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高収益企業キーエンスの利益率は?「お金のブロックパズル」でわかりやすく解説

高収益企業キーエンスの利益率は?「お金のブロックパズル」でわかりやすく解説

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  2022年10月1日

大企業

最近、「採用ができない」という話をよくお聞きするようになりました。
「募集しても応募がない」とか「辞退される」とか・・・。
そのような状況下で考えたい事の一つが給与額をいくらにするかです。
良い人材を確保するには、やはり他社と比較して遜色ない給与額にする必要があるためです。
業績を上げるには、良い人材が必要。
一方で、良い人材を確保するには利益確保が必要。
中小企業と大企業を比較してもすぐに真似できない事が多いですが、
高業績の企業は、いくらの給与を支払っているのか、
どのような収益構造なのか気になるところです。
高収益企業の一例として、キーエンスの収益構造について、わかりやすく解説します。

1.大企業の平均給与額は?

大企業では、どれくらいの給与が支払われているのでしょうか。
下表では、広く名前が知られた大企業の平均年間給与です。

会社名決算期従業員数(人)平均年齢(歳)平均勤続年数(年)平均年間給与(万円)売上高(億円)営業利益(億円)営業利益率
キーエンス2022年3月20日2,59936.112.52,1826,0573,93765.0%
ソニー2022年3月31日2,83942.616.71,0844,0622,17553.5%
トヨタ自動車2022年3月31日70,71040.416.48571,96436718.7%
三菱電機2022年3月31日36,70041.116.980625,5746662.6%
京セラ2022年3月31日20,56040.516.47258,4824615.4%
日本電産2022年3月31日2,51139.210.86451,981864.4%

国税庁によると、平均給与の金額は 461万円(男性 566万円・女性 280万円)なので、大企業の給与は平均よりも高い傾向にあることがわかります。その中でもキーエンスの平均給与は、2,182万円とダントツの高さです。(上表の売上高、営業利益は単体決算の数字です)

このような高い給与を支払えるキーエンスの収益構造はどのようになっているのでしょうか。

2. キーエンスの収益構造は?

下図は、キーエンスの収益構造を「お金のブロックパズル」で図式化したものです。
人件費は、有価証券報告書に記載された平均年間給与額と役員報酬額からの推定です。

キーエンス

上図を見ると、キーエンスの収益構造の大きな特徴の一つが80%という高い粗利率にあることがわかります。粗利率が高く、人件費以外の固定費が相対的に低いため、高い給与を支払っても、労働分配率が14%程度に抑えられています。その結果として、65%という驚異的な営業利益率が実現できています。

キーエンスが高い給与を支払えるのは、高い給与を支払っても65%という営業利益率を確保できるためとわかりました。次に気になることは、高い営業利益率で稼ぎ出した営業利益の金額を何に使っているのか?ではないでしょうか。

3. キーエンスの利益の使い道は?

一般的に、利益の使い道としては、借入金の返済や設備投資があります。ところが、キーエンスの場合はどうかというと、無借金経営かつ、ほぼファブレスです。

では、キーエンスは利益を何に使っているのか?を「お金のブロックパズル」で表したのが下図です。

キーエンス

上図を見ると、利益の主要な使い道としては、法人税の支払額が842億円、配当が485億円、設備投資が10億円です。その他の使い道としては、有価証券の取得で1,336億円使い、729億円を現金で残している事がわかります。極めて、キャッシュリッチな企業です。

なお、上図の中に、増加運転資金 651億円という文字があります。これは何かというと、売上増加に伴って必要な運転資金が651億円増え、その分、キャッシュが減ったことを表しています。

売上が大きく増加する局面では、それに伴って売掛金や在庫も大きく増えることから、手元資金が不足しがちになります。これを「増加運転資金」と言います。利益率が低い企業では、売上が増加した結果、増加運転資金の影響で資金繰りが逼迫することも多く起こります。

4. キーエンスのキャッシュフロー上の増加運転資金の影響は?

下図は、キーエンスの「お金のブロックパズル」に前期の図と、経常運転資金の状況をプラスした図です。

キーエンス

キーエンスの場合は、前期から売上が144%増加しています。それに伴って、売上債権や在庫の金額も増加し、増加運転資金651億円キャッシュが減っています。ところが、営業利益率が65%と極めて高いことから、増加運転資金によるキャッシュアウトよりも、高い営業利益率によるキャッシュ創出効果の方がはるかに高く、現預金を増やせている事がわかります。

一般的な利益率の企業では、売上が大きく増加する局面では、資金繰りが厳しくなるので注意が必要です。

5. キーエンスの高い利益率の要因は?

最後に、キーエンスがなぜ好業績なのか?について、日本経済新聞の記事から引用すると

「新型コロナウイルス禍に伴って国内外で増える工場の自動化投資の需要が追い風となった。半導体不足でも潤沢な資金力を武器にセンサーや制御機器などの在庫を確保し、顧客から発注を受けた当日に出荷する直販体制が奏功した。」

(日本経済新聞 2022年2月2日より)

との事です。もともと、キーエンスの事業の特徴として「直販体制による顧客と密着した営業」が高い収益性の要因とされています。

直販体制で、顧客から直接的にニーズを聞く事ができるために、顧客ニーズに合わせたソリューション提案ができるということです。

2022/3期決算では、顧客密着営業により、顧客の需要動向を迅速に把握し、資金力を生かして、受注増を見越した製品や原材料の在庫の積み増しを行い、「顧客から発注を受けた当日に出荷する直販体制」を確立できたことが売上前年比144%につながった一つの要因のようです。

キーエンスとまったく同じようにはできないとしても

・顧客ニーズや顧客の需要動向の迅速な把握
・本業を伸ばすために手元資金を確保すること


などは参考にできるのではないでしょうか。

excel本記事の数字をexcelファイルでダウンロードできます。
※ クリックでダウンロード→「keyence202203.xlsx」

※「お金のブロックパズル」の詳細については以下の記事をご参照ください。

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この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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キャッシュフロー経営