財務キャッシュフローとは – よくわかる!財務キャッシュフロー計算

よくわかる!キャッシュフロー計算

財務キャッシュフローとは – よくわかる!財務キャッシュフロー計算

財務キャッシュフロー

財務キャッシュフローとは、何を表す数字なのでしょうか?
また、プラスが適正なのでしょうか?
マイナスが適正なのでしょうか?
財務キャッシュフローについてわかりやすく解説します。

1.財務キャッシュフローとは

財務活動によるキャッシュフロー(財務キャッシュフロー)とは主に、企業の借入金や資本取引についてのお金の動きを指します。

投資活動によるキャッシュフロー(投資キャッシュフロー)は、貸借対照表上の固定資産の変動によるお金の動きです。財務活動キャッシュフローは、負債の部及び純資産の部の変動によるお金の動きであると言えるでしょう。

投資キャッシュフローは、企業の投資状況を表しています。財務キャッシュフローは、新株式の発行や銀行からの融資など資金調達の状況を表しています。

2.財務キャッシュフローの項目

では、財務キャッシュフローとして記載される主な項目にはどのようなものがあるのでしょうか。

(1) 借入(社債発行)による収入

「借入(社債発行)による収入」は、金融機関から融資を受けたり、他企業から借入を行った際に発生します。

貸借対照表上では、短期借入金と長期借入金が該当します。企業によっては、一時的な借入と長期的な借入を分類して表示することもあります。

また、企業が発行する社債も資金調達の1つです。借入や社債発行は、新規事業の立ち上げや投資などのための資金調達として行われます。

(2) 借入金の返済(社債の償還)による支出

「借入金の返済(社債の償還)による支出」は、借入金などの返済を行った際に発生します。

借入による収入と支出を比べることで、企業の借入金が増加傾向なのか返済期に入っているのかが分かり、健全性の1つの判断材料となります。

(3) 新株式発行による収入

「新株式発行による収入」は、新株式を発行し、増資を行った際に発生します。

増資した資金は借入金のように返済する必要なく、設備投資等の投資活動に充てることができます。

そのため、新株式発行は、キャッシュフローという観点では、余剰資金の増加に繋がります。

一方で、新株式発行には、株主構成の変化による経営権の掌握のリスクがあります。また、配当金による支出の増加にも注意が必要です。

(4) 自己株式取得による支出

「自己株式取得による支出」は、企業が株主より株式を買い入れた場合に発生します。

決算書では自己株式の取得は純資産のマイナスとして表示され、資本の払い戻しの性質があります。

(5) 自己株式の売却による収入

「自己株式の売却による収入」は、上記(4)で取得した自己株式を第三者へ売却した場合に発生します。

(6) 配当金の支払い

株主に対して配当金を支払った場合に発生します。

キャッシュフロー

3.財務キャッシュフローの計算

(1) 具体的な計算手順

財務活動によるキャッシュフローは貸借対照表と株主資本等変動計算書をベースにして作成します。

① 貸借対照表の負債の部を分析する。

貸借対照表の負債の部を見ることで、財務キャッシュフローの項目のうち
(1) 借入(社債発行)による収入と、
(2) 借入金の返済(社債の償還)による支出
を確認することができます。

具体的な計算例を見ていきましょう。

比較貸借対照表 負債の部

当期 前期 増減
流動負債 100,000 50,000 50,000
短期借入金 100,000 50,000 50,000
固定負債 710,000 720,000 -10,000
長期借入金 250,000 220,000 30,000
社債 460,000 500,000 -40,000

この貸借対照表で確認できる項目は、

・短期借入金 ⇒ 短期借入による収入(※)
・長期借入金 ⇒ 長期借入による収入(※)
・社債 ⇒ 社債償還による支出

の3項目です。この3項目が財務活動によるキャッシュフローに該当します。

※今回は、説明を簡単にするために増減額を計算して、借入による収入のみで記載していますが、実務上は「借入による収入」と「借入金の返済による支出」を分類して記載する必要があります。

② 株主資本等変動計算書を分析する。

純資産の部に関する変動は、株主資本等変動計算書に記載されます。株主資本等変動計算書を見ることで、新株の発行や自己株式、配当金の支払いについての情報を確認できます。

