1.マーケティングとは
最近、買ったものを一つ頭に思い浮かべてみてください。
それはどんなモノですか?
どんな特徴がありますか?
いくらでしたか?
どこで買いましたか?
どんなきっかけで買いましたか?
買って何をしますか?または買った理由は何ですか?
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今、頭に思い浮かべたことのすべてがマーケティングの要素です。
商品名、商品特徴、価格、販売ルートや売場、販売のきっかけとなる広告宣伝や販売促進策。
また、買った理由のことを「顧客提供価値」と言います。
これらすべてがマーケティングの要素です。
企業はお客様から選ばれて、利益を得ることで企業活動を継続することができます。
つまり、企業が存続しつづけるためにはお客様から選ばれる必要があります。
では、お客様から選ばれるにはどうすればいいか。
なんらかの価値を提供する必要があります。
企業とお客様は、「商品を買う」という行為を通して、価値とお金を交換しています。
「お客様に価値を提供してお金をいただくことに関わるすべての活動」をマーケティングと言います。
お客様に価値を提供するためには
・どんなニーズがあるか調査する市場調査
・どんな商品(サービス)にするかという商品企画
・いくらにするかという価格設定
・どこで販売するか。販路開拓
・認知度向上のための広告宣伝
・販売契機となる販売促進策
などの取り組みが必要です。
そして、これらすべてがマーケティング活動です。
マーケティングは価値とお金の交換ですが、この交換の主導権を握っているのはお客様です。
ですので、マーケティングを「お客様に選んでいただくためのしくみづくり」という言い方もできます。
経営の神様と呼ばれた、経営学者のドラッカーは、マーカティングを
「セリングを不要にすること」と言っています。
“マーケティングの究極の目標はセリング(単なる売り込み)を不要にすることだ。”
ピーター・ドラッカー「マネジメント – 基本と原則 」1974年
「セリング」(Selling)というのは売り込みです。
「買ってください」と頼みこまなくても、お客様の方から、買いたいと思ってくださるような商品や価格や説明文にして、お客様に選んでいただくしくみを考えることがマーケティングです。
2.マーケティング戦略立案の3ステップ
では、そのお客様に選んでいただくためのしくみづくりをどのように進めていけばよいかというと、3つのステップがあります。
マーケティング戦略立案の3ステップ 1.顧客は誰かを明確化する。 |
この1から3までがマーケティング戦略立案のステップです。
(このうち、3については、商品をただ知っていただくのではなく、顧客提供価値を知っていただく必要があります)
1と2ができている前提で、3だけを特に狭い意味でのマーケティングという場合もあります。
○○マーケティングという言葉がいろいろあります。
WEBマーケティングとか、コンテンツマーケティングとか、ストーリーマーケティングとか、動画マーケティングとか、ダイレクトマーケティングとか、いろんな言葉があります。
これらは、狭い意味でのマーケティングで、どちらかというと、買っていただくためのテクニックに近いものです。どのやり方を使う場合も、その前提として、1と2が必要です。
この2番目の「買う理由」は、自社と自社の商品がお客様に選ばれる理由です。
「顧客提供価値」と言います。
これはマーケティングの中でもっとも重要な概念です。
自社の「顧客提供価値」が明確で、お客様にとって魅力的なものであれば、それだけで、マーケティング戦略は半分くらいできているといっていいくらい重要です。
ですので、顧客を明確化した上で、まずはこの「顧客提供価値」を明確にすることを考えます。
3.顧客提供価値とは
たとえば、ある歯ブラシを例に「顧客提供価値」を考えます。
その歯ブラシは軸に酸化チタンという素材を使っており、酸化チタンの光触媒の作用で歯垢を効果的に除去するという特徴があります。歯の汚れが落ちやすいということは、虫歯になりにくい、歯周病予防に効果があるということです。
実際、商品を使用したユーザから「歯がツルツルになる」という感想が多く寄せられており、長年のファンのお客様が多いとのことです。
※写真はイメージです。
このとき、「歯ブラシ」を買ったお客様は歯ブラシがほしくて買ったわけではありません。歯を健康に保ちたいという動機でこの歯ブラシを購入しています。
歯を健康に保つことができる。ずっと自分の歯でごはんが食べられる幸せが得られる。これが、この歯ブラシを買う理由です。
つまり、「歯を健康に保つことができる」というのが、この歯ブラシの顧客提供価値です。
歯ブラシの例では、商品特徴が顧客提供価値を実現しています。
では、卸売業などのように自社独自の商品を扱っていない場合はどう考えればいいでしょうか。
ある建設資材卸会社の例で考えます。
この建設資材卸会社は、取扱品数が1万点超と多く、得意先のニーズをほぼカバーしています。
自社配送で商品を納入しており、午前中の注文については即日納品可能です。
