「人件費はどれくらいが適正なんだろうか?」
「そもそもウチは世間一般と比べて、稼いでいる方なのか?どうなのか?」
人と比べる必要はないものの、世間相場が気になるのは人情ではないでしょうか。
歯科医院の一般的な売上はいくらくらいなのか。
人件費はどれくらいが一般的なのか。
個人経営の歯科医院の平均値について解説します。
Contents
1. 歯科医院の平均売上・利益は?
歯科医院の平均の売上・利益については、厚生労働省が2年に一度「医療経済実態調査」を実施しています。
下表は、個人経営の歯科医院の平均の売上・利益を表しています。(回答数 481医院)
(1) 個人経営の歯科医院の平均売上・利益は
科目 | NO | 2017年 | 構成比 | 2018年 | 構成比 | 伸び率 | ||
保険診療収益 | 1 | 36,890 | 87.8% | 36,948 | 87.5% | 100.2% | ||
その他医業収益 | 2 | 5,073 | 12.1% | 5,247 | 12.4% | 103.4% | ||
介護収益 | 3 | 33 | 0.1% | 44 | 0.1% | 133.3% | ||
収益合計 | 4 | 41,996 | 100.0% | 42,239 | 100.0% | 100.6% | ||
医薬品費 | 5 | 541 | 1.3% | 540 | 1.3% | 99.8% | ||
歯科材料費 | 6 | 3,074 | 7.3% | 3,121 | 7.4% | 101.5% | ||
委託費 | 7 | 3,703 | 8.8% | 3,692 | 8.7% | 99.7% | ||
変動費 | 8 | 7,318 | 17.4% | 7,353 | 17.4% | 100.5% | ||
粗利 | 9 | 34,678 | 82.6% | 34,886 | 82.6% | 100.6% | ||
給与費 | 10 | 12,322 | 29.3% | 12,253 | 29.0% | 99.4% | ||
減価償却費 | 11 | 2,383 | 5.7% | 2,372 | 5.6% | 99.5% | ||
設備機器賃借料 | 12 | 416 | 1.0% | 451 | 1.1% | 108.4% | ||
医療機器賃借料 | 13 | 245 | 0.6% | 260 | 0.6% | 106.1% | ||
その他 | 14 | 7,544 | 18.0% | 7,532 | 17.8% | 99.8% | ||
その他固定費 | 15 | 10,588 | 25.2% | 10,615 | 25.1% | 100.3% | ||
固定費 | 16 | 22,910 | 54.6% | 22,868 | 54.1% | 99.8% | ||
利益 | 17 | 11,768 | 28.0% | 12,018 | 28.5% | 102.1% | ||
減価償却費 | 18 | 2,383 | 5.7% | 2,372 | 5.6% | 99.5% | ||
本業キャッシュフロー | 19 | 14,151 | 33.7% | 14,390 | 34.1% | 101.7% |
(出典:「第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 – 令和元年実施 -」
中央社会保険医療協議会 令和元年11月)(単位:千円)
売上が前年比100.6%の4,223万円。利益は前年比102.1%の1,201万円。
ここに支出を伴わない費用である、減価償却費を足し戻した金額が1,439万円。
これが本業のキャッシュフローです。
この本業のキャッシュフロー1,439万円から所得税を支払い、さらに
・借入返済
・設備投資
・院長報酬
が支出されることになります。
個人の歯科医院のユニットチェア数の平均は、同じ調査結果で3台とされています。
上表の売上、利益、本業キャッシュフローをそれぞれ3で割ると、
売上 14,080、利益 4,006、本業キャッシュフロー 7,195 になります。
つまり、1ユニット当たり、14百万円の売上、4百万円の利益、7百万円のキャッシュフローを生み出していると言えます。
ただ数字を見慣れない場合、上の表を見てもピンと来ないかもしれません。
より直感的にわかりやすくするために、上の表の数字をもとに「お金のブロックパズル」の形式にしたものが次の図です。
(2) 個人経営の歯科医院のお金のブロックパズルは
売 上 高 4,223 |
変動費 735 | ||
粗 利 3,488 (粗利率) |
固 定 費 2,286 |
人件費 1,225 (労働分配率) (35.1%) |
|
その他 1,061 |
|||
利益 1,201 |
(単位:万円)
概算値で、売上が4,200万円。材料費や外注技工料を支払って、手元に残る粗利が3,500万円。
粗利率は83%です。
そこから人件費に1,200万円、その他1,000万円を支払い、利益が1,200万円。
この1,200万円から院長の報酬、借入の返済、設備投資を行っていくことになります。
数字の羅列の表よりはイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
「お金のブロックパズル」の色と上の表の色は対応させています。
どの数字がどこに入っているか確認するとより理解が深まるのではないでしょうか。
「お金のブロックパズル」の人件費1,200万円に院長報酬は含まれていません。
院長報酬はどこを見ればいいのでしょうか。
利益の先のお金の流れまで含めて表した「お金のブロックパズル」が次の図です。
(3) 個人経営の歯科医院のお金のブロックパズルの全体像は
売 上 高 4,223 |
変動費 735 | |||
粗 利 3,488 (粗利率) |
固 定 費 2,286 |
人件費 1,225 (労働分配率) (35.1%) |
||
その他 1,061 |
||||
利益 1,201 | 所得税 | 減価償却費 | 借入金の返済 | |
税引後利益 | 設備投資 | |||
院長報酬 | ||||
(単位:万円)
利益から所得税を支払います。利益から所得控除などを差し引いた課税所得に所得税率をかけ算して所得税を計算します。
利益 - 所得控除など = 課税所得
課税所得 × 所得税率 = 所得税
所得税の税率は、課税所得が 900万円超、1,800万円以下の場合で 33%です。
税引後利益に減価償却費を足し戻した金額が事業による稼ぎです。
ここから、借入金の返済、設備投資、院長報酬が支出されます。
1,200万円すべてが医院に残るわけではなく、借入金の返済や設備投資なども必要ということがイメージできたでしょうか。
2. 患者数アップかレセプト平均単価アップか?
