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日本最古のおでん屋「たこ梅」さんの「学習する組織」を創る取り組みとは

日本最古のおでん屋「たこ梅」さんの「学習する組織」を創る取り組みとは

投稿者
  2023年5月14日

たこ梅 岡田哲生氏


1. 日本最古のおでん屋「たこ梅」さん勉強会を企画した経緯は…。

先日、日本最古のおでん屋さん「たこ梅」の社長さんから会社の取り組みをお聞きする機会がありました。たこ梅さんの創業は弘化元年(1844年)。道頓堀の本店を中心に170年以上続いているおでん屋さんです。

実は、関東煮に鯨の舌を初めて使ったのは、たこ梅の初代店主だそうです。そして、お客様が鯨の舌を噛む音が小鳥のさえずりに似ている事から、鯨の舌を「さえずり®」と名付けたのも初代店主とのことです。

今の社長の岡田哲生さんは五代目の店主。「店主」兼「雑用係」を名乗っておられます。

実はこの勉強会が実現するまでにはちょっとした経緯がありました。最初のきっかけは、2021年9月でした。

2021年9月と言えば、コロナ禍真っ只中のことです。そんな頃に勉強会中心メンバーのHさん(東京在住)から関西メンバーにこんな連絡がありました。↓

『アダム・カヘンの「敵とのコラボレーション」を読んでいて、ネットで検索していたら、以下のおでん屋のブログに辿り着き、気になっています。非常に勉強されている経営者の方とお見受けいたしました。コロナの影響もありますが、大丈夫でしょうか。もしよろしければ、お声がけくださり、まずは関西会のネットワークにつながって、何かの糸口や支えになるような展開になればと願っております。』

そこに貼られていたリンクが五代目店主の岡田哲生さんの以下のブログでした。

アダム・カヘンさんのトランスフォーマティブ・シナリオプランニングに行ってきました
https://takoume.co.jp/tenshu/179.html

おでん屋さんがシナリオプランニング…?
しかも、ブログ分類のタイトルが「学習する組織を創る」です。

このとき、岡田社長と連絡を取らせていただき、勉強会にもお誘いしたのですが、日程のご都合が合わず、そのままになっていました。

それから一年以上が経過し、たまたまご都合がついたということで、2023年2月に勉強会に来ていただくことができました。

そして、その時のメンバーの中から、岡田社長が取り組んでおられる「学習する組織を創る」お話を聞かせていただきたいという意見が出て、企画したのが今回の勉強会です。

勉強会では、岡田社長が「学習する組織」を創ろうと考えた経緯やどんな取り組みをしてきたかなどについてお話いただきました。以下抜粋してご紹介します。

2. 日本最古のおでん屋「たこ梅」さんが「学習する組織」を創ろうと考えた経緯

まずは岡田社長が「学習する組織」を創ろうと考えた経緯です。

岡田社長は、家業に入社する前の10年間、一般の会社勤めをされていたそうです。勤め先での担当業務はマーケティング。

先代が亡くなった事を契機に岡田さんは家業を継ぎ、代表取締役に就任します。

社長となった岡田さんはそれまでの勤務経験で得たマーケティングの知識や考え方を自社に応用することで、業績を向上させることに成功されました。

ところが、そんな岡田社長を苦境に陥れる出来事が起こります。2008年9月のリーマン・ブラザーズ経営破綻に端を発したリーマンショックです。

お店はリーマンショックの波及で売上減少。このときに岡田社長は自分自身のマーケティング手法だけでは、今の苦境に太刀打ちできないと考えます。

自分一人の知識で業績を何とかしようとするのではなく、組織を変える必要があると考えました。ただ、自分の中に答えがない状態でした。

そのときに、世の中のどこかに自分が知らないだけで「きっと正解がある」と思っていたそうです。自分が持っていない正解を探したかった。そして、出会ったのが「学習する組織」。

この「学習する組織」という「手段」を使えば、なんとか生き残れると思って学び始めたとのことです。

(もっとも、当時は手段として捉えていたものの、後に「道」だと思うようになったそうです。「道」というのは、茶道や武道など、技術の上達を目指して日々取り組むことで、人格形成を目指すような価値観を含んだ概念のことです)

学習する組織」(ピーター・センゲ著)とは、環境変化に適応して成長し続けるために必要な「人と組織の学習能力」をどのように高めるかについて書かれた書籍です。日本語の最新版の翻訳書は、2011年に出版されています。

(岡田社長が「学習する組織」について学び始めたのは、リーマンショックのときのお話です。この時には「学習する組織」の翻訳書はまだ出版されておらず、当時、岡田社長が読まれたのは「最強組織の法則」の翻訳書だそうです)

3. 日本最古のおでん屋「たこ梅」さんの「学習する組織」を創る取り組みとは…。

では、「学習する組織」を創るために岡田社長はどのような取り組みを行ったのでしょうか。共有ビジョン、人事制度導入、継続学習の3点についてご紹介します。

(1) 共有ビジョンの設定

企業が発展するためには、企業がこの先何を実現したいのか。どうなりたいのか。という共有ビジョンが必要です。なぜなら、人間にとって、何のためなのかよくわからないことに熱意をもって取り組み続けることは難しいためです。