また、社員は勉強熱心であり、商品知識が非常に豊富です。
この会社の得意先は、建設会社や工事会社です。
通常、工事を行うときは、工事に必要な資材を揃えて現場に向かうはずですが、ときには、現場に着いてから、必要な資材が不足していることがわかる場合もあるそうです。
そのような時には、工事現場から職人さんが携帯電話で、この建設資材卸会社に注文の電話を入れます。現場からの電話なので、品番がはっきりしないこともあるようです。
一般的には、発注書に品番を記入して発注しなければ納品対応はできませんが、この建設資材卸会社では、社員の商品知識が豊富であるため、現場の職人さんからの電話でも発注の受付が可能です。
しかも、自社配送であるために、必要な資材をすぐに現場に届けることができます。
得意先から見ると、困ったときに即対応してもらえる。その結果、時間のロスなく作業ができる。だから、「どうせ頼むなら、あの会社に頼もう」ということになる。
この場合、「時間ロスなく工程を進めることができる」ことがこの建設資材卸売会社の顧客提供価値です。事業展開の特徴が顧客提供価値を生み出している一つの例です。
このように、商品特徴や事業特徴が、お客様の役に立つことや、嬉しいことにつながった時に、その嬉しいことが顧客提供価値になります。
では、商品特徴・事業特徴は何かと言うと、顧客提供価値を実現できる理由です。
商品特徴・事業特徴と価値はセット・裏表の関係ですが、お客様にとって関心があるのは顧客提供価値の方です。つまり、訴求すべきポイントは商品特徴や事業特徴ではなく、顧客提供価値の方です。
商品や自社が主語になるのが商品特徴、お客様が主語になるのが顧客提供価値と考えると、わかりやすいかもしれません。
そして、その嬉しいことは、お客様によっても異なっています。顧客提供価値を考える際は、どんなお客様のどんな悩みに役立つのか、嬉しいのかを考える必要があります。
ですから、マーケティング戦略立案のステップの一つ目が「顧客」、二つ目が「買う理由=顧客提供価値」でした。
顧客提供価値は、商品を買う理由となりうる、お客様にとっての嬉しいこと、役立つことです。
言葉を変えると、商品特徴や事業特徴によってお客様にもたらされる、お客様にとっての嬉しいことです。
お客様がどうなりたくて買うのか。買ったらどうなれるのか。
お客様の「実現したい将来の姿」、「なりたい将来像」という言い方もできます。
たとえば、「研修」を例に考えると、研修を発注する企業は、研修を受けたいわけではありません。会社や社員の課題解決がしたくて、その手段として研修を発注しています。
研修を受けることで、会社や社員がどうなれるか、どうなりたいかがこの場合の顧客提供価値です。
なお、自社の顧客提供価値と競合の顧客提供価値が同じようなものの場合、自社を選ぶ理由にはなりませんので、顧客提供価値を考えるときは、「お客様に選ばれることにつながる他社との違い」を考える必要があります。
マーケティング戦略を考えるときに、顧客、競合他社、自社の3つの視点で考えることを3Cと言います。
マーケティングの3C
● 顧客Customer |
4.お客様に選んでいただくためのしくみづくり
ステップ2で明確化した顧客提供価値を「知っていただき、選んでいただき、リピートいただくためのしくみづくり」を行うことがマーケティング戦略立案の3番目のステップ、狭い意味でのマーケティングです。
AIDMAという考え方があります。これは何かというと人は何かを購入するときに5つのステップを踏むという考え方です。
AIDMAの法則 A: Attention(注意) I: Interest(興味・関心) D: Desire(欲求) M: Memory(記憶) A: Action(行動) |
売り手側はどうしても「売ること」に関心が集中しがちですが、お客様はいきなり買うわけではありません。購入までに段階があります。
ですので、購入に至るように、各段階で次の段階に進むように適切にアプローチする必要があります。
自社や自社商品のことを知った見込客が、顧客になり、自社の固定客として着するという流れのことを顧客獲得フローと言います。この顧客獲得フローがスムーズに流れるように考えるのが「お客様に選んでいただくしくみづくり」、つまり、狭い意味でのマーケティングです。
(このとき、潜在顧客 → 見込客 → 顧客 → 固定客 の各段階の人数は、上から下に行くにつれて減少し、図にするとちょうど漏斗(ろうと)のような形になります。
漏斗のことを英語でファネルということから、顧客数が減少しながら、認知 → 興味 → 検討 → 購入 → リピート の各段階に進む、この流れのことをマーケティングファネルと言います)
顧客獲得 フロー |
この取り組みにおいては、各段階の数値化が必要です。なぜかというと、このしくみづくりは一度にはできません。改善し、また検証し、ということに継続して取り組む必要があります。
その時に数値など客観的な指標にできないものは、マネジメントができません。数字にすることで、社内で現状についての認識合わせができますし、改善した時に、効果が出ているかの検証も可能になります。