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「捨てられる銀行3 未来の金融『計測できない世界』を読む」

「捨てられる銀行3 未来の金融『計測できない世界』を読む」

投稿者
  2019年2月15日

価値観


1. 「捨てられる銀行」とは

「捨てられる銀行」とは、共同通信社経済部記者である橋本卓典氏の著書のタイトルです。

(1) 「捨てられる銀行」

一作目の「捨てられる銀行」は、2016年5月に刊行され、衝撃的なタイトルと内容でベストセラーになりました。

森金融庁長官が「顧客本位」という革命的価値観を打ち出し、金融大改革を進める中で、今後、変革できない銀行は生き残れない、というのが「捨てられる銀行」というタイトルの意味でした。

(2) 「捨てられる銀行2 非産運用」とは

続編の「捨てられる銀行2 非産運用」は、2017年4月に刊行されました。

金融機関が、顧客に投資信託を頻繁に売り買いさせたり、手数料の高い保険商品を売りつけるのは、顧客の資産運用のためではなく、自社の手数料収入確保が目的です。

本書の趣旨を端的に表現する言葉として「フィデューシャリー・デューティー」があります。

「フィデューシャリー・デューティー」とは、高い専門性が信認されている、医者や弁護士、税理士、資産運用関係者は、まず顧客本位の立場に立ち、顧客の利益を優先なければならないという価値観です。

顧客の資産を増やすことにつながらない「資産運用」は、資産運用ではなく、「非産運用」ではないか?という問題提起が本書のタイトルの意味でした。

専門性

(3) 「金融排除 地銀・信金信組が口を閉ざす不都合な真実」とは

次の著書のタイトルは「金融排除」です。2018年1月の刊行でした。金融機関は、広く資金を集め、企業に貸し出すという金融仲介機能を持つ存在です。

ところが、自行の財務的健全性を優先して、顧客、特に中小零細企業との取引を過剰に制限するようになると、本来の金融仲介機能が正常に発揮されないことになります。その状況を日本型「金融排除」と言っています。

(4) 「捨てられる銀行3 未来の金融 『計測できない世界』を読む」とは

「捨てられる銀行」シリーズの三作目は、「捨てられる銀行3 未来の金融 『計測できない世界』を読む」、2019年2月の刊行です。

「捨てられる銀行」シリーズの続編であると同時に、問題意識としては「金融排除」の延長線上に書かれています。

本書の「はじめに」に以下のように書かれています。

一作目『捨てられる銀行』の帯では、「金融検査マニュアルは廃止」と予言した。1999年に誕生し、この国の金融の憲法として君臨し続けた検査マニュアルは、約20年を経て遂に廃止が決まった。これから銀行が生き残るためには、取引先の担保・保証ではなく、将来返済能力を見極めるという「未来に向き合わなければならない」という現実を本書は突きつけるだろう。

2017年4月に上梓した『捨てられる銀行2 非産運用』は、投資信託の回転売買や手数料の高い保険商品を「顧客資産の収奪」を前提にして売りつける日本の資産運用の異常さと、一方で、資産運用業界の真の活性化に向けて動き出した改革を取り上げた。

本書で取り上げるテーマは、「計測できない世界」だ。

計測できない世界

2.「計測できない世界」とは

「捨てられる銀行」シリーズの三作目のテーマはなぜ「計測できない世界」なのでしょうか?

(1) 「計測できない」けれど、確かに“ある”もの

先日、橋本卓典氏の講演を聞かせていただいたとき、以下のお話がありました。

数値化できないものは軽視される。それは“宗教”のようなものではないか。

単年度会計は、徴税のための公正な共通言語。それが企業価値の計測に流用されている。会計年度を超えたリピート率やロイヤリティにこそ企業価値があるのではないか。

計測できない世界を視ようとするアプローチが必要だ。

たとえば、経営者に求められているものは、絶対に逃げない本気と覚悟。担保と保証はその代替策に過ぎない。

本書でも「会社組織の成否は、会計や従来のコスト計算では数値化できない『計測できない利益や損失』によって決定づけられていると言っても過言ではない」と説明されています。

また、「共感や人間性は計測できないが、かけがえのない資産」とも説明されています。「計測できないが、かけがえのない資産」は知的資産といってもいいでしょう。

AI、フィンテック、10~20代の「Z世代」の価値観など社会環境が激変する現代において、計測できない世界を視ようというアプローチが必要ではないのか?

