設備投資の留意点とは?設備投資の経済性計算とは-よくわかる!設備投資の基本

よくわかる!キャッシュフロー計算

設備投資の留意点とは?設備投資の経済性計算とは-よくわかる!設備投資の基本

工場

設備投資において、考慮すべきこととして何があるでしょうか。
また適切な設備投資額をどのように考えるべきでしょうか。
わかりやすく解説します。

1.設備投資の意義と必要性

そもそも、なぜ設備投資は必要なのでしょうか。

企業は、株主からの出資金や金融機関からの借入等によりお金を調達します。調達したお金をもとに事業を行います。そして、その事業活動を通じてお金を生み出していきます。

事業活動で生み出したお金は、株主への配当や金融機関への返済に充てるなどします。そして、さらに余裕の資金を事業への再投資へと回していきます。

これをくり返していくことで企業は活動を継続し、成長していきます。

企業活動の大まかな流れ

企業活動の大まかな流れ

このような企業活動を継続していくためには、競合との競争に勝ち、収益を上げ続けることが必要です。そのために、企業は、継続的に事業への投資を行う必要があります。

事業への投資にはさまざまなものがあります。

典型的な投資としては、工場や物流拠点等の物的施設の建設といった設備投資が挙げられます。新製品開発のための研究開発投資や人材育成のための研修費用なども含めることができるでしょう。







設備投資
事業への投資 新製品開発のための研究開発投資
人材育成のための研修費用

今回は、このうち「設備投資」について「設備投資の経済性計算」と「設備投資と資金調達との関連性」を中心に説明します。

この2つは、経営者や経理担当者などが設備投資を検討する上で特に押さえておきたい重要な論点であるためです。

2.設備投資の意思決定の流れ

一口に設備投資といっても実際にはさまざまな種類があります。

① 既存事業を拡大させていくための投資
② 既存設備の維持・更新を目的とした投資
③ 新たな経営戦略に基づく新規事業のための投資

などです。また、プロフィット部門だけでなく、バックオフィス業務の効率化のためのシステム投資なども設備投資といえるでしょう。

これらの設備投資は、一般に長期的かつ多額の資金を必要とすることが多いことから、企業にとって重要な意思決定となります。

そのため、意思決定までには様々な検討がなされます。設備投資の意思決定までの一般的な流れは、次のようになります。

設備投資の意思決定の流れ
設備投資の意思決定の流れ

(注)上記はあくまで一例であり、実際の設備投資の意思決定がなされるまでの流れは、個々の企業の実情により異なっています。

(1) 投資案の候補選定

はじめに、現場や企画部門などが会社の経営戦略に沿った設備投資案の「候補を選定」します。

(2) 投資案のデータ収集

次にその投資案についての予想投資額や予想売上高・費用等の「データを収集・作成」が必要です。

データを集める際のポイントは、データは損益ベースではなく、キャッシュフローベースのデータを集める必要があることです。

その理由は、設備投資は基本的にその計算期間が長期にわたるものであり、個々の投資案の評価は事業年度単位ではなく投資期間を通じて評価するものであるためです。

そこで、発生主義に基づく損益よりもキャッシュフローでの計算・評価が適しているのです。

(3) 設備投資の経済性計算

そして、経営者や経理担当者が特に理解しておきたいのが3つ目の「設備投資の経済性計算」です。

このステップでは、それ以前のステップで集められた投資案に係るデータをもとに、採用を検討している投資案を最終的に採用するか否か、そのための採算性を検討します。

設備投資を行うからには、当然に投資額を超えるキャッシュを獲得することが前提とされているはずです。

このステップでその前提が本当に満たされているか、また投資案が複数ある場合にどの投資案を採用すべきかなどについて詳細に検討を行います。

その際の投資案の計算・評価方法には複数の方法があります。
 
また、設備投資の検討を行うにあたり経営者や経理担当者は、投資案件の採算性だけでなく、当該投資案に係る資金をどのようにして賄うかについても慎重に検討する必要があります。

