初めての職場での緊張
学校を卒業して、初めて勤めた会社での上司の話です。当時、私は18歳でした。
女性社員として、受付はもちろんのこと、お客様の会社の決算代行の仕事もありました。お客様としては会社以外に、個人事業主の方や地域活性化に取り組む機関などもありました。
入社した最初の日、私はとても緊張していました。それまでの周囲の人たちとの関わりとしては、学校という世界での友達同士や先生と生徒という人間関係しか知りません。
それが、いきなり年功序列の先輩たちの中に入っていくことになったのです。
どう振るまったらいいのか常識もわかりません。私にできることは、
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
と挨拶することだけでした。
その上司は、同じ部署の所長でした。初日の朝、私を笑顔で迎えてくれて、その午前中に業務の内容や、決算時の仕事の流れを説明してくれました。
その時、「一年かけて仕事の流れを覚えていけばよいから」
と長期スパンでの説明をしてくれました。本当に優しい方でした。
上司はいつも様子を見ていてくれた
ところが、通帳の作り方も記帳の仕方もわかっている人からすれば簡単なことでも、その時の新社会人の私にとっては、説明されることの何もかもが難しかったことを覚えています。
簿記の資格は取っていても、契約先の決算代行は、資格取得で学んだことそのままであるはずもなく、知識の応用ばかりです。基本はわかっていても慣れるまでには、たくさんの時間がかかりました。
また、他の業務もたくさんあったので、毎日ストレスを抱える日々でした。
しかし、上司である所長は、そうした私の様子をいつも見ていてくれ、声をかけてくれました。部下を気にかけ、様子を常に把握している上司でした。
決算時期が始まると、私は定時で仕事を終わらせることができなくなりました。
なかなか仕事を終わらせることができず、残業をしている私に上司が
「まだ帰りませんか?」
と声をかけてくれることもありました。
そして、自分自身の仕事はもう終了しているのに、私の仕事が終わるまでずっと待っていてくれました。机を片づけたり、本を読んだりしながら、待ってくれていたみたいです。
上司が待ってくれている間ずっと、私はパソコンに向かって涙していました。新人には経験も知識もないので、仕事の量が多いとか少ないとかすらもよくわかりません。わからないまま怒られて、辞めたいと思ったこともありました。
でも、お客様から「ありがとう」と感謝されることで、がんばることができました。
また、いつも自分のことをきちんと見ていてくれて、何かあったときには全責任を負う覚悟のある方が上司ということで本当に救われました。
お客様ともめた時にはすぐ対応してくれた
辞めたいと思ったときも所長がいてくれるから、がんばれる。そう思いながら、仕事を続けた5年間でした。
仕事量が多すぎて手に負えない時に、減らす配慮をしてくれたこともありました。お客様である事業主ともめた時には解決策を考え、すぐに対応してくれました。
新人が年功序列の会社に入社して間もない時には、説明を受けても全体を把握するまで時間がかかります。
もともと職場にいる人たちにはよくわかっていることなので、つい簡単な説明となりがちですが、新人目線で意見を聴いたりヒアリングしたりして、コミュニケーションを取り信頼関係を作ることはとても重要だと思います。
“上司だから”と上から目線の人もいますが、スタートはみんな新人です。
自分がされて嫌だったことは部下にしないこと、また、部下の個性や適性を見つけて伸ばしていくことが上司に求められると思います。
入社してきた新人を潰すことも伸ばすことも上司次第だと思います。もちろん入社してくる新人の人間性の問題もあります。
ただ“どこをどう伸ばすとどう力を発揮できる”と判断できるのは上司の方々です。上司に部下の力を引き出す能力があるかどうかで、部下が会社にとって必要な財産になれるかどうかが決まります。
私は、その会社で自分を育ててもらいました。当時はそのことを意識していませんでしたが、今になって、そのことがよくわかります。
人を育てるのは大変なことです。でも長期スパンで、人を育てることをしなければ、新しく人が入ってきても辞めていくことのくり返しです。
今までの人生で出会った最高の上司
休日出勤をしている時に、上司が差し入れを持ってきてくれたこともありました。
一人残って残業する時には「ちゃんとカギを閉めてから仕事しなさいね。早く帰るんですよ」と父のように温かい言葉をかけてくれました。
あんな所長は他にはいません。
私は入社5年目で、大学で勉強することを決め、会社を退職しました。退社することを最初に相談した相手もその上司です。
上司は私が手塩にかけた娘であるかのように、とても残念がってくれましたが、“学ぶ”ことについては最大限の応援をしてくれました。
大学の合格発表の日にも、家族以外では、その上司に最初に報告しました。上司は一緒になって喜んでくれました。すごく嬉しかったです。
その所長は今でも、私が今までの人生で出会った最高の上司です。
上司であっても人間関係は、人と人との出会いです。
“上司だから”、“部下だから”という関わりではなく、“出会ってくれてありがとう”という気持ちで接すると、部下が才能を発揮していく瞬間が必ずあると思います。
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・気さくで部下に成長のきっかけを与えてくれる上司:
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→ 本気でぶつかってくれた厳しいながら尊敬する上司
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→ 真剣な姿を見せることで責任感を教えてくれた尊敬する社長