ビジネスモデルとは「儲けるしくみ」のことです。現状のビジネスモデルを整理したり、改善点を考えたり、新しいビジネスモデルを構築するときに使えるツールに「ビジネスモデルキャンバス」があります。
ビジネスモデルとビジネスモデルキャンバスについて、わかりやすく解説していきます。
1.ビジネスモデルとは
2.ビジネスモデルキャンバスとは
3.ビジネスモデルキャンバスの構造
4.ビジネスモデル成立の3条件とは
5.ビジネスモデルキャンバスの特徴と活用方法
6.ビジネスモデルキャンバスの事例
7.ビジネスモデルキャンバス様式ダウンロード
1.ビジネスモデルとは
企業にはそれぞれ目的とするところがあります。自社が開発した製品を世の中に広めたいという思いで経営されている企業もありますし、従業員がいきいきと働くことを目的に経営されている企業もおられます。
その企業の目的が何であっても、その前提として必ず必要なことがあります。
それは、存続しつづけるということです。
存続しつづけなければ、どんな目的であっても達成することはできません。
企業はゴーイングコンサーン(存続しつづける存在)です。企業の究極の目的は、存続しつづけることにより、利害関係者(顧客、取引先、従業員、国家など)に貢献することです。
ところが、市場の成熟化やグローバル化、技術革新などによって、品質の良さや低価格だけで事業を継続的に成長させることは難しくなっています。
そうした状況において、注目されているのがビジネスモデルです。ビジネスモデルは、日本語では「儲けるしくみ」と訳されています。事業が収益を上げるためのしくみがあるかどうかが重要になっています。
このビジネスモデルを考えたり、分析したりするときに使われているツールがビジネスモデルキャンバスです。
2.ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバスとは、ビジネスの構造を考えるためのツールです。
日本では、2012年に「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書」(アレックス・オスターワルダー、 イヴ・ピニュール著)という本で紹介されました。9つの欄に分かれた一枚の紙です。この紙にポストイットをペタペタ貼るという使い方をします。
特徴は、ビジネスモデルの重要な要素が一枚の紙にまとめられている点です。
ビジネスの全体像を俯瞰しやすく、各項目の整合性が確認しやすいということから、現状確認や認識の共有化に使いやすいツールです。
また、ポストイットを貼りなおすことで、簡単に組み替えができますので、新規事業の構想などにも使いやすいです。
ビジネスの現状確認や新規事業構想など、ビジネスモデルを考える場面で広く使われています。
ビジネスモデルキャンバスの用途 | 利点 |
現状確認・共有 | ● 全体を俯瞰できる ● 各項目の関連性が確認できる |
新規事業構想 | ● 組み替えすることで構想の検証ができる |
3.ビジネスモデルキャンバスの構造
ビジネスモデルキャンバスは、9つの欄に分かれています。中央が価値提案であり、ビジネスモデルの中核が価値提案であることを表しています。
価値提案を中心に、右側がマーケティング要素を表現しています。
左側は、価値提案を実現するための組織体制やマネジメントなどのバックエンドのしくみです。下側が収益とコスト構造です。この全体で、ビジネスの全体像になります。
ビジネスの現状分析をする場合は、以下の順序で考えると考えやすいです。
2.価値提案Value Propositions
3.チャネルChannels
4.顧客との関係Customer Relationships
5.収益の流れRevenue Streams
6.キーリソースKey Resources
7.主要活動Key Activities
8.キーパートナーKey Partners
9.コスト構造Cost Structure
各欄の内容は以下の通りです。
1.顧客(Customer Segments)
ビジネスが対象とする顧客層です。法人客と個人客に大別されます。また、その属性や課題、行動で顧客定義することもあります。
法人と個人など複数の顧客層がある場合は、複数の顧客層すべてを記載します。
2.価値提案(Value Propositions)
