組織が成果をあげるためには「心理的安全性」が重要という考え方があります。
一方で
「心理的安全性も大事かもしれないけど、数字も大事」とか
「心理的安全性まで言われると、上司から部下への指導もしにくい」
なんて話をお聞きすることがあります。
「心理的安全性」についてどうも誤解があるのではないでしょうか。
「心理的安全性」とは何なのか。わかりやすく解説します。
Contents
1.「コロンビア号の悲劇」とは
スペースシャトル「コロンビア号」の悲劇の背景にあったもの。
それは心理的安全性の欠如でした。
2003年1月16日、ケネディ宇宙センターから、スペースシャトル「コロンビア号」が打ち上げられた。
その翌日、ロドニー・ローシャというエンジニアが打ち上げのビデオ映像を見た。そして、シャトルの外部燃料タンクから断熱材が剥がれ落ちて、左翼を直撃したことに気づいた。
ローシャはその破片の大きさと位置を不安に思った。
ローシャはダメージの有無を判断するには、偵察衛星から撮影したシャトルの写真が必要と考えた。そこで、衛星からの写真が必要と考える理由を書いて、上司にメールを送った。
上司はローシャの意見に同意しなかった。ローシャは、自分よりも地位の高い人に意見して、気を悪くすることを恐れた。
その結果、チームの定例会議で自分の懸念を口にすることをせず、他の誰かがこの問題を指摘してくれるのを待った。そして、この問題は公式に検討されることなく、時間が過ぎた。
8日後、コロンビア号は大気圏に再突入する際に燃え上がった。乗っていた7人の宇宙飛行士は、その全員が命を落とした。
その後ずいぶん経って、ABCのニュースキャスター、チャーリー・ギブソンが関係者にインタビューをした。
「なぜ、シャトルの安全性についての懸念を口にしなかったのか」
そう尋ねられたローシャはこう答えた。「そんなことはできませんでした。私がいるのはピラミッドのずっと下の方。そして、チーム・リーダーのリンダ・ハムははるか上の人ですから」
「チームが機能するとはどういうことか―『学習力』と『実行力』を高める実践アプローチ」(エイミー・C・エドモンドソン著)から抜粋して引用。
同書には、他にも類似の事例がいくつか紹介されています。
ある看護師は、入院患者に対する投薬する薬の量が多いのでは?と一瞬思った。医者に電話して確認しようか?とも思ったが、すでに夜の遅い時間帯である。医者はきっと眠っているだろう。
看護師は前回、電話したときに医者に言われた非難がましい言葉を思い出す。そして結局、電話して確認することをやめてしまった。
ある若いパイロットは、軍の練習飛行中、先輩パイロットである上官が重大な判断ミスをしたかもしれないと気づいた。しかし、上官は自分よりも階級が高い。さらには、上官は自分の評価者でもある。
そんな相手にはっきりモノを言うなんてできないと考えてしまった。
ある会社の新任役員は、会社が進める企業買収計画に疑問を感じた。しかし、経営幹部メンバーの中で自分は新参者である。会社の事情に明るいわけでもない。そして、他の幹部は全員、この計画に乗り気である。
この雰囲気の中で、自分一人が懸念を表明することはできないと感じ、何も言わず企業買収は進み、結果として、失敗に終わってしまった。
これらの事例に共通するものは何でしょうか。
著者はそれを「対人不安」だと言います。そして、多くの組織で、対人不安が原因で、まずい意思決定がなされたり、実行すべきことが実行されないという事態が起きていることを指摘しています。
では、なぜ組織の中で、そのような対人不安が起きやすいのでしょうか。
その理由の一つは、周囲から悪く思われて、仕事がしにくくなるのがイヤだからです。無用な言動によって、周囲の人たちから、批判的と思われたり、ネガティブと思われたり、無知と思われたりすることはしたくないと人は思います。
もう一つは、上司から悪く思われて、昇進や昇給でマイナスになるのを避けたいからです。上層部の人たちに悪いイメージを持たれることは避けたいと思う。そのために、率直な意見を述べて、悪く思われるくらいなら、何も言わない方が安全だと思ってしまう。
そして、これは、職場の雰囲気が悪いときだけに起きる問題ではなく、職場の雰囲気がよいときにも起きがちな問題です。なぜなら、結束力が強い組織では、ことさらに和を乱す言動を取りたくないと人は思いがちだからです。
周囲の人たちの意見が一致しているときに、自分だけ違う意見を言うことで、「協調性がないヤツとは思われたくない」、「余計な波風を立てたくない」と思ってしまうのです。
チームに結束力があることで、周囲とは違う意見を言いにくいという心理に陥ってしまうのです。
こうした問題を緩和するために必要なことが「心理的安全性」です。
2.心理安全性による7つのメリットとは
「心理的安全性」とは、自分が思うところを気兼ねなく発言できる雰囲気のことです。自分が何か質問したときや意見を言ったとき、提案したときに、否定されない。非難されない。馬鹿にされないと一人一人のメンバーが思える状態のことです。
もっと平たくいうと、言いたいことが言える。聞きたいことが聞ける状態です。
現場の社員にはいろんな気づきがあります。それなのに、上司の顔色を見て、言いたいことが言えないとしたら、どうなるでしょうか。
上司のもとに正確な情報が集まらず、間違った意思決定がなされたり、あるいは、必要な意思決定がなされないかもしれません。
あるいは何か質問したときに「そんなことも知らないのか?」と呆れられたり、馬鹿にされることがあるとしたら、どうでしょうか。
