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中小企業に「売上予算」は要らないと思う3つの理由とは

中小企業に「売上予算」は要らないと思う3つの理由とは

投稿者
  2021年4月22日

売上予算

会社に「売上予算」はありますか。

年初に立案した売上予算にしたがって、月別に売上の予実管理をし
「今月は、予算達成!」
「この得意先については、予算達成!」
などとするマネジメント方法は比較的、多くの会社で採用されている一般的な方法でしょう。

ただし、中小企業については、その手法は有効なのか、やや疑問です。
中小企業に「売上予算」は要らないと思う3つの理由について、ご説明します。


1. 売上予算とは

(1) 売上予算が必要な理由

まず「予算」とは何でしょうか。

一般に「予算」とは、事前に定めた費用計画のことです。
買い物などで「ご予算はいくらでしょうか」などと尋ねられることがあります。
この質問は「いくらくらいの金額を想定されていますか」という意味です。

では、「売上予算」とは何でしょうか。

会社が費用計画を立案するときに、一定以上の売上がなければ、利益を確保することができません。 したがって、売上予算とは、会社の費用計画を可能にする売上計画のことです。

会社にとって必要な売上を予め販路や得意先、担当者、月について割り当てた売上計画ともいえるでしょう。

たとえば、会社員時代に勤務していた会社には複数の事業部があり、全国に支店などの営業拠点がありました。

この場合、会社の維持に必要な売上を考えたときに
・どの事業部がいくら売るのか。
・どの支店がいくら売るのか。

を予め定めた計画が必要です。その理由は、売上計画=売上予算がなければ、各事業部、各支店の期中の進捗度や達成度を定量的に把握することができないためです。

そして、各事業部、各支店の売上予算については、トップダウンとボトムアップをすり合わせて、決定がなされていました。

(2) 「予算達成!」が意味することは

では、仮に経営トップから指示された売上予算が1,000、各部門の計画をもとにボトムアップで積み上げられた数字が950であったとします。この場合、どうするのでしょうか。いずれかの部署が売上予算増にならざるを得ません。

「見込がないままに、自部門の売上予算を増やしたくない…」というようなこともあったように記憶しています。

つまり、いわゆる「売上予算」とは、年初などに決定する、各部門、各担当者などの売上責任を表す数字です。

「予算達成」とは、仮に全社的に未達であったとしても「自部門は責任を果たしました!」ということです。

では、なぜ、「中小企業に売上予算は要らない」と言えるのでしょうか。

なお、中小企業と言っても、複数事業を展開する中堅企業もあります。 ここでの「中小企業」とは、ほぼ単一の事業を展開し、営業部が一チームである企業を想定しています。

2.「中小企業に売上予算は要らない」と考える3つの理由とは

(1) 売上予算の根拠が不明確

まず、第一の理由は「予算達成です!ウチの部署は責任を果たしました!」といった所で、会社が赤字であれば、何の意味もないからです。

そんなことは起こらないだろうと思われるかもしれません。

実際には、営業部が会社全体の費用計画や返済計画を考慮しないまま、得意先からの受注見通しをもとに「売上予算」を立案しているようなことがあります。

その場合、その積み上げの数字は、会社が必要な売上に達していない可能性があります。

そして、「自部門は予算達成」と言っても、営業チームが単一であって、他の部署からの売上の積み増しが期待できないとしたら、その「売上予算」の達成に何ほどの意味があるのしょうか。

中小企業での「売上」は、「自部門の責任遂行」という限定的な責任問題ではなく、会社の生死に関わる重要問題、かつ全社総力戦で取り組むべき問題です。

(2) 月単位でリセットすることが危険

二つ目の理由は「当月は達成」という考え方が危険であるためです。

たとえば、未達の月が続いた場合、次の月はその月に「予め割り当てた」売上予算を達成すれば、それでいいのでしょうか。

それでは、年間で未達になってしまいます。未達の月は、残りの月でその未達を取り返す必要があります。

中小企業における売上、利益は会社存続に関わる重要問題です。常に年間通じての累計額で考える必要があります。

(3) 売上予算の考え方にとらわれてしまう

三つ目の理由は、事業環境の変化に対する柔軟な対応力を阻害する懸念があるためです。

年初に「予め割り当てた」売上計画にとらわれて
「この得意先は予算達成」
「この製品カテゴリーは予算達成」

と考えるよりも、伸びている製品、伸びている販路、伸びている顧客をより伸ばす方がはるかに合理的です。

3. 中小企業の売上管理で必要な視点とは

では、中小企業の売上管理で必要な視点とはどんなことでしょうか。

まず最も重要なことは、根拠ある売上目標の立案です。

二つ目に重要なことは月単位でリセットするのではなく、常に年間累計額で判断することです。 その理由は、会社にとって必要利益の確保のためです。

三つ目は、事業環境の変化に柔軟に対応し、伸びている製品、伸びている販路、伸びている顧客をより伸ばすことを考えることです。

(1) 根拠ある売上目標を立案する。
(2) 年間累計額で常に判断する。
(3) 伸びている製品、伸びている販路、伸びている顧客をより伸ばすことを考える。

4. 根拠ある売上目標の立て方とは

根拠ある売上目標のベースになる考え方として、損益分岐点売上高の算出方法を簡単にご説明します。

損益分岐点売上高とは、利益が0となる売上高のことです。この数字以上に売り上げると黒字、この数字以下であると赤字。その分岐点となる売上のことです。

損益分岐点売上高は、以下の計算式で算出できます。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率(限界利益率)

