | 投資 | 返済義務はない | 売却時の値上がり益 |
3.フューチャーベンチャーキャピタルが「地方創生ファンド」を立ち上げた理由とは
今、ベンチャーキャピタルが、株式上場時の値上がり益を収益源として、未上場企業に投資していることを説明しました。
ベンチャーキャピタルは株式の値上がり益を収益源としています。ということは、投資先企業が上場しないと収益を確保できないということになります。
実際に2008年、リーマンショックが起き、新規上場企業数が激減しました。そして、その後も新規上場企業数はなかなか回復しない状況が続きました。
このような状況の中で、著者である松本直人氏は、「地方創生ファンド」の立ち上げを考えたと言います。
「リーマンショック後の紆余曲折を経て、私は、『どうすればフューチャーベンチャーキャピタルが世の中にとって役立つ会社になるのか』ということを、真剣に考えました。
なぜ(リーマンショックで)事業継続性に問題が生じたのかを考えると、出資先企業の株式を上場させ、投資した金額の何十倍、何百倍というリターンを得ることで投資回収を図るという、ベンチャーキャピタルのビジネスモデルそのものに問題があるという、一つの答えが見えてきました。
そこで、こうした千三つの世界とは違う形で投資回収を図るための方法を確立できれば、新しいベンチャーキャピタルのモデルになるのではないかと考えました。
こうして編み出したのが、本書のテーマでもある、地域金融機関とタイアップした形での、地方創生ファンドだったのです。」
本書によると、地方創生ファンドは以下のような問題意識をもとに立ち上げられたものです。
・2014年に「2040年には全国1,800市区町村の半分の存続が難しくなる」というショッキングな数字が「日本創生会議」の人口問題検討分科会で発表された。ところが、この問題に対する課題解決に向けた具体的なアクションはほとんど見られない。
・大半の道府県で人口減少する要因は、少子化による自然減とともに、東京への人口流出である。そして、東京に人口が集中する理由はそこに仕事があるからである。
・地方経済が活性化し、働く場所ができれば、東京への人口流出を食い止め、首都圏に流出した人を呼び戻すことができる。そのためには、地方の企業を資金と経営の両面から支援し、雇用を増やすことが必要である。
・地方創生ファンドの最大の狙いは、地域での起業を活性化させることで、地域経済を支え、地方からの人口流出、東京への一極集中によって生じる諸問題を解決することにある。
4.フューチャーベンチャーキャピタルが立ち上げた「地方創生ファンド」とは
では、「地方創生ファンド」は具体的にどのような仕組みで企業支援を行っているのでしょうか。
まず、地方の金融機関とフューチャーベンチャーキャピタルとが共同で「投資事業有限責任組合」を作ります。「投資事業有限責任組合」とは、「複数の組合員がお金を出し合い、共同で、事業者に対する投資事業を行う組合」です。
地域金融機関はこの組合の「有限責任組合員」(リミテッドパートナー:LP)となります。「有限責任組合員」とは、出資範囲までに責任範囲が限定された組合員です。
フューチャーベンチャーキャピタルは「無限責任組合員」(ゼネラルパートナー:GP)となります。「無限責任組合員」は組合の業務執行を担い、組合債務に無限責任を負います。
立ち上げた「投資事業有限責任組合」(ファンド)は、投資先企業を見つけ、投資先企業に「取得請求権付株式」を発行してもらって、それに投資します。
「取得請求権付株式」とは、特定の条件を付与した「種類株式」の一種です。具体的には、ファンドが投資先企業に対して、投資した株式の買取りを請求したときに、いくらで買い取ってもらうのか事前に取り決めをしておきます。
投資後は、フューチャーベンチャーキャピタルと地域金融機関が共同で継続的に経営支援を行い、業績が順調に伸びてきた段階で、投資先企業に株式を買い戻してもらいます。
投資した時点での株式の価額と、買い取ってもらう際の差額がファンドのリターンになります。
(1)地方創生ファンドによる創業期の企業のメリットとは
地方創生ファンドから投資をうける企業のメリットは以下の3点です。
1.実績のない創業期に必要な資金の支援が受けられる。
2.ファンドから継続的な経営支援が受けられる。
3.事業が軌道に乗り、ファンドから株式の買取りを請求された際には、ファンドに参画している地域金融機関に融資をしてもらうことで、資金調達の不安なく株式の買取りができる。
また、日本政策金融公庫からは自己資本の2倍程度の金額までの融資を受けられることから、地方創生ファンドからの投資を資本に組み入れて、自己資本を充実させ、日本政策金融公庫からの融資を引き出せる可能性があることも本書で触れられていました。
(2)地方創生ファンドによる地域金融機関のメリットとは
地方創生ファンドに参画することによる地域金融機関のメリットは以下の3点です。
1.投資先企業の事業が軌道に乗った後の資金需要に対応でき、地域密着型金融の取り組みを強化できる。
2.地方創生に関する取り組みについて認知度やプレゼンスを向上させることができる。
3.事業性評価のノウハウを取得できる。
(3)投資実行の判断材料は
