
ほぼ毎月、経営者向けのセミナーを開催しています。 そこでお会いする経営者の方から決算書を見せていただくと、非常に優良な財務内容であるにも関わらず、経営者保証をつけて、借入をされている場合があります。
銀行からお金を借りる際、経営者保証をつけることは一般的です。長年、経営者保証を続けていると、それが当たり前になり、財務内容が大きく改善しても特に疑問を感じないのかもしれません。ただ、経営者保証にはやはりデメリットもあります。
経営者保証を続けるデメリットは何か。経営者保証を外すための方法には何があるのか。わかりやすく解説します。
Contents
1. 経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人になる制度です。経営者が連帯保証人になると、企業の業績が悪化し、借入を返せなくなった場合などに、会社の代わりに経営者個人が返済義務を負うことになります。
なお連帯保証とは、保証人が借りた本人(法人含む)と同等の責任を負う保証のことを言います。通常の保証人の場合は、借りた本人に先に催告してほしいと主張する権利があります。これを「催告の抗弁権」と言います。
また、通常の保証人の場合は、借りた本人の財産を先に執行するように主張する権利があります。これを「検索の抗弁権」と言います。連帯保証人には「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」がなく、借りた本人・法人と同等の責任を負います。
つまり、経営者保証をしていると、会社が借入を返済できなくなった場合、経営者は会社に代わって、借入全額を返済する責任を負います。
企業が金融機関から借入を行う際の経営者保証は、金融機関のリスクを軽減し、中小企業の資金調達を容易にする目的で利用されてきました。一方で、経営者個人が負う責任の大きさを考えるとリスクの大きい制度です。
2. 経営者保証のデメリットとは
経営者保証の具体的なデメリットとしては、主に以下などがあります。
(1) 業績悪化の際に、個人資産で借入を返済することになるリスクがある
企業の経営が悪化して返済ができなくなった場合に、個人資産で借入を返済することが求められるリスクがあります。
(2) 事業承継がしにくくなる場合がある
後継者が経営者保証を理由に躊躇する場合など事業承継が円滑に進まない場合があります。
(3) 連帯保証債務は相続の対象となる
連帯保証人の地位は「相続の対象」となります。連帯保証人が亡くなり、そのまま相続した場合、家族に連帯保証債務が引き継がれる可能性があります。相続放棄をすれば連帯保証人の地位を引き継がずに済みますが、他の財産もすべて相続できなくなってしまいます。
3. 経営者保証を外すメリットは
つまり、経営者保証を外すことには、以下のようなメリットがあります。
(1)会社の資産と個人資産を明確に分け、万一の際に個人資産を守れる。
(2)事業承継がスムーズに進みやすくなる。
(3)家族に連帯保証債務を相続させずに済む。
経営者保証を外すことは、将来のリスクを軽減し、次世代への継承を円滑にする取り組みと言えます。
経営者保証があることで、経営悪化時において早期の事業再生が妨げられたり、円滑な事業承継への阻害要因となることは以前から指摘されてきました。そこで策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」です。
4.「経営者保証に関するガイドライン」とは
「経営者保証に関するガイドライン」は全国銀行協会と日本商工会議所が2013年12月に策定したガイドラインです。ガイドラインの内容としては、経営者保証に依存しない融資の要件、事業承継時の対応、保証債務の整理等について記載しています。
NO | 項目 | 内容 |
1 | 経営者保証に依存しない融資の要件 | 経営者保証に依存しない融資の要件について記載がある。具体的には以下3要件。 ① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離 ② 財務基盤の強化 ③ 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保 |
2 | 事業承継時の対応 | 後継者との保証契約の締結に際して ・保証契約の必要性等について具体的に説明すること ・前経営者との保証契約の解除について適切に判断すること 等について記載がある。 |
3 | 保証債務の整理 | 保証債務の整理の手続きや経営者の経営責任の在り方、保証人の手元に残すことのできる残存資産の範囲等について記載がある。(99万円の自由財産の他、一定期間の生計費や華美でない自宅等) |
5. 経営者保証を不要にするための3要件とは
「経営者保証に関するガイドライン」では、経営者保証のない融資促進のために以下の状態を目指すとしています。
1)資産やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されていること 2)財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能であること 3)金融機関に対して、適時適切に財務情報が開示されていること |
上記に関する「経営者保証に関するガイドライン」の記載内容は下表の通りです。
NO | 要件 | 経営者保証に関するガイドラインの記載内容 |
1 | 法人と経営者との明確な区分・分離 | 法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、 オーナーへの貸付等)を社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備する等によって、法人と個人の一体性の解消に努める。 |
