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経営資源集約化税制とは?経営力向上計画とは?わかりやすく解説

経営資源集約化税制とは?経営力向上計画とは?わかりやすく解説

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  2022年8月7日

計算

国がM&Aを後押しする制度があります。
「経営資源集約化税制」です。
その制度を利用するには事前に「経営力向上計画」の認定を受ける必要があります。
「経営資源集約化税制」と「経営力向上計画」 について要点を抜粋してご紹介します。

1.「経営資源集約化税制」とは

「経営資源集約化税制」は、正式には「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」です。
「経営資源の集約化」という言葉がわかりにくいですが、要はM&Aのことです。

企業が廃業すると、技術ノウハウや雇用などが失われます。一方で、経営者の年齢が若い方が新しい取組みを行う場合が多いという調査結果があるようです。

若い経営者が既存企業を 引き継ぐことができれば、既存事業のノウハウを買い手企業が活用し、生産性を高め、競争力を高めていく効果が期待できます。

既存企業の経営資源を活用する事ができれば、まったくの「一からのスタート」ではない事から「リスクを抑えた創業」の効果も期待できます。

こうした理由から、国は中小企業のM&Aを推進したい考えです。

中小企業M&Aの意義(「中小M&A推進計画」)
(1) 経営資源の散逸の回避
(2) 生産性向上等の実現
(3) リスクやコストを抑えた創業

【中小企業M&Aの意義】

no 意義 内容
1 経営資源の散逸の回避 ・廃業事業者のうち黒字廃業の比率が約6割ある。廃業する中小企業の中には貴重な経営資源を有する事業者も少なくないと考えられる。
・経営資源のうち従業員については、M&A 実施後に多くのケースで譲渡側の従業員の雇用維持がされているとの調査がある。
2 生産性向上等の実現 ・デジタルトランスフォーメーション(DX)など、従来の経営スタイルからの発展や従業員の意識改革等の効果が期待される。
・M&Aによって経営資源の集約化を行った中小企業は、そうでない企業に比べて生産性等の向上を実現しているとの調査がある。
・年齢が若い経営者ほど「新たな販路開拓・取引先拡大」や「新商品・新サービスを開発」などの新しい取組を行う傾向にあるとの調査がある。
3 リスクやコストを抑えた創業 ・他社の経営資源を引き継いで行う創業は、後継者不在の中小企業にとって経営資源を引き継ぐことにつながる。
・創業希望者にとって創業時におけるリスクやコストを抑える上で有用である。

(出典:経済産業省「中小M&A推進計画」)

中小企業のM&Aを促進するために作られた支援策が「経営資源集約化税制」です。一定の要件を満たす場合に、税制等の優遇策が受けられるというものです。

具体的には以下の2つの優遇策があります。

(1) 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
(2) 準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)

2. 設備投資減税とは

設備投資減税とは、設備投資時の減税策です。選択肢が2パターンあり、選択できます。一つ目の選択肢は、投資額の10%の税額控除です。もう一つの選択肢は、全額即時償却です。

no 選択肢 内容
1 投資額の10%の税額控除 1,000万の機械装置を購入した場合、税金が100万円安くなる。
2 全額即時償却 1,000万円の機械装置を購入した場合、1,000万円全額をその年に費用計上できる。(その年の税金がそれだけ安くなる)

ただし、資本金3,000万円超の中小企業者等の税額控除率は7%です。
対象となる設備としては以下の要件が示されています。

類型 名称 要件 確認者 対象設備・要件
A類型 生産性向上設備 生産性が旧モデル比平均 1%以上向上する設備 工業会等
機械装置 160万円以上
工具 30万円以上 A類型の場合、測定工具又は検査工具に限る
器具備品 30万円以上
建物附属設備 60万円以上
ソフトウェア 70万円以上 A類型の場合、設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するものに限る

(1) 生産等設備を構成するもの
※事務用器具備品・本店・寄宿舎等に係る建物付属設備、福利厚生施設に係るものは該当しない。(※4)
(2) 国内への投資であること
(3) 中古資産・貸付資産でないこと等

B類型 収益力強化設備 投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 経済産業局
C類型 デジタル化設備 可視化、遠隔操作、自動制御化のいずれかに該当する設備
D類型 経営資源集約化に資する設備 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備

なお、要件については以下の補足が示されています。

※1:発電用の機械装置、建物附属設備については、発電量のうち、販売を行うことが見込まれる電気の量が占める割合が2分の1を超える発電設備等を除きます。
また、発電設備等について税制措置を適用する場合は、経営力向上計画の認定申請時に報告書を提出する必要があります。
※2:医療保健業を行う事業者が取得又は製作をする器具備品(医療機器に限る)、建物附属設備を除きます。
※3:ソフトウェアについては、複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除きます。
※4:働き方改革に資する減価償却資産であって、生産等設備を構成するものについては、本税制措置の対象となる場合があります。