損益分岐点売上高は、利益が0となる売上高です。売上目標を算出する際には、目標利益額を決め、目標利益額を確保できる売上目標にする必要があります。

売上目標 = (固定費+利益目標) ÷ 粗利率(限界利益率)

なぜ、固定費を粗利率(限界利益率)で割るのか。「お金のブロックパズル」で確認してみましょう。

5. 24/7ワークアウトの損益分岐点売上高

例として「24/7ワークアウト」の費用構造から損益分岐点売上高を考えてみます。 「24/7ワークアウト」 は全国に71店を展開するパーソナルジムです。

会社名は、株式会社トウエンティーフォーセプン。 2019年11月 にマザーズに上場しています。

(1) 24/7ワークアウトの 「お金のブロックパズル」

下図は、2019年11月期決算、2020年11月期決算、及び2020年11月期の費用構造から計算した損益分岐点のお金のブロックパズルです。

【2019.11期決算】 【2020.11期決算】 【2020.11期 損益分岐点】


7,698
変動費 226

 

7,471



6,479

利益992


5,700
変動費 204

 

5,496



6,510

損失 △ 1,014


6,752
変動費 204

 

6,510



6,510

利益 0
粗利率 97.1% 粗利率 96.4% 粗利率 96.4%

2019年11月期は、売上高が 7,698万円、992百万円の営業利益を計上しています。1年後の2020年11月期は、売上高が 5,700百万円に落ち込み、営業損失 1,014百万円となっています。

2019年11月期の決算は黒字なので、
粗利額 7,471 > 固定費 6,479 です。粗利と固定費の差額 992 が利益です。

2020年11月期の決算は赤字なので、
粗利額 5,496 < 固定費 6,510 です。 粗利と固定費の差額 △ 1,014 が損失額です。

損益分岐点売上高は、2020年11月期の場合、いくら以上であれば、黒字なのかというシミュレーションです。粗利額 = 固定費となる売上高を示しています。

(2) 損益分岐点の考え方

損益分岐点を考える上でのポイントは以下の3点です。

・変動費は売上の増加に伴って増加するので、変動費の増加を見込んだ売上を考える必要がある。一方で、売上に対する変動費の割合(変動費率)は一定。
・売上-変動費=粗利なので、粗利率(売上に対する粗利の割合)も一定。
・固定費は売上増減の影響を(ほぼ)受けない。

2020年11月期の粗利額を固定費と同額まで伸ばしたときの売上はいくらなのか。
売上高 × 粗利率 = 粗利額なので、以下の計算式で算出できることがわかります。

粗利額 6,510百万円 ÷ 粗利率 96.4% = 損益分岐点売上高 6,752百万円

損益分岐点では、粗利額と固定費は同額なので
固定費 6,510百万円 ÷ 粗利率 96.4% = 損益分岐点売上高 6,752百万円



6,752
変動費 204

 

6,510



6,510

粗利率 96.4%・利益 0

さらに、2019年11月期の数字を仮に目標利益を992百万円とした場合の売上目標と考えると
(固定費 6,479 +目標利益 992)÷ 粗利率 97.1% = 目標売上高 7,698百万円



7,698
変動費 226

 

7,471

粗利率
97.1%



6,479

利益992

固定費に目標利益を上乗せして、粗利率(限界利益率)で割ると目標売上高が計算できることがわかります。

(3) 目標利益の決め方

では、目標利益はどのように決めればいいのでしょうか。会社が利益から支払うものがいくつかあります。借入している会社では、借入金の返済が必要です。

年間の借入金の返済額は、返済予定表を見れば把握できます。利益額が年間の返済額を下回ると、期中に借換や追加借入をしないとお金が回らなくなります。

期中に追加借入をすることを繰り返せば、借入金の残高は増えていきます。借入金を計画的に返済するには、年間の借入返済額を賄えるだけの利益額が必要です。



  
変動費

 

  


利益 年間の借入返済額

根拠が不明確な「予実管理」は、中小企業では場合によっては生死に関わります。必要な利益額が確保できる売上金額を売上目標とした上で、年間の累計額で判断することが必要です。

「お金のブロックパズル」の詳しい説明については以下の記事をご参照ください。

会社のお金の流れを図式化する「お金のブロックパズル」でできることとは
https://vision-cash.com/keiei/money-block-puzzle/

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この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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