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「持ち味を活かす経営支援-選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」

「持ち味を活かす経営支援-選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」

投稿者
  2021年7月20日

持ち味を活かす経営支援

「知的資産経営」とは何でしょうか。
経済産業省が「知的資産経営報告の開示ガイドライン」を公表したのが2005年10月。
中小企業への知的資産経営の導入が提唱されました。

それから16年が経過しましたが、現在でも「知的資産経営」が広く知られているとは言いがたいことは、とても残念なことです。

「持ち味を活かす経営支援-選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」は知的資産経営について書かれた本です。

著者の森下勉先生は、 知的資産経営の第一人者です。その森下先生が 知的資産経営の支援現場で得られた知見を元に書かれたのが本書です。

主に支援者に向けて書かれた本ですが、中小企業経営者にも参考になる内容です。要点を抜粋してご紹介します。


1. 知的資産とは。知的資産経営とは

まず「知的資産」とは何でしょうか。
事業が成立するためには、事業がお客様に何らかの価値を提供する必要があります。
その価値を提供できる要因にはいろいろあります。
メーカーの場合は、一つには保有設備でしょう。
小売店の場合は、一つには立地でしょう。

さまざまな価値を提供できる要因のうち、目には見えにくい無形の資産のことを「知的資産」と言います。具体的には、技術ノウハウ、組織力、ネットワーク、特許、ブランド、人材、経営理念などがあります。

これらの資産(強み)は企業が事業活動を行う中で育まれ、蓄積されてきたものです。ところが、その企業にとって、これらの資産(強み)が日々の業務に根づいたものであればあるほど、当たり前のものとなり、その存在が自覚されにくくなります。

この見えにくい無形の資産(強み)を自覚し、育成強化・活用することで、業績向上を図る経営のことを「知的資産経営」と言います。

さまざまな知的資産は、その特徴から大きく「人的資産(人財資産)」、「組織資産」、「関係資産」の3つに大別されます。

資産名 内容 特徴・留意点
人的資産
(人財資産)
人に依存する資産 特定の人の人脈・ベテラン社員の勘・経験値・ノウハウ・スキル等 強みを持つ人の退職などで失われる
組織資産 組織のしくみとして定着している資産 システム・マニュアル・データベース・技術等 意図して共有・蓄積することが必要
関係資産 対外的な関係性にある資産 顧客との信頼関係・独自の仕入ルート・同業ネットワーク等 戦略的な形成が求められる

3つの知的資産は、多くの場合、それぞれ関連し合い、企業の価値提供を支えています。

3つの知的資産

面白いのは、知的資産経営の取組みを始めた企業の社員が、人的資産、組織資産、関係資産という言葉を日常会話で使うようになるところです。たとえば
「この強みは人的資産だから、組織資産にしていかないとね」
「あの会社はウチの大事な関係資産。とてもお世話になっています」
といった感じです。

言葉は思考を形作ります。共通言語の存在は共通意識の形成につながりやすいのです。

2. 知的資産経営報告書とは

知的資産経営では、自社の知的資産の育成強化や活用を通じて、業績向上を図ります。

このときにステークホルダーに向けて、自社の知的資産や知的資産を活用した将来の価値創造(=ビジョン)を開示・共有するために作成する資料のことを「知的資産経営報告書」と言います。

「知的資産経営報告書」については、2005年10月に策定された経済産業省の「知的資産経営の開示ガイドライン」で以下のように説明されています。

1.知的資産経営報告の基本的な目的
① 企業が将来に向けて持続的に利益を生み、企業価値を向上させるための活動を経営者がステークホルダーにわかりやすいストーリーで伝え、
② 企業とステークホルダーとの間での認識を共有する。

2.基本的な原則
次のような共通的な原則を満たすものであることが望ましい。
① 経営者の目から見た経営の全体像をストーリーとして示す。
② 企業の価値に影響を与える将来的な価値創造に焦点を当てる。
③ 将来の価値創造の前提として、今後の不確実性(リスク・チャンス)を中立的に評価し、それへの対応につき説明する。
④ 株主のみではなく自らが重要と認識するステークホルダー(従業員、取引先、債権者、地域社会等)にとって理解しやすいものとする。
⑤ 財務情報を補足し、かつ、それとの矛盾はないものとする。
⑥ 信憑性を高めるため、ストーリーのポイントとなる部分に関し、裏付けとなる重要な指標(KPI)などを示す。また、内部管理の状況についても説明することが望ましい。
⑦ 時系列的な比較可能性を持つものとする。(例えば KPI は過去2年分についても示す。)
⑧ 事業活動の実態に合わせ、原則として連結ベースで説明する。