計測できない社会を今後どう生き抜くのか?という問題提起がなされているのが本書です。

(2) 計測・見える化の利点は?

2016年3月に経済産業省が策定したローカルベンチマークは、“一般には見えにくい企業の知的資産”を見える化して、共有するためのツールです。

一般に「計測できないもの」を計測して見える化しようとする理由は何でしょうか。

計測・見える化には以下の3つの利点があるためです。

計測・見える化の3つの利点
1.時系列比較や他社比較ができるようになる。
2.目標設定ができるようになる。
3.進捗管理ができるようになる。

つまり計測・見える化の利点は、客観性の担保と改善の取り組みができるようになることです。さらには、計測・見える化によって意志決定がしやすくなることも利点です。

一方で、計測・見える化にはデメリットもあることが本書で示されています。

計測

(3) 計測・見える化のデメリットは?

では、計測・見える化のデメリットとは何でしょうか。

その問いの答えは、本書の以下の記述にあります。

森(元金融庁長官)は金融機関に対し、改革の取り組み状況をベンチマークやKPIで計測して示すように求めた

「見える化」によって、取り組みの進展が把握できるし、顧客によって「顧客本位な金融機関を選ぶ」というダイナミズムが働きやすくなるからだ。

反面、計測者が金融庁となると、銀行は認識を変えてしまうという副作用がある。どうやったら少しでも見栄えの良い数字をつくれるだろうか、という誘惑に抗えない。そうして数字を虚飾しようという運動が始まる。

実際起きた話だ。

ある地銀はベンチマークの数字をよく見せるために顧客に対する行動がおかしくなった。これまでは2,000万円以下の融資の場合、いわゆる「格付けモデル」を使わず、支店長の決裁で迅速に貸し出ししていたのだが、ベンチマーク導入後は、簡単に融資しなくなってしまった。

なぜならばベンチマークの数字をよく見せるため、少額融資案件でも杓子定規に事業性評価の「件数稼ぎ」が組織内でノルマ化したからだ。

つまり、取り組みの進捗を見える化する「手段」としての「計測・見える化」だったはずが、「計測・見える化」を前提とした途端に、計測バイアスが発生してしまうということです。

(3)「ボチボチでんな」把握の復権

「計測・見える化」を前提とすると計測バイアスが発生してしまう。では、「計測できない」ものの重要性が高まる中で、「計測できない社会」をどう生き抜くのか。

著書の提言の一つは、「ボチボチでんな」把握の復権です。「真善美はボチボチでしか感じられない」と著者は説きます。

精緻な完全解を無理やり算出しようとするから、過信や慢心を招き、おかしな行動を誘発する。

「計測できない世界」の把握は、日本の誇るべき伝統的フラクタル的管理手法「ボチボチ」で十分なのだ。

数値化は難しいが決して「ずさんな認識」ではない。重要なのは「ボチボチ」を組織管理として復権し、上司と部下で認め合う覚悟だ。

(4)「捨てられる銀行」とは「計測できない世界」に向き合わない銀行

本書の説く「捨てられる銀行」とはつまり「計測できない世界」に向き合わない銀行と言えるでしょう。

(以下、本書から抜粋して引用)
・「捨てられる銀行」は、見えない未来に向き合わない。
人と人の「繋がり」や「共感」がかけがえのない事業価値となる時代の到来にも気づいていない。
・志を持って入行したにもかかわらず、意味の分からない投信の回転売買や意味の分からないアパートローンをノルマとして押しつけられ、未来に希望を描けない若手職員の心の崩壊具合に気づいていない。
・世界的に会計基準が「将来予測の反映」に向かおうとしているのに、将来キャッシュフローを見極める人間を一刻も早く育てなければならない事態に気づいていない。
・「捨てられる銀行」は、過去続けてきた数値とノルマと地位と報酬による人間の管理、会計とコストだけで組織や人心までもコントロールできるという古代の信仰を捨てない。
・いわば目で見える「計測できる世界」しか見ようとしていない。

