アスカグリーンファームの白い「明日香きくらげ」
> 農業分野でIoT活用が活性化している理由とは
>「白いきくらげ」は白いスーパーフードだった!
> アスカグリーンファームがIoT活用を考えた理由とは
> 元カーレーサーと土木業経験者と大工で事業開始
> 社長の求心力の根源とは
> 名実ともに「きくらげ日本一」の会社を目指して
農業分野でIoT活用が活性化している理由とは
農業にIoT(Internet Of Things)を活用しようという動きが盛んになっています。
農業は長らく労働集約的産業でしたが、温度、湿度、日射量などのデータを収集し、活用することで、作業効率化や生産性向上が実現できるためです。
スマート農業の実現に向けて、多くの企業がこの分野に参入しています。
2016年8月には、ある大手電機グループの専門商社がIoTを活用したコンテナ型植物工場を発表しました。
このコンテナ型植物工場は、大手電機会社のファクトリーオートメーション(FA)機器などを組み合わせて、生産現場を細かく管理できるのが特徴です。栽培品目はレタスやベビーリーフ、サンチュなどの葉物野菜です。
このコンテナ型植物工場を活用して、きくらげの生産性向上に取り組もうとする会社があります。奈良県五條市の農業法人株式会社アスカグリーンファームです。
アスカグリーンファームのきくらげ栽培棟
「白いきくらげ」は白いスーパーフードだった!
アスカグリーンファームがきくらげの生産を開始したのは、3年前です。それまでは大和野菜の栽培などを行っていましたが、採算ベースに乗せることがなかなか難しい状況でした。
そのような状況で、同社が着目したのが「白いきくらげ」です。
「白いきくらげ」は普通のきくらげの突然変異として現われたものを栽培したもので、その発生確率はたった1万分の1です。その希少価値に目をつけたのです。
2015年6月に「白いきくらげ」の栽培を開始し、温度管理の失敗などを経験しながら、同社は次第に栽培ノウハウを蓄積していきます。
そして、社外の試験所に栽培した「白いきくらげ」の成分分析を依頼した同社は、その結果を知って驚愕することになります。
「白いきくらげ」の栄養価
・百グラムあたりのビタミンD含有量が全食品中一位。
・不溶性食物繊維は同じく第二位。
・カルシウムは牛乳の二倍。
・鉄分はレバーの三倍。
・二十種類のアミノ酸のうちの十八種類を含み、コラーゲン豊富。
「白いきくらげ」は希少性が高いだけでなく、栄養価の高いスーパーフードだったのです。
きくらげ栽培棟内部。白いきくらげが規則正しく並べられ、栽培されている。
アスカグリーンファームがIoT活用を考えた理由とは
アスカグリーンファームが栽培したきくらげは現在、飲食店向けに卸しているほか、「明日香きくらげ」という商品名で、一部の生協や小売店などで一般向けにも販売されています。
同社のきくらげ事業のこれまでの3年間は、栽培ノウハウの確立に取り組んだ期間でした。現在は、栽培棟も5棟になり、年間を通じて安定供給ができる体制が整っています。次なる課題はコストダウンです。
同社は、無農薬で手間暇をかけて、きくらげを栽培しています。人が手をかけた手間暇はそのままコストアップに直結します。
コンテナ式のIoT型栽培棟では、既存の栽培棟と比較して少ない要員数で運営できる見込みであり、生産性向上につながると見込まれています。
IoT型栽培棟導入には、もう一つの狙いがあります。連続的なデータ収集と分析による、栽培ノウハウの裏付け強化です。
静かに稼働開始を待つコンテナ型栽培棟
今でもノウハウは確立されていますが、データの裏付けが強固なものになれば、第三者にノウハウの提供が可能となります。それによって、きくらげ事業を社外に広げて、供給体制のさらなる増強を図ることも可能になります。
IoT型栽培棟の稼働開始は2018年4月の予定です。同社の狙い通りに事が運べば、白いスーパーフードが私たちの食卓にもっと届きやすくなるかもしれません。