「知的資産経営の開示ガイドライン 」(経済産業省)

なお本書では、知的資産経営報告書の活用方法として以下を説明しています。

区分 開示対象 開示目的
内部 社員 将来ビジョンの社内周知・ベクトル揃え・社員教育
後継者 事業承継
外部 新規顧客 販路開拓
既存関係先 関係性強化
就職希望者 採用
金融機関 事業性評価

知的資産経営報告書の伝えるツールとしての活用

3. 知的資産経営の取組み手順は

では、知的資産経営に取り組むときにどのような手順で取り組めばいいのでしょうか。本書では、以下の手順が紹介されています。

① 社内外の知的資産を洗い出し、
② 顧客の「なりたい明日」(その先の顧客への提供価値)を明確に捉え、
③ 他社との違いや、顧客利便価値に向かう各資産の価値を評価し、
④ その違いを繋げ、とがらせる活動(戦略)を決め、
⑤ それを実践し、見直して次の活動を行うこと。

上記手順に「顧客利便価値」という言葉が出てきます。そして、顧客利便価値を明らかにするための視点として以下が記載されています。

1) 顧客が自社を選んでいる理由は?
2) 顧客が「なりたい明日」は何か?
3) 顧客が自社を選んだ結果、どう変わっているか?

では、顧客利便価値を明らかにすることでどんなメリットがあるのでしょうか。顧客利便価値を明確化することによるメリットとしては以下が説明されています。

1) 競合が明確になる。
2) パートナー先が明確になり、新たな事業展開が容易になる。
3) ターゲット市場の絞り込みや選定に正確さが生まれる。

共有

4. 知的資産経営を実践する企業の事例

本書は、中小企業に対して知的資産経営支援する人を主な読者として書かれています。そのため、用語などはやや難しいところもあります。

同時に本書には、知的資産経営を実践する中小企業者の生の声が掲載されています。

なぜ知的資産経営という取組みが必要なのか。知的資産経営を実践するとどうなれるかが当事者の言葉でわかりやすく説明されているのでご紹介します。

(1)有限会社うらい 川村将紀氏

一社目は、有限会社うらいの川村将紀氏です。 有限会社うらいは兵庫県加古川市で、黒毛和牛の専門店「和牛うらい」を経営されている会社です。

「和牛うらい」 は周囲は住宅や田畑という郊外立地ながら、一店で年商5億という繁盛店です。

【有限会社うらい 川村将紀氏】
「これから報告書の作成をお考えの方や、実際に作成に携わる方は、経営者または経営陣であるかと思います。競争、変化の激しい現代社会において経営者や経営陣の皆さまは様々な取組みやサービス・製品を開発し、今日まで会社を存続されてきていると思います。

では、それらの情報を社内で共有できていますか?
それらの情報は整理、分類されていますか?
誰でも扱うことはできますか?(中略)

報告書により明らかにされた自社の中核事業に、今までにない取組みを融合させれば新しい価値が生み出され、それが企業を成長させる力となる、と実感することができました。

変化と成長なき企業は必ず時代に淘汰されます。時代の変化とともに企業は絶えず製品を磨き、新しいサービスを生み出し、業態を変化させていきながら成長を続けていく。(中略)

自社の事業を可視化し、俯瞰的に見ることは本当に楽しいです。むちゃくちゃ面白いです。やらな損です。

もともと楽しかった仕事が何倍も楽しくなりました。好きになりました。皆さまも絶対取り組んでみてください。まずやってみてください。」

川村氏の「自社の事業を可視化し、俯瞰的に見ることは本当に楽しいです。むちゃくちゃ面白いです」という言葉、知的資産経営に取り組んだ多くの方が言われる言葉です。

日々の業務では、自社の課題に焦点を当てて考えることが多いのではないかと思います。

知的資産経営は、できていること、うまくいっていることは何?という視点で考えます。良いところや強みに焦点を当てて考えるので、前向きな気持ちになりやすいのです。

「知的資産というフレームで自社を再発見するようで面白い」と言われた方もおられます。

そして今回、 知的資産経営との出会いがご自身をどう変えたのか、川村氏からメッセージをいただきました。とても素敵な文章なのでご紹介します。

【有限会社うらい 川村将紀氏】
森下先生にお会いできて、180度仕事に対する姿勢が変わりました。正しい努力の方向性といいますか。今まで何でもがむしゃらに取り組んできたとは、自負していますが、それが正しいのか、会社組織にとって、従業員にとって喜ぶべき事だったかは、違うと今なら言えます。今は、店長として、目指していた場所に、少しずつではありますが、進んでいけていると感じています。