しかも、その共有ビジョンはメンバーが実現したいと強く望む内容であることが必要です。

たこ梅さんは「学習する組織」を創る取り組みの一環として自社の「約束」、「信念」、「目指す処」を言語化されました。「約束」とは自社の存在意義(ミッション)。「信念」とは行動指針。「目指す処」とはビジョンです。

この時のたこ梅さんの取り組みのユニークさはその策定方法です。

「約束」は代々の店主の言葉をまとめ、「信念」は店長さんなど10年以上働いている社員の方々に大事にしている共通価値観を抽出して整理し、「目指す処」については、入社2年以内の社員の方々に「どんなお店だったら10年後も働いていたいか」を考えてもらったそうです。

約束(存在意義)…代々の店主の言葉
信念(行動指針)…10年以上働いている社員が大事にしている共通価値観
目指す処(ビジョン)…入社2年以内の社員が「どんなお店だったら10年後も働いていたいか」という将来ビジョン。

このようにして、組織が大事にするべきミッションや共通価値観、将来ビジョンを言語化されました。このうちビジョンについてはほぼ実現されているそうです。

(2) 人事制度導入

取り組みの2点目は人事制度導入です。評価指標としては、保有能力と発揮能力という2つの側面で評価する体系です。発揮能力とは即ち、行動評価です。

この根底には、自分たち一人ひとりの成長が会社の成長につながるという考え方があります。そして、個々の評価項目については、職務に応じて自分で決めるという方法を取っているそうです。

その理由は、現場の細かい業務一つ一つについて、すべて社長が把握している訳ではないという事が一点。

もう一点は、上から決められた事よりも、自分自身で自主性をもって決めた事の方がやる気になるんじゃないか?と考えたためだそうです。

個々の評価項目は、現場の社員が決めますが、岡田社長から出しているリクエストが一つあるそうです。それは、「その指標で高い評価を取れば、お客さんが喜ぶことにつながる指標であること」。

その理由は、会社が継続的に発展するには「お客さんの人生に豊かさを届け、選ばれる」ことが必要だと考えるためです。売上は遅行指標。先行指標は「お客さんの喜び」です。

(3) 継続学習

取り組みの3点目は継続学習です。月に一回「学習する力」を向上させるための勉強会などを実施しているとのことです。取り組んでいる手法は具体的には以下の2点です。

  • NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)
  • 行動探求(Action Inquiry)

NVCとは、自分と相手の両方が満足できる状態を目指して、話し合いを行うコミュニケーション手法です。

行動探求とは、目の前の出来事をどう受けとめ、対応するかについて、思考と行動の幅や効果を広げていくための考え方です。

NVCと行動探求について、正社員は必修科目。パート社員については希望者に受けてもらっているそうです。

かつては、こうした研修に岡田社長と一部の社員が参加するスタイルだったそうです。しかし、それでは組織の中に共通言語が生まれず、考え方や手法の実践が進みにくかったことから、全社員が研修に参加することにされたそうです。

たとえば、NVCでは以下のような伝え方のプロトコル(形式)を学びます。

「あなたの〇〇という発言は、私には△△という風に聞こえます。
そして、その〇〇という発言を聞いたことで、私は□□という気持ちになる」

上記のような発言は、全員が同じ研修に参加していることで、共通認識や共通言語が生まれ、趣旨がよく理解されやすくなります。

3. コロナ禍での取り組み

そして、2020年1月。新型コロナ感染症が発生しました。たこ梅さんは従業員の健康などを考え、緊急事態宣言が出る前に即座に休業を決めます。結果的にお店は、大きな赤字を計上することになりました。

そんな中で「学習する組織」への取り組みを進めてきた、たこ梅の社員の方々は、お客さんに向けたビデオメッセージやTシャツ企画、通販の商品開発、上得意先様への商品提案等々に取り組んでいきます。

そして、ビデオメッセージなどの取組みの基底にあるものは、あくまでも「こうすればきっとお客さんが喜んでくれる」という「お客さんの喜び」や「お客さんの人生の豊かさへの貢献」です。

岡田社長は「学習する組織とは、目的に向けて効果的に行動するために集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」だと言います。

たこ梅さんの会社としての目的は「お客様と我々の人生の豊かさに貢献する」こと。

事業環境が大きく変化し続ける中で、組織を「学習する組織」とすることが目的達成につながるという考え方は、バランス・スコアカード(BSC)とも共通する点があると感じました。

また、岡田社長が大事にしているポイントの一つが「情報の透明性」だそうです。多くの組織で、経営側と社員には認識のギャップがあります。

その理由は、立場の違いももちろんありますし、それに付け加えて、頭の中の情報量の差も大きいです。社長の方が業界内のこと、顧客のこと、自社のことなどについて、より多くの情報をもっている。だから、発想や判断にどうしても差が生じてしまいます。

組織内のメンバーが同じ情報に接し、共有することができれば、頭の中の情報量の不一致から生じる認識や判断のズレを縮めることができます。

今、たこ梅さんが取り組んでおられるのは、これまでのマーケティングなどの取り組みの体系化やシステム化とのことです。

「学習する組織」という基盤があることで、新たな取り組みが行いやすくなる、行動が加速する、そういうイメージが持てた勉強会でした。

岡田社長、ありがとうございました!

投稿者

この記事を書いた人

キャッシュフローコーチ®。経営数字と理念の専門家として、経営数字の見える化による意志決定支援と、社員が自律的に動き、成果が生まれるしくみ作りに取り組んでいる。 https://www.officeair.net



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