何にお金を使うのか
何にお金を使うのか。お金の使い方にはその人の価値観が表れます。また、時代の変化にも左右されます。
消費動向を知る資料として、総務省の家計調査があります。家計調査の支出項目をある一定の基準で並べ替えると、次のようになります。
保健医療、交通・通信、光熱・水道、住居、教養娯楽、食料、家具・家事用品、教育、被服及び履物。
並べ替え基準は、バブル全盛期である1990年と2014年を比較しての支出金額の増加率です。
保健医療、交通・通信、光熱・水道、住居にかける支出額は増加しています。教養娯楽以降の支出は減少しています。その中でも、被服及び履物支出は、24年間で、52%にまで減少しています。
その要因としては、低価格の海外品の流入やファストファッションの台頭による製品単価の低下の他、ファッションの相対的なプライオリティの低下があると見られます。
消費者が洋服にお金を使わなくなったのです。
ある社長の嘆き
衣料品の中でも実用衣料については、さらにその傾向が顕著です。たとえば、靴下です。ある靴下メーカーの社長に最近の市場動向を聞いてみました。
「商談しても、商品がいいとか悪いという話はない。
聞かれるのは、『掛け率いくら?』だけ」
と社長はため息をつきます。得意先が値段だけの商売をするようになっているのだそうです。
量販店では、2年くらい前から靴下が売れにくくなり、ある大手量販店では昨年、靴下売場を従来の3分の1に大幅縮小したそうです。多くの納入業者がその影響で売上低下を余儀なくされているようです。
実用衣料で好調な企業といえば、ユニクロやGUが思い浮かびますが、そこにはもともとメイドインジャパンの靴下は存在しません。
消費税率が10%に引き上げられるときに差分を負担させられるのではないかという懸念も耳にします。消費税率が八%に引き上げられたとき、大手量販店から
「差分の消費税分はそちらで負担してほしい」
と要請された靴下メーカーがあったそうです。証拠が残らないように、メールではなく電話での要請だったといいます。
特色のある商品を出すと「買いたい」消費者はいる
健闘している企業もあります。
ある靴下メーカーでは、ゴルフ好きの社長が、ゴルフ用の五本指靴下「男のゴルフ5本指」を発売したところ、全国から問合せのあるヒット商品となっています。原料の糸や編み方から研究し、疲れにくく、スイングしやすいように履き心地にこだわった商品です。
特色のある商品を出すと「買いたい」消費者はいます。ただ、大手量販店などには、特色のある商品を置ける売場がない。
数年ごとに異動する担当者は任期中に冒険をしたがらない。価格訴求一辺倒ではなく、特色のある売場作りにトライしようとする人がなかなかいないのです。
そして、流通のそのような姿勢は、低価格に飛びつく消費動向を背景にしているのです。
私たちは何にお金を使うのか?
冒頭の問いをもう一度考えてみてもよいのかもしれません。