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前は黒字だったのに赤字になってしまった・・・。
要因は、売上低下だったり・・・。
固定費増加だったり・・・。
原材料費高騰や値上げ要請による粗利率低下ということもあるでしょう。
これらの複合要因により赤字ということもあるでしょう。
赤字になったときに、なぜ赤字になったのか把握しておくことは
今後の方針を立案する事に役立ちます。
そこで、赤字要因のうち影響が大きい項目はどれなのか
どうやって切り分ければいいかについて設例をもとに具体的な数字で解説します。
(設例の数字については、Excelダウンロードが可能です)
1. 赤字とはどんな状態か?
まず赤字とはどんな状態か?を確認しておきます。
赤字とは「粗利よりも固定費が大きい状態」を言います。
図にすると以下のような感じです。
図1 | 図2 | 図3 | ||||||||
売 上 高 100 |
変動費 50 |
売 上 高 100 |
変動費 50 |
売 上 高 100 |
変動費 50 |
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粗 利 50 (50%) |
固定費 40 |
粗 利 50 (50%) |
固 定 費 50 |
粗 利 50 (50%) |
固 定 費 60 |
|||||
利益 10 | ||||||||||
X | ||||||||||
黒字:粗利 > 固定費 | 損益分岐点:粗利 = 固定費 | 赤字:粗利 < 固定費 | ||||||||
売 上 高 100 |
変動費 60 |
売 上 高 100 |
変動費 60 |
売 上 高 100 |
変動費 60 |
|||||
粗 利 40 (40%) |
固定費 30 |
粗 利 40 (40%) |
固 定 費 40 |
粗 利 40 (40%) |
固 定 費 50 |
|||||
利益 10 | ||||||||||
図4 | 図5 | 図6 |
上図の図1から図6まで、売上はすべて100で共通です。
違いは、粗利率と固定費にあります。
粗利率によって粗利額が決まります。
その粗利額が固定費よりも大きいときに黒字になります。
粗利額が固定費よりも小さいときに赤字になります。
粗利額と固定費が同じ大きさのときが損益分岐点です。
2. 赤字を黒字化するには?
上図の図1と図3を比較すると、どちらも売上は100、粗利率は50%です。
黒字か赤字かは、固定費の額によって決まっています。
次に図1と図5を比較してみます。どちらも売上は100、固定費は40です。
利益の有無は、粗利率で決まっています。
図1は利益が出ていますが、図5は図1よりも粗利率が低いため利益が出なくなっています。
つまり、赤字の状態から黒字にするには、次の3つの方向性があることがわかります。
1.売上を上げる。
2.粗利率を上げる。
3.固定費を下げる。
たとえば、上図の図6を黒字化するために、売上アップのみや粗利率アップのみ、固定費ダウンのみのいずれかで黒字化しようとする場合、 それぞれの目標数値は下図のようになります。
図6 | ||||||||||||||||||||||||||
売 上 高 100 |
変動費 60 |
|
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粗 利 40 (40%) |
固 定 費 50 |
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X | ||||||||||||||||||||||||||
1.売上を上げる | 2.粗利率を上げる | 3.固定費を下げる | ||||||||||||||||||||||||
売 上 高 150 |
変動費 90 |
売 上 高 100 |
変動費 40 |
売 上 高 100 |
変動費 60 |
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粗 利 60 (40%) |
固定費 50 |
粗 利 60 (60%) |
固定費 50 |
粗 利 40 (40%) |
固定費 30 |
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利益 10 | 利益 10 | 利益 10 | ||||||||||||||||||||||||
図7 | 図8 | 図9 |
売上1.5倍、粗利率20ポイント引き上げ、固定費4割削減…。
単独の取り組みでの黒字化は、いずれも目標値としては厳しい数字になります。
現実的な選択肢としては、組み合わせで取り組むことが多いでしょう。
図10 | 現実的な選択肢-3つの視点の組み合わせ① | |||||||||||||||||||||
売 上 高 110 |
変動費 55 |
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粗 利 55 (50%) |
固定費 45 |
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利益 10 |
図11 | 現実的な選択肢-3つの視点の組み合わせ② | |||||||||||||||||||||
売 上 高 110 |
変動費 60.5 |
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粗 利 49.5 (45%) |
固定費 45 |
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利益 4.5 |
実際には、どのような取り組みをすれば必要な数値を達成できるのかを考慮した上で目標数値を決めることになります。
3. 赤字要因の分析方法
赤字になったときに、どの要因で赤字になったのか確認した上で、今後の対策を立案する方が適切な対策とできる場合も多いです。
そこで、どの要因がどの程度、影響したかを確認する方法をご説明します。
(1) 粗利額要因と固定費要因の影響度分析
前期 | 今期 | ||||||
売 上 高 400,000 |
変動費 200,000 (50.0%)
材料費 120,000 (30.0%) |
売 上 高 390,000 |
変動費 206,700 (53.0%)
材料費 130,700 (33.5%) |
||||
粗利 200,000 (50.0%) |
固定費 192,600 |