相談したいことも相談しにくくなります。その結果、無用な失敗につながったり、会社に損害を与えるようなことも起きてしまうかもしれません。
心理的安全性は、組織が成果を出すために最も重要な要件です。
「チームが機能するとはどういうことか―『学習力』と『実行力』を高める実践アプローチ」(エイミー・C・エドモンドソン著)では、職場に心理的安全性があることのメリットとして以下の7点をあげています。
- アイデアや疑問や懸念について率直に話しやすくなる。
- 対人不安がないことで、考えが明晰になる。
- 意義ある対立を恐れず、課題や問題点を指摘し合えるようになる。
- 失敗の報告がしやすくなり、失敗を無用に恐れなくなる。
- 斬新なアイデアが提案しやすくなり、イノベーションが促進される。
- やる気が刺激され、目標の達成に集中できるようになる。
- 自分が尊重されていると感じられ、責任感が向上する。
3.心理的安全性を高めるためのリーダーの行動とは
では、組織を心理的安全性のある場にするには何が必要なのでしょうか。もっとも大きな役割を担うのが組織のリーダーです。
「チームが機能するとはどういうことか―『学習力』と『実行力』を高める実践アプローチ」(エイミー・C・エドモンドソン著)では、心理的安全性を高めるためのリーダーシップ行動として、以下の8つをあげています。
- 親しみやすく、話しやすい人になる。
- 自分の知識の限界を認める。
- 自分もよく間違うということを認める。
- 積極的な参画を促す。
- 失敗は学習の機会であることを伝える。
- 具体的ですぐに行動に移せる言葉を使う。
- 望ましい言動を明確にする。
- 望ましい言動でなかった場合、公正に対処する。
組織のリーダーが話しやすいこと、自分にも知らないことがあり、間違うこともあることを認めていること、メンバーの積極的な参画を促していること、失敗を罰するのではなく、学習の機会であることを伝えていること、具体的な言葉を使っていること、望ましい言動を明確にして、そうではない場合、公正に対処していること。
これらが組織の心理的安全性を高めることにつながるということです。
組織文化をつくるのは組織のリーダーの役割なのです。
4.Googleのプロジェクト・アリストテレスとは
「チームの心理的安全性」とは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンソン氏が提唱した考え方です。
そしてこの「心理的安全性」という言葉が大きくクローズアップされたのは、2012年に開始された、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」という活動によってです。
このプロジェクトの目的は、成果につながるチームの要件を見つけることでした。
このプロジェクトによって、わかったこと。それは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」の方が重要ということでした。
そして、調査の結果、「効果的なチーム」の具体的な要件としてあげられたのが、心理的安全性、相互信頼、構造と明確さ、仕事の意味、インパクトの5点です。
1.心理的安全性(psychological safety):チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる。
2.相互信頼:チームメンバーは他のメンバーが仕事を高いクオリティで時間内に仕上げてくれると感じている。
3.構造と明確さ:チームの役割、計画、目標が明確になっている。
4.仕事の意味:チームメンバーは仕事が自分にとって意味があると感じている。
5.インパクト:チームメンバーは自分の仕事について、意義があり、良い変化を生むものだと思っている。
出典:Google「効果的なチームに固有の力学を突き止める」
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/identify-dynamics-of-effective-teams/
そして、この5つの中で最重要とされたのが「心理的安全性」です。
Googleは「心理的安全性」を以下のように説明しています。
心理的安全性とは「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動を取っても、このチームなら大丈夫」とメンバーが思える状態のことです。心理的安全性の高いチームでは、メンバーは不安を感じることなく、自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露することができます。そうしても、誰も自分を馬鹿にしたり、罰したりしないと信じられるためです。
(Google「効果的なチームに固有の力学を突き止める」より引用)
Googleによると「心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、『効果的に働く』とマネージャーから評価される機会が2倍多い、という特徴があった。」とのことです。
Googleは「チームの心理的安全性を高めるには」というレポートで、組織のリーダーが取るべき行動を具体的に示しています。わかりやすいので、やや長いですが、以下に引用します。
5.Googleによる「チームの心理的安全性を高めるには」
