2020年5 月15 日、株式会社レナウンが民事再生の手続を開始したことを発表しました。
レナウンはかつての名門アパレル企業。ただし、近年は、経営が悪化していました。
レナウンはどのような収益構造だったのか。
「お金のブロックパズル」でレナウンの収益構造を図式化してみました。
1.民事再生法適用に至る経緯
まず、株式会社レナウンが民事再生法適用申請に至る経緯は、どのようなものだったのか。
2020年5月15日に発表された「民事再生手続開始等に関するお知らせ」から引用します。
当社は、1902 年の創業以来、アパレル関連製品の企画・製造・販売を手掛け、全国の百貨店・量販店・衣料品店等に対して卸売事業を行うほか、直営店において小売事業を行っておりますが、近年は、
①消費者の衣料品に対する購買行動の多様化、
②節約志向による家計に占める衣類の支出割合の低下
等に伴い、売上高が低迷しておりました。このような経営環境の中、当社は、2019 年 8 月に中期経営計画“Target 2023”を策定し、「お客様と深く結びつく」、「新たなお客様との出会いを増やす」、「お客様との継続的な繋がりを支える基盤を構築する」との基本方針の下、
①主力事業等への選択と集中、
②サブスクリプションサービス「着ルダケ」事業の本格化および EC 事業の強化、
③不採算・低効率な売り場の見直し等からなる効率的な経営の追求
等を目指して参りました。しかしながら、2019 年 12 月期におきましては、
①消費税増税による消費低迷、
②夏季の台風による店舗休業、
③記録的な暖冬による防寒衣料の不振
などにより、主力販路である百貨店向け販売が苦戦し、自助努力による経営改善によってはこれらの悪影響を吸収するには至っておりません。「民事再生手続開始等に関するお知らせ」https://www.renown.com/ir/release/2020/l2h587000000573c-att/pdf_ir200515.pdf
上記の通り、消費者ニーズ・消費者行動の変化に対応できず、経営不振に陥っていたことが説明されています。その対応策として、サブスクリプションサービスを立ち上げるなどしていたんですね。知りませんでした。
そうした中、当社は、親会社である山東如意科技集団有限公司の子会社である恒成国際発展有限公司に対する 2019 年 12 月期中に支払期日の到来する売掛金の回収が滞ったことにより、同期に貸倒引当金繰入額 5,324 百万円を計上し、8,309 百万円の営業損失を計上することとなりました。
また、かかる売掛金の回収遅滞にともない、同期中に入金されるはずであった同額が入金されないこととなったため、当社の 2019 年 12 月期の現金および現金同等物の期末残高は 1,418 百万円(2019 年 2 月期の同残高比△3,227 百万円)まで落ち込むこととなりました。
これに加え、2020 年 3 月以降は、新型コロナウィルスの感染拡大により全国の百貨店・量販店等で営業自粛の動きが広がり、消費者の巣ごもり傾向および不要不急の外出控えによる購買行動の変化のため、当社の商品は著しい販売減少を来たすこととなりました。
2020 年 4 月 7 日には、政府より 7 都府県に緊急事態宣言が発令され、16 日にその対象地域が日本全国に拡大したことに伴い、百貨店・量販店・ショッピングモールがほぼ全店休業となり、当社は 2020 年春夏物の商品につき、主力販売チャネルでの販売ができないこととなりました。
この間、当社は資金の調達および売掛金の回収に注力いたしましたが実現せず、5 月中旬以降に到来する債務の支払の目処が立たない事態となったことから、今般やむなく民事再生手続開始決定を受けることになりました。
「民事再生手続開始等に関するお知らせ」https://www.renown.com/ir/release/2020/l2h587000000573c-att/pdf_ir200515.pdf
レナウン株式会社は、2010年7月には、山東如意科技集団有限公司を引き受け先として、第三者割当増資を実施し、同社の傘下に入っています。
その子会社である恒成国際発展有限公司に対する売掛金の回収が滞り、貸倒引当金繰入額 5,324 百万円を計上したことから、8,309 百万円の営業損失を計上する結果になったことが説明されています。
出資者の傘下で、業績改善に取り組むも成果が出ないばかりか、子会社への売掛金回収が困難な事態に陥ったところへ、新型コロナウイルス対策として、百貨店が営業自粛。主力販売経路で販売できないことから、経営破綻に至ったということです。
