銀行のオンラインシステムの設計での失敗から得られたかけがえのない自信

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銀行のオンラインシステムの設計での失敗から得られたかけがえのない自信

システム開発

私は今の銀行に入行して36年程経ちました。当然その間に多くの失敗をしてきました。その中でも一番想い出深い、いや、心の傷ともなっている銀行全体に影響を与えてしまった大きな失敗があります。

それは41歳の頃、本部で、オンラインシステムの設計を担当していた時の話です。その時の私はあるプロジェクトチームのセクションリーダーでした。チームは男性の私を含む総勢30数人で、4割程度のメンバーが女性でしたね。

さて、私の社歴史上最大にして最悪のミスの話をします。

システムのごく基本的な部分に、システムに負荷が大きくかかる時の処理を適正化して、システムをダウンすることなく、稼働させるための処理があります。この処理に関して決定的なミスを犯してしまったのです。しかも、私が在籍していたプロジェクトチームの勝手な思い込みによるミスでした。

これを間違えると、25日や月末という大量の預金処理があった場合に、システムがダウンして日本全国の支店業務が麻痺することになります。深刻なミスです。

まだ設計段階ではなかったので、支店に影響はありませんでしたが、システム開発の段階でも致命的なミスには違いありません。

ミス自体は計算式を間違えるというケアレスミスとも言えるものでしたが、そのせいで、他のセクションの設計も見直さなければならなくなり、他のセクション(預金や融資等に携わっていたセクション)に大きな負担をかけることになってしまったのです。

担当した銀行員は元より、それに関わる外注業者にも大きな影響が出ました。1ヶ月ほどシステムに携わる全ての方々に多大の残業を強いる結果になり、当然その復旧費用も莫大でした。

これには呆然としました。取り返しのつかないミスです。

楽天的な性格の私ですが、さすがに落ち込みました。他のセクションからも、私のチーム全体が白い目で見られる日々が続きました。会えば、謝るばかり。そんな辛くて悲しい日々の中で、いっそ銀行を辞めようかと考えたことも何度もありました。

今まで銀行で、エリートコースを歩んできたというプライドはすっかり崩れ去っていたのです。

このミスは夢にまで現れて私を苛みました。そうして心身ともボロボロになったのです。自分のせいではない、チームのメンバーのミスなんだ。そう責任を押しつけようという気持ちも湧き出てきました。責任転嫁です。

大きなミスがあると、それが人間を立ち止まらせます。過去の自分を振り返りもします。そして、また落ち込みます。

そんな日々が毎日のように続くと、人間開き直るものですね。それが私にとって、仕事をする上でも、人間として生きる上でも大きな転機になったと気づいたのはつい数年前でしたが。

もう完全に開き直ったのです。人が何と言おうと、今の窮地を打開するんだという強い気持ちが心に生まれてきたのです。

きっかけは特になかったと思います。多分、逆境に沈んでいく自分が凄く醜いもののように感じたからなのだと思います。

そうなると俄然、楽天的な性格が頭をもたげてきます。同じように落ち込むメンバーを励まして、今できること、そして自分たちでなければできないことを皆で考えようと私は宣言したのでした。

宣言しながら泣いていましたね。皆も涙を隠しません。それは大きな試合前のラグビー選手の心境に似ていたと思います。

当時、私はあくまでもセクションリーダーで、私より地位が高い人も何人かいる中での宣言です。しかし、私は怯みませんでした。なぜか、自分の使命が明確に見えていたのです。

このチームをまとめて前に進めて、このミスを取り戻すのだ。考えるのはそのことだけでした。そして、それが結果的にチームの大きな転機となったのでした。

それからです。チームは一気に戦う集団になったのです。一度傷ついた人間が開き直ると強いですね。自分でもびっくりです。

もちろん、過去の問題から逃げた訳ではありません。過去の何が悪かったのか、皆が落ち込みながらも考えていました。問題を解決するためにはどうしたら良いか、それを一気に実行に移し始めました。

私自身もシステムの本を読み漁りました。知識はきっと大きな味方になってくれると信じたからです。

そして、他のプロジェクトチームとの会議でも、不明点があれば徹底的に議論するようにしました。今までは会議で静かだった我々のチームが積極的に会議に加わろうとするようになりました。時には声を荒らげるくらいの、戦う火のような集団になったのでした。

次第に周りの人の白い目も変わってきました。そして、次第に信用と信頼が戻ってきました。いや、それどころではなく、ことあるごとに頼りにされるようになったのでした。

残念ながらミスで失った損失は如何ともしがたいものでしたが、それに変わるもの、勉強や経験からもたらされた裏づけのある自信は、銀行の大きなシステムを作る上で、目に見えないプラスの影響を与えたと今は自負しています。

人間は残念ながら失敗する生き物です。しかし、人間の一番の特徴は、失敗を糧にできる能力を備えている点だと思うのです。失敗してから自分がどう振る舞うかが大きなポイントだと思います。

落ち込むことや、酒を飲んで現実逃避をするのも良いでしょう。しかし、そこで立ち止まってばかりいるのはつまらないことです。なぜなら失敗が人間を進化させるということがままあるからなのです。大事なのは落ち込んだ後にどう歩き出すかなのではないでしょうか。そのためには基礎を固めることですね。

知識という基礎はとても大きな味方であり、力となります。勉強は怠らないようにすべきだと思います。また、分からないことを分からないままにしないことも大事です。恥ずかしがらずに分からないことがあった時には、すぐに聞きましょう、調べましょう。それが力になります。

意外とそれができない人が多いのです。プライドが邪魔をするのでしょうね。しかし、そんなプライドは、不要な安っぽいものなのではないでしょうか。

仕事は退屈なものです。その日その日がなんとかなれば良いと思いがちになることも多々あるものです。しかし、そんな日々の中でも努力して自分を成長させていくことで成功を得られるでしょうし、一人の人間として生きる上での大切なものを身につけることが可能だと思うのです。

失敗を山ほどしてきた私ですが、今の自分を振り返ると自信を持ってそう言えるのです。