2 | 財務基盤の強化 | 企業は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により、信用力を強化する。 |
3 | 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保 | 資産負債の状況(経営者のものを含む)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。 |
(1) 法人と経営者の明確な区分・分離とは
「法人と経営者の明確な区分・分離」とは、言葉通り、会社と個人の資産や経理が混同されていない状態を指します。具体的には、企業の資産を個人使用に流用しないことが求められています。
例えば、企業から経営者への貸付金や仮払金などがあると、法人と個人の分離がなされていないと見なされます。また、企業から経営者の貸付金については、金融機関から不適切な資金管理と見なされることもあります。
(2) 財務基盤の強化とは
「財務基盤の強化」とは
・損益計算書において2期連続で経常黒字であること ・貸借対照表において資産超過であること(債務超過ではないこと) ・債務償還年数10年以内 |
などが一つの目安となります。
(3)適時適切な財務情報開示とは
「適時適切な財務情報開示」とは、決算書、月次試算表、事業計画書、月次事業報告書などを 定期的に作成し、取引金融機関に提出して説明しているかどうかが問われています。
こうした定期的な情報開示ができていれば 、要件を満たしていると言えるでしょう。
上記3要件を満たせば、金融機関が経営者保証なしの融資を検討する余地があるとされています。また、すでに提供している経営者保証についても見直しの可能性があります。
6. 本当に経営者保証を外せるのか?
実際に、優良企業については、金融機関が新規営業を行う際に「既存借入を肩代わりし、 経営者保証なしで融資する」といった提案をしてくることもあるようです。
また、優良企業であれば、取引金融機関が他行に顧客を取られないよう、積極的に経営者保証を外す提案をしてくるケースもあります。
なお、上記3要件を満たしていても、一行取引(取引銀行が一行のみ)の場合は、銀行が経営者保証を外す提案をする動機が弱いため、金融機関側から経営者保証を外す提案がされないこともあります。
(つまり、上記3要件を満たしている場合には、複数の金融機関と取引することで交渉力が上がり、より有利な条件で保証を外せる可能性があります)
取引金融機関からの提案がない場合でも上記3要件を概ね満たしている場合は自ら「経営者保証を外したい」と申し出てみる価値は十分にあるでしょう。
7. 金融庁の監督方針の一部改正
なお、金融機関の監督官庁である金融庁は、2022年12月に「経営者保証」に関して監督方針の一部改正を発表しました。目的は、「経営者保証に依存しない融資慣行の確立」を更に加速させることです。
その内容としては、融資に際して経営者保証を求める際の手続きが厳格化されました。
具体的には、金融機関が経営者等に対して経営者保証を求める際には、金融機関側から企業に対して以下の説明を行うことが義務づけられました。
・保証契約が必要な客観的・合理的理由についての説明 ・経営者保証の必要性が解消された場合には、保証契約の変更・解除等の見直しの可能性があること |
また、金融機関が適切に説明を行った結果等を記録した件数を金融庁へ報告することも義務づけられました。
この監督指針の改正によって、金融庁は、安易に経営者保証を求めることを抑制し、経営者保証に依存しない融資慣行を確立しようとしています。なお、改正後の監督指針は、2023年4月1日から適用されています。
借入の際に、経営者保証が必要な理由や解除の可能性について、説明を受けていない場合は、自分から説明を求めてみてはいかがでしょうか。
8. 経営者保証を外すことの真の意義とは?
最後に、経営者保証を外すことの真の意義を改め、考えてみたいと思います。経営者保証を外すと、より会社自体の信用力が問われるため、直近数年の業績トレンドや事業計画の確実性も評価対象になります。
つまり経営者保証を外すことは単にリスク回避のためではなく、会社の財務的な健全性を強化し、より安定した経営基盤を作り、 今後の円滑な資金調達や将来の事業承継を円滑にするための取り組みと言えるでしょう。
※関連サイト紹介
■ 中小企業庁「経営者保証」 https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/#guideline ■ 一般社団法人全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」 https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf ■ 「経営者保証改革プログラム」の策定について(金融庁・令和4年12月23日) https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/20221223-3.html ■ 個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について (金融庁・令和4年12月23日) https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-5/20221223-5.html |