2020年1-3月と4月の店頭売上前年比を比較すると、1-3月の時点ですでに前年比75.4%。4月は17.2%にまで落ち込んでいたことがわかります。
2020年1-3月、4月の店頭売上前年同月比(その他:キッズ、ユニセックス、一部雑貨)
メンズ | レディス | その他 | 全社 | |
1-3月 | 76.6% | 72.7% | 98.1% | 75.4% |
4月 | 15.5% | 18.5% | 28.0% | 17.2% |
2.レナウンのお金のブロックパズルは
株式会社レナウンの経営破綻は、新型コロナウイルス対策としての百貨店の営業自粛が引き金となったものの、新型コロナウィルス以前から経営が悪化していたことを確認しました。
では、株式会社レナウンの経営数字はどのような状態だったのでしょうか。以下は、株式会社レナウン単体での損益計算書です。
2019年2月期は39億円の最終赤字。2019年12月期は67億円の最終赤字です。
(1) 損益計算書
(単位:百万円) | 2018/3/1-2019/2/28 | 2019/3/1-2019/12/31 |
売上高 | 45,322 | 35,360 |
商品・製品期首棚卸高 | 5,064 | 5,423 |
当期商品仕入高 | 16,445 | 12,445 |
当期製品製造原価 | 6,926 | 5,488 |
商品・製品期末棚卸高 | 5,423 | 6,097 |
その他 | 189 | 19 |
売上原価 | 23,201 | 17,278 |
売上総利益 | 22,120 | 18,082 |
販売費及び一般管理費 | 25,252 | 26,391 |
貸倒引当金繰入額 | 2 | 5,779 |
従業員給料 | 12,044 | 9,727 |
賞与引当金繰入額 | 89 | - |
退職給付費用 | 226 | 196 |
福利厚生費 | 2,653 | 2,086 |
その他 | 10,235 | 8,601 |
営業利益 | △3,131 | △8,309 |
営業外収益 | 1,238 | 647 |
営業外費用 | 119 | 147 |
経常利益 | △2,012 | △7,809 |
特別利益 | - | 1,675 |
特別損失 | 1,013 | 520 |
税引前当期純利益 | △3,025 | △6,654 |
法人税、住民税及び事業税 | 76 | 81 |
法人税等調整額 | 845 | - |
法人税等合計 | 922 | 81 |
当期純利益 | △3,947 | △6,736 |
2019年2月期と2019年12月期を比較すると、2019年12月期は決算期変更により、10か月間しかないにも関わらず、最終赤字が39億円から67億円に赤字幅が拡大しています。
その大きな原因が、先述の通りの57億円に上る貸倒引当金繰入額です。これについては、レナウンの有価証券報告書にも以下のように説明されています。
貸倒引当金繰入額5,779百万円には、当社の親会社である山東如意科技集団有限公司の子会社である恒成国際発展有限公司に対する売掛金の回収が滞ったことにより計上した貸倒引当金繰入額5,324百万円が含まれており、当社グループの資金繰り計画に重要な影響を及ぼしております。
「株式会社レナウン 有価証券」p.11「継続企業の前提に関する重要な事象等について」
https://www.renown.com/ir/securities/201916/l2h5870000000x6v-att/pdf_ir200403.pdf
(2) 製造原価明細書
以下は製造原価明細書です。
(単位:百万円) | 2018/3/1-2019/2/28 | 2019/3/1-2019/12/31 |
材料費 | 2,589 | 2,072 |
労務費 | 142 | 101 |
外注加工費 | 3,192 | 2,526 |
その他の製造経費 | 1,138 | 792 |
当期総製造費用 | 7,063 | 5,491 |
期首仕掛品棚卸高 | 260 | 395 |
期末仕掛品棚卸高 | 395 | 398 |
当期製品製造原価 | 6,928 | 5,488 |
(3) 変動損益計算書
上記の損益計算書、製造原価明細を組み替えた変動損益計算書が下表です。材料費、外注加工費、当期商品仕入高を変動費、それ以外を固定費とみなして分解しています。また、営業外収益は、その他固定費のマイナスとしています。
