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「決定権者に対するお役立ちがビジネスの突破口」-営業力で社長の希望する事業譲渡を実現

「決定権者に対するお役立ちがビジネスの突破口」-営業力で社長の希望する事業譲渡を実現

投稿者
  2024年2月14日

青空

「会社を売りませんか?」
「資本提携を希望されている会社があります」
M&A仲介会社から、こんな電話がかかってきた…。

数年前から、こんなお話をよくお聞きするようになりました。

株式譲渡や事業譲渡が特別なことではなく、事業を次世代に引き継ぐ一つの方法として、広く認識されるようになってきています。それに伴って、M&A仲介会社の名前も広く知られるようになっているのではないでしょうか。

滋賀県に、家電販売事業と「太陽光照明システム」事業を行っている会社がありました。2022年10月に「太陽光照明システム」事業を事業譲渡され、翌年、会社を清算されました。

事業譲渡を考えた当初は、M&A仲介会社の活用も考えたそうです。最終的には、M&A仲介会社の仲介に頼らず、知り合いの会社に事業譲渡をされました。

そのご経験から、事業譲渡する相手先企業は、自分自身で納得できる会社を探す方がいいと言われます。事業譲渡のときにどんなことを考え、どう行動されたのか。お話を伺いました。

1.株式会社井之商の歩み

この会社は、株式会社井之商。井上昇氏が代表取締役社長。1975年にご自身が創業し、1978年に法人設立された会社です。

創業時の事業は家電販売業。店舗は3店。「住まいの110番」というキャッチコピーのもとに、お客様のご相談に対応するうちに、家電販売から設備施工にまで事業範囲を拡大していかれました。

大きな転機は1995年のこと。お客様からこんなご要望があったのです。

「家の北側に暗い部屋がある。天気のよい昼間でも電気をつけないと文字が読めない。何とかなりませんか?」

井上社長はこのご要望に対応するための試行錯誤を始めます。そして、海外にこのような製品があることを知り、日本の総代理店契約を締結。

2004年に「スカイライトチューブ事業」(太陽光照明システム事業)として、事業を開始します。

スカイライトチューブの製造元はオーストラリアの会社、ソーラチューブ社です。スカイライトチューブ事業の立ち上げには、実は多くの困難がありました。

その要因の一つは、オーストラリアと日本の家屋の構造の違いです。もう一つは、日本の家屋の屋根材の種類の多さです。

同社は、日本の家屋にスカイライトチューブを適用できるように独自の製品開発を続け、住宅や倉庫、工場などでの施工実績を積み重ねていきます。

一方、会社内部ではさまざまな課題がありました。顧客からは、次の製品開発の要望も受けながら、その製品開発を行う人材の不足、資金の不足。

その一方で、「スカイライトチューブ事業」の全国の取扱店はすでに700社に達していました。取扱店に対する責任を考えると、この事業を途中で投げ出す訳にはいきません。

このような状況の中、社内から「スカイライトチューブ事業」を事業譲渡してはどうか?という意見が出るようになっていました。

2.事業譲渡の決断とその後の行動

社長が事業譲渡の決断をしたのは、2021年の正月だったそうです。2020年から始まったコロナ禍がちょうど一年経過した頃です。

コロナ禍で外に出て行く機会が減り、落ち着いて内省する時間ができた。また、コロナ禍によって、顧客の業績不振で進行中の案件が中止になるなど、売上が落ちたことも背景にあったと言います。

事業譲渡を決断した社長は、M&A仲介会社の講演を聞きに行きます。そして、M&A仲介会社の仲介を受けることを一つの選択肢として考えたと言います。

一方で、自分が気持ちを入れて注力してきた事業です。その気持ちも含めて承継してもらいたいという気持ちが強かったそうです。

全国の取扱店700社のこともあります。いくら資金力があっても、2、3年やってみて、思うほどは儲からないから止めるような会社が譲渡先では困ると考えました。そこで、M&A仲介会社に頼ることなく、自分自身で譲渡先企業を見つけようと考えたのです。

