今から約10年前の話です。私は特別養護老人ホームで介護の仕事をしていました。福祉系の女子大学に通い、大学卒業時に社会福祉主事の資格を取得して、新卒で就職しました。ヘルパーや介護福祉士の資格については取得しないままの就職でした。当時、23歳でした。
施設内では比較的介護度の軽い利用者がいる部署に配属され、介護職員として仕事をしました。実は、私には完治が難しい持病があります。当時は、自分に持病があることがわかったばかりの頃でした。
私はとりあえず働けることに感謝して、同僚や上司に心配や迷惑をかけないように、利用者が穏やかで過ごせるような介護をしようと介護技術を学んでいきました。
職場はフレンドリーな環境でした。悩みも話せば聞いてもらえるし、注意すべきところはきちんと注意してもらえました。私はこの職場で介護職員としてだけでなく、社会人としても育ててもらえたと思っています。
ただ、介護技術については学生の頃に簡単に教わった程度でしたので、実践についての自信がありませんでした。実践に自信がないまま、仕事をする中でいろいろと悩みも出てきました。
悩みながら介護をしていると事故の元になります。事故など起こしたら、それこそ周りに迷惑をかけてしまいます。介護の事故は命に関わることなので、とても怖いです。ですので、悩みをどう解消するかは私にとって大きな課題でした。
悩みの一つは、自分の介護技術が現場では役に立たないということでした。さらに実践経験が少なかったため、自分の介護技術が現場で役に立たないことに気づくのが遅くなってしまいました。
たとえば、私は力を入れなくても介護できると学習していましたが、実際にはそうではありませんでした。私は平均身長よりもずいぶんと低く、さらに力もありません。
自分に最低レベルの力もないことで、利用者に不安を与えてしまいました。また、同僚には同じくらいの身長の人がいるので、その人のやり方を真似してみたら、腰を痛めてしまいました。
同僚は、ヘルパーの資格を取ったときに、どの方法で仕事をしたら腰を痛めないかを考えたそうです。腰痛は、介護の職業病として有名です。気をつけていないとすぐに腰痛になってしまいます。
ベッドから車椅子への移乗やその逆もあります。トイレでの移乗も日に何度もあります。利用者の数が多ければ、さらにその回数は増えます。何度もくり返す動作ですので、無理をすれば腰痛になるのは当たり前のことです。
私は腰痛のことも考えずに、やみくもに仕事をしていました。その結果、クレームが出てしまいました。私に介護をされるのは不安だということで、利用者からやんわりと退職を勧められたこともあり、辛かったです。介護は人と人との関わりの仕事ですので、生身の精神状態で接すると自分の精神を病むこともあると知りました。
また、介護の現場で働いてみて一番感じたことは、ヘルパーの資格を事前に取得しておけばよかったということです。働きながら取得できると安心して、事前に取得しなかったことで、トラブルも起きてしまいました。
具体的には、介護系の資格がないことを利用者に気づかれてしまいました。利用者は、プロに頼むということでお金を払って入所しています。介護系の資格がないことで、利用者との信頼関係が築きにくくなりました。
何でもそうですが、場数を踏んだ人は学習しただけの人よりも自信を持って行動できます。その自信に溺れてはいけませんが、自信を持って行動することで、少なくとも利用者にも安心感を与えることはできます。
仕事を始めたばかりの頃は実践経験が少ないので不安です。ですが、実践経験が少ないことによる不安は、事前に資格を取得しておくことである程度解消できただろうと思いました。
介護は人と人とのやり取りです。物を運ぶわけではないので、利用者に不安を与えるようでは仕事になりません。人と関わりたい、高齢者と関わりたいと思うのは素敵なことですが、その現場で自分はどう動けるのか、そのアピールのためにもヘルパーの資格を取得して、利用者に安心してもらえるようにすることは大切だと思いました。
ヘルパー資格の学習については、現場で解消したい事柄を箇条書きにして持ち歩いて勉強しました。教わったことを現場で理解することも資格取得の一つの意味だと思ったからです。
学習したことについて自分で納得することに加えて、疑問点をいつでも人に聞けるようにしておくと、スムーズに身に着けられます。せっかく現場で仕事しながら資格を取得しようとしているので、人に聞くことのできる機会を無駄に逃すのはもったいないと思いました。
ヘルパー資格がないと利用者に安心感を与えられないことは、働いてみて初めてわかったことでした。そして、できるなら時間に余裕のある学生時代に取得すればよかったと思ったことが資格取得についての私の一番の思い出です。