なお、決算期の変更があり、2019年12月期は10か月間であるので、前期比較しやすいように、2019年2月期については10か月換算した数字も併記しています。
(単位:百万円) | 2018/3/1-2019/2/28 | 2019/3/1-2019/12/31 | |||
金額 | 10か月換算値 | 売上構成比 | 金額 | 売上構成比 | |
売上高 | 45,322 | 37,768 | 100.0% | 35,360 | 100.0% |
変動費 | 22,226 | 18,522 | 49.0% | 17,043 | 48.2% |
粗利 | 23,096 | 19,247 | 51.0% | 18,317 | 51.8% |
固定費 | 25,108 | 20,923 | 55.4% | 26,126 | 73.9% |
人件費 | 15,154 | 12,628 | 33.4% | 12,110 | 34.2% |
その他 | 9,954 | 8,295 | 22.0% | 14,016 | 39.6% |
経常利益 | △2,012 | △1,677 | △4.4% | △7,809 | △22.1% |
(4) お金のブロックパズル
上記の変動損益計算書をもとにした「お金のブロックパズル」が下記です。左が2019年2月期を10か月換算した数値。右が2019年12月期です。
売上高 37,768 |
変動費 18,522 | 売上高 35,360 |
変動費 17,043 | |||||
粗利 19,247 粗利率 51.0% |
固定費 20,923 |
人件費 12,628 (労働分配率 65.6%) |
粗利 18,317 粗利率 51.8% |
固定費 26,126 |
人件費 12,110 (労働分配率 66.1%) |
|||
その他 8,295 | その他 14,016 | |||||||
経常利益 △1,677 | 経常利益 △7,809 |
新型コロナウィルス感染症発生以前の問題として、赤字であったことが図式化することで改めて、視覚的にも確認できました。
なお、2019年12月期における損益分岐点売上高は、固定費と粗利額が等しくなる時点の売上高を計算すればいいので、以下のように計算できます。
粗利額 = 固定費 = 26,126百万円
粗利額を粗利率で割り戻すことで、売上高を計算できるので、以下のように計算できます。
損益分岐点売上高 = 固定費 26,126 ÷ 粗利率 51.8% = 50,435百万円
2019年12月期時点で、損益分岐点の売上高に15,075百万円不足していたことがわかります。
「東証1部の衣料品大手レナウンが倒産、上場企業の新型コロナ影響では初 創業118年の老舗、負債総額は138億7,900万円」とのショッキングなニュースに接し、レナウンの経営数字を図式化してみました。
「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、主要取引先だった大手百貨店が休業となり、大きな打撃を受けた」とのニュースでしたが、数字を確認すると、新型コロナウイルスによる販売不振以前に、構造的に業績が悪かったことが窺われます。
かつての名門企業が成功体験に捉われて、事業環境の変化に対応できなくなることはよく見られることです。
百貨店アパレルブランドについては、以下の2点が特に大きな事業環境変化であると考えています。
1.ファストファッションや低価格の海外ファッションの流入。
それによる衣類の価格への消費者の意識変化。
2.EC台頭と百貨店という販売チャネルの地位の低下。
レナウンについては、事業環境変化に対応できなかったばかりではなく、商品開発力の低下やブランド力の低下も経営不振の要因となっていると見られます。
一時期、一世を風靡したブランドが愛用者とともに年を取り、陳腐化してしまうことはよくあることです。
変わらずブランド力を保ち続けるためには、”変わらない”ように見えるための不断の努力=進化し続ける努力が不可欠ということでしょう。
2020年3月に経営破綻したイギリスのローラ アシュレイは、アメリカの投資会社ゴードン・ブラザーズに買収されたようです。
レナウンは、今後「管財人の下でスポンサー探索を行い、当社グループの事業の維持再生に取り組む」とのこと。レナウンが今後、事業再生を果たせるのか。注目したいと思います。