「スカイライトチューブ事業」は、家屋、事務所、倉庫、工場などの屋根に、太陽光を室内に取り込むためのアルミの筒を取り付ける事業です。(アルミの筒は、 太陽光を室内に取り込めるように内面を鏡面加工しています)

井上氏は、譲渡先企業には、屋根工事の技術がある会社がいいと考えました。

そして、井上氏は、それまでの仕事のつながりのある会社のうち、希望条件に合う会社に対して、事業譲渡のプレゼンをご自身で行うことにされたのです。

3.事業譲渡につながったプレゼンとは

最終的に、事業譲渡先になったのは、全国に拠点を持つ屋根材の専門メーカーです。

このときの井上氏のプレゼン内容は「屋根材の専門メーカーが、事業領域に『屋根の上の灯り』を追加することで、屋根のプロ集団としての専門性を強化しつつ、将来の展望を広げることができるのではないか」というものでした。

このときのプレゼンについて井上氏は「決定権がある人に『なるほど』と思ってもらえる、意味のあるプレゼンが必要」と説明します。

人を動かすには、自分のメリットではなく、相手にとってのメリットは何か。相手の望む未来につながることかどうかを考える。

決定権者に対するお役立ちがビジネスの突破口になる。決済権者が納得できるストーリーを語れるか。そこにエビデンスがあるか。

この会社にとって何が必要なのか。何がしたいのかを考える。無理に売ろうとしない。

これは、井上氏が最初に勤めた機械器具商社で学び、その後もずっと大事にしてこられた考え方でした。

契約

4.事業譲渡先企業との出会い

事業譲渡先となった屋根材の専門メーカーとの出会いは、それより5年前の2017年に遡ります。

電話でも新規顧客開拓ができることを社内に示すために、井上氏が電話をかけたのが最初のきっかけでした。

井上氏は電話に出た人に「今からFAXを送ります。決裁権限のある人に見せてください。1時間後にまたお電話します」と告げ、スカイライトチューブの案内資料をFAXします。

1時間後に電話したときに出てくださったのが当時の常務。そのときの電話がきっかけで、工場にスカイライトチューブを設置していただくことができました。

事業譲渡のプレゼンをしたときには、当時の常務は社長に就任されていました。飛び込みのアポの取り方の見本を見せた会社が5年後に事業譲渡先になってくださったのでした。

5.事業譲渡後とこれから

事業譲渡後は、井上氏は譲渡先企業に対して、スカイライトチューブ事業の立ち上げのサポートをされています。井上氏の考え方は、事業譲渡先企業の経営が発展することが、スカイライトチューブ事業の発展につながるというものです。

自分が大事に育ててきた事業だから「少しでも高く買ってほしい」、そういう考え方は人間として自然な感情だとは思います。

ただ、事業譲渡のような相手のあることに、一方的な自社の都合や自社のメリットを主張するばかりでは合意を得ることは難しいでしょう。

株式会社井之商の「スカイライトチューブ事業」の事業譲渡では、代表取締役社長の井上昇氏が譲渡先企業にとって望ましい未来をプレゼンしたことが事業譲渡の成功につながりました。

自分のメリットではなく、まず相手にとってのメリットは何かを考える。井上氏のその営業哲学と、相手の心を動かすプレゼンのできる営業力が望ましい事業譲渡につながったと言えるでしょう。

株式会社井之商の「スカイライトチューブ事業」の取り組みについては、以下の記事も合わせてご参照ください。

「お客様の不満、不安、不快、不便を解消する-町の電器屋さんの事例」
https://vision-cash.com/column/eliminating-customers-dissatisfaction/

また、企業価値・事業価値の計算方法については以下の記事をご参照ください。

「会社の値段ってどうやって決まるの?企業価値・事業価値の計算方法とは」
https://vision-cash.com/chiteki/price-of-company/

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この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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