「できれば、税金はあまり払いたくない…」
そんなお話をお聞きすることがあります。
「苦労して、利益を上げた挙句、税金で持っていかれるのだとしたら、利益は少ない方がいい」
また、「多額の税金を支払うくらいなら、社員に還元したり、会社の環境整備に費用をかけた方がいい」
そんな考え方もあるようです。
では、利益の金額は小さい方がいいのでしょうか。
利益の金額が小さいことで、何かデメリットはないのでしょうか。
Contents
1.利益とは何か
まず、利益とは何でしょうか。利益をこんな計算式で考えてみます。
利益 × 税率 = 税金
この式を見て、「当たり前じゃないか」と思われたかもしれません。
この式は間違ってはいませんが、一つ問題点があります。
その問題点が何かというと、この式で物事を考えると、
「利益とは、売上から費用を払った後に、会社に残ったお金である。
そして、そのお金の一部を税金として支払う」
こんな勘違いをしてしまうことがある、ということです。
利益とは、会社が保有している現金の金額を表すわけではありません。
一定の手順に則って算出された、単なる計算結果に過ぎません。
利益がお金ではない、その要因の一つは、利益からさらに出ていくお金の存在です。
具体的には、たとえば、借入金の返済です。借入金の返済は費用ではないことから、上記計算式の「費用」には含まれません。
借入金の返済は、法人税を払った後の利益から支払いが必要です。
・借入金の返済は経費ではない
【借入金の返済は経費ではない。税金を払った後の利益から返済する】
売 上 高 100 |
変動費 20 | |
粗 利 80 |
固 定 費 70 |
|
利 益 10 |
法人税等 3 | |
税引後利益 7 → | → 返済 7 |
そして、多額の借入が必要になる理由の一つが設備投資です。
たとえば製造業などは継続的に設備投資が必要です。継続的な設備投資ができるだけの利益がなければ、事業継続や事業の発展は困難でしょう。
そう考えると、借入金の返済は、過去のコストの支払いとも言えます。
また、事業の発展のためには、設備投資など今後の投資を考慮して、借入のみに依存しないですむように、資金を貯めていくことも必要でしょう。
では、製造業以外の、設備投資が不要な業種の場合はどうでしょうか。そのような業種の場合でも、新規事業のための投資資金が必要になることもあるでしょう。
そういう意味では、利益の使い道は、将来のコストとも言えます。
・税金を払わずに会社にお金を残すことはできない
つまり、利益とは、「会社に残った、余ったお金」ではなく、「返済のため、また将来の投資に備えて貯めておく必要があるお金」=「事業継続上必要なコスト」だということです。
ところが、上記の計算式で利益を捉えてしまうと、「多額の税金を支払わないといけないから、利益を出したくない」という意識に陥りがちになる。そこが問題だと考えています。
税金を払わずに会社にお金を残すことはできないのです。
2.利益の金額が小さいとどうなるのか
では、利益の金額が小さいとどうなるのでしょうか。
利益の金額が小さいと、自己資金での設備投資ができず、借入に頼ることになります。さらには、利益の金額が過少であると、利益から、借入金の返済ができないといったことが起こります。
・利益が過少であると、利益から借入金の返済ができない
【利益が過少であると、利益から借入金の返済ができない。追加融資が必要となる】
売 上 高 100 |
変動費 30 | ||
粗 利 70 |
固 定 費 65 |
||
返済 7 | |||
利 益 5 |
法人税等 1.5 | ||
税引後利益 3.5 |
この図の企業は、決算書上は黒字企業ですが、借入の返済まで考えると、お金がまわっていません。キャッシュフローベースで赤字企業です。
キャッシュフローベースで赤字企業ということは何を意味するでしょうか。
銀行が追加融資をしてくれないと、資金繰りがまわらなくなり、資金ショートするリスクがあるということです。
これから創業される方の創業計画書を見せていただくことがあります。その中には、当初の数年間は、過小な利益を想定している損益計画も見かけます。
一方で、たとえば、飲食店など立ち上げに資金が必要な業種では、資金計画としては、店舗を借りるための保証金や内装、厨房設備などのために多額の借入を予定されているケースが多いです。
利益は過小であるのに、多額の借入の返済が発生してしまう。どうやって返済するつもりなのか。返済計画が不明な資金計画です。
この場合、損益計画と資金計画を突き合わせると、利益から返済ができないことは一目瞭然ですが、多くの創業計画書では、損益計画と資金計画が別個の表という様式です。そのために、事業開始前から破綻した計画であることに気づかないのかもしれません。
・利益はキャッシュの源泉
利益≠キャッシュですが、利益はキャッシュの源泉です。
利益が過少であると、事業継続に必要なコストを賄えず、資金ショートしてしまう。つまり事業存続のリスクがあるということです。
多くの企業において、売上減少が経営危機につながるのは、売上減少が利益減少を引き起こし、借入金の返済ができなくなるためです。
今の時代は、事業環境変化のスピードがかつてなく速い時代です。現時点で、利益を出せているからといって、今後も同程度の売上・利益を維持しつづけられるかどうかはわかりません。
税金を払いたくないがために、利益を出さないようにする。
→ そのために、設備投資の資金を借入に頼らざるを得なくなる。
→ 借入が膨らみ、その結果、月々の返済が増える。
このような状況で、売上が減少すればどうなるでしょうか。
お金がまわらなくなり、支払いができなくなるということです。
現代のような不確実な事業環境下において、税金を払いたくないがために、キャッシュアウトにつながる節税策を行い、利益を過小にすることは、経営上のリスクが高いと言えるでしょう。
3.ビジョンを実現するためには
経営者が事業を行うとき、長期的に何か達成したい目標があると思います。言葉を替えると経営ビジョンです。
そして、経営ビジョンを実現するためには、お金がショートすることなく、まわり続ける必要があります。お金は目的ではなく、ビジョン実現の手段です。
お金の裏づけのない事業計画では、経営ビジョンを実現することは難しいでしょう。
・キャッシュフロー経営とは
キャッシュフロー経営とは、経営ビジョンの実現に向けて、資金ショートすることなく、お金がまわり続ける経営です。
そのためには、資金ショートを起こさないための事業計画の立案が必要です。また、タイムリーに経営数字の状況を把握して、資金ショートを起こさないように前もって、手を打っていくことも必要です。
ところが、多くの中小企業では、このような事業計画の立案や進捗管理は、されていないことが多いです。
その理由としては、「忙しい」ということもあるでしょう。
中小企業では、経営者も営業などの実務をされていることが多く、経営管理に十分に時間を割けないことも多いです。
重要とわかっていても緊急性の低い仕事は、どうしても優先順位が低くなりがちです。「面倒くさい」という気持ちにもなるでしょう。
さらには、多くの中小企業では、ほとんどの場合、社長は、営業出身か技術出身です。技術・営業(=本業)は得意で、好きで、やりたい。お金のことは、不得意だし、好きではない。だから、できれば、あまり手をかけたくない。
人はやりたくないことをやらない理由は、いくらでも見つけることができます。
ただ、お金は、ビジョン実現を裏づけるために必ず必要なものなので、不得意では済ませられません。
経営管理が不得意な場合は、自分が本業に専念できる体制づくりが必要ですね。
※この記事の説明で使用した図(お金のブロックパズル)については、以下の記事で詳しく解説しています。
https://vision-cash.com/keiei/money-block-puzzle/