なお、この「設備投資減税」を利用できるのは「青色申告書を提出する中小企業者等」です。

また、事前に経営力向上計画の認定を受け、2017年4月1日から2023年3月31日までの期間に設備導入することが要件となっています。

3. 中小企業事業再編投資損失準備金とは

もう一つの「中小企業事業再編投資損失準備金」とは、M&Aの際に買い手企業が支払う株式取得価額のうち、最大7割までをその年度に損金算入できるという制度です。

通常、M&Aで支払う株式買取費用は、資産計上され、費用とする事はできません。M&Aでは、多額の支払いが発生するにも関わらず、費用化できないことから、税金の支払いには影響がありません。

「中小企業事業再編投資損失準備金」 は、M&A実施時の7割の金額の損金算入を可能にすることで、M&A実施時の税金を軽減し、M&Aを後押しする制度です。

損金算入した金額は、5年間の据置期間後、5年かけて益金参入されます。

タイミング 買手企業の実施事項 会計処理
M&A実施時 買手企業は、株式等の取得対価の70%以下の金額を準備金として積み立て 積立額を
損金算入
取崩要件
該当時
減損や株式売却等を行った場合は、準備金を取り崩す 取崩額を
益金算入
5年経過後 措置期間後の5年間にかけて均等額で準備金を取り崩す 取崩額を
益金算入

例えば、株式取得価額が 1億円、その7割の7,000万円を「中小企業事業再編投資損失準備金」として積み立てた場合の会計処理は下表の通りです。

【例】

経過年 実施事項 損失が発生しなかった場合 損失が発生した場合
0年目 M&A実施 7,000万を積立金として損金算入 7,000万を積立金として損金算入
1~5年目 据置期間 未払賃金 4,000万を支払
(4,000万円を益金参入)
6年目 5年で
均等取崩
1,400万円を益金参入 600万円を益金参入
7年目 1,400万円を益金参入 600万円を益金参入
8年目 1,400万円を益金参入 600万円を益金参入
9年目 1,400万円を益金参入 600万円を益金参入
10年目 1,400万円を益金参入 600万円を益金参入

なお「中小企業事業再編投資損失準備金」を利用するには、以下の要件を満たす必要があります。

・2024年3月31 日までに「経営力向上計画」の認定を受けた中小企業者であること。
・株式取得によってM&Aを実施すること。
・取得価額10億円以下であること。

株式等の取得価額には、取得価額の他、手数料等を含めることが可能です。

4. 経営力向上計画とは

「経営力向上計画」は、2016年7月から開始された国の制度です。

開始当時、「経営力向上計画」の認定が「ものづくり補助金」の加点項目とされたため、多くの企業が「経営力向上計画」の認定を受けたと記憶しています。

「設備投資減税」、「中小企業事業再編投資損失準備金」ともに制度を利用するには事前に「経営力向上計画」の認定を受ける必要があります。

業種ごとに「事業分野別指針」が示されています。認定を受ける企業は「事業分野別指針」 に沿って「経営力向上計画」を作成する必要があります。

たとえば製造業指針、卸・小売業指針では、以下等を満たす経営計画の立案が要件とされています。

業種 要件 3か年計画 4か年計画 5か年計画
製造業 労働生産性の伸び率 1%以上 1.5%以上 2%以上
売上高経常利益率の伸び率 3%以上 4%以上 5%以上
付加価値額の伸び率 1%以上 1,5%以上 2%以上
卸・小売業 付加価値額の伸び率 1%以上 1,5%以上 2%以上

付加価値額 =営業利益+人件費+減価償却費
労働生産性= 付加価値額 ÷労働投入量
労働投入量 =労働者数(または労働者数×一人当たり年間就業時間)

認定を受けた後は、税制や金融支援等を受けることが可能です。

国の制度は、要件が合致すれば税制等の優遇を受けられるメリットがあります。ただし、計画策定には一定の時間がかかります。

「経営力向上計画」の策定を支援措置を受けるための「面倒な作業」ではなく、計画策定に取り組むきっかけと考えることができ、策定した計画を実際に経営ツールとして活用するのであれば、経営にもプラスの効果が見込めるのではないでしょうか。

※「経営力向上計画」の認定を受けられるのは、中小企業等経営強化法に定める「特定事業者等」です。具体的には、常時使用する従業員数が 2,000人以下とされています。

※ 本記事は「中小企業の経営資源の集約化に資する税制概要・手引き」(令和4年4月 中小企業庁 財務課)を元に作成しています。本記事に記載した以外にも細かい要件がありますので、詳細については「中小企業の経営資源の集約化に資する税制概要・手引き」等でご確認ください。また、変更もありえますので、最新内容については、中小企業庁の最新版でご確認ください。

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この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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