見えない未来

3.「捨てられる銀行3 未来の金融 『計測できない世界』を読む」概要

「捨てられる銀行3 未来の金融 『計測できない世界』を読む」の概要は以下の通りです。

目次
はじめに
序章 計測できない世界

第1章 金融革命とポスト森金融行政
  メインバンクを替えた日光の漬物屋
  信金は地域から逃げない
  鹿沼の濃密ネットワーク
  森金融革命とは何だったのか①地域金融革命
  森金融革命とは何だったのか②資産運用改革
  ポスト森、遠藤体制へ
  金融庁は甘くなるのか
  現場主義者・遠藤
  肝いりの「地域生産性向上支援チーム」と「ネット・プロモーター・ヒアリング」
  長官交代で政策の進め方が変わる
  何が変わり、何が変わらないのか
  銀行の真の脅威は「行かない革命」
  銀行の構造不況の原因は何か
  再編は生き残りを保証しない
  トラバンとリレバン
  AIに出来ない銀行業務
  フィンテックの恐るべき可能性
  預金送金決済が銀行から消える日
  信用度は点数化される
  アリペイが起こす意識革命

第2章 20年の金融ルールが変わる
  検査マニュアルとは何だったのか
  歪められた理念
  形式という病
  検査マニュアルの抜け穴
  銀行のDNAを変えた「別表」
  債務者区分が重要に
  債務者区分に自動連動する引当
  引当はどう見直されるか
  別表が招いた金融排除
  引当を金融排除としない
  歴史の証言者、五味元金融庁長官は語る
  検査マニュアル誕生
  異常が常態化する怖さ
  変えるべき時、それはいつなのか
  検査部の変質
  検査マニュアル(別表)廃止は何を意味するのか

第3章 「共感」と金融
  飛騨から変える「育てる金融」
  公認会計士を目指す
  「いずれ」じゃない。「今」なんだ。
  時が止まった信組
  クラウドファンディングでワクワクする金融に
  信組で日本初のアリペイとの提携
  共感から見える風景
  菱形が強い時代へ
  保険の魔術師
  未来を変える鶴岡
  AIより人間を研究しよう
  世界をアッと言わせる
  「迷ったらワクワクする方へ行け」
  庄内のリ・デザイン
  「ないなら、創れ」
  「おまえを未来に連れていってやる」
  鶴岡信金「孤高の釣り人」
  ベンチャーの一員になった金融

第4章 さよなら銀行
  追い詰められた支店長
  華麗なる黒魔術
  つかの間の良心
  悪魔が来たりて笛を吹く
  衝撃の金融庁臨店
  何度目かの前言撤回
  人に不幸を売る仕事。それが銀行
  「お客様」などいない。あるのは「AK、KK」のみ
  商工中金の闇
  恐怖の営推会議
  インフレするノルマ地獄
  未来を憂う若手職員の悲鳴
  給与水準維持のための「隠れノルマ」
  ルシファー・エフェクト
  ホロコーストに走った「普通の人びと」
  何事もなかったかのように
  悪のスイッチ
   ■ 悪のスイッチその1「非人間化、没個性化」
   ■ 悪のスイッチその2「匿名性」
   ■ 悪のスイッチその3「もっともらしい言葉で残虐行為を偽装」
   ■ 悪のスイッチその4「悪いのは私ではない。おまえだ」
   ■ 悪のスイッチその5
    「強制ではなく順応の圧力、同調バイアスで罪悪感を抱かせろ」
   ■ 悪のスイッチその6「マイノリティー・レポートに耳を傾けるな」
  善きサマリア人