(1) 積極的な姿勢を示す
●「今」を大切にし、目の前の会話に集中する。(例: 会議中はノートパソコンを閉じる)
● チームメンバーから学ぼうという意欲を持って質問をする。
● 自分の意見を述べる。対話的なコミュニケーションを心がける。傾聴の姿勢を示す。
● 積極的な姿勢を示すため、返答するときは言葉で返す。(例: 「なるほど。詳しく説明してもらえますか?」)
● 体の動きや仕草に注意する。話を聞くときは少し体を乗り出すようにするか、相手の方に顔を向ける。
● 会話の当事者として積極的に話を聞いていることを示すため、相手と目を合わせる。
(2) 理解していることを示す
● 互いの理解が一致していることを確認するため、相手の発言内容を要約する。(例: 「あなたがおっしゃったのは…ということですね?」)。その後で、同意できる点、できない点を示し、グループ内で率直に意見を交わす。
● 話の内容を理解したことを言葉で示す。(例:「なるほど」、「おっしゃることはわかります」)
● 責めるような言い方(例: 「なぜ、そんなことをしたのですか?」)ではなく、解決策に焦点を当てる。(例: 「できることを考えましょう」、「皆で協力しましょう」)
● 気づかぬうちに否定的な表情(苦い顔や不愉快そうな顔)を浮かべていないか注意する。
● 会話中や会議では、話を聞いていることを示すためにうなずく。
(3) 対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す
● 自分の仕事の進め方や好みをメンバーに伝え、メンバーにも同じように自身のやり方を皆に伝えるよう促す。
● メンバーのために時間を割く。(例: 1対1の定例外の会話、意見交換、キャリアに関するコーチングのための時間を作る)
● 定期的な打ち合わせや会議とは別に定例外の会議を開く場合は、会議の目的を明確に伝える。
● メンバーの貢献に対して感謝の意を示す。
● メンバーが他のメンバーについて否定的な言葉を口にしたときは間に入る。
● 相手に対して開かれた姿勢を取る。(メンバー全員に顔を向ける。誰かに背中を向けることはしない)
● メンバーと親密な関係を築く。(例:メンバーと仕事以外の話をする)
(4) 意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す
● メンバーに意見やフィードバックを求める。
● 人の話を妨げない。妨げようとする人がいれば間に入り、元の発言者に話を続けさせる。
● 意思決定の根拠や経緯を説明する。
● 他メンバーの貢献を認める(例:メンバーが成功や意思決定に貢献した場合は、その事実に言及する)
(5) 強情にならない範囲で自信や信念を持つ
● チームのディスカッションをコントロールする。(例: 会議での雑談を認めない。意見の対立が個人間の対立に発展しないようにする)
● チームをサポートする。チームを代表して行動する。(例: チームの成果を上級役員に伝える。メンバーの功績を認める)
● 自分の意見に対して、メンバーが別の意見がある場合、反論したり異論を唱えるようメンバーに促す。
● 自分の弱みを見せる。仕事や失敗に関する自分の個人的な考え方をメンバーに伝える。
● リスクを取るようメンバーに促し、自分でも実践してみせる。
出典:Google「心理的安全性を高める」
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/foster-psychological-safety/
6.金融庁が心理的安全性を重視する理由は
そして、2019年8月に金融庁が発表した「金融行政のこれまでの実践と今後の方針(令和元事務年度)について」にも「心理的安全性」という言葉が使われています。
当局は、確固たる経営理念の下での戦略・計画の実行、PDCAの実践状況等について、地域金融機関の各階層(経営トップから役員、本部職員、支店長、営業 職員) 、社外取締役との探究型対話を実施。
対話に当たっては、心理的安全性を確保することに努める。
※心理的安全性:一人ひとりが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる場の状態や雰囲気。
「金融行政のこれまでの実践と今後の方針(令和元事務年度)について」(令和元年8月 金融庁)出典:https://www.fsa.go.jp/news/r1/190828_summary.pf
ここで重要であるのが、金融庁が「心理的安全性」を重視する理由です。
「新たなモニタリングの実践」の箇所に「実効性ある対話を行うため、心理的安全性を確保することを重視」という文言があります。
つまり心理的安全性を確保するのは、実効性のある対話を行うためです。つまり取り組みが成果を上げるために心理的安全性が必要ということです。
組織の成果と心理的安全性の確保は相反するものではなく、同じベクトルの線上に位置づけられるということが金融庁の考え方と見ていいでしょう。
なお、日本キャッシュフローコーチ協会では、心理的安全性の確保された場のことを「安心・安全・ポジティブ」な場、略してAAPと表現しています。
その反対は、不安で危険でネガティブな状態です。FKNです。FKNな組織では、前向きで建設的な意見交換やチャレンジングな取り組みをすることは難しいでしょう。
AAP(安心・安全・ポジティブ)な場づくりをすることは、組織が成果を出すための前提条件なのです。