以前は多分、全てを自分自身が背負い込み、俺は忙しい、なんで皆はわかってくれないんだ、と負の感情に支配されていました。そんな姿の店長に誰が憧れ、背中を追いたいと思うでしょうか。僕ならご免ですねwww

今は、楽しく、そして正しく仕事に向き合えていると思います。見えない力こそが 実は一番仕事に影響しているとは。人生は奥深いですね~。

ご自身の心のあり様が変わり、物事への向き合い方が変わったことで「 楽しく、そして正しく仕事に向き合えている」とのこと。素晴らしい気づきです。

知的資産経営では、価値の連鎖を示す価値連鎖図(価値活用ストーリー)を作成します。価値連鎖の起点になる資産は、理念や会社の経営方針であることが多いです。

なぜなら、中小企業では、経営者のあり方や意思が会社のあり方や取り組みに大きな影響を及ぼすためです。店長である川村氏のあり方の変化が会社に大きなプラスの変化を与えているということでしょう。

有限会社うらい様がこれからどのような取り組みをされ、どのように進化していかれるのか。今後がますます楽しみな企業様です。

知的資産経営

(2) 有限会社大濱 大濱圭右氏

もう一社は、 有限会社大濱の大濱圭右氏 です。有限会社大濱は、兵庫県加古川市で海苔の養殖業を営む会社です。

(なお、有限会社うらい様、有限会社大濱様とも兵庫県加古川市の会社である理由は、両社とも但陽信用金庫様の取引先であるためです。 但陽信用金庫様は兵庫県加古川市で知的資産経営支援に注力されている信用金庫様です)

【有限会社大濱 大濱圭右氏】
「知的資産経営に取り組んだきっかけは、父の世代からのスタッフが会社から離れ、一からのリスタートの際、私自身に疑問が生じたことがきっかけでした。

少人数で営んでいる会社であるにもかかわらず、バラバラで意思疎通もできない状況であったため、会社の見える化や自社の強みを再認識する必要性を考えました。(中略)

これだけは言わせてください。知的資産経営報告書完成のために100%の力で取り組めば、完成後ふり返ったときに後悔は絶対しません。

大学卒業後サラリーマンからの転身で地元にもどってきた私ですが、私が入社した時、当社は6,000万円の債務超過に陥っていました。(中略)

しかし、知的資産経営報告書との出会いが、私の人生を180度変えた瞬間でした。

作成後は、仕事をやらされている感覚から自主的に考えて活動するようになり、会社を愛せるようになりました。

結果、スタッフに法人設立後、初めてボーナスを渡せるようになりました。設備投資もでき、どんどんと職場環境が良化していきました。(中略)

自社がどうあるべきか、たくさん悩まれている経営者の方々がいると思います。ぜひ一度、自社の決算書には記されていない財産を探してみてはいかがでしょうか?(中略)

私をはじめスタッフ一同、日々の仕事に加え知的資産経営報告書作成の時間を作り、進めることは非常の体力のいる仕事でしたが、完成後は全員がやってよかったとお思える報告書となり、社員が平等に意見を言い合い、それぞれの想いを聞くことのできる大切な時間が得られました。

そして何より、ビジョンが明確化され、具体的に行動に移せるようになったことが大きな成果です。」

大濱氏は「会社の見える化や自社の強みを再認識する必要性を考えた」とのことです。社員とともに取組んだ過程で意見を言い合うことができ、考え方の共有化が進んだのことで、取り組むプロセス自体に意義があることがわかります。

有限会社うらい様、有限会社大濱様、両社とも後継者の方が知的資産経営に取り組むことで、自社の知的資産(強み)に自覚的になり、顧客に「選ばれ続ける」ために何に取り組むか。主体的に考えられるようになっていかれたことが窺えます。

本書の副題は「選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」です。 事業継続に必要なことの第一は、顧客に「選ばれ続ける」ことです。

そのためには、今ある強み(知的資産)に自覚的になり、知的資産を強化育成することや活用することが必要です。事業環境の変化に合わせて、新たな強みを作り出すことも必要でしょう。

