新興ベンチャーメーカーでの「会議のための会議」
4年ほど前まで私が勤めていた会社は、特殊発光体の開発を目的とする、社員40名足らずのいわゆる新興ベンチャーメーカーでした。
この会社は、新興企業の常で、営業先の新規開拓に苦労していました。
社内会議の大半は「営業会議」です。新規事業立ち上げリーダーとして転職してきた私は、事業マネジャーとして営業会議を主催する役割を担っていました。
ところが、転職してきて初めてこの営業会議に出席したときは、この営業会議の内容に愕然としたものです。特に月次営業全体会議はひどいありさまでした。
月一回定例の月次営業全体会議には、営業部と庶務部(営業補助の内勤女性スタッフ)の全員、および顧問、社長の計15名ほどが出席します。
会議内容は2時間程で、その時間の大半を営業活動レビューに費やします。既存販売先への売上実績および翌月の販売目標。そして新規アタック先の目標件数と、その営業結果です。
引き続き、各案件に関する状況の説明や、質疑応答と進みます。しかしそれらの大半は、日々の活動の中で狭い社内にて伝わっていることです。
そして会議の終了時間が近づくと、社長から「まあ大変だとは思うが、しっかりやっていこう」の一言で会議は締めとなる。そんな、盛り上がりも起伏もまったくないルーチン会議が毎月くり返されていたのでした。
この月次営業全体会議での営業活動レビューなどは、書面で周知すれば済むことです。
また個々の案件への質疑についても、その多くは出席者全員で共有すべき必然性のある内容ではないことがほとんでした。つまりメンバーが勢揃いしたところでなされるべき必然性のある内容ではなかったのです。
まさに「会議のための会議」といった状態でした。実際、書記による議事録が翌日に共有されますが、ほぼ毎回、代り映えしない内容でした。
営業会議の抜本改善に取りかかる
実は、この緊張感のなさには理由がありました。
営業先の新規開拓に苦労はしていましたが、ある大手クライアントとの契約があったので、どこか切迫感に欠けるところがあったのでしょう。
しかし5年後、10年後に競合他社が台頭するケースを想定すると、一刻も早い営業基盤の構築は必須でした。そこで私は、社長から「組織づくり」の名目での承認を得て、営業会議の抜本改善に取りかかりました。
この推進において、社内から冷ややかな目線があったのは事実です。しかし営業スタッフの多くが20~30代とあって、40代半ばの私に真っ向から反目するほどの空気はありませんでした。
またこれまでと違うやり方や考え方に興味を持つスタッフが、少なからず現れたことも力強い応援でした。
この抜本改善では「2つのルール化」と「1つの意識改革」をテーマとして設定しました。
「2つのルール化」とは
ルール化の1つめは「会議資料の事前配布」です。
これについては、紙による配布でなく、WEB上でのチャットサービスを活用することにしました。そして各自の事前チェックにより、不明点や質問点を事前にスレッドにアップし、これについての会議の場での討議をルールとしました。
ルールを決めても、コメントの書き込みのないスタッフに対しては、議事進行役(当面は私)からの逆質問もルール化しました。逆質問されて答えに詰まるといった経験を経て、資料の事前チェックの読み込みと、コメントアップがなされるようになりました。
ルール化の2つめは「議事進行役の持ち回り制」です。
とかく発言者が一部に偏りがちでしたので、回毎に議事進行役を替えることで、当事者意識の啓蒙を図ることにしました。
形式的とはいえ、社長と役員がいる場です。議事進行役には、議事をスムーズに進行させる役目が自身の手に委ねられることになります。この役目を担うことで、当人の表情が一気に真剣味を増したものです。
この2つのルール化により、ある種の強制的な参加意識が生まれたようです。
というより、そうせざるを得ない状況に追い込んだということです。参加者にそれぞれの役割分担が課せられたことで、会議の熱量が大きく増加した実感があります。
効果的だった「1つの意識改革」
そしてなにより断然に効果的だったと確信したことがあります。それが「1つの意識改革」です。これは「その場でのみできることは何?」を常に考える意識作りです。
会議に置き換えれば、例えば「資料を読むこと」や「問題点を洗い出すこと」あるいは「解決策を考えること」などは、自分一人で可能なことです。
となれば、参加者が揃ってなければできないことは何か?
それは「全員で結論を出すこと」、この一点だけです。
・結論を出すためにすべきは何か?
・会議の始めるまでに済ますべきは何か?
ここに意識が及ぶようになり、各人それぞれの役割が自然と見えてきます。他者から指摘されても、なかなか当事者意識は湧いてきません。
むしろ心的なモチベーションより、必然性(理由)が浮かび上がることで、自然とヤル気が湧いてくるようです。そうした具体的な必然性をいかに見せるかが、会議の成否を分けるものと感じています。
とかく会議となると、不毛なものというイメージがありがちです。
しかし会議とは貴重な時間を費やすものです。しかも一人ではなく、参加者全員の時間です。
ここに大きな意義があるとに気づくことは、組織内で活動する人間にとって、実に重大な意味を持っているのではないでしょうか?
大のオトナがそれぞれの貴重な時間を持ち寄って成立する会議。ここにワクワク感と、共に臨める自身のイメージを持てたら、これほど充実した会社員生活はないとさえ思っています。
これは私の考えであると同時に、経験からの実感でもあります。