有望な投資案が見つかったとしても、その設備投資によって会社の財政状態が悪化し、長期的な安全性が損なわれてしまっては、望ましい結果とは言えないでしょう。

(4) 投資可否の最終決定

設備投資の経済性計算と資金調達について検討した後に、投資可否を最終決定します。

3.設備投資の経済性計算

では、重要な論点である「設備投資の経済性計算」はどのように行うのでしょうか。

(1) 将来キャッシュフローの見積もり

設備投資の経済性計算にあたって、重要な前提条件があります。それは、正しい意思決定のためには、投資案ごとに適正な将来キャッシュフローの見積もりができていることが必要ということです。

では、将来キャッシュフローの見積もりはどのように行うのでしょうか。

実務上は、利益計画をキャッシュフローベースに置き換えていくことが多いと思われます。その際は、発生主義会計とキャッシュフローの差異を正確に押さえた上で、以下のような点に留意する必要があります。

1) 設備投資案の予想貢献期間を見積もる。
 (設備の税務上の耐用年数ではなく、キャッシュを生み出すと期待される期間)
2) 当初の設備投資額や投資終了後の設備の処分等に係るキャッシュフローを織り込む。
3) 設備の減価償却費はキャッシュの流出を伴わない費用であるため、利益からキャッシュフローを算出する際は足し戻す。
4) 減価償却費や設備の売却損益など、キャッシュフローに影響しない損益に係る法人税等の影響も織り込む。
5) 売掛金や買掛金等の運転資金の増減に係るキャッシュフローを織り込む。

(2) お金の時間価値

次に重要な論点として「お金の時間価値」という考え方を理解する必要があります。なぜなら、設備投資の経済性計算は、その計算期間が長期にわたるためです。

お金の時間価値とは「今、目の前にある1万円と、一年後に受け取れる1万円の価値は同じではない」という考え方です。

その理由は、金利の存在です。仮に金利が5%だとすると、目の前の1万円は一年後には、10,500円になります。一年後の1万円よりも価値が高くなります。

逆に一年後の1万円は、金利を考慮すると、9,524円の価値しかありません。(1万円÷1.05で計算)

このときに一年後の1万円のことを「将来価値」、金利を考慮して、今の価値を計算した 9,524円のことを「現在価値」と言います。

仮に、100万円を年3%の利回りで運用できた場合、5年後には100万円×(1+0.03)⁵で115.9万円となります。この5年後の115.9万円に対する現在の100万円が「現在価値」です。

現在価値

設備投資のような長期間のキャッシュフローの見積もりが必要な意思決定には、お金の時間価値を考慮することで、より合理的な意思決定を行うことができます。

(3) 割引率と資本コスト

「お金の時間価値」では金利を使って、現在価値と将来価値の違いを説明しました。将来価値を現在価値に計算し直すときに使用する率のことを「割引率」といいます。

設備投資の経済性計算では、割引率として「資本コスト」を使用します。資本コストとは、企業が設備投資等のために資金を調達するときのコストです。

4.設備投資と資金調達との関連性

設備投資の経済性計算とともに重要な論点が「資金調達」です。

投資案件の採算性の検討と合わせて、投資案に必要な資金をどのようにして賄うかについても検討が必要です。

具体的には、資金調達の方法によって、

・自社の財務状況はどのような影響を受けるのか。
・自社の財務的な安全性は損なわれないか。

について検討する必要があります。

計算

(1) 資金調達方法ごとの会計処理の確認

では、設備投資を行う際の資金調達方法としては、どのような方法があるのでしょうか。

① 自己資金から捻出する方法

一つ目は、自社が事業で稼いで蓄積した自己資金を元手に投資を行う方法です。

この方法では、貸借対照表上の影響としては、自社の現預金が投資する設備等の資産に置き換わります。貸借対照表の総資産の額に変動はありません。

損益計算書については、投資した設備等の稼働後は、減価償却費が計上されます。ただし、減価償却費はキャッシュの流出を伴わない費用であるため、減価償却費による節税効果を除くと、投資後の収支計画に直接的な影響はありません。

ただし、高額な設備投資を自己資金から捻出すれば、手元現預金の厚みが減るために、資金繰りの悪化が懸念されます。

借入金の返済負担を好まず、自己資金での投資を志向する経営者もおられますが、自己資金からの捻出にこだわり過ぎて、当面の資金繰りが苦しくなってしまうことは避けたいところです。