顧客に提供する価値であり、顧客がビジネス(商品・サービス)を選ぶ理由でもあります。価値提案は、顧客の課題解決と新しい価値提案に大別されます。
複数の顧客層がある場合は、それぞれの価値提案を記載します。
なお、顧客と価値提案を掘り下げて考えるツールとして、バリュープロポジションキャンバスがあります。価値提案が不明確な場合や曖昧な場合は、一度、バリュープロポジションキャンバスで掘り下げて考えてから、ビジネスモデルキャンバスにその結果を戻すことで、価値提案を鮮明なものにすることができます。
3.チャネル(Channels)
一般にチャネルは販売経路のことですが、ビジネスモデルキャンバスのチャネルには、認知の経路やアフターサービスの経路も含みます。
時系列で、認知 → 評価 → 購入 → 提供 → アフターサービス の各段階のチャネルを考えると整理しやすいです。購入と提供のチャネルが異なる場合としては、たとえば、オンラインサイトで注文し、実店舗で受け取るなどが考えられます。
チャネル設計は、顧客獲得の効率性にも直結します。
4.顧客との関係(Customer Relationships)
顧客との関係は、長さと深さの組み合わせで考えます。この項目は、実はとても重要な項目です。なぜかというと、収益性に直結するからです。ビジネスモデルの強さを決定する一つの要因です。
顧客との関係が短いと、売り切りや単発契約になります。長いとリピートや長期契約になります。顧客との関係が長いと収益機会が多くなります。売り切りや単発契約では収益機会が一度だけですが、リピートや長期契約では収益機会が何度も発生します。
売り切りや単発契約ではなく、顧客維持ができれば、結果的に顧客獲得にかける費用も低減できます。
ライフタイムバリュー(LTV)という言葉があります。これは一人の顧客が生涯で、企業にもたらしてくれる利益の総額です。マーケティングが目指すところの一つにこのLTVの最大化があります。顧客との関係が長ければ、LTVは増加します。より強いビジネスモデルになるということです。
また、顧客との関係が深いと、他社にスイッチされにくくなります。ブランドロイヤリティの強さは顧客との関係性の深さです。顧客との関係性が深いと、スイッチされにくくなるだけではなくて、紹介や価値の共創にもつながります。
5.収益の流れ(Revenue Streams)
収益の方法(物販、利用料、仲介料、ライセンス料、会費など)や収益の特徴(利益率、継続性)を記載します。
6.キーリソース(Key Resources)
価値を生み出すための経営資源です。経営資源には一般に、ヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウなどがあります。店舗や工場などの物的産、情報やノウハウなどの無形資産という分け方をすることもあります。
無形資産(形のない資産)のうち、特定個人のスキルやノウハウを人的資産(属人的な強み)、組織的に共有されているノウハウやしくみを組織資産と言います。
7.主要活動(Key Activities)
主要活動は2つの観点で考えます。一つ目は価値を提供するための活動です。二つ目はキーリソースを生み出したり、強化するための活動です。
8.キーパートナー(Key Partners)
自社単独で価値を生み出す活動を完結させられる企業はほとんどありません。ほとんどの企業が社外にパートナーを持っています。
たとえば、自社にない活動やリソースを提供してくれる、仕入先・協力会社・提携先・代理店などがキーパートナーです。
9.コスト構造(Cost Structure)
キーリソース、主要活動、キーパートナーのコストのうち主要なものを記載します。また、コスト構造の特徴(固定費型か変動費型かなど)
なお、新規事業構想の切り口としては以下などがあります。
2.自社の保有する技術・シーズから発想する。
3.自社の未利用資源の活用を検討する。
4.人口動態などの変化や業界構造の変化、規制の変化などに着目する。
このうち、自社の技術・シーズや未利用資源から新規事業を検討する目的でビジネスモデルキャンバスを使う場合には、キーリソースから考える場合もあります。
4.ビジネスモデル成立の3条件とは