では、地方創生ファンドは、投資先企業をどのように選定しているのでしょうか。本書から引用します。
「私たちが組成している地方創生ファンドは、あくまでも創業間もない会社が投資対象ですから、そもそも実績がありませんし、事業計画も次の週にはまるまる変わってしまうケースもあります。ということは、事業計画自体が変わるという前提で目利きをする必要があります。(中略)
ここで大事なのは経営者の『絶対に諦めない』気持ちです。
経営者が諦めない限り、たとえ苦境に立たされたとしても、その会社は案外つぶれないものです。いくら高い成長を目指している会社でも、倒産してしまっては元も子もありません。でも経営者絶対に諦めない気持ちを強く持っていれば、いつかその会社は成長軌道に乗れる可能性を持ち得ます。
その意味において、創業間もない会社に投資する評価軸は、たびたび変わる事業計画でもなければ、実績でもありません。結局のところ、創業間もない会社が成長するかどうかは、経営者の資質にかかっているのです。
諦める経営者と、諦めない経営者の境界線はどこにあるのでしょうか。
この答えはとても簡単で、単に自分の生活をしたいという気持ちだけで仕事をしている経営者は、ちょっとした苦境に立たされただけで、簡単に諦めます。なぜなら、自分が我慢すればよいだけのことだからです。
これに対して諦めない経営者は、自分が豊かになりたいというのとは別のところにモチベーションがあります。それは、『この社会的課題を解決して、少しでも世の中を良くしたい』、『こんな人たちの役に立ちたい』という想いです。
このような想いを持って仕事をしている経営者は、どれだけ厳しい事態に直面したとしても、絶対といってよいほど諦めません。もちろん、くじけそうになることもあると思いますが、仕事をするうえで大勢の人を巻き込んでいますし、何よりもそういう会社には大勢のファンがついています。それだけ大勢の人たちの期待を背負っている以上、そう簡単に諦めるわけにはいかないのだと思います。
応援してくれる人たちが大勢いるのは、それだけ大勢の人たちの共感を呼べるビジネスを行っているからです。共感・感動を得られるビジネスモデルは強い、とも言えるでしょう。
これこそが、私たちが投資先企業を選定する際の、最大の評価軸です。共感・感動を呼べるビジネスをやっているかどうかという点を、私たちは徹底的に追及していきます。」
人は「どこに目標をおくか?」で日々の行動が違ってきます。日々の積み重ねで未来が決まるとすれば、「どこに目標をおくか?」で将来生み出す成果も確かに違ってくるのでしょう。
5.「地域金融復権のカギ『地方創生ファンド』共感・感動のスモールビジネスを育て、日本を変える」概要
本書の概要は以下の通りです。
・著書名: |
まえがき
序章 地域金融機関と協力して
・ミレニアル世代の起業論
・ベンチャーキャピタルはこんなことをやっている
・地方発ベンチャー企業への投資を活発化
・真に社会の役に立てるベンチャーキャピタルとは第一章 地方経済を活性化させるために
・人口ボーナスから人口オーナスへ
・進む東京一極集中と自治体破綻リスクの高まり
・バブル崩壊後の金融機関
・金融検査マニュアル廃止後の融資姿勢
・超低金利が融資を困難にする
・危機感のあるところから新しいサービスが生まれる
・地方創生ファンドの立ち位置第二章 地方創生ファンド運営の流れと仕組み
・地方創生ファンドのつくり方
・投資までの流れ
・地方創生ファンドの創設は地域金融機関のビジネスチャンス
・地方創生ファンドはこうしてリターンを稼ぐ
・注目すべき「もりおか起業ファンド」の実例
・投資を実行する際の判断基準は「共感」
・乗っ取るわけではありません!
・現場主義で目利きを育てる第三章 地方には面白い企業がたくさん
・投資社数は着実に増加
・株式会社浄法寺漆産業
「地元の産業を守るという心意気に共感」
・株式会社クロス・クローバー・ジャパン
「ネコ目線に仕事をモノづくりへのこだわりへの共感」
・株式会社ゆう幸
「商品開発資金をファンドからの投資で賄う戦略性の高さ」
・いわきユナイト株式会社
「地元産品に付加価値を与え全国に発信」
・株式会社オールユアーズ
「消費者にフォーカスした服作りと未来型金融スキームで資金調達」
・株式会社ロカトジラボ
「経営未経験でも資金調達をしてビジネスを拡大」第四章 地方創生ファンドの実例紹介
・地方創生ファンドの功罪
・【事例1】日本政策金融公庫と連携した事例
「だいしん創業支援ファンド」、「おおさか社会課題解決ファンド」
・【事例2】行政主導から民間主導へ 京都におけるファンド事例
「京都市スタートアップ支援ファンド」「京信イノベーションCファンド」
・【事例3】投資とアクセレーターを両立した事例
「かんしん未来ファンド」第五章 共感社会における金融機関のあり方について
【対談】橋本卓典(共同通信記者)×松本直人(フューチャーベンチャーキャピタル代表取締役社長)
・未来予測が困難になるなかで
・共感投資に力を入れる
・共感がある仕事に向かいたい
・「想いのバトン」をつなげる終章 未来の金融機関に向けて
・選ばれる金融機関になるために
・リスクマネーのインフラから企業成長プラットフォームへ
・事業承継の課題をファンドで解決する