終 章 「計測できない世界」にどう対処するのか
  生命システムとしての組織
  成人発達理論からティールへ
  似て非なるスルガ銀行
  たがが外れた
  誘惑する規模
  共感関係を育める人数
  本源と付随のリスク
  合理主義的経営の末路
  100回に1回の確率
  リスクカルチャー
  「虚構の信仰」と生け贄の共感
  ユーダイモニア研究
  鎌倉投信・新井の新たな挑戦「eumo(ユーモ)革命」
  色があるおカネ
  リレーションシップ・インパクト論
  共感の計測による評価
  本当に大切なものは、いつだって目に見えない
  「計測できない世界」にどう対処するのか
   ■ 出来事思考からプロセス・全体思考への転換
   ■ フラクタル(ボチボチでんな)としての把握の復権
   ■「超パーソナライズと発見機能」は捨てられない
   ■ バイアスとノルマへの警戒
   ■ 失敗の再定義
   ■ 疑心はコストを生産する
  司馬温公の「水甕」

4章の最後にこんな記述があります。

“相手が集団の狂気ならば、こちらも「こんなことを続けていては組織全体が崩壊してしまうよ」と口にできる「良心という名のネットワーク」をつくって広げていけばいい。”

この記述から連想したのは、グーグルの「プロジェクト・アリストテレス」(Project Aristotle)です。

これは、成果を出しているチームの共通点を調べたプロジェクトです。調査の結果わかったことは、組織が成果を出すための最重要条件が「心理的安全性の確保」であることです。

「心理的安全性」とは、メンバーが何かを提案したときや質問したときに、叱られない、責められない、馬鹿にされないとメンバーが確信している状態を言います。

もっと平たく言うと、言いたいことが言える、聞きたいことが聞ける状態です。言いたいことが言える、聞きたいことが聞ける組織づくりが成果を出すためには重要ということです。

計測できない世界で生き残るためにも、言いたいことが言える、聞きたいことが聞ける組織づくりが必要なのでしょう。

捨てられる銀行3

4.「捨てられる銀行」シリーズ概要

「捨てられる銀行」シリーズの概要は以下の通りです。

タイトル:「捨てられる銀行」
著者名:橋本 卓典
発売日:2016年5月18日
出版社: 講談社(現代新書)

第1章 金融庁の大転換
第2章 改革に燃える3人
第3章 「選ばれる銀行」になるために
第4章 新しい4つのビジネスモデル
終 章 森金融庁改革の行方

タイトル:「捨てられる銀行2 非産運用」
著者名:橋本 卓典
発売日:2017年4月19日
出版社:講談社(現代新書)

はじめに-「売られるあなた」
第1章 動き出した資産運用改革
第2章 ニッポンのヒサンな資産運用
第3章 フィデューシャリー・デューティとは何か
第4章 年金制度の変化と資産運用改革
第5章 改革の挑戦者から何を学ぶか
終 章 「売られないあなた」になるために

タイトル:「金融排除 地銀・信金信組が口を閉ざす不都合な真実」
著者名:橋本 卓典
発売日:2018年1月27日
出版社:幻冬舎(新書)

序 章 「食い違い」から始まる排除
第1章 事業者から見た排除の風景
第2章 金融排除とは何か
第3章 見捨てない金融
第4章 「排除」の大河に架ける橋
終 章 排除の終焉と協同の時代

捨てられる銀行

タイトル:「捨てられる銀行3 未来の金融『計測できない世界』を読む」
著者名:橋本 卓典
発売日:2019年2月13日
出版社:講談社(現代新書)

はじめに
序章 計測できない世界
第1章 金融革命とポスト森金融行政
第2章 20年の金融ルールが変わる
第3章 「共感」と金融
第4章 さよなら銀行
終 章 「計測できない世界」にどう対処するのか

捨てられる銀行3

※シリーズ第一作の「捨てられる銀行」については以下の記事をご参照ください。

投稿者

この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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