粗利 183,300 (47.0%) |
固 定 費 189,460 |
||||
利益 7,400 | |||||||
利益 △6,160 |
上記例では、前期は740万の黒字、今期は616万の赤字です。
前期と今期の数字を比較すると、売上が1,000万低下し、粗利率が3ポイントダウンした結果、粗利額が1,670万減少しています。
固定費削減に取り組み、固定費を314万削減したものの、粗利額の落ち込みをカバーできずに赤字となっていることがわかります。
項目 | no | 金額 | 項目 | no | 金額 | 要因分析 | |
前期利益 | a | 7,400 | 粗利額減少 | c | △ 16,700 | 粗利額減少の影響が大きい。 | |
今期利益 | b | △ 6,160 | 固定費削減 | d | 3,140 | ||
差分 | b-a | △ 13,560 | = | 合計 | c+d | △ 13,560 |
(2) 売上要因と粗利率要因の切り分け
次に粗利率減少を招いた2つの要因のうち、影響度が大きい項目はどちらなのかを確認します。
一つは売上減少、もう一つは粗利率低下でした。
前期と今期を比較すると、売上が1,000万減少していることがわかります。
この会社の粗利率は50%(前期)ですので、売上減少が粗利に及ぼす影響は50%分です。
1,000万円×50%=500万となり、売上低下の影響はマイナス500万であることがわかります。
一方で、粗利率低下の影響は1,170万円の粗利マイナスにつながっており、粗利率低下の影響がより大きいことがわかります。
区分 | 金額 | 項目 | 金額 | 計算式 | 要因分析 |
粗利額減少 | △ 16,700 | 売上減少 | △ 5,000 | (今期売上ー前期売上)×前期粗利率 | |
粗利率低下 | △ 11,700 | 今期粗利-今期売上×前期粗利率 | 影響大 | ||
固定費削減 | 3,140 |
(3) 粗利率要因分析
粗利率低下の影響が大きいとわかったので、何が粗利率低下をもたらしたかを確認します。
変動費の内訳を見ると、材料費と外注加工費となっています。
比率を確認すると、材料費率が上昇し、外注加工費率が低下していることがわかります。
内製化に取り組んで外注加工費を減らしたものの、材料費が上がった影響により、粗利率が低下したことがわかります。
区分 | 金額 | 項目 | 金額 | 計算式 | 要因分析 |
粗利率 低下 |
△ 11,700 | 材料費高騰の影響 | △ 13,700 | 今期売上×前期材料費率 -今期材料費 |
影響大 |
内製化効果 | 2,000 | 今期売上×前期外注加工費率 -今期外注加工費 |
ここまでの分析結果を一つの表にまとめるものが下表です。
原材料費の上昇がもっとも利益低下につながったことが確認できます。
項目 | no | 金額 | |
前期利益 | a | 7,400 | |
粗利額減少 | 売上低下 | b | △ 5,000 |
原材料費上昇 | c | △ 13,700 | |
外注加工費低減 | d | 2,000 | |
固定費低減 | e | 3,140 | |
今期利益 | a+b+c+d+e | △ 6,160 |
4. 黒字化に向けての方針立案
黒字化に取り組む企業で、固定費削減がテーマになることが多く見られます。
固定費削減は重要なテーマですが、売上創出につながる経費まで削ってしまった結果、売上が上がらないことも起こります。
あるいは利幅が少なくても、少しでも売上を上げて、黒字化するという考え方も見られます。
利幅を少なくして受注した結果、粗利率が低下し、一方で残業代などの人件費や運送費などが増加すると、かえってマイナスの結果につながることもあります。
下図は、赤字要因の分析結果を踏まえての黒字化方針例です。
材料費上昇が大きな赤字要因と認識した上で、価格転嫁は困難と判断した場合、 売上伸長で黒字化を目指すことになります。
仮に営業利益1,000千円の確保を目指す場合に必要な売上金額は、405,234千円となり、15,234千円の追加売上が必要ということがわかります。(下図方針案1参照)
405,234千円 - 39,000千円 = 15,234千円
15百万の追加売上をどのように確保するのかの具体的な方策立案が必要です。
【今 期】 | 【方針案1:売上伸長で黒字化】 | |||||
売 上 高 390,000 |
変動費 206,700 (53.0%)
材料費 130,700 (33.5%) |
売 上 高 405,234 |
変動費 214,774 (53.0%)
材料費 135,805 (33.5%) |
|||
粗利 183,300 (47.0%) |
固 定 費 189,460 |
粗利 190,460 (47.0%) |
固定費 189,460 |
|||
利益 1,000 | ||||||
利益 △6,160 | ||||||
【方針案2-1:材料費値上げ分を価格転嫁】 (最小利益確保) |
【方針案2-2:材料費値上げ分を価格転嫁】 (今期売上額確保) |
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売 上 高 377,052 |
変動費 186,592 (49.5%)
材料費 113,116 (30.0%) |
売 上 高 390,000 |
変動費 193,000 (49.5%)
材料費 117,000 (30.0%) |
|||
粗利 190,460 (50.5%) |
固定費 189,460 |
粗利 197,000 (50.5%) |
固定費 189,460 |
|||
利益 1,000 | 利益 7,540 |
方針案2-1では、方針案1とは逆に、材料費値上げ分を価格転嫁すると決めたときに、営業利益1,000千円を確保するための必要売上を示しています。
必要な売上金額は、377,052 千円となり、仮に今期より売上が12,948 千円下がっても黒字とできることがわかります。
方針2-2は、材料費値上げ分の価格転嫁を行い、今期と同額の売上を確保できた場合の利益が 7,540千円になることを示しています。
黒字化に取り組むときは、なぜ赤字になったのか把握した上で、どの項目をどの程度上げる、下げるなどすると利益が出るのか確認してから取り組みたいものです。
※この記事での「利益」は営業利益を指しています。
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※「お金のブロックパズル」の詳細については以下の記事をご参照ください。