自己資金での投資が可能であっても、高額な設備投資の場合は、借入金やリースなどについても検討することが望ましいでしょう。

(注)減価償却とは、長期間にわたり企業の事業活動に貢献する固定資産について、購入時に一時の費用とせず、将来の使用期間(一般的には税務上の法定耐用年数を用いる)にわたって徐々に費用化していくことです。

② 借入金により投資する方法

二つ目は、金融機関からお金を借り、その資金を元手に投資を行う方法です。最も一般的な方法と言えるでしょう。

この方法では、貸借対照表上はいったん現預金(資産)と借入金(負債)が増加し、その現預金が投資する設備等の資産に置き換わります。つまり、貸借対照表の総資産が増加し、資産効率は低下します。

損益計算書については、減価償却費に加えて、借入金の利息負担が生じます。借入金の利息の利率は、資金調達コストです。採用する投資案の収益率は借入利率と同等か、それ以上であることが必要です。

また、借入金の返済負担で資金繰りを悪化させないためには、返済期間が耐用年数以下にならないように注意することが必要です。

③ リースにより投資する方法

三つ目は、リース会社から希望する設備等のリースを受ける方法です。

企業は、使用期間に応じてリース会社にリース料を支払います。これは経済的には、金融機関から融資を受けて設備を取得し、その後、借入金の返済を行っていくことと類似しています。

そこで、企業会計基準(及び法人税法)では、原則として貸借対照表上、

●「リース資産」と「リース債務」という資産・負債を両建て計上する。
● リース資産は減価償却により費用化していく。
● リース債務はリース会社への支払いの都度、減額させていく。

という処理を求めています。

このため、貸借対照表及び損益計算書への影響は、借入による設備投資に近い形です。

(注1)一定の要件を満たすオペレーティング・リースに該当する場合、資産・負債の両建て計上はせずに、リース会社へ支払う賃借料を費用計上とします。なお、2021年現在、オペレーティング・リースは会計上廃止する方向の議論がなされています。

(注2)リース資産に関する減価償却の方法等は、そのリース資産の所有権が移転したと考えられるかどうかかによって異なります。

(2) 注目すべき財務指標

設備投資に際しては、財務指標の変化についても確認したいところです。なお、財務指標とは、決算書の数値等をもとに、企業の収益性や安全性、効率性等を分析する際に用いる指標のことです。

多額の設備投資は財務状況に与えるインパクトが大きいです。安全性指標がどのように変化するかについて事前の確認が必要です。

具体的には、資金調達の方法ごとに以下の安全性指標が設備投資前後で、どのように変化するか確認する必要があります。

現預金月商比率: 現預金の水準が安全かどうかを見る指標
借入月商倍率 : 借入金の水準が安全かどうかを見る指標
固定長期適合率: 固定資産がどの程度、長期資金で賄われているかどうかを見る指標

各財務指標の計算式は以下の通りです。

現預金月商比率= 現預金÷月商
借入月商倍率 = 借入金÷月商
固定長期適合率= 固定資産 ÷(固定負債+自己資本)× 100

この中で、固定長期適合率について補足します。固定資産は長期の使用によってキャッシュを生み出していくものです。

そのため、設備投資資金を短期の借入金等で資金調達すると、その設備から十分なキャッシュが生み出される前に借入金の返済を迫られることとなり、資金繰りに窮してしまう可能性があります。

設備投資のための資金は、自己資本や長期的な借入金等で賄うのが原則ということです。

なお、固定長期適合率などの財務指標は、業界によって値が大きく異なります。そのため、指標の評価については、同業他社との比較が有効です。

その際の比較データについては、日本政策金融公庫「中小企業の経営等に関する調査」などが参考になるでしょう。

日本政策金融公庫「中小企業の経営等に関する調査」
https://www.jfc.go.jp/n/findings/sme_findings2.html

※ なお、正味現在価値法(NPV法)等の具体的な計算方法については、以下の記事をご参照ください。

「正味現在価値法(NPV法)とは。回収期間法とは。具体例でわかりやすく解説」
https://vision-cash.com/cf/shikin/economic-calculation/