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企業価値担保権とは?事業成長担保権との違いは?わかりやすく解説

企業価値担保権とは?事業成長担保権との違いは?わかりやすく解説

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  2024年3月16日

デジタル関連企業

2024年3月15日、「企業価値担保権」の創設に向けた新法案が閣議決定されました。「企業価値担保権」 とは、独自技術やブランドを含む企業の事業全体を担保にするという制度です。

その背景としては、近年、土地や建物を持たないデジタル関連企業が増えているということがあります。担保にできるような不動産や土地がなくても、企業の将来性が高ければ、成長資金を供給できるように環境を整備することがその狙いです。

また、この制度を活用する場合は、経営者自身が会社の連帯保証人となる「経営者保証」を金融機関が利用することが制限されます。(債務者の粉飾等の例外を除く)

家や預金といった財産を失うことを恐れる起業家を減らす狙いがあります。つまり、 成長性の高い新興企業や事業承継を支援し、産業の新陳代謝を進めることを目的とした制度です。企業価値担保権とはどんな制度なのか、わかりやすく解説します。


1. 企業価値担保権とは?

従来の担保権が土地や建物などの有形固定資産を対象にしていたのに対して、「企業価値担保権」は、「無形資産を含む事業全体」を担保の対象とするものです。

無形資産(ノウハウ・顧客基盤等)











有形資産
(土地・工場等)






無形資産としては、企業独自のノウハウや技術力、顧客基盤、取引データなどが想定されています。従来の担保権と企業価値担保権の違いは下表の通りです。

現状の担保権を活用する場合 企業価値担保権を活用する場合
担保として認識される資産 有形資産を担保として認識(土地や建物等) ノウハウ、顧客基盤等の無形資産も担保として認識可能
事業性評価融資 無担保となる 事業価値により担保される
有形資産に乏しい事業者(スタートアップ等) 十分な融資を受けることが難しい恐れがある ノウハウ、顧客基盤等の無形資産も担保価値として評価され、融資が判断される
事業性融資の推進につながる
事業に対する貸し手の関心 関心は限定的で、経営改善支援が遅れる恐れがある 関心が高まり、タイムリーな経営改善支援が期待される
融資実務の改善

制度創設の目的として、事業性融資の推進につながること、貸し手の事業への関心が高まり、タイムリーな経営改善支援が行われていることが期待されてます。

また、貸し手、借り手の双方がより将来を見据えて事業に注力すること により、借り手の事業の着実な成長や、事業悪化の回避が図られ、融資の堅実な弁済につながる効果も期待されています。

2. 企業価値担保権の仕組み

企業価値担保権を使う新たな仕組みでは、企業は銀行などの信託会社と信託契約を結び、事業全体を担保として設定します。信託契約を基に、信託会社が指定した金融機関が企業に融資する仕組みです。

貸し手(金融機関等) → 成長資金等 → 借り手(事業者)
担保権者(信託会社) →適切な制度運用→

(注) 貸し手と担保権者(信託会社)が一致することもあり得る。

利用が期待される事例としては以下が想定されています。
・有形資産に乏しいスタートアップ
・経営者保証により事業承継を躊躇している事業者
・事業再生に取り組む事業者

企業価値担保権の詳細については下表の通りです。

項目 企業価値担保権 注釈
担保目的財産 総財産 将来キャッシュフローを含む事業全体の価値
会社の総財産(無形資産含む事業全体の価値)
借り手 株式会社・持分会社 自己の債務を担保するためにのみ設定可
担保権者 企業価値担保権信託会社(新設) 銀行等には簡易な手続で免許を交付
貸し手 制限なし 銀行以外に、ベンチャー・再生ファンド等も利用可
対抗要件 商業登記簿への登記 事他の担保権との優劣は対抗要件具備の先後
借り手の権限 担保目的財産の処分は基本的に自由 事業譲渡などは、事業の内容を大きく変え、担保価値の毀損につながりうる。そのため、通常の事業活動の範囲外の行為には、担保権者の同意を必要とする。
貸し手の権限制約 粉飾等があった場合を除き、経営者保証の利用を制限

企業価値担保権の担保権者は、 新たに創設する「 信託業の免許」を受けた者とされています。

なお、「担保権実行時には、企業価値を損うことがないよう、事業継続に不可欠な費用(商取引債権・労働債権等)について優先的に弁済し、事業譲渡の対価を融資の返済に充てる」とされています。

3. 企業価値担保権の課題

この制度を活用する場合、金融機関は、貸出先の事業性を見極める力を高める必要があります。

制度の根拠法である「事業性融資の推進等に関する法律」の基本理念はとしては「事業者と金融機関等の緊密な連携の下、 事業の継続及び発展に必要な資金の調達等の円滑化を図る」とされています。

4. 認定事業性融資推進支援機関制度の導入

企業価値担保権の活用等を支援するため、事業性融資について 高度な専門的知見を有し、事業者や金融機関等に対して助言・ 指導を行う機関の認定制度が導入される計画となっています。

金融機関 事業性融資を推進するための
緊密な関係構築
中小企業者
借り手の企業価値を把握する
能力(目利き力)に課題
適切な企業価値の把握が必要→
←←←←適切な情報提供が必要
自らの企業価値に関する
情報提供に課題
①支援要請↓↑②支援 ①支援要請↓↑②支援