ビジネスモデルが「儲けるしくみ」として成立するには、少なくとも3つの条件を満たすことが必要です。その3条件とは、有用性、実現可能性、持続可能性です。
ビジネスモデル成立の3条件
1.有用性 2.実現可能性 3.持続可能性
有用性とは、顧客に提供する価値が顧客にとって魅力的かどうかということです。顧客に提供する価値が顧客にとって魅力がなければ買っていただくことができません。顧客に提供する価値が顧客にとって魅力的であることを有用性と言います。
顧客に提供する価値が顧客にとって魅力的であっても、技術や資金、体制の面などで実現できなければ成立しません。顧客提供価値を実現させられることを実現可能性と言います。
顧客に提供する価値が顧客にとって魅力的でかつ実現できても、自社が赤字であれば持続することができません。収益を上げて、ビジネスとして持続できることを持続可能性と言います。
ビジネスモデルは「儲けるしくみ」です。ビジネスモデルキャンバスを使うことで、自社のビジネスが儲かるしくみにきちんとなっているかどうかを俯瞰的に確認することができます。
5.ビジネスモデルキャンバスの特徴と活用方法
ビジネスモデルキャンバスの特徴の第一は、事業の全体像を俯瞰できることです。事業の全体像を俯瞰できることから、ビジネスの現状を把握しやすく、以下のような利点があります。
・特徴を理解できる
・優位性を見出すことができる
・整合性をチェックできる
・課題を確認できる
そのため、ビジネスの現状分析や課題の把握、改善点の立案などに活用が可能です。
ビジネスモデルキャンバスには、もう一つの使い方があります。今のような外部環境の変化の激しい時代においては、ずっと同じやり方で価値を生み続けることができるとは限りません。
競合にマネされることもありますし、業界自体が衰退するようなことも起こってきます。そのような外部環境の変化に対応するためには、新しいチャレンジも必要です。
長く続いている会社は、同じことをくり返しているようで、必ず半歩先のチャレンジをしています。
たとえば、今までは、法人相手のビジネスだったけど、個人客にシフトするといったこともあるでしょう。その時に、何か一つを変えたことが他のどの要素に影響があるか、整合性のチェックがしやすいというのもこのキャンバスの特徴です。
ですので、新規事業を考える時などにも非常に使いやすいです。
6.ビジネスモデルキャンバスの事例
ビジネスモデルキャンバスの使い方をイメージしていただくために、例を2点作成しました。
1.コンビニのビジネスモデル
まずは、コンビニです。なぜ、コンビニかというと、多くの人に馴染みのあるビジネスモデルであり、イメージしやすいためです。
- 個人客に「必要な時に必要なものが買える」、「ワンストップで便利」といった価値を提供していること。
- 低価格ではなく、便利さを提供するビジネスモデルなので、「定価販売」であること。
- 「必要な時に必要なものが買える便利さ」が「多頻度小口配送」や「立地の良さ」に裏づけされていること。
などが俯瞰的に理解できます。
2.クックパッドのビジネスモデル
次はクックパッドです。ただし、筆者はクックパッドの関係者ではないので、クックパッドの内情を知っているわけではありません。公開されている情報にもとづいて作成したものです。
- ユーザが投稿した「良質なレシピの蓄積」がキーリソースになっていること。
- 投稿を促すために「つくれぽ」というしくみがあり、「レシピが認められる達成感」が投稿のモチベーションとなっていること。
- 固定費型の費用構造なので、会員数が一定数を超えた後には、利益が大きく増えること。(会員追加による追加費用がほとんどない)
- 料理に関心のあるユーザを集めたことで、食品メーカーも顧客にできており、収益源が複数あること。(プラットフォーム型ビジネスモデル)
以上から高収益のビジネスモデルが構築できていることがわかります。
ビジネスモデル・ビジネスモデルキャンバスのまとめ ・「ビジネスモデル」とは「儲けるしくみ」のことである。 |
ビジネスモデルキャンバス様式ダウンロード
PowerPoint(97-2003)版ダウンロード → ビジネスモデルキャンバス.ppt
Excel版ダウンロード → ビジネスモデルキャンバス.xlsx
Excel(97-2003)版ダウンロード → ビジネスモデルキャンバス.xls