元カーレーサーと土木業経験者と大工で事業開始
さて、アスカグリーンファームがきくらげの栽培をスタートしたとき、きくらげ事業に携わるメンバーは実はたったの3人でした。
この3人は、会社直営の農場に泊まり込み、一棟のハウスできくらげ栽培を開始します。まさに365日24時間体制です。
会社直営の農場内の宿舎には、エアコンのある部屋が一室しかありません。3人はその同じ一室で寝泊まりし、毎日、顔を合わせながら、試行錯誤をくり返す日々を送ります。
実は、3人はきくらげ事業立ち上げに際して、アスカグリーンファームに集まったメンバーでした。3人は、経歴などのバックグラウンドもそれぞれバラバラです。
一人は元カーレーサー、
一人は元土木会社勤務、
一人は一人親方の大工でした。
農業とは関係ない、異色の組み合わせであったことが、結果的にプラスに作用しました。既存の農業の枠にとらわれない柔軟な発想で、いろんな手法を試すことができたのです。
黒いきくらげも栽培している。収穫後、丁寧に手洗いして天日干しをする。
社長の求心力の根源とは
たとえば、栽培棟に使う断熱素材の選択や栽培環境の維持方法など、既存の手法にとらわれずに広い視野で情報収集し、自ら実施して検証したことが独自のノウハウの蓄積につながりました。
また、元土木会社勤務の社員と元大工の社員が自らユンボを運転して、基礎工事などを自分たちで行うことができたことも、さまざまな試行錯誤をしやすくしました。
事業立ち上げに際して集まった3人の社員とは、山本人彰社長、小川和良取締役、大西洋一取締役の3人です。
事業立ち上げから約3年が経過した今、この3年間をふり返って、小川取締役は
「思っていたよりも速いスピードでここまで来られた」と言います。
そして、「思っていたよりも速いスピードでここまで来られた」ことの一番の要因として、
「社長の求心力」を上げます。
小川取締役は、山本社長の求心力の根源として以下の4点を上げます。
社長の求心力の根源
・方針をきっちり示してくれる。
・人間味があって、言葉に重みがある。
・心が広く、社員と社員の家族を大切にする。
・仲間を大切にしていて、いざという時に助けてくれる仲間が多い。
山本社長のよく言う言葉の一つに「マスターマインド」があるそうです。マスターマインドとは、志を同じくする者同士が目標達成に向けて、協力し合う関係性を言います。
山本社長の「マスターマインド」という考え方の影響のもとに、
「自分たちでできることは、自分たちで何でもやろう」
という意識で取り組んでこられたほか、必要な時には、各方面の専門家に力を貸してもらえることができているとのこと。
とにかく、「この人のためなら」と思える上司、尊敬できる上司なのだそうです。
名実ともに「きくらげ日本一」の会社を目指して
アスカグリーンファームは今、「白いきくらげ」の生産量では、国内でトップになりました。
今後は、エリンギと言えば「ホクト」、舞茸と言えば「雪国まいたけ」のように、きくらげと言えば、誰もが「アスカグリーンファーム」と答える会社、名実ともに「きくらげ日本一」の会社を目指されています。
そのための取組事項としては、前述のコンテナ式のIoT型栽培棟でのノウハウ蓄積の他、
・haccp対応の加工工場の建設、
・自社菌床工場の稼働、
・共同生産者の育成
など数多くの事項を計画されています。
実施事項が多く、少人数のベンチャー企業で大変なはずですが、会社の将来を語る時、社員の表情が明るい会社です。
・将来の経営ビジョンが明確で、ビジョン実現に至る道筋も明確化されていること。
・尊敬できる上司の下で仕事ができること。
の2点がこんなに人を生き生きとさせてくれるということを教えてくれる会社です。
右:山本社長。左:小川取締役
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