株主資本等変動計算書

株主資本 純資産合計
資本金 資本剰余金 利益剰余金 自己株式 合計
前期末残高 1,000,000 300,000 800,000 2,100,000 2,100,000
当期変動額
 新株の発行 100,000 100,000 200,000 200,000
 剰余金の配当 -30,000 -30,000 -30,000
 当期純利益 200,000 200,000 200,000
 自己株式の取得 -40,000 -40,000 -40,000
 当期変動額合計 100,000 100,000 170,000 -40,000 330,000 330,000
当期末残高 1,100,000 400,000 970,000 -40,000 2,430,000 2,430,000

この株主資本等変動計算書で確認できる項目は、

・新株の発行 ⇒ 新株式発行による収入
・剰余金の配当 ⇒ 配当金の支払い
・自己株式の取得 ⇒ 自己株式の取得による支出

の3項目です。この3項目が財務活動によるキャッシュフローに該当します。

貸借対照表と株主資本等変動計算書の確認を終えたら、「財務活動によるキャッシュフロー計算書」に金額を入れていきましょう。

Ⅲ 財務活動によるキャッシュ・フロー
 ① 短期借入による収入 50,000
 ② 長期借入による収入 30,000
 ③ 社債の償還による支出 -40,000
 ④ 新株式発行による収入 200,000
 ⑤ 配当金の支払い -30,000
 ⑥ 自己株式の取得による支出 -40,000
 財務活動によるキャッシュ・フロー 170,000

①、②、③ の借入金(社債)については、貸借対照表の負債の部の増減から転記します。(実務上は借り入れた額と返済額を両建表示します。)

④ の新株式発行による収入については、株主変動計算書の資本金と資本剰余金の増加額の合計額を転記します。

増資については、会社法上で「払込金額の二分の一を超えない額は資本金としないことができる。」と規定されており、資本金としなかった額が資本剰余金となります。

増資した額は、資本金の増加額だけではなく、資本剰余金の増加額も含めることに注意が必要です。

⑤ 配当金の支払い、⑥ 自己株式の取得による支出については、株主資本等変動計算書より転記します。

キャッシュフロー

4.財務キャッシュフローの見方


(1) 財務キャッシュフローがマイナス

財務キャッシュフローは、外部からの資金調達とその返済を表しています。新規事業開発や設備投資などの際には、多くの場合、外部からの資金調達が必要です。

資金調達を行った年度は、財務キャッシュフローはプラスですが、それ以降の返済期間に入ると、財務キャッシュフローはマイナスになります。

財務キャッシュフローのマイナスが数年間続いている場合、企業がどのような状況であるかについては、二通りの状況が考えられます。

1つは、現在の事業に新規資金調達が必要なく、営業活動で得た資金で借入れの返済も行えている場合です。もう1つは、新たに資金調達を行えない場合です。

どちらであるのか、その判断を適切に行うためには、財務キャッシュフローのみに注目するのではなく、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローと合わせて、確認する必要があります。

具体的には、営業キャッシュフローが十分に確保ができているか、営業キャッシュフローと投資活動キャッシュフローのバランスが適性であるかなどを確認する必要があります。

また企業の成長速度も考慮する必要があります。一概に
「財務キャッシュフローがマイナスだから、自己資金で借入金の返済ができており、安定している」、
「財務キャッシュフローがマイナスだから、新規資金調達が困難だ」
ということではなく、企業の事業計画とも照らし合わせて判断する必要があります。

(2) 財務キャッシュフローがプラス

では、財務活キャッシュフローがプラスの場合はどうでしょうか。

財務キャッシュフローがプラスの場合は、金融機関や投資家からの資金調達が行われています。この場合は資金の使い道を確認する必要があります。

新規事業にチャレンジするための前向きの資金なのか、あるいは、現在の事業の資金繰りが厳しいがための資金調達なのか。どちらであるかによって、企業価値の判断はまったく違ったものになってきます。

継続的に財務キャッシュフローがプラスの場合は、企業が十分な投資者を確保していると考えられることから、投資者から十分な評価を得られていると判断できます。

(3)財務キャッシュフローで確認したいポイント

財務キャッシュフローはその会計期間(通常は1年)の資金調達、または返済の状況を表しており、1つの会計期間だけで判断するのはリスクがあります。

過去に遡って分析することで、企業の健全性を適切に判断できます。また、営業キャッシュフローや投資キャッシュフローと合わせて、総合的に判断する必要があります。

たとえば、営業キャッシュフローがマイナスの状況が続いているのに、財務活キャッシュフローもマイナスの状況が続いている場合などは要注意です。

本業の赤字を外部からの資金調達で補填できていない状況が継続する場合、資金不足による倒産のリスクがあります。