本書は、知的資産経営支援に関わる人のみならず、自社の経営強化を考えたい方や事業を承継予定の後継者の方にとっても、取組みのヒントが見つかる本です。

5. 「持ち味を活かす経営支援」 概要

「持ち味を活かす経営支援-選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」の概要は以下の通りです。

序章 知的資産経営と事業の理解
1.寄り添う支援
(1)知的資産、知的資産経営
(2)寄り添う支援
2.地域を発展させる
第1章 知的資産経営を進めるためのツール
1.知的資産経営を進めるためのツールとその考え方
2.ええとこ活用経営Ⓡのポイント(ストーリー化)
(1)木・花・実の成果は根っこ
(2)知的資産の分類
3.BEN’s メソッドⓇ
(1)BEN’s メソッドの全体図
(2)ワークシートに詳細を記載する
(3)まとめ
4.ええとこ活用経営Ⓡ(BEN’s メソッドⓇミニ版)
(1)ええとこモデル
(2)ええとこ探シートⓇ
(3)資産リスト
(4)ストーリー化
(5)変化予測雹とアクションプラン
(6)戦略レポート
(7)知的資産経営報告書の作成
第2章 価値についての考証
1.価値とは
(1)価値とは
(2)ジョハリの価値
(3)違い発見マトリクスⓇ
(4)WHYの5段活用Ⓡ
2.価値の循環
(1)後藤新平の言葉
(2)KPIの考え方(KAI-KRI)
(3)顧客からいただく価値(顧客フィードバック価値)
第3章 知的資産経営の取組手法
1.自社ならではの知的資産を見つける3つの手法
(1)業務プロセスからのアプローチ
(2)製品・サービスからのアプローチ
(3)沿革からのアプローチ
2.知的資産の価値評価
3.将来ビジョンの確立
4.経営デザインシートにまとめる
5.知的資産経営をマネジメントツールとして活用する
(1)マイルストーン
(2)アクションプラン
6.15 分で取り組んだ「ええことSTEPⓇ」演習事例
第4章 理念の戦略
1.キリンビール高知支店
2.丸亀製麺
第5章 江戸期の経営哲学に学ぶ
1.二宮尊徳
2.山田方谷
3.尊徳と方谷
第6章 ええとこ活用経営事例
1.有限会社うらい
(1)企業概要
(2)特長(知的資産)
(3)沿革
(4)取組み内容
(5)将来に向けた取組み
2.有限会社大濵
(1)企業概要
(2)沿革
(3)取組み内容
(4)将来に向けた取組み
3.丸和運輸株式会社
(1)企業概要
(2)沿革
(3)取組み内容
(4)今後のビジョン
(5)価値向上のポイント
4.株式会社三鷹倉庫
(1)企業概要
(2)取組み内容
(3)将来ビジョン
(4)プロジェクトメンバーからのメッセージ
5.有限会社ヤナギオートサービス
(1)企業概要
(2)理念~YANAGIの考え~
(3)取組み内容
(4)成果
第7章 金融機関による知的資産経営への取組み
1.但陽信用金庫における取組み
(1)但陽信用金庫の概要ときっかけ
(2)取組み内容
(3)成果
2.尼崎信用金庫における取組み
(1)尼崎信用金庫の概要
(2)取組み内容
(3)成果
3.岐阜県信用保証協会における取組み
(1)岐阜県信用保証協会の概要
(2)岐阜県信用保証協会の取組み
(3)岐阜県信用保証協会による知的資産経営報告書の策定支援事例
(4)岐阜県信用保証協会と岐阜商工信用組合の共済による価値創造セミナー
第8章 持続的発展のために
1.利き脳に着目する
(1)右脳・左脳の働き
(2)右脳・左脳の有効な使い方
2.K-K-K サイクルⓇ
3.KET Ⓡで人材育成
4.皮膚感覚
第9章 森下勉のつぶやき~ Facebook の徒然に(2018年4月から)
おわりに

「持ち味を活かす経営支援-選ばれ続けるための知的資産経営のすすめ」(森下勉氏・2021年6月14日発行)

持ち味を活かす経営支援

※知的資産経営の詳細については以下の記事も合わせてご参照ください。

「事業性評価融資とは?ローカルベンチマークとは?経営力向上計画とは?」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

「顧客が自社を選ぶ理由は?経営戦略を立案するときに考えるべきこと」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

「会社の強みの全体像を視覚化する価値活用ストーリーとは」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

「自社の独自の強みに注目する『知的資産経営』が組織活性化につながる5つの理由とは」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

「採用ツールとしても使える!自社の価値を見える化する
 『知的資産経営報告書』の5つの活用方法とは」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

「知的資産経営を成果につなげるための6つのポイントとは」
https://vision-cash.com/chiteki/points-for-achievements/

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この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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自社の強みを活かす知的資産経営

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