さて、この平均的な歯科医院が来期の売上増加計画を立てたとします。
一般に売上は以下の計算式で表されます。
売上 = 患者数 × 診療単価 × 来院回数
かけ算なので、このどれかを上げる、または全部上げると売上は上がります。
たとえば、新患獲得に取り組み、患者数が5%アップしたとき、
あるいは、施設基準の届出等で、レセプト平均単価が5%アップしたとき、
それぞれ、お金のブロックパズルの数値はどう変化するのでしょうか。
(1) 患者数 5%アップのお金のブロックパズルは
売 上 高 4,434 |
変動費 772 | ||
粗 利 3,662 (粗利率) |
固 定 費 2,286 |
人件費 1,225 (労働分配率) (33.5%) |
|
その他 1,061 |
|||
利益 1,376 |
(単位:万円)
売上が5%アップなので、4,223万円 × 105% = 4,434万円。
粗利額は、4,434万円 × 82.6% = 3,662万円。
粗利から固定費を引いて利益は、3,662万円 - 2,286万円 = 1,376万円。
患者数5%アップで、1,376万円 - 1,201万円 = 175万円。
利益が175万円増えることが確認できました。
では、レセプト平均単価5%アップのときはどうでしょうか。
(2) レセプト平均単価 5%アップのお金のブロックパズルは
売 上 高 4,434 |
変動費 735 | ||
粗 利 3,699 (粗利率) |
固 定 費 2,286 |
人件費 1,225 (労働分配率) (33.1%) |
|
その他 1,061 |
|||
利益 1,413 |
(単位:万円)
売上が5%アップなので、4,223万円 × 105% = 4,434万円。
ここまでは、患者数5%アップのときと同じです。違うのはここからです。
レセプト平均単価アップのとき、診療件数に違いはないです。
したがって、変動費は735万円のままです。
粗利額は、4,434万円 - 735万円 = 3,699万円。
粗利から固定費を引いて利益は、3,699万円 - 2,286万円 = 1,413万円。
患者数5%アップで、1,413万円 - 1,201万円 = 212万円。
利益が212万円増えることが確認できました。
これは、患者数アップのときよりも37万円多い数字です。
「お金のブロックパズル」で数字のシミュレーションができることがイメージできたでしょうか。
今回は、固定費は影響を受けないものとして、シミュレーションしました。
実際は、患者数アップの場合に、人件費増加の可能性もあります。
医院の現状に合わせて、どういった方針が望ましいかを事前に検討することが必要でしょう。
3. 個人経営の歯科医院の職種別平均給与は?
では、人件費の適正額はいくらでしょうか。
これについては、2つの観点で考える必要があります。
1つ目は、粗利とのバランスです。
粗利から人件費が支払われるので、粗利額を上げないことには、人件費の原資が確保できないためです。
粗利と人件費のバランスを表す指標が「労働分配率」です。
粗利のうち、いくらを人件費に分配しているかを表す指標です。
以下の計算式で算出できます。
労働分配率 = 人件費 ÷ 粗利 × 100
上図の労働分配率は、35.1%でした。(院長報酬を除く)
もう1つの観点は、世間相場との比較です。
優秀な人材確保のためには、やはり世間相場と乖離しないことも必要でしょう。
では、歯科医院の職種別平均給与はいくらくらいなのでしょうか。
下表は、個人経営の歯科医院の職種別平均給与を一覧にしたものです。
※ 個人経営の歯科医院の職種別平均給与は
職種 | 2017年 | 2018年 | 金額の 伸び率 |
||||
給料 | 賞与 | 合計 | 給料 | 賞与 | 合計 | ||
歯科医師 | 565 | 87 | 652 | 569 | 64 | 632 | 97.0% |
歯科衛生士 | 248 | 33 | 280 | 253 | 33 | 286 | 102.1% |
歯科技工士 | 301 | 23 | 323 | 312 | 31 | 343 | 106.0% |
事務職員 | 242 | 29 | 271 | 244 | 29 | 274 | 101.0% |
その他の職員 | 210 | 26 | 235 | 214 | 24 | 238 | 101.2% |
(出典:「第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 – 令和元年実施 -」
中央社会保険医療協議会 令和元年11月)(単位:万円)
本調査によると、個人の歯科医院勤務の場合の年収は、歯科医師 632万円、歯科衛生士 286万円、歯科技工士 343万円、事務職員 274万円とされています。
4. 医療経済実態調査とは
「医療経済実態調査」とは厚生労働省が2年に一度、実施している調査です。
目的は「病院、一般診療所、歯科診療所及び保険薬局における医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備すること」とされています。
2020年5月現在、最新調査は2019年に実施された調査です。
調査対象期間は、2017年、2018年の2年間です。
「医療経済実態調査」の調査結果の詳細については、厚生労働省の以下サイトをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html
本記事では、個人の歯科医院の数字について、解説しました。
「医療経済実態調査」には医療法人の歯科医院についても情報が掲載されています。
「第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 – 令和元年実施 -」(中央社会保険医療協議会 令和元年11月)から、歯科医院についてのみ抜粋してエクセルにまとめました。
以下からダウンロードしてご利用ください。
<< ダウンロード >> → 歯科医院損益・職種別給与レポート.xlsx
なお、2023年11月27日に発表された数字を含む、過去10年のデータについては以下のページからダウンロード可能です。
「歯科医院の平均の売上・利益は?歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士の平均収入は?わかりやすく解説(2023年版)」