【金融機関及び中小企業者に対する支援】
・ 経営資源や財務内容の分析を実施し、経営実態を把握する方法に関して助言
・ 事業計画の策定に関する助言
・ 定期的なフォローアップを実施し、必要に応じて事業計画の変更等に関する助言
【その他の業務】
・ 企業価値担保権を活用した融資事例の紹介等
・ 企業価値担保権を活用した資金調達の普及啓発等

5. 企業価値担保権創設の経緯

企業価値担保権は、これまで「事業成長担保権」の仮称で金融庁が創設を目指していた制度です。 新法が今国会で成立すれば、2026年中にも新制度が始まる見通しです。

下表は、企業価値担保権創設に至るこれまでの経緯を概観したものです。

年月 経緯
2020年11月 事業者を支える​融資・再生実務のあり方に関する研究会 設置
https://www.fsa.go.jp/policy/jigyou_tanpo/index.html
2021年11月 「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 論点整理2.0」
事業全体に対する包括的な担保権も選択肢に」※1
https://www.fsa.go.jp/singi/arikataken/rontenseiri2.pdf
2022年8月 「2022事務年度 金融行政方針」
「(4)事業全体に対する担保権の早期制度化」※2
https://www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/220831_main.pdf
2022年11月 金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」設置
https://www.fsa.go.jp/policy/jigyou_tanpo/index.html
2023年2月 金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210/01.pdf
2023年3月 内閣府「スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ」報告
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230309/startup09_agenda.html
資料1金融庁「事業成長担保権について」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_01startup/230309/startup09_01.pdf
2023年9月 「2023事務年度 金融行政方針」
事業全体に対する担保権の早期制度化」※3
https://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/commissioner/230922.pdf
2024年3月 第213回国会における金融庁関連法律案
https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/index.html
「事業性融資の推進等に関する法律案 概要」
https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/02/gaiyou.pdf
「事業性融資の推進等に関する法律案 説明資料」
https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/02/setsumei.pdf

※1:借り手が必要な融資を受け、貸し手と緊密な関係を構築しやすくなるよう、貸し手が事業を理解して融資する(ファーストペンギンとなる)適切な動機付けをもたらす選択肢(包括的な担保権)を新たに用意できないか

事業全体に対する包括的な担保権も選択肢に
・包括的な担保権の対象は無形資産も含む事業全体
(ノウハウ、顧客基盤等の無形資産も含まれ、事業の将来性と一致)
・事業価値の維持・向上に資する者を最優先
(商取引先・労働者やDIPファイナンスを⼗分に保護)

「 事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 論点2.0」

※2:(4)事業全体に対する担保権の早期制度化
事業者が、スタートアップや事業承継・再⽣などの局面にあっても、最適な方法で資⾦を調達 するためには、その事業性に基づく借入れを含め、幅広い選択肢が存在することが重要である。
あわせて、⾦融機関が、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくするよう、環境を整備することが重要である。
この取組みを制度的に後押しするため、2021 年11 月、「事業者を⽀える融資・再⽣実務のあり方に関する研究会」は、事業全体に対する担保制度の導入に当たっての詳細な論点を示している。この検討をさらに深化させ、事業全体を担保に⾦融機関から資⾦を調達できる制度の早期 実現に取り組むとともに、⾦融機関との間で、審査や期中管理、体制整備のあり方等の検討を 重ね、我が国における事業性に着目した融資実務の発展に向けた取組みを進めていく。

「2022事務年度 金融行政方針」

※3【 事業全体に対する担保権の早期制度化 】
• 幅広い事業者に対し、その持続的な成長を促すような資金提供が実施されるためには、不動産等の有形資産担保や経 営者保証等に安易に依存するのではなく、事業者の実態や将来性を的確に理解し、その特性に着目した融資を行う必 要がある。
• こうした観点から、金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に 関するワーキング・グルー プ」報告(2023 年2月公表)で示された「事業者の知的財産・無形資産を含む事業全体に対する担保制度(事業成長担保権)の創設」について関連法案の早期提出を目指すとともに、事業成長担保権の制度趣旨に関する金融機関や事業者等の理解促進に取り組んでいく。

「2023事務年度 金融行政方針」

6. まとめ

「企業価値担保権」は、金融庁が創設を目指していた「事業成長担保権」の現在の名称です。従来の不動産担保や経営者保証に偏重した融資のあり方を脱して、事業性評価融資の実効性を高めるために、制度的な基盤整備として創設された制度です。

企業の無形資産に着目する点では、知的資産経営も同様の考え方です。経済産業省から 「知的資産経営の開示ガイドライン」が公表されたのが2005年10月、「中小企業のための 知的資産経営マニュアル」が公表されたのが2007年3月です。

企業側も今後ますます、自らの企業価値を把握し、積極的な情報提供を行うことが求められると言えるでしょう。

無形資産
(ノウハウ・顧客基盤等)
知的資産
知的資産=競争優位につながる無形の資産

知的資産経営=自社の価値の積極的な情報発信や知的資産の活用・強化により企業価値の向上を図る経営手法

有形資産
(土地・工場等)

経済産業省「知的資産経営マニュアル」
https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